殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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執行猶予編

人形は残酷な夢を見た-35

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「恭華さん、最終確認をします。家に帰りますか?」
キツネがニヤリといつもの笑みを浮かべながらも、いつになく真面目に問う。

「ああ、当たり前だ!・・・って何回言わせんだよ!帰りたいって言ってるだろ?」

ポチに傷つけられた爪痕をはじめ、折れた骨も随分くっついた。概ねの怪我が良くなり、自由に部屋中を動き回り、マンション内をポチと散歩したり、地下のジムに足を運んだりと、悠々と生活を送っていた。

キツネに逆らいさえしなければ、傷つけられることもない。

毎晩、朝まで相手をさせられてはいるが、恭華の訴えを忠実にキツネは守り、きちんとまめに後処理をするようになった。

無理ゲーくらい無理だと思ったこの生活にも意外と慣れてきた頃、突然キツネから問われたのだ。

「少しも惜しまないんですね・・・」

「惜しさなんか何も・・・あ!稲荷とポチに会えなくなるのは寂しいな・・・」
既に3学期が始まっている。そして、卒業式が控えているのだ。

だから、『帰りますか?』と問うまでもない意向を一応問われたのだ。

恭華は当然の如く帰ると答えたが、その返答がキツネは不満らしい。
もう全く同じ質問を全く同じ調子で5回聞かれた。

「いいですか、恭華さん。帰っても口外は厳禁ですよ?」

それはキツネに釘を刺されるまでもなく分かっている。誰にも話すつもりはない。

巻き込めば巻き込むだけ善意の人々が殺されていくのだから。

稲荷を問い詰めた結果、恭華を守ろうとしてくれた若手刑事は殺されたという事実が判明した。それどころか、あのビル内の関係者は全て消されていた。

殺されたのではなく、人々の記憶から消されたのだ。そういう意味では、本当に世界から殺されたということになる。

それを聞いて、顔を真っ青にしながら智輝のことを心配したが、智輝は無事だということを稲荷からこっそり教えてもらった。

もういい、誰かに助けを求めて被害者を増やすくらいなら、我慢しようではないか。

智輝を失うくらいなら、キツネに抱かれるくらい・・・

「分かってる・・・」
生返事に頷く。

「それと、卒業式の日にお迎えに上がります。そこで恭華さんを捕まえたらもう放しませんよ?」

「・・・」
ニンマリと笑うキツネを静観する。

「僕は恭華さんを放したくありません。ですが、逃れたい場合、貴方は命を絶つしかありません。それ以外、僕から逃れる手段はありませんよ?貴方にとっての最後のチャンスです」

「・・・分かってる」

とは言ったものの、どこかでまだ何とかなるのではないかと、そう考えている。
とにかくだ、今は一刻も早くこの監禁生活から解放されたい。



キツネはあっさりあのボロアパートへと帰してくれた。

玄関を開けて恭華の動きが止まった。
恭華が出ていった時よりも部屋中がピカピカになっていた。冷蔵庫を開けたら、これでもかという程に食料が詰め込まれていた。

恭華が監禁されている間も稲荷が通いつめ、せっせと掃除をしていたのだ。そして帰ってきた恭華がお腹をすかさないようにと、何日分も作りためておいてくれたのだ。

友のような兄のような存在だと思っていたが、どうやら母でもあるようだ。

帰ってきて稲荷の手料理の魅力に打ち勝ち、真っ先に智輝に連絡をした。そうしたら智輝が光速を超える速さで飛んできた。

「恭華っ!!大丈夫か?大丈夫なのか!?」
靴も脱がずに一直線に恭華のもとに駆け寄り、ガシッと両肩を掴む。

「あああああ!おま、ちょっと!せっかく稲荷が綺麗にぃぃぃぃ~・・・」

恭華の言葉など何も聞いちゃいない智輝がガクガクと肩を揺らし、恭華の語尾が震える。

「あいつは!!あいつは!?」
鼻先をくっつけながら問い詰める。

「ちょ、な、何が?・・・」
ぶれて二重にも三重にも見える智輝に視線を合わせながら答える。

智輝は知らないはずだ。キツネによって記憶を消されているのだから。

「殺人鬼だよ!!お前、監禁されてたんだろ?あの若手刑事だって結局殺されたんだろ?」

「え?え?ちょ、ちょっと待て!!智輝お前記憶あるのか?」
驚愕に満ちた顔で智輝をまじまじと見つめる。

「は?記憶?あるに決まってんだろ?」
恭華の質問の意図を計りかねた智輝が怪訝そうに眉を寄せた。

「な、何で?」
智輝は生きている。しかも記憶まで無事だ。

なぜキツネは智輝を殺さなかったのか?なぜ記憶操作をしなかったのか?部屋の中をウロウロし、腕を組みながら考え込む。

考え込みながらも、智輝の靴をしっかり脱がせて玄関へと運ぶ。そしてお茶をススッと差し出し、ブツブツと呟く。

「お~い?お~い、恭華?・・・・お茶いただきます」
智輝が声をかけることを躊躇いながらも、小さく囁く。

「なあ、本当に記憶あるんだよな?俺が警察に喋った内容覚えてるってことか?」
実はそのあると思っている記憶が捻じ曲げられているとか・・・

「ああ・・・あれだろ?キツネって奴がお前の友達殺したんだろ?んで、お前だけそのキツネって奴に気に入られて監禁されてたんだろ?キツネって奴以外にも仲間が3人いるんだろ?・・・・なあ、お前大丈夫か?お前の方がなんか洗脳されてんじゃないのか?」
心配そうな智輝の目が恭華の顔を覗き込み、手がそっと頬に当てられる。

相当疲れているのではないだろうか。疲れから疑心暗鬼になっているのではないだろうかと。

「いや、違うんだって!!それがな・・・」

智輝の記憶は捻じ曲げられていなかった。
記憶が消されても、操作されてもいない、それは智輝になら話しても良いということだよな?そうなんだよな?と答えのあるはずのない問いを心の中で呟き、自分自身を納得させるために頷く。

そして意を決して、智輝にキツネの特異な能力のことを話した。

心を、考えを読めること、そして記憶操作ができること。

それこそ初めのうちは笑い飛ばしていた智輝も、恭華から一切ふざけた様子が見られないことが分かり、真顔へと変わっていった。

「う、ウソだろ!?その話が本当なら、とんでもないことだぞ?」
半信半疑の智輝の声は、驚愕と恐怖からかなり大きなものとなっていた。

そんなことがあっていいはずない。それでは実際に殺されていなかったとしても、人々の記憶から消し去られてしまったのでは、社会的に抹殺されたも同然だ。

「多分、本当だ。考えが読めるのは本当だし、記憶操作も多分・・・大量殺人しても捕まらないのも頷けるし」
そうなのだ、警察署を丸ごと皆殺しにしておいて、ニュースにも新聞にも取り上げられなかった。

キツネが都合の良いように、人々の記憶を捻じ曲げたからに他ならないのだろう。
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