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監禁生活スタート編
殺人鬼が手に入れたのはただ唯一の存在-6
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ハアハアハアハアハアハアハア・・・
どれだけ走っただろうか?
昼間だというのに光も届かない程の葉に覆われた深い森の中、ただひたすらに走り続ける。
果たして自分は靴を履いてきただろうか?服は着替えただろうか?
これらを気にしたら負けだ。その懸念は実現となり、裸足に、寝間着になる、漠然とそう理解していた。
ここでは考えたことが全てだと。
逃げ切れているのか気になるものの、振り返ってはいけない。
振り返った途端に捕えられる、捕らわれる、ということもどこかで感じていた。
だからひたすら、何も考えずに走り込む。
恭華を引き止めるように、何度も何度も呼ぶ声がする。
その声を振り払うように、とうに限界を超えた足でまた走り出す。
恭華の背後に足音がどんどんどんどん迫ってくる。
2m、1mと徐々に距離が詰められていくが全力で走っている恭華にはこれ以上、どうにもならない。
走っても走っても、逃れられない。
逃げても逃げても、泣いても泣いても、叫んでも叫んでも、喘いでも喘いでも、願っても願っても、祈っても祈っても・・・・
誰も助けてくれはしない。
誰も振り返りなどはしない。
ああ、よかった、我が身ではなく。
ああ、危ない、火の粉が降りかからないようにしなければ。
と、誰もが素通りしていくのだ。
これは今の恭華の叫びか・・・
いや、違う。
もうずっとずっと叫んでいた。
もうずっとずっと前から。
いつからか逃げることをやめた。
どこにも逃げ場などないことを知ったから。
いつからか泣くことをやめた。
泣いても何も変わらないことの方が悲しいことを知ったから。
いつからか叫ぶことをやめた。
叫ぶ声は誰の耳にも留まらないことを知ったから。
いつからか喘ぐことをやめた。
どんなに喘いで、息苦しい世の中を泳ぎ切ることはできないことを知ったから。
いつからか願うことをやめた。
願っても叶えてくれる人などいないことを知ったから。
いつからか祈ることをやめた。
祈るあてなどどこにもないことを知ったから。
結局、全ては己。
己しか、己しかいないのだ。いつでも自分を助けてあげられるのは自分。
そうして恭華は今の『恭華』を作り上げてきた。
だが最近、それが崩壊しつつある。がっちりと自分を守るために作り上げてきた恭華が。
恭華の力だけでは恭華を守り切れない事態に直面したからだ。
逃げ、泣き、叫び、喘ぎ、願い、祈る。
誰に?
何に?
何も考えられない程に脳に回る酸素が薄くなった時、ポンッと肩を叩かれる。
跳ねる鼓動に、跳ねる身体、恐怖に顔を強張らせる。
恐る恐る振り返った先でニンマリと笑う男が「恭華さん」と声をかけた。
----------------
「うわぁぁぁぁぁぁっ!!・・・ハアハアハアハア・・・・」
絶叫しながら恭華が上半身を起こす。その勢いでかけられた布団が飛んでいった。
整わない息を苦しそうに吐きながら、周囲を見回す。
今朝方まで散々キツネに弄ばれていた部屋だ。自分のアパートでも、キツネのマンションでもない。
そうだ、昨日捕まって旅館に泊まったのだ。回らない頭が徐々に追いついてきた。
「ゆ、夢?・・・」
ハアハアと荒い息が治まらない。
呼吸と共に肩の上下が目に見える程大きい。
ひどくリアルだったため、未だに夢か現実か信じられない。
走っていた感覚も、森がざわつく音も、木々が発する独特な匂いも、踏み込んだ土も。そして追ってきていたあの男も、何もかもリアルだった。
息だって、こんなに乱れて・・・
こっちの方が夢なのではないかと疑う。
「フフッ、胡蝶の夢ですね」
不意にかけられた声に、ビクッと身体を揺らす。
「キ、キツネ・・・」
部屋を見回した時には気が付かなかったが、すぐ真横にいたらしい。
額に浮かぶ夥しい汗をキツネが冷たい掌で拭っていく。
「とてもうなされていらっしゃったので、何度も起こしたのですよ?」
恭華さんと名前を呼んで、と恭華にとっては気持ち悪さしか感じない笑顔でキツネが話す。
「おまえのせいか・・・」
納得がいった。あんなに必死で逃げる夢を見たのも、逃げても逃げても耳元で名前を呼ぶ声がしたのも、全部こいつのせいかと。
息は整ってきたものの体の倦怠さに耐え切れず、布団にパタッと倒れ込む。
額に手を当て、ハッハッと口で息をする。
「恭華ちゃん大丈夫?怖い夢でも見たの?」
キツネとは違う声に、更にビクッと反応する。
キツネとは反対側に稲荷もいたようだ。
注意力散漫もいいところだなと、思わず失笑する。
「シャワー・・・浴びたい」
とにかく汗がベトベトして気持ち悪い。体も熱い。
