殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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執行猶予編

人形は残酷な夢を見た-12

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「おや、稲荷、お帰りなさい。それと恭華さんも」
ニヤリとキツネの顔が笑うが、開眼された細い眼は全く笑っていない。

キツネの目に恐怖し一度離れた稲荷の手を自ら取り、ギュッと握り締める。

「チッ!!」

怯えきっている恭華に追い打ちをかけるように響き渡った渇いた舌打ちに、ビクッとした恭華が、カタカタと握っている稲荷の手を震わせる。

「ああっ!!揚姉、今舌打ちしたでしょ?」
駄目だよ、女の子が舌打ちなんかしたら、と揚羽に向かい困ったように笑う。

「くだらないこと言ってないで交代早くしろっ!殺すぞ?」
その目はまるでゴミを見つめるように瞬刻目を稲荷へ向ける。

「キツネ様、それでは明日」
やにわにキツネに微笑みかける。声色まで即座に変えて。

「ええ、では恭華さん行きますよ?そこから、どうします?こちらへ来ますか?それともまた後ろに下がっていきますか?」

ニヤッと笑ったキツネに恐怖し、握っている稲荷の手に力を込めるが、稲荷がそれを手放す。
ほらっと背中を押され、すがるように稲荷を見るが、稲荷の目はキツネの元へ行けと物語っていた。

渋々、足取りを重くしたままキツネの元へと寄る。近寄った恭華を満足気に一瞥すると恭華の腕を取り、フロントの脇を通る。

「ああ、はいはい。今開けるッスよ」
キツネのためにセキュリティを解除しようと、制服に着替える前にフロントに立とうとする稲荷に、揚羽の殺人的なまでに凶暴な視線が向けられる。

「退けっ、カス!!キツネ様に馴れ馴れしいんだよ、ボケがっ!!制服着ずに入るな、死ねっ!」

「ぐはっ!!」
稲荷が複雑なコンピューターパネルを操作する前に、揚羽の綺麗な容赦のない蹴りが決まる。

飛ばされ、床に倒れ込む稲荷の代わりに、揚羽がスムーズに操作する。

「キツネ様、どうぞ」
フロント脇の自動ドアが開き、エレベーターホールへの道が開かれた。

「フフッ、ありがとうございます、お揚げ。もう少し稲荷に優しくしてあげてくださいね」
揚羽へとそう進言するキツネだったが、蹴り出されてフロントからはみ出し倒れていた稲荷をドカドカと踏み進んでいく。

「ぐっ!」

「おや、失礼、稲荷」

その姿を目にした恭華が、「いや、お前が優しくしてやれよ」と憐れんだ瞳で見つめたが、そのキツネに引かれていた恭華もズカズカと遠慮なく踏みつけていった。

「うっ!!」

「あ・・・・わりー、稲荷」
自動ドアが閉まるまで、最後まで稲荷に助けを求めるように見つめていたが、その視線に気が付いた稲荷はふわっと笑い、手を振るだけだった。

いくつものセキュリティを潜り抜け、かなりのフロアとドアを抜け距離を歩いたが、エレベーターに乗り込むまでに、本当に誰にも会わなかった。いや、人が住んでいる気配がない。

「ほ、ホントに誰にも会わないな……」

「ええ、誰も住んでいませんからね。1階は無人、2階~3階は稲荷とお揚げのフロアです」
マンションごと僕のですから、とキツネが何でもないことのように呟く。

「へー、スゲーんだな。……で、お前は最上階なんだ?」
エレベーターのボタンが最上階を示している。

エレベーター操作にもセキュリティは万全のようでカードキーと暗証番号を入力している。

ということは、逃げる時もそのカードキーと暗証番号がなければ出られないということか・・・。いや、確かこの前遊びに行った社長令嬢のマンションでは、帰りはセキュリティなしに動いた……。

「ええ、本当はどこでもいいのですけどね、捕まえた愛玩具を逃がさないようにと考えると、最上階がいいんですよね」
にんまりと笑うキツネを目にした恭華がビクンとエレベーターの壁に背中を守るように貼り付く。

「あ、空いてる部屋は?全部空室なのか?」
話題転換をしたつもりだった。気の利いた話題転換を。

「フフッ、聞いたら後悔しますよ?まあ、言ってしまうんですけどね・・・。空き部屋にはあらゆる仕事道具が格納されているんですよ。簡単な武器庫ですね」

「ああ、なんだ・・・武器庫か。後悔って言うからもっとこう、ほら・・・死体の山とかミイラとかネクロフィリア的な・・・」
脅すなよ、と額の汗を手の甲で拭う。

「フフッ、ご期待に添えずに申し訳ございません。あとはですね、僕の趣味の部屋です」
ニッと笑うキツネの口が半月になる。

「しゅ、趣味?」
趣味は確か殺人・・・では?

いや、男を性玩具にして泣かして啼かすことだったか?

「フフッ、その通りです。僕のオモチャを泣かせて啼かせるためにあるお部屋です。様々な拷問道具や部屋自体が拘束可能なように改造されています。恭華さんも入りますか?」
途中の階のボタンを押そうとするキツネを、恭華が飛びつくように止める。

「い、いいっ!!」
首を振り、片腕で懸命にキツネの腕を押さえる。

「フフッ、本当に恭華さんは可愛らしいですね・・・帰したくなくなります」

キツネの一言にサーっと顔の血の気が引いていく。

「嘘ですよ、今回は数日でお帰ししますから・・・まあ、生きて帰れたらの話ですが」

顔の血の気だけではなく、全身の血が引き、軽く眩暈を感じる。鼓動がうるさいほどに高鳴りエレベーターに響く。

カタカタと震える恭華を見てキツネがクスリと笑う。
稲荷が言っていた通り、今までの生贄たちと同様であればあと5日の命となる。

「つーか高い・・・耳が変になる・・・」
キツネの腕を自ら握っていることを忘れ、キツネから目を逸らそうとエレベーター扉上部の階数インジケータを見上げる。恐怖を紛らわせるために呟いた。

ボタンは65が押されている。

そこまでノンストップで動くエレベーターの圧力に耐え切れない耳が塞がれるのだ。

「フフッ、恭華さん、こういう時のコツを教えて差し上げますよ」

耳が、と眉を顰めていた恭華が『へ?』と間抜けに口を開け、インジケータからキツネへと視線を移した。
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