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消えゆく芸術
1.「白紙」の依頼
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何も……ない。かけない。書けない、描けない、かけない……!
あぁ……神よ……もしいるのなら……!私に、与えてください……。
何もない、「白」を!
「アァ? 白紙、だぁ?」
Mr.ハロドゥの店で、いつもの酒を注文しながらヴァルとノアが受けた依頼内容は、驚くことに白紙だった。
「どうなってんだよ、Mr.ハロドゥさんヨ? こんな依頼は流石に引き受けるわけにいかねぇだろ! 前のでも結構きつかったってのに……」
すると奥からMr.ハロドゥが、ジントニックとベルガモットをそれぞれカウンターの見えないところに一旦置いてから、俺達の目の間に一つずつ丁寧に置いていく。そのままヴァルはそのジントニックを受け取って一口飲んでノアの肩に手を置いた。
「まぁまぁ、そう言いなさんなよ。何かねえと、Mr.ハロドゥが仕事の仲介人自体引き受けないのは、ノア、お前もよく知ってるだろ?」
実際、届いた封書の中身にはこう書かれていた。
緊急を要する依頼ですが、その詳細はございません、と。
だが、Mr.ハロドゥの元に来たくらいだ。何かしらツテがなきゃそうそう俺達の下に依頼まで来ない。ただの殺しや探し物の依頼くらいなら、その辺のゴロツキ、又は自称トレジャーハンターや賞金稼ぎに行く。
絶対的信頼と安全を保障するMr.ハロドゥの店で、扱いが難しいと判断された時だけ、俺達の下へ封書が届き、依頼が回ってくる仕組みだ。
そう、これが通常の仕事内容で合って、前回の様な依頼人が直接来ることは、本来滅多にない事。基本、こんな仕事してれば自分たちと関わりたくないか、姿を現したくない人で合ったりするのが普通だからだ。
ま、そのせいで前回の仕事では色々イレギュラーな目にはあったが……どうやら今回も、一筋縄ではいかない内容なようだ。
「ヴァルさんがおっしゃった通り、今回の異例の私の承諾は、少々……私事も混じっておりまして」
「アァ?! ……あんたが、私事を挟むだァ……?!」
こりゃまあなんと……驚いた。
ヴァルも多少、目を真ん丸させちまう。
Mr.ハロドゥと仕事の付き合いは割と長いが、今までどんな仕事であっても、Mr.ハロドゥが自分の事情を持ち込むことなど、一切なかった。これまたほんと、レア中のレアケース。
「何かの間違いじゃねぇの? ロボットみたく仕事ひょいひょいこなすあんたが、サ!」
そう言いながらノアは、自身の目の前に置かれたベルガモットを一気に呷る。
Mr.ハロドゥの仕事は決してこのバーの経営だけではない。
それに、このバーは通常は賑わう夜にだけ開店しており、今俺達が閉店時間に入れているのは、別件の仕事……つまり俺達のような公でない仕事の時のみのオープンとなっている。
もちろん、Mr.ハロドゥのその仕事ぶりは”両方”、誰もが認めるくらい見事という他ない程に完璧にこなす。
そんな彼が、自身の私情を入れる事など、聞いたこともない。前代未聞もいいとこだ。
「私も人間ですので……。今回の依頼は、ある古き友人からの手紙によるものでして」
Mr.ハロドゥは淡々とそういうと、突然、コーヒーを焙煎するときのアルコールバーナーを取り出し。その上で依頼用紙を炙りはじめた。
「……へぇ……炙り用紙……」
炎等で熱いもので炙ると浮き出てくる用法で書かれた紙等のことを炙り用紙等と呼ぶのだが、どうやら、今回の依頼を受けた用紙がそれにあたるらしい。
