殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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出会い編

殺人鬼が見つけたのはただ唯一のお人形-2 ◆

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一通り、舐め回すように恭華達をその細い眼で見ていく。

恭華達6人の他に、トンネルの途中で出会った同じく肝試し目当ての他のグループ5人、合わせて11人をじっくり吟味する。

「まず貴女、論外です」
殺人鬼が指す先には、他のグループの紅一点の女性がいた。グループ内に彼氏がいるにも拘わらずトンネル内でしきりに恭華を意識していた女だ。

自分が指されたことに驚き、口を開きかけた時、ドサッと女が倒れた。

「え?」
一同何が起こったのかを理解できずに、驚愕に目を見張る。

遅れながらも追った視線の先には、額に深々とナイフが刺さり、鼻頭に一筋の血を流している女がいた。

即死だったであろう女の目は大きく見開かれ、口も半開きの状態だった。

誰も投じられたナイフに気が付くことができなかった。

いや、女の額を見て尚、本当に殺人鬼から投げられたものなのか信じられない。本当は最初から刺さっていたのではないか、そう考えてもおかしくない。

「うわぁぁぁっ!!!りょ、りょうこ?・・・りょうこっ!!」
女の隣に立っていた彼氏と思われるチャラめの男が顔を青ざめさせながら膝をつく。

「う~ん・・・貴方は不合格ですね」
女に触れようとしていた男の手が止まり、突然、喉付近の首から噴水のように血を噴出させる。
一閃さえ目にとめることができず、誰一人として切られたことに気が付けた者はいなかった。

パックリ裂かれた喉から呼吸がヒューヒューと漏れる音が聞え、ドサッと女に重なっていった。

「う、うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」
それを隣で目の当たりにし、血飛沫を浴びた男が発狂したように咆哮し、踵を返して駆け出す。

「ああああああああっ!!!」
「ぎゃあぁっ!!」
それを合図に皆散っていくが、恭華は動けない。

動け、動け、と自分の足に叱咤激励し奮い立たせるが、膝はガクガクと笑い、その一歩を踏み出そうとはしない。

己がこんなにも弱いとは・・・最強の名をほしいままにしてきた恭華は初めて自分の弱さに直面した。

恭華同様に動けない者、5人が取り残された。

「おやおや、困りましたねぇ。人の家に上がっておいて、お邪魔しましたも言えないんですか?僕は礼儀にはうるさい方なんですよ?」
周囲のパニックと最高にギャップを感じる程に間延びしている殺人鬼の声が廃墟に響く。

だがその声とは裏腹に、尋常ではない速度で殺人鬼は動いている。

女の額に刺さったナイフはその場から投げたとしても頷ける。だが男の切り裂かれた喉は真正面に位置する殺人鬼から投げられても付けられる傷ではない。

ということは、喉を切り裂いてから何事もなかったかのように元の位置に戻っているのだ。誰の目にも留まらない速さで。

そして今、恭華の背後で複数の倒れる音がした。

振り返らなくても分かる。殺人鬼に背中を見せ逃げ出した4人が殺されたのだろう。

ではきっとこの企画の言いだしっぺの友人も・・・。

もう無駄だろう。どうやっても逃れられそうにない、ここで死ぬのだ。

これだけの死体と、嬉々とさえし人をゴミのように殺していく様子を見せつけられればそう悟らずにはいられない。

「貴方は・・・保留ですかね」

保留と言われた男はガタガタと震え、情けなく涙と鼻水を垂れ流している。だが保留と言われただけで殺されないようだった。

「貴方は不合格です」
そう告げられた次の男が悲鳴を上げる前に、倒れ込んだ。

この間近で目にして尚、もう何が行われたか分からないが絶命しているのだろう。倒れた男はピクリとも動かない。

そして殺人鬼の謎のジャッジは恭華達へと移る。

恭華まであと二人。

「きょ、恭華っ~!!!!な、なんとかしろよっ!!『凶華』だろっ!」
次にジャッジが回ってくる友人が、裏返った高い声で叫ぶ。

友人の言っていることが分からない。馬鹿なのか?馬鹿なのだろうか?馬鹿なのではないだろうか?そうか、馬鹿なんだな。

「ばっ!!素手ならまだしも・・・ただ喧嘩が強いってだけの奴がナイフ持った殺人鬼に勝てるかよっ!」
余計なこと言って余生を縮めるんじゃねーよ、と心の底から叫びたい。

ホラ、見てる見てるっ!!

