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消えゆく芸術
2.消えた「芸術家」達
しおりを挟むその昔、その時代の全てを震わせたと言っても過言ではない程に、名を馳せた芸術家が七名、存在した。
油絵、彫刻、水彩画、デザイン建設……等それぞれに特化した芸術家が七名。
その中でも、今回の依頼人というドンベルト・ワーナーは基本、何でも描けたが、中でも一番は水彩画を得意とした芸術家だった。
それでこの炙り用紙なのも納得出来る、が……。
彼は、さっきも言った通り、『消えた芸術家』の内の一人のはずだった。
その時代、芸術の黄金時代を築いた彼らは、その呼び名通り、ある日忽然と消えたのだ。
その理由は、一切分からないまま。
その時に彼らは沢山の芸術作品を世に生み出し、未だに見つかったものはオークションなどで大金持ち達が大金をはたいて競りをしている程に、今もなお、彼らの残したその腕の美しさは衰えていない。
だが……そんな芸術の神の腕を持つとも呼ばれた彼らは、忽然と居なくなった。
芸術も、生み出さなくなった。理由は誰も知らない。
ただ……七名の内の三名は、自殺による死亡が確認されている。
その死に様もそれぞれで、世間を騒がせてる程の芸術者となれば、それはもう他殺によるものしか考えられないとファンも信者も警察も一時期は騒がれたが、それらを全て覆す証拠があった。
彼らは全員独身で、豪邸に住まう彼らは必ず、自分たちが作業する部屋以外には全て監視カメラ、またアンドロイド等も常備させていた。それらの記録により、彼らが死んだとされる作業部屋には、彼ら本人以外、誰も立ち入ってないことが確認されている。
そして何より、彼らの死を自殺と決定付けたのは、その道具、大量の薬、縄、ナイフ……それらを自分の手で持って入って行った姿が、死亡推定時刻のその日に、カメラとアンドロイドが捉えていたことだ。
また、彼らが日に日に弱っていき、死にそうになっている様子は、誰もが認める事実だった。
ただ、彼らは各々の大事な人にさえ、理由も何も告げることなくこの世からその姿を消し……また、まるで後を追うように他の残り四名も、作品もその姿さえも、表舞台に出すことはなくなった。
その後、大量に彼らを名乗る偽物が出没したが……もちろん、彼ら以上の芸術性をいくら真似たところで、本物そっくりに完成できるわけもなく……現代の発達した機械による解析やら分析技術、批評家の評論等により通報され逮捕されるだけの運命となっていった。
そんなことが数年続いた後、とうとう彼らの真似事をする輩も消え失せ、彼らはその芸術の爪痕だけを残し、『消えた芸術家』として、今なお、その作品だけが生き続けている。
……はずだったのだ。少なくとも今この場にいる三人の男達が、このMr.ハロドゥからの炙り用紙の手紙を受け取る、今までは……。
Mr.ハロドゥの事だ、間違いなんてないとは思うが……念のために、ヴァルは写真をカウンターテーブルの上に置いてから質問した。
「Mr.ハロドゥ……この炙り用紙の手紙……」
「疑う気持ちは分かりますが、本物です。私、筆跡鑑定の資格、持っていますので。彼の字で間違いないですよ」
……そうだったのか……。
ヴァルとノアは心の中で声を揃えて新たなMr.ハロドゥの謎に驚き、感心しながら、じゃあ前回の仕事の時も頼んどきゃよかった……とは、密かに思いながらも、口に出すことはしなかった。
「……ン? じゃあ、なにか? 今回の依頼主って……」
「もちろん、私じゃありません。あくまで、私は仲介人……依頼をしたのは、ドンベルト・ワーナー、彼自身です」
こ、こンにゃろ……と、言いたげな表情で顔面を痙攣させながら、フン! と、ノアはまた、くるりと窓枠の方を向いてベルガモットを更に呷る。
まぁ……Mr.ハロドゥは元々、喰えない人だからな……と、ヴァルは思いながら、今回の仕事にも非常に興味を示していた。
まあ、例え旧知の仲であったとしても、彼ならば私用で送られた手紙なのか、そうでないかくらいの区別はつくか……。
「じゃあ……彼の情報は? Mr.ハロドゥ」
そういうと、ニコリといつもの胡散臭いようで優しい微笑みをしてから、カウンターの奥へと消えて行った。
……恐らく大量の資料を運んで来るんだろうなあ……と、ヴァルは苦笑の表情をしながらジントニックを一口味わう。
「……俺、いちおー……尊敬してたんだがな」
……ウン? ヴァルは自分のジントニックのグラスを口に付けながら、頭にクエスチョンマーク、思い浮かべる。
これが漫画とかだったら、俺の頭上にゃ、とびきりデカイのが浮いてるだろうさ。
「……Mr.ハロドゥをか?」
「ぶわぁっか! 違うわい! ……ドンベルト・ワーナーの描く、水彩画をだよ」
ほぉん……。
ノアはどうやらドンベルト・ワーナーの原画を見たことがあるような、そんな言い方をした。
ヴァルは決して芸術を心得ているわけではないので、ノアのそのドンベルト・ワーナーの話を、真面目な目で外を見ながら語る姿に新鮮さを感じていた。
「アイツが描く絵は……あぁ、真の芸術の……絵で心を表すってのは、こういうことだって、訴えてくるモンがあったんだよ」
「……ファンだったのか」
「……ケッ、昔の事さ……」
だが、そう語る彼の目には何か、思うところがあるように見えるのは、長年相棒をしてきたヴァルだからこそ、分かることだろう。
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