ゆっくり炙っていくと、手紙には手書きの文字で、二つの名前が書かれていた。
「アルティスト・ストリート、と、ドンベルト・ワーナー……?」
一つは有名な街の名前だったので、すぐに分かった。だがもう片方は……恐らく。
ヴァルは真剣な顔になった。……こりゃ、また謎の深い仕事デスコト……。
「ドンベルト・ワーナー。……私の、古き友人の名前です」
その言葉に驚いたヴァルとは裏腹に、フーン、と興味なさげにノアは大窓の方を向いてベルガモットを呑む。コイツ……と、ヴァルは呆れた顔でノアを横目に、真剣な顔に戻ってからMr.ハロドゥの方を向く。
「ドンベルト・ワーナー……Mr.ハロドゥさん、間違いじゃなけりゃ、俺は聞き覚えがあるんだが……」
そういうと、さっき酒を持ってくるときにでも一緒に奥から持ってきたのか、一つの写真を渡してきた。
そこには、二人の男の写真が写っているもので、片方は殆ど変わってるようには見えない、Mr.ハロドゥであることがすぐに分かった。と、いうことは……やはり、そうか。
隣が……例のドンベルト・ワーナー氏……。
「オイオイ、すげえな爺さん! これいつのだよ、全然見た目変わってねェ!」
……こいつは……馬鹿だとは知っていたが、まさか自分の得意分野まで忘れちまったっていうのか? ヴァルは心の中で心底呆れながら、ノアの事をフル無視して、写真の裏を見た。
裏には日付、十二月十日とだけ書かれている。
「……今回はノアさんの得意分野だと、思っていたんですが……」
Mr.ハロドゥも流石に言いたくなったのか、ベルガモットのおかわりを要求するノアにそう伝える。
……ま、そりゃ言いたくもなるよな。俺はもう諦めたぜ、Mr.ハロドゥ。と、ジントニックを上に持ち上げてから、一口飲んでその意思を彼に伝える。
「アン……?」
そう言われてからノアはもう一度、ヴァルの手にある写真の人物を見て、ようやく、ハッとした顔をして見せる。
……控えめに言って、本当に馬鹿だ、コイツは。
「ドンベルト・ワーナー……その昔……消えた芸術家の一人だよ」
あぁ……神よ……もしいるのなら……!私に、与えてください……。
何もない、「白」を!
「アァ? 白紙、だぁ?」
Mr.ハロドゥの店で、いつもの酒を注文しながらヴァルとノアが受けた依頼内容は、驚くことに白紙だった。
「どうなってんだよ、Mr.ハロドゥさんヨ? こんな依頼は流石に引き受けるわけにいかねぇだろ! 前のでも結構きつかったってのに……」
すると奥からMr.ハロドゥが、ジントニックとベルガモットをそれぞれカウンターの見えないところに一旦置いてから、俺達の目の間に一つずつ丁寧に置いていく。そのままヴァルはそのジントニックを受け取って一口飲んでノアの肩に手を置いた。
「まぁまぁ、そう言いなさんなよ。何かねえと、Mr.ハロドゥが仕事の仲介人自体引き受けないのは、ノア、お前もよく知ってるだろ?」
実際、届いた封書の中身にはこう書かれていた。
緊急を要する依頼ですが、その詳細はございません、と。
だが、Mr.ハロドゥの元に来たくらいだ。何かしらツテがなきゃそうそう俺達の下に依頼まで来ない。ただの殺しや探し物の依頼くらいなら、その辺のゴロツキ、又は自称トレジャーハンターや賞金稼ぎに行く。
絶対的信頼と安全を保障するMr.ハロドゥの店で、扱いが難しいと判断された時だけ、俺達の下へ封書が届き、依頼が回ってくる仕組みだ。
そう、これが通常の仕事内容で合って、前回の様な依頼人が直接来ることは、本来滅多にない事。基本、こんな仕事してれば自分たちと関わりたくないか、姿を現したくない人で合ったりするのが普通だからだ。
ま、そのせいで前回の仕事では色々イレギュラーな目にはあったが……どうやら今回も、一筋縄ではいかない内容なようだ。
