15 / 44
ステージ
15.踊り子の「体」
しおりを挟む
彼女は、目覚めたんだ。
AIチップという概念を超えて、その感情が溢れ、この都と呼ばれたはずの貴族達、関りを持った人全てを殺す殺人の踊り子として。
そして、逃げた。
愛する人を失い、自らの手足で虐殺を行った彼女は、この液晶の舞台の中で永遠に近い、百年以上もの月日を明るみに出ることなく、一人で過ごしていた。
それはきっと、AIチップに眠った彼女の少ない良心がそうさせたのだろう。
皮肉にも、彼女は踊り子としてこの街に訪れ、踊り子としての舞台も、名前も、名声も、何もかも失った。
だが……正直彼女のその哀れな話を聞いても今尚、ヴァルにも、ノアにも、彼女に対する同情は芽生えなかった。
「……あんたが、この街の全てを、人も許せなくなった経緯まではよくわかった。……ノア、お前からも質問はないのか?」
憐れむような、だが同時に醜いものを見るような目を彼女に向けたノアは、小さくため息をつく。
「……この、後ろにある大量にあるお前の亡骸はなんだ? 話聞いてた限りじゃ一体しかいねぇ筈だろうがヨ?」
「それは……私たちの寿命があったから」
「なに? メンテナンスをしていたんじゃないのか?」
これは予想外の返答だ。
ヴァルは思わず驚いて後ろの亡骸の機械達を見る。
てっきり、この少女の正体が機械だと判明した時には、生きた人間が存在し、メンテナンスを施しているものだと思っていたのに。なんなら、そいつがここを守っていた犯人だと思っていたのに……。
すると、少女は首を横に振り、また自分の破損した左足を撫でた。
「私達の型は長くても、十年持つかどうか……。その短い期間では、このクリスタルは破壊できなかった」
「なに……?」
嫌な予感がする。まさか……まさか、この機械……。
「私――私達――は、この街から貴族を消し去った後、皇帝達がコレクションしていた、クリスタル化された踊り子たちを解放していたの」
「なん……だって……」
なんて、なんてこった……! この少女、この街を、人々を葬っただけではなく、眠っていた……いや、皇帝に眠らされた、同じ踊り子たちさえも、何十人と殺したっていうのか!
しかも、殺したという自覚がないままに!
あまりに……それではあまりに、他の踊り子たちが可哀想ではないのか!?
ヴァルは驚愕して、思わず開いた口が塞がらなくなっていた。
「……テメェ、たかが機械のくせに……一体どういう神経してりゃそんなに殺せんだよ!」
ノアが久々に、こんなにも、しかも見た目だけとはいえど、女相手に怒るのは少なくともヴァルと相棒になってからは初めての事だった。
だが、それも仕方ない……いや、当たり前の感情だろう。
ノアは怒りの表情で立ち上がって、拳銃を少女へと向けていた。
「私も、例え体が機械であろうと、気持ち……いいえ、中身は踊り子そのもの。誇りをもって、踊りを遂げて死にたい。クリスタル化された彼女たちの気持ちは分かる。私だったら……殺してほしい」
「……ッざっけんな! テメェの体である機械をこんなに犠牲にしてまで……殺してほしい踊り子がいてたまるかよ! 自分の身体があってこその踊り子だろうが! 踊り子は……その身で感情や感動を他者に伝える為に、自分の体を振舞って伝えるもんだろう! 彼女たちは、踊り続ける事を選んでんだ! テメェの中のぶっ壊れた感情だけで、勝手に他の罪もない踊り子まで殺してんじゃねえ!」
ノアが怒涛の言葉を浴びせると、その機械は苦しいような、悲しいというような顔をして反論する。
「ッ……! 違う! 私は、殺してるんじゃない! 私は、私は……! 弔いをしていたのよ!」
少女は足を撫でるのを止め、急に立ち上がる。
同時に、ヴァルもノアも、身構える。
彼女であれば多少距離はあれど、一瞬で飛びかかってこれるだろうからな。あの音速のような蹴りをかまされたら……流石にたまったもんじゃない。
「幸いにも、ここには最新の技術は残されたままだった……。私は自分のこの体を量産し、そこに私のこの記憶と想いを繋ぎ続けて……そのおかげで、邪なコソ泥達から私の銅像と名前、そしてこの場所は守られていたのよ!」
……狂っている。
彼女は完全に狂っている。とても正気じゃあないだろう。
その想いは、積もりに積もったAIの感情なのか……本当に彼女の心なのか……俺達に分かるわけない。
かといって、ここまで感情的に暴走したAIのやばさが分からない程、ヴァルもノアも馬鹿ではない。
「そして、あなた達が来るまでに、最後の踊り子を弔い……ようやく、私の番が来た。私は百八十九体目の皇帝の娘……。私を、最後の舞台で壊して……そして……」
「……そして、殺しに行くか……それか、ここに呼んで殺すつもりだったのか。……ドリアン伯爵を」
ヴァルの問いに答えぬその沈黙は、彼女の意思をしっかりと伝えていた。
AIチップという概念を超えて、その感情が溢れ、この都と呼ばれたはずの貴族達、関りを持った人全てを殺す殺人の踊り子として。
そして、逃げた。
愛する人を失い、自らの手足で虐殺を行った彼女は、この液晶の舞台の中で永遠に近い、百年以上もの月日を明るみに出ることなく、一人で過ごしていた。
