殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

文字の大きさ
26 / 84
執行猶予編

人形は残酷な夢を見た-22

しおりを挟む
「起きたのか?」
タオルを頭から被り、片手でワシャワシャと拭いながら悠々と歩いてきた男に、二人は同時に顔を上げた。

スッキリとした顔でリビングにやってきた九尾に、食事中だった恭華が胡散臭げな視線を向ける。

だがその手に握っているチキンを手放す気はない。

「だ、誰だよ?つーか、いつから・・・」
突然の来訪者に驚き、怯えた恭華は、そっとキツネの影に隠れる。

「恭華さん、こちら九尾です。僕の幼馴染みで専属医でもあります。恭華さんの具合も診てくれたんですよ?」
キツネに言われ、恭華が値踏みするように上から下、下から上へと視線を移す。

確かに、何だか風呂上がりのホカホカ状態ではあるが、白衣を着ている。

白衣=医者だ。

うん、医者だ。間違いない。
恭華は確信するようにうなずく。

「え、そうだったのか?ありがとう。俺は西条恭華、今こいつに監禁されています」
チキンでキツネを指す。

「知っている。そのチキンを寄越せ」
恭華にチキンを差し出すよう手のひらを向ける。

「え?・・・・・」
突然チキンを寄越せと要求され、戸惑った末に渡したくないという結論に達した。

チキンを手放すことなく、さっと後ろに隠す。

直接嫌だとは言えずに困り切った恭華が助けを求め、キツネを見る。

「お前の胃は弱っている。いきなりチキンなんか入れるな。キツネ、お前も欲しがるままに与えるな。何を嬉しそうに甘やかしているんだ」
差し出さない恭華からチキンをひったくり、代わりに手を拭けとおしぼりを持たせる。

そしてニヤついているキツネの頬にチキンをグリグリと押し付ける。

「ちょ、九尾。分かりましたから、チキンやめてください」

「そうだ、俺のチキンをキツネの汚いほっぺたに押し付けるな!!」
チキンを惜し気に目で追い、意気消沈する。

まだ一口しか口にしていなかったのだ。

「恭華さん、また吐いちゃうかもしれませんから、ここは九尾の言う通りお粥にしましょう?」

目に見えてガックリと肩を落とす恭華の頭を慰めるように撫でる。

「カルシウム取れよ」
骨折を早く治すためだ。カルシウムをサプリで取れるよう、粉にしたものをキツネに渡す。

「はい・・・」
落ち込んでいる恭華はまだチキンを見ている。

「ところでキューちゃん、稲荷はどうしたんです?」

「稲荷?居たのか?・・・あ、稲荷が医者呼んでくれたのか?」
そう、確か倒れる前、稲荷が優しく背中を擦ってくれていた。

その後から全く記憶がない。

「ええ、そうですよ。稲荷は健康診断から逃げる程に九尾のことが苦手なんですよ。その稲荷が呼んでくれたんです、感謝なさい」

キツネに言われ、改めて九尾を見上げる。
こんなに・・・キツネよりも遥にまともそうな人なのに、稲荷は苦手なのかと。

もしかして本当は怖い人なのかと少し身構える。

「お礼言ってくる!・・・で?稲荷はどこにいるんだ?」

「今は意識がない。ところで、稲荷がお前との約束をしきりに気にしていた。何か稲荷と約束していたのか?」
チラリと恭華を見つめる九尾の目が一瞬鋭さを増す。

「え、な、何で意識ないって大丈夫なのかよ?約束?」
九尾の視線をサラリと受け止め恭華が、はて、何だったか?と首を傾げる。

鋭い視線ならば普段から慣れている。親戚から向けられてきたのも、絡んでくる素行の悪い連中から向けられる視線も常に鋭い。

そんなもの一々気になどしていられない。

頭を撫でていたキツネの手が不意に止まるが離れる気配がない。

『ん?』と見上げた恭華に、キツネが口を開く。

「恭華さん、僕に何か言いたいことがあったんじゃないですか?」

「え?」
突然そう問いかけられ、一瞬停止した後に慌てて頭に載せられた手を振り払う。

そうだ。キツネは心が、考えが読めるのだ。

「お前、勝手に読むなよっ!!!」
慌ててキツネから距離を取る。

「フフッ、別に触れていなくても読めますよ?その距離に意味はありませんねぇ」
たかだか五歩程度で詰められる距離を取ったところで、思考は丸見えなのだ。

キツネが思考を読める人間の範囲はそこまで大きくない。
それでもこのマンション内にいる人間の思考は読める。

「言いたいことなんかたくさんあるに決まってんだろ?帰せ、寄るな、触るな、暴力反対、俺の前に二度と現れるな・・・チキン寄越せ」
キツネに言いたいことなど挙げればキリがない。

恭華の自由勝手な言動に九尾は驚愕を隠せない。

だが、キツネは恭華に腹を立てたり叱責するどころか、愉快そうに楽しそうにその様子をニヤニヤ見つめている。

「そういえばケーキも食べてない・・・キツネ、ケーキ・・・」

「ああ、そういえばそうでしたね。恭華さんはケーキを食べに来たんですもんね。九尾ケーキぐらいなら・・・」

「チキンは渡さん。ケーキもダメに決まってんだろ?キツネ・・・甘やかし過ぎじゃないか?」
孫の欲しい物を欲しがるままに与える祖父母のように、恭華の望むものを与えるキツネの行動もそうだが、まさかこんなに自由な発言を弄ぶだけの玩具に許すなど、甘やかし以外の何物でもない。

「フフッ、九尾もそう思います?やはりもう少し厳しく躾けるべきですよね?」
恭華の目の前に立っていたキツネが恭華の背後に素早く移動する。

「ということで恭華さん、ケーキはお預けですよ?」
後ろから声をかけられて初めて背後を取られたと知る。

バッと振り返り驚くが、ケーキが食べられないことへの落胆が大きく、子犬のような目で、プルプルと睫毛を震わせながらキツネに縋るような視線を送る。

「・・・一口ぐらいダメですかね、キューちゃん?」

「それが甘やかし過ぎだって言ってんだ。吐いてもいいなら勝手に食え。俺はもう知らん、診ないからな」

「怒られてしまいましたねぇ、恭華さん。治ったらまた作りますね。ところで貴方、明日出掛けたいのでは?僕に外出のお願いを一緒にする約束を稲荷としていたんでしょう?」

キツネの話を聞いている間に思い出したとばかりに『あっ』と口を開く。そして仕切に恭華が頷く。

「そうだった・・・あ、あの・・・」
「いいですよ?」

「え?」
「ですから、明日外出したいんですよね?どうぞ」
ニコニコいや、ニヤニヤといつもの笑みを浮かべキツネが快諾する。

「あ、ありがと・・・」
あまりにあっさり許可して貰った恭華自身が戸惑う。

大丈夫なのか?と。

「ただし、門限は10時までですよ?必ず戻ってきてくださいね」
後ろから恭華を抱きしめ、恭華の頭の上に顎を載せる。

「10時って・・・小学生かよ?それにここ分からないから戻ってこれないし・・・」
頭の上にいるキツネを見るように、恭華の視線だけが上を向く。

「ああ、はいはい。これ、ここの住所入力しておきましたから、タクシーでも拾ってきてください。あ、僕たちの連絡先も入れておきましたから、連絡いただけましたらお迎えに参りますよ?」
恭華の前でヒラヒラとスマホを扇ぐように見せつける。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす

河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。 悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。

氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~

春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』 アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。 唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。 美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。 だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。 母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。 そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。 ——カイエンが下す「最後の選択」とは。 ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

義兄は双子の義弟に三つの隠し事

ユーリ
BL
「兄さんは絶対あげねえからな」「兄さんは俺らのだからな」 魔法省専属モデルを務める双子を義弟に持つ伊央は、この双子の義弟に三つの隠し事をしていた。なんとかして双子はそれらを暴こうとするけれど、伊央と謎の関係性を持つカメラマンの邪魔が入ったりでなかなか上手くいかなくて…?? 「兄さん大好き!」「大好き兄さん!」モデルの双子の義弟×十二歳年上の義兄「二人いっぺんは無理です」ーー今日も三人は仲良しです。

俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き

toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった! ※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。 pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました! https://www.pixiv.net/artworks/100148872

お兄ちゃんができた!!

くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。 お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。 「悠くんはえらい子だね。」 「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」 「ふふ、かわいいね。」 律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡ 「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」 ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

処理中です...