「ヴァルさんがおっしゃった通り、今回の異例の私の承諾は、少々……私事も混じっておりまして」
「アァ?! ……あんたが、私事を挟むだァ……?!」
こりゃまあなんと……驚いた。
ヴァルも多少、目を真ん丸させちまう。
Mr.ハロドゥと仕事の付き合いは割と長いが、今までどんな仕事であっても、Mr.ハロドゥが自分の事情を持ち込むことなど、一切なかった。これまたほんと、レア中のレアケース。
「何かの間違いじゃねぇの? ロボットみたく仕事ひょいひょいこなすあんたが、サ!」
そう言いながらノアは、自身の目の前に置かれたベルガモットを一気に呷る。
Mr.ハロドゥの仕事は決してこのバーの経営だけではない。
それに、このバーは通常は賑わう夜にだけ開店しており、今俺達が閉店時間に入れているのは、別件の仕事……つまり俺達のような公でない仕事の時のみのオープンとなっている。
もちろん、Mr.ハロドゥのその仕事ぶりは”両方”、誰もが認めるくらい見事という他ない程に完璧にこなす。
そんな彼が、自身の私情を入れる事など、聞いたこともない。前代未聞もいいとこだ。
「私も人間ですので……。今回の依頼は、ある古き友人からの手紙によるものでして」
Mr.ハロドゥは淡々とそういうと、突然、コーヒーを焙煎するときのアルコールバーナーを取り出し。その上で依頼用紙を炙りはじめた。
「……へぇ……炙り用紙……」
炎等で熱いもので炙ると浮き出てくる用法で書かれた紙等のことを炙り用紙等と呼ぶのだが、どうやら、今回の依頼を受けた用紙がそれにあたるらしい。
ゆっくり炙っていくと、手紙には手書きの文字で、二つの名前が書かれていた。
「アルティスト・ストリート、と、ドンベルト・ワーナー……?」
一つは有名な街の名前だったので、すぐに分かった。だがもう片方は……恐らく。
ヴァルは真剣な顔になった。……こりゃ、また謎の深い仕事デスコト……。
「ドンベルト・ワーナー。……私の、古き友人の名前です」
その言葉に驚いたヴァルとは裏腹に、フーン、と興味なさげにノアは大窓の方を向いてベルガモットを呑む。コイツ……と、ヴァルは呆れた顔でノアを横目に、真剣な顔に戻ってからMr.ハロドゥの方を向く。
「ドンベルト・ワーナー……Mr.ハロドゥさん、間違いじゃなけりゃ、俺は聞き覚えがあるんだが……」
そういうと、さっき酒を持ってくるときにでも一緒に奥から持ってきたのか、一つの写真を渡してきた。
そこには、二人の男の写真が写っているもので、片方は殆ど変わってるようには見えない、Mr.ハロドゥであることがすぐに分かった。と、いうことは……やはり、そうか。
隣が……例のドンベルト・ワーナー氏……。
「オイオイ、すげえな爺さん! これいつのだよ、全然見た目変わってねェ!」
……こいつは……馬鹿だとは知っていたが、まさか自分の得意分野まで忘れちまったっていうのか? ヴァルは心の中で心底呆れながら、ノアの事をフル無視して、写真の裏を見た。
裏には日付、十二月十日とだけ書かれている。
「……今回はノアさんの得意分野だと、思っていたんですが……」
Mr.ハロドゥも流石に言いたくなったのか、ベルガモットのおかわりを要求するノアにそう伝える。
……ま、そりゃ言いたくもなるよな。俺はもう諦めたぜ、Mr.ハロドゥ。と、ジントニックを上に持ち上げてから、一口飲んでその意思を彼に伝える。
「アン……?」
そう言われてからノアはもう一度、ヴァルの手にある写真の人物を見て、ようやく、ハッとした顔をして見せる。
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