殺人鬼のキツネ目は、ジャッジ待ちだった友人から、完全に恭華へと移っていた。

「恭華さん?僕が素手だったら勝てるんですか?」
殺人鬼が歯を見せずにニッタリと笑い、ゆっくりと恭華に話しかけた。

嗚呼、名前まで覚えてもらっちゃって、光栄です。

「・・・」
勝てる、と普段なら間違いなく頷いている。

人生負け知らず街道を驀進中だったのだ。

「では賭けましょう、この方の命を。貴方が勝ったら、この方は不合格ですが見逃して差し上げます・・・ああ、ちなみに貴方と恭華さんは合格です」
恭華と、隣の友人は合格認定を貰った。

他グループであった保留の彼の扱いが気になるところだが、保留だけにこの際置いておくことにする。

「恭華っ!!や、やってくれるよなっ?」
不合格と言われた友人が縋るような目で恭華を見つめる。

「ご、合格者はどうなるんだよ?」
隣の友人が、不合格者の友人を切り捨てますよ~的な発言を平気でする。
不合格者の鋭い視線が友人に突き刺さるが、そんなものはお構いなしだ。この局面においてもはや友情もくそもあるまい。

「合格者はですねぇ、貴方がたが先程目にされたように、僕に愛され、可愛がられ、犯されながら死んでいくんですよ❤」
両腕を広げ、天を仰ぎながら恍惚とした表情で告げる。

不合格者より悪いじゃないかっ!!

恐怖で顔を青ざめさせている隣の友人からはそんなツッコミの声は出なかったが、合格者二人は心底、それなら普通に殺してくれ、と思う。

「ですが安心してください。もしも僕を唸らせる程、体の相性が良ければ、生かして差し上げますよ。僕の性欲を吐き出す玩具として飽きるまで」
ニンマリと決して歯を見せずに笑みを深くする。

その不気味さに生き残りメンバーからはヒッと息を呑む音が漏れる。

それに尚、悪い。

「それで?恭華さん、どうされますか?やりますか?やりませんか?」
恭華が断った瞬間に不合格の友人に飛ばされるであろうナイフを、指先でクルクルと弄ぶ。

それにしてもこの男、一体いくつナイフを隠し持っているのだろうか。

素手で戦うと言っても、この殺人鬼がその約束を守る保障などどこにもない。
むしろこの状況下で信じろというのが無理な話だ。

イロイロやりませんっ!!

すぐにでもそう声を大にして叫びたかったが、友人の視線がそれを邪魔する。

「お約束はお守りしますよ。武器は使いませんから」
恭華の考えを見透かすようにクスクスと殺人鬼が笑う。

「なら、俺が勝ったらもう一つ、ここにいる全員を見逃してくれないか?」
それならやってもいいと、祈るような気持ちで答える。

途端に生存者3名からの熱い視線を、そして膨らむ期待を感じる。

「フフッ、何の交渉にもなりませんねぇ。恭華さんは条件を出せる立場にないんですよ?」
分かっていますか?と恭華を叱り付けるかのように言葉尻が強くなる。

言われなくても己の立場くらい理解している。

この状況での圧倒的独裁者は殺人鬼であり、自分たちは銃口を向けられた鹿、まな板の鯉、いとも簡単に潰される虫のような存在であることは十分すぎる程に分かっている。

悔しさに唇をギュッと結び、顔を歪めていると、殺人鬼から溜息が漏れる音がした。

殺される!

誰もが危険を察知し、咄嗟に身を硬くしたが、皆無事のようだ。

「分かりました。その苦痛に満ちた素晴らしい表情に免じて、条件をのみましょう」
ご馳走様ですと、殺人鬼が唇を舐める。

背中にゾクリと悪寒を感じ、身体を震わせる。

「あ、ありが・・・・」
恭華はお礼を言いかけて、慌てて口を噤んだ。

理不尽すぎる殺人の恐怖に脅かされて、何故お礼など述べなければならないのかと。

「きょ、恭華!頑張れよっ!!」
期待に満ちた3人から熱いエールを送られ、ガクガクと震える足でやっとの思いで前に歩み出る。

意識して膝に力を入れていなければ、簡単に折れてしまう。

殺人鬼の目の前に来て初めて気が付く。

その身長の高さに。

恭華だって175cmあるのだ。そこまで低い方ではない。

その恭華が見上げる程である殺人鬼の身長は一体何cmなのか。

いや、シークレットブーツでも履いているのだろうか?そうなのか?
そしてここまで近づいても目が開いているのかどうか分からない程に細い眼。見えているのか?