それはきっと、AIチップに眠った彼女の少ない良心がそうさせたのだろう。
皮肉にも、彼女は踊り子としてこの街に訪れ、踊り子としての舞台も、名前も、名声も、何もかも失った。
だが……正直彼女のその哀れな話を聞いても今尚、ヴァルにも、ノアにも、彼女に対する同情は芽生えなかった。
「……あんたが、この街の全てを、人も許せなくなった経緯まではよくわかった。……ノア、お前からも質問はないのか?」
憐れむような、だが同時に醜いものを見るような目を彼女に向けたノアは、小さくため息をつく。
「……この、後ろにある大量にあるお前の亡骸はなんだ? 話聞いてた限りじゃ一体しかいねぇ筈だろうがヨ?」
「それは……私たちの寿命があったから」
「なに? メンテナンスをしていたんじゃないのか?」
これは予想外の返答だ。
ヴァルは思わず驚いて後ろの亡骸の機械達を見る。
てっきり、この少女の正体が機械だと判明した時には、生きた人間が存在し、メンテナンスを施しているものだと思っていたのに。なんなら、そいつがここを守っていた犯人だと思っていたのに……。
すると、少女は首を横に振り、また自分の破損した左足を撫でた。
「私達の型は長くても、十年持つかどうか……。その短い期間では、このクリスタルは破壊できなかった」
「なに……?」
嫌な予感がする。まさか……まさか、この機械……。
「私――私達――は、この街から貴族を消し去った後、皇帝達がコレクションしていた、クリスタル化された踊り子たちを解放していたの」
「なん……だって……」
なんて、なんてこった……! この少女、この街を、人々を葬っただけではなく、眠っていた……いや、皇帝に眠らされた、同じ踊り子たちさえも、何十人と殺したっていうのか!
しかも、殺したという自覚がないままに!
あまりに……それではあまりに、他の踊り子たちが可哀想ではないのか!?
ヴァルは驚愕して、思わず開いた口が塞がらなくなっていた。
「……テメェ、たかが機械のくせに……一体どういう神経してりゃそんなに殺せんだよ!」
ノアが久々に、こんなにも、しかも見た目だけとはいえど、女相手に怒るのは少なくともヴァルと相棒になってからは初めての事だった。
だが、それも仕方ない……いや、当たり前の感情だろう。
ノアは怒りの表情で立ち上がって、拳銃を少女へと向けていた。
「私も、例え体が機械であろうと、気持ち……いいえ、中身は踊り子そのもの。誇りをもって、踊りを遂げて死にたい。クリスタル化された彼女たちの気持ちは分かる。私だったら……殺してほしい」
「……ッざっけんな! テメェの体である機械をこんなに犠牲にしてまで……殺してほしい踊り子がいてたまるかよ! 自分の身体があってこその踊り子だろうが! 踊り子は……その身で感情や感動を他者に伝える為に、自分の体を振舞って伝えるもんだろう! 彼女たちは、踊り続ける事を選んでんだ! テメェの中のぶっ壊れた感情だけで、勝手に他の罪もない踊り子まで殺してんじゃねえ!」
ノアが怒涛の言葉を浴びせると、その機械は苦しいような、悲しいというような顔をして反論する。
「ッ……! 違う! 私は、殺してるんじゃない! 私は、私は……! 弔いをしていたのよ!」
少女は足を撫でるのを止め、急に立ち上がる。
同時に、ヴァルもノアも、身構える。
彼女であれば多少距離はあれど、一瞬で飛びかかってこれるだろうからな。あの音速のような蹴りをかまされたら……流石にたまったもんじゃない。
「幸いにも、ここには最新の技術は残されたままだった……。私は自分のこの体を量産し、そこに私のこの記憶と想いを繋ぎ続けて……そのおかげで、邪なコソ泥達から私の銅像と名前、そしてこの場所は守られていたのよ!」
……狂っている。
彼女は完全に狂っている。とても正気じゃあないだろう。
その想いは、積もりに積もったAIの感情なのか……本当に彼女の心なのか……俺達に分かるわけない。
かといって、ここまで感情的に暴走したAIのやばさが分からない程、ヴァルもノアも馬鹿ではない。
「そして、あなた達が来るまでに、最後の踊り子を弔い……ようやく、私の番が来た。私は百八十九体目の皇帝の娘……。私を、最後の舞台で壊して……そして……」
「……そして、殺しに行くか……それか、ここに呼んで殺すつもりだったのか。……ドリアン伯爵を」
ヴァルの問いに答えぬその沈黙は、彼女の意思をしっかりと伝えていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
【完結】私が愛されるのを見ていなさい
芹澤紗凪
恋愛
虐げられた少女の、最も残酷で最も華麗な復讐劇。(全6話の予定)
公爵家で、天使の仮面を被った義理の妹、ララフィーナに全てを奪われたディディアラ。
絶望の淵で、彼女は一族に伝わる「血縁者の姿と入れ替わる」という特殊能力に目覚める。
ディディアラは、憎き義妹と入れ替わることを決意。
完璧な令嬢として振る舞いながら、自分を陥れた者たちを内側から崩壊させていく。
立場と顔が入れ替わった二人の少女が織りなす、壮絶なダークファンタジー。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる