殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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執行猶予編

人形は残酷な夢を見た-34

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「ぅ・・・キツネ?」
恭華の意識が戻り、薄らと目を開ける。

「恭華さん、起こしてしまいましたか?」
手の冷たさが、恭華を起こしたのだと思い、キツネが額から手を引いていく。

だが下げられた手をキュッと恭華が握り、自分の頬に戻していく。

「恭華さん?」

「気持ちイイ・・・」
心地良さに目を細め、火照った頬を擦り付ける。

熱に浮かされた体温に、キツネの冷たさが非常に心地良いのだ。

「恭華さん、ポチが貴方に謝りたいそうです。どうします?体辛いなら今度にしますか?」
恭華に手を取られ、自ら頬に擦り付けていることに、キツネが嬉しさを隠そうともせず、口には深々と笑みを浮かべる。

「ポチ?何で?」
ポチが謝りたい理由が分からず、恭華がキョトンとする。

「それは本人に聞きましょう。ポチ、入りなさい」
キツネの言葉に稲荷がドアを開け、ポチを招き入れる。

頭を下げ、上目遣いで恭華とキツネにお伺いを立てるように遠慮がちに前足をカシュカシュと進める。

「ほら、ポチ早く入って・・・」
なかなか進まないポチを促そうと、ポチの身体を稲荷がポンポンと叩いた。

「ガァッ!!」
途端に牙を剥き、稲荷の腕に噛み付くようにポチが迫る。

「わぁっ!ちょ、ポチ!」
慌てた稲荷が情けなくサッと尻を突き出すように腰を引く。

ポチは完全に稲荷を自分より格下に見ている。

稲荷は自分の舎弟だと思っているのだ。稲荷が下手に出なければ、ポチが稲荷の指示に従うことはない。
今だって稲荷が素早く避けていなければ本気で噛み付かれていた。

そして避けてなお、稲荷を引っ掻いてやろうと鋭い爪が空を切る。

ポチのプライドは高い。限りなく。

「ポ、ポチ!!悪かったッス!俺ごときが調子に乗りました!!」
ポチの前に滑り込むように土下座する。

稲荷のプライドは低い。限りなく。

ポチは通常のトラよりも一回りも二回りも大きいのだ。そしてキツネ以外、誰にも懐かずに靡かない。その特性は獰猛。

獲物は常に一撃で仕留める。ポチの鋭い爪に一掻きされた人間の首が飛んでいく姿を何度も目にしている。

品定めをするように稲荷をブルーアイで見つめ、牙を剥き出しにして威嚇する。

「ポチ遊んでないで早く来なさい。恭華さんは具合が良くないんですよ。謝りたいことがあるのでしょう?」
キツネの声に稲荷の顔がパァッと輝く。助かった、と。

「グルグル」
喉を鳴らしながら、ポチがベッドへと歩み寄っていく。ベッドの縁に前足をかけ、恭華を覗き込んだ。

顔色の良くない恭華の頭にポフッと足を乗せる。

「ぶっ」
大きな足は当然、頭だけに留まらず、顔全体を覆うように乗せられる。

キュッキュッと肉球に顔を押され、ふふっと恭華から笑みが零れる。

「ポチくすぐったいよ!お前の肉球気持ちイイな」
キツネの手を投げ捨てるようにポーイっと手放し、代わりにポチの足を取る。

「チッ・・・・ポチのくせに」
ボソッとキツネが呟き短く舌を打つ。

「ポチは恭華さんを傷付けたことを、とっても反省しているんですよ」
キツネの言っていることに同意するようにポチがペロペロと恭華の顔をなめる。

「わっぷ!!ポチくすぐったい!俺は大丈夫だから気にするな、ポチ。ポチは優しい奴だな・・・」
ワシャワシャとポチの頭を撫でる。

「は?ウソだろ?ポチが・・・優しい奴?」
稲荷は目の前の光景に驚きを隠せない。それよりも何よりもショックを隠せない。

稲荷のことを舎弟や下僕のように扱うポチが、恭華にあんなに懐いて・・・

頭を撫でさせているだと?
爪を隠してポフポフしているだと?
肉球をプニプニ触らせているだと?
傷付けたことを謝っているだと?

なんて差だ!!

というか、何でだ?
何でキツネの玩具に過ぎない恭華に、ポチが懐いているのだ?

もっと単刀直入に言えば、何で自分には懐かない?

と、稲荷は酷く衝撃を受けると共に劣等感を感じざるを得ない。

落ち込みに落ち込んだ稲荷は膝を抱え床に座り込む。イジイジと床を指で弄くり回す。

「稲荷そこにキノコ生やすのやめてください。やることないなら炊事でもしてきてください。」
「ガウゥッ!!」
追い出すように冷たい視線を向けるキツネの横で、ポチまでも出て行けと稲荷に向かって低く吠える。

「はいはい、分かりましたよ!!どうせ俺は邪魔者ですよ!!」
半泣きでわぁっと叫びながら稲荷が部屋を飛び出していった。

「いや、お前らも出て行けよ。寝かせろよ」
こうして会話をしていることさえしんどいのだ。

「フフッ、大丈夫ですよ、恭華さん。僕がずっとそばについていますから安心して眠ってください❤」
「ガァ!」
ポチもキツネに同意するように片足を上げる。

「いや、お前がいたら不安でしょうがないだろうが・・・どうでもいいけど静かにしておけよ」
どうせ恭華が拒否したところでキツネの回答など決まっているのだ。出ていかないだろう。それどころか反抗的だといわれなき暴力を振るわれることだろう。

「はい❤」
「ガゥ❤」

ポチが嬉しそうにベッドへと上がり、恭華の枕を押し出すように自分の前足を差し出す。恭華の横にコロンと転がる。

「ふふふ、ポチの足、気持ちいいな・・・」
フサフサ、フカフカの腕枕・・・足枕の気持ちの良さに恭華が目をつぶる。

恭華の頭を前足に乗せ、満足気にポチも目をつぶる。

「ポチ、一人前に恭華さんに腕枕ですか?僕を差し置いて・・・」
ポチにベストポジションを取られ、仕方なくもう片脇側のベッドにキツネが潜り込む。

「・・・何でお前まで入ってくるんだよ?」
元々このベッドの所有者はキツネだが、我が物顔で恭華は占領する。
迷惑そうに眉をひそめている恭華の額にキツネが手を置いた。

「僕だってお役に立てますよ?」
冷やりとした掌で、恭華の高すぎる熱を冷ましていく。

「冷たい手も悪くない・・・な」
スッと目を閉じて、しばらく心地良さに浸っていたが、そのうちスースーと寝息を立て始めた。

「フフッ、本当に可愛い❤」
「ガァ❤」
「まさかポチまでこんなに惚れ込むなんて・・・好みが似ていますねぇ」
「グルグル」
一人と一匹が恭華を目いっぱいに愛でている時、寝室にインターホンを通して稲荷の声が鳴り響いた。

その声はどこか不機嫌でいるような怒気さえ感じる。

「キツネさん、三人で大変仲睦まじいところ申し訳ないッスけどね、俺フロント帰るッスよ!!」
キツネの返事を待たずに稲荷がブチっと切る。

「あらあら、怒らせてしまいましたかね」
「ガッ!」
「ああ、そうですね、やきもちですね。自分だけ仲間に入れないという」
稲荷の罵声にも目を覚ますことなくスヤスヤと眠る恭華を、一人と一匹はいつまでも愛おしそうに見つめていた。
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