「195ですよ」
クスクスと笑う殺人鬼が告げる。

「え?」
殺人鬼の言っていることが直ぐには理解できず、恭華が反射的に聞き返す。

「僕の身長です。気になったのではありませんか?」

そんなに顔に出ていただろうか?思わず引き攣らせつつもその頬に触れてみる。

「それでは始めましょうか」
殺人鬼が嬉しそうに笑みを深くし、キツネ目を更に細くする。

恭華がこの殺人鬼の前に歩み出ることができた、そのこと自体が奇跡に近い。
果たしてそんな相手に普段通りの動きを見せることができるだろうか?

否、やらなければ死ぬだけだ。

先手必勝!!恭華の鋭い拳が殺人鬼の顎を目掛けて繰り出される。


バシーンッ

手応えあり、そう明確な確信をして殺人鬼を見上げる。
見上げた先の拳は、顎ギリギリで殺人鬼の掌によって止められていた。

早い!

考える間もなく、次の攻撃を繰り出すべく、膝を相手の脇腹目掛けて蹴り上げる。

「動きは悪くないんですけどねぇ・・・非常に読みやすい実直な攻撃です。貴方の性格をそのまま表したような動きですね・・・退屈です」
ご丁寧に頼んでもいない攻撃に対するダメ出しまでしながらヒラリと躱す。

「うるせーよっ!!」
俺の何を知っているんだと、ムッとした恭華が、黙れとばかりに肘を打つ。

だがそれもパシッと小気味よい音をさせ、軽々と受け止める。

やはり、もの凄く動きが速い。あの殺人の様子を見せつけられたらもう誰であろうと勝てるとは思わないだろう。

例え相手がナイフを持っていなかったとしても、だ。あの動きに付いていけるなどとは到底思わない、いや思えない。

「きょ、恭華っ!!いつもの調子はどうしたんだよ?いつも瞬殺だろ?容赦ないくらい圧勝だろう?頑張ってくれよ!!」

「そ、そうだ!いつもみたいにやれよっ!」

「ああ、俺達のために!!」

決して他人事ではなく、応援にも命がかかっているとなると、その声には暑苦しいほどの熱がしっかり込められている。球技大会の応援などとはレベルが違う灼熱の熱さだ。

外野が好き勝手わぁわぁ、ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てている間にも、休むことなく拳をふるい続ける。

しかも、『いやいや、お前初対面だろ』という奴が一人混ざっている。

何の思い入れもないこいつらのために戦っている気などさらさらない。

他でもない、己のためだ。だが・・・

「ハアハア・・・・ヤベっ。悪い、もうマジでダメかもしんねー」
息が上がり、身体の動きが鈍ってきているが、攻撃は一撃たりとも当たってはいない。

相手には攻撃を受け止め、その拳を撫でまわしたり、蹴り上げたその足を撫で上げたりする余裕さえある。

先程など、頬にチュッとされた。完全になめられている。

もう本当に駄目だろう。

「恭華っ!!」

『嗚呼、短い人生だった』とは思えど、とりわけ惜しいとは感じない。

死にたいほど世の中に絶望していた訳ではないが、どうしてもやりたいことがあり世の中に生を切望している訳でもない。

死を覚悟しても良い、だが死ぬならさっき殺された女のように楽に死にたい。

犯されながら死ぬなど断固拒否したい。

「そうですね。そろそろ飽きてきましたね」
バシッと恭華の拳を軽々と受け止め、そのまま勢いよくグッと体ごと引き寄せる。

「グッ!・・・ガハッ・・・・ゴホッゴホッ・・・」
引きつけられた腹に深々と拳を埋め込まれ、苦しさに呻く。

初めて与えられた殺人鬼からの攻撃は余りに重く、強いものであった。

地に膝から崩れ落ちていき、腹を抱えて体を丸めたい衝動に駆られるが、捕えられている手首がそれを許さない。

「この賭けは僕の勝ちですね。残念ですがお友達のお命はいただきますよ」
先に受けた拳の衝撃が癒えないまま、見事な中段蹴りを入れられ、まるでサッカーボールのように軽々と廃墟の瓦礫まで吹き飛ばされた。

「ガッ!・・・・カハッ・・・」
背中を強打した衝撃で呼吸が止まる。

壁に叩きつけられ、ズルリと体が地面に落ちていく。

「うっ・・・ぁ・・・・」

視界が暗転しそうになり、慌てて頭を振る。

「うっ・・・・つっ!」
起き上がろうと上体を起こすが、腹部に激痛を感じて蹲る。
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