冷たいシャワーを浴びてスッキリしたいところだ。
「恭華ちゃん蟹は?やっぱりやめておく?」
「蟹っ!?」
そうであった、今日は蟹を食べに連れて行ってもらう約束をしていたのだ。
が、動けそうにない。
どうしてこんなに体が怠いのか。
「・・・・」
昨晩からの記憶を辿る。
「やっぱりお前のせいか!!」
どんなに泣いても頼んでも寝かせてくれなかった。
寝ている間に勝手に突っ込んでいろと言っても、恭華が意識を落とすことを許さず、最低な手段で起こされた。おかげで体中が火傷だらけだ。
何でも、恭華の反応が見たいとかで・・・。
恨めし気にキツネを睨む。
睨まれてもそのニヤけた顔が変わることはない。
それがまた恭華を苛立たせる。
「蟹行く!」
お前に屈してたまるかというように挑戦的な目をキツネに向け、体を起こす。
「わ、待って、恭華ちゃん!!蟹はちゃんと買ってきたから!」
だから無理して起きてはいけないと、稲荷が宥めるように恭華を横たわらせた。
「え?嘘っ!!?稲荷愛してる❤」
「うわっ!」
恭華を横たえ、体を離そうとしていた稲荷に恭華が抱き着き、チュッと頬にキスをする。
「えぇぇぇぇっ!!ちょ、ちょっと恭華ちゃん!?」
男にキスをされたことよりも、キツネの反応が怖すぎて稲荷が焦った。
一体どんな反応を示すのか未知だ。
慌てて恭華から離れ、立ち上がろうとするが、腕をキツネに引かれ、ガクンと膝をつく。
「キ、キツネさん?」
今のは完全な不可抗力だ、そう訴えたかったが、キツネの力が強まり、グッと引かれる。
布団に横たわる恭華を越え、キツネのもとへと躍り出る結果となった。
地獄だ。口には笑みが浮かんでいるものの、目は笑っていない。
その顔が徐々に稲荷に近づいていく。
「キツネさんっ!!俺の不注意でしたっ!ホントすみませんっ!」
もう二度と、二度とこんなことにはならないよう気をつけるから、殺さないで・・・
目に涙を浮かべ、ぷるぷると小動物のように震える稲荷に、キツネがグッと接近する。
チュウーーーーーーーーーーッ
盛大な音と共に、稲荷の頬がキツネに吸われる。
もちろん先ほど、恭華が口付けしたところにだ。
「ぎゃああああああああっ!!」
悲鳴と共に思わず涙を流す。
声は上がっても、体は言うことを聞いてくれず、カチンコチンに固まったまま動かない。
「うわぁ・・・・地獄絵図だな・・・」
「ご愁傷様です」と恭華が引き気味に事を静観する。
頬が引っ張られる程に吸われ、稲荷の顔が変形している。
ププッと恭華に笑われ、稲荷が涙の量を増やした。
「キ、キツネさ~ん!」
こんな仕打ちを受けるなら、いっそ刺してくれた方が、切ってくれた方が、殴ってくれた方がよかった。
「失礼。何だか羨ましく思えましたので、つい・・・」
キュポンっとキツネが外された。
吸われた頬は真っ赤に鬱血し、キスマークよりも遙かに大きな痕を残した。
「もう!!何なんッスか!吸引力の変わらないただ一つの掃除機に吸われてる気分でしたよっ!!」
というより、それは稲荷に対して嫉妬したのであって、対象は恭華であるべきだ。
恭華がキスしていたのを羨ましく思ったのではなく、キスされた稲荷を羨ましく思ったのだから。
だがその辺の感情がいまひとつ理解できないのであろう。
たった今、初めて芽生えた気持ちなのであろうから。
これは恭華が本当にキツネの根本を揺るがし始めている証拠だ。
しかし、ここにきて弊害が発覚した。
キツネの感情への理解が気持ちの変化に追いつかないという弊害が。
稲荷が頬を擦りながら唸る。
「それにしても恭華ちゃん、キスの度にこんなに吸われるの?大変だね・・・」
キツネが仕事で出かけなければならない時などは、恭華の事後処理を稲荷が行う。
その際、確かに身体の至る所に鮮やかなキスマークを浮かせていた。
「まさか!吸うだけなら可愛いもんだ!!こいつのキス本当に酷いぞ?人殺すぞ?」
蛇のような粘着性を持ち、執拗なまでにねちっこいキスをする。
舌を無理矢理捻じ込み、捻じ込んだ長い舌は咽頭を塞ぎ止め、たっぷりの唾液を直接喉に流し込んでくる。
それでも溢れ出る唾液を吐き出すことは許されず、コクンと喉を鳴らすまで、唇は離れない。
あまりの苦しさに酸素を求めて口を開けると、それを覆うように、唇に噛み付かんばかりに貪ってくる。
だがここで苦しさに負けて口の端から透明な粘液を垂らそうものなら、失神するまで許してはもらえない。
逃れる方法はただ一つ。男から与えられる唾液をただただ受け入れ、懸命に飲み下せばいいのだ。
すると、キスに応えたように吸い付く恭華に満足し、離してくれる。
解放された時、42.195キロのフルマラソン後よりも息が切れ、軽い貧血を起こす低酸素状態に陥る。
苦々しそうにそう語る恭華の話を、キツネから距離を取りながら稲荷が聴く。
本当に酷いと言っていた意味がよく分かる。
ハアハアハアハアハアハアハア・・・
どれだけ走っただろうか?
昼間だというのに光も届かない程の葉に覆われた深い森の中、ただひたすらに走り続ける。
果たして自分は靴を履いてきただろうか?服は着替えただろうか?
これらを気にしたら負けだ。その懸念は実現となり、裸足に、寝間着になる、漠然とそう理解していた。
ここでは考えたことが全てだと。
逃げ切れているのか気になるものの、振り返ってはいけない。
振り返った途端に捕えられる、捕らわれる、ということもどこかで感じていた。
だからひたすら、何も考えずに走り込む。
恭華を引き止めるように、何度も何度も呼ぶ声がする。
その声を振り払うように、とうに限界を超えた足でまた走り出す。
恭華の背後に足音がどんどんどんどん迫ってくる。
2m、1mと徐々に距離が詰められていくが全力で走っている恭華にはこれ以上、どうにもならない。
走っても走っても、逃れられない。
逃げても逃げても、泣いても泣いても、叫んでも叫んでも、喘いでも喘いでも、願っても願っても、祈っても祈っても・・・・
誰も助けてくれはしない。
誰も振り返りなどはしない。
ああ、よかった、我が身ではなく。
ああ、危ない、火の粉が降りかからないようにしなければ。
と、誰もが素通りしていくのだ。
これは今の恭華の叫びか・・・
いや、違う。
もうずっとずっと叫んでいた。
もうずっとずっと前から。
いつからか逃げることをやめた。
どこにも逃げ場などないことを知ったから。
いつからか泣くことをやめた。
泣いても何も変わらないことの方が悲しいことを知ったから。
いつからか叫ぶことをやめた。
叫ぶ声は誰の耳にも留まらないことを知ったから。
いつからか喘ぐことをやめた。
どんなに喘いで、息苦しい世の中を泳ぎ切ることはできないことを知ったから。
いつからか願うことをやめた。
願っても叶えてくれる人などいないことを知ったから。
いつからか祈ることをやめた。
祈るあてなどどこにもないことを知ったから。
結局、全ては己。
己しか、己しかいないのだ。いつでも自分を助けてあげられるのは自分。
そうして恭華は今の『恭華』を作り上げてきた。
だが最近、それが崩壊しつつある。がっちりと自分を守るために作り上げてきた恭華が。
恭華の力だけでは恭華を守り切れない事態に直面したからだ。
逃げ、泣き、叫び、喘ぎ、願い、祈る。
誰に?
何に?
何も考えられない程に脳に回る酸素が薄くなった時、ポンッと肩を叩かれる。
跳ねる鼓動に、跳ねる身体、恐怖に顔を強張らせる。
恐る恐る振り返った先でニンマリと笑う男が「恭華さん」と声をかけた。
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「うわぁぁぁぁぁぁっ!!・・・ハアハアハアハア・・・・」
絶叫しながら恭華が上半身を起こす。その勢いでかけられた布団が飛んでいった。
整わない息を苦しそうに吐きながら、周囲を見回す。
今朝方まで散々キツネに弄ばれていた部屋だ。自分のアパートでも、キツネのマンションでもない。
そうだ、昨日捕まって旅館に泊まったのだ。回らない頭が徐々に追いついてきた。
「ゆ、夢?・・・」
ハアハアと荒い息が治まらない。
呼吸と共に肩の上下が目に見える程大きい。
ひどくリアルだったため、未だに夢か現実か信じられない。
走っていた感覚も、森がざわつく音も、木々が発する独特な匂いも、踏み込んだ土も。そして追ってきていたあの男も、何もかもリアルだった。
息だって、こんなに乱れて・・・
こっちの方が夢なのではないかと疑う。
「フフッ、胡蝶の夢ですね」
不意にかけられた声に、ビクッと身体を揺らす。
「キ、キツネ・・・」
部屋を見回した時には気が付かなかったが、すぐ真横にいたらしい。
額に浮かぶ夥しい汗をキツネが冷たい掌で拭っていく。
「とてもうなされていらっしゃったので、何度も起こしたのですよ?」
恭華さんと名前を呼んで、と恭華にとっては気持ち悪さしか感じない笑顔でキツネが話す。
「おまえのせいか・・・」
納得がいった。あんなに必死で逃げる夢を見たのも、逃げても逃げても耳元で名前を呼ぶ声がしたのも、全部こいつのせいかと。
息は整ってきたものの体の倦怠さに耐え切れず、布団にパタッと倒れ込む。
額に手を当て、ハッハッと口で息をする。
「恭華ちゃん大丈夫?怖い夢でも見たの?」
キツネとは違う声に、更にビクッと反応する。
キツネとは反対側に稲荷もいたようだ。
注意力散漫もいいところだなと、思わず失笑する。
「シャワー・・・浴びたい」
とにかく汗がベトベトして気持ち悪い。体も熱い。
冷たいシャワーを浴びてスッキリしたいところだ。
「恭華ちゃん蟹は?やっぱりやめておく?」
「蟹っ!?」
そうであった、今日は蟹を食べに連れて行ってもらう約束をしていたのだ。
が、動けそうにない。
どうしてこんなに体が怠いのか。
「・・・・」
昨晩からの記憶を辿る。
「やっぱりお前のせいか!!」
どんなに泣いても頼んでも寝かせてくれなかった。
寝ている間に勝手に突っ込んでいろと言っても、恭華が意識を落とすことを許さず、最低な手段で起こされた。おかげで体中が火傷だらけだ。
何でも、恭華の反応が見たいとかで・・・。
恨めし気にキツネを睨む。
睨まれてもそのニヤけた顔が変わることはない。
それがまた恭華を苛立たせる。
「蟹行く!」
お前に屈してたまるかというように挑戦的な目をキツネに向け、体を起こす。
「わ、待って、恭華ちゃん!!蟹はちゃんと買ってきたから!」
だから無理して起きてはいけないと、稲荷が宥めるように恭華を横たわらせた。
「え?嘘っ!!?稲荷愛してる❤」
「うわっ!」
恭華を横たえ、体を離そうとしていた稲荷に恭華が抱き着き、チュッと頬にキスをする。
「えぇぇぇぇっ!!ちょ、ちょっと恭華ちゃん!?」
男にキスをされたことよりも、キツネの反応が怖すぎて稲荷が焦った。
一体どんな反応を示すのか未知だ。
慌てて恭華から離れ、立ち上がろうとするが、腕をキツネに引かれ、ガクンと膝をつく。
「キ、キツネさん?」
今のは完全な不可抗力だ、そう訴えたかったが、キツネの力が強まり、グッと引かれる。
布団に横たわる恭華を越え、キツネのもとへと躍り出る結果となった。
地獄だ。口には笑みが浮かんでいるものの、目は笑っていない。
その顔が徐々に稲荷に近づいていく。
「キツネさんっ!!俺の不注意でしたっ!ホントすみませんっ!」
もう二度と、二度とこんなことにはならないよう気をつけるから、殺さないで・・・
目に涙を浮かべ、ぷるぷると小動物のように震える稲荷に、キツネがグッと接近する。
チュウーーーーーーーーーーッ
盛大な音と共に、稲荷の頬がキツネに吸われる。
もちろん先ほど、恭華が口付けしたところにだ。
「ぎゃああああああああっ!!」
悲鳴と共に思わず涙を流す。
声は上がっても、体は言うことを聞いてくれず、カチンコチンに固まったまま動かない。
「うわぁ・・・・地獄絵図だな・・・」
「ご愁傷様です」と恭華が引き気味に事を静観する。
頬が引っ張られる程に吸われ、稲荷の顔が変形している。
ププッと恭華に笑われ、稲荷が涙の量を増やした。
「キ、キツネさ~ん!」
こんな仕打ちを受けるなら、いっそ刺してくれた方が、切ってくれた方が、殴ってくれた方がよかった。
「失礼。何だか羨ましく思えましたので、つい・・・」
キュポンっとキツネが外された。
吸われた頬は真っ赤に鬱血し、キスマークよりも遙かに大きな痕を残した。
「もう!!何なんッスか!吸引力の変わらないただ一つの掃除機に吸われてる気分でしたよっ!!」
というより、それは稲荷に対して嫉妬したのであって、対象は恭華であるべきだ。
恭華がキスしていたのを羨ましく思ったのではなく、キスされた稲荷を羨ましく思ったのだから。
だがその辺の感情がいまひとつ理解できないのであろう。
たった今、初めて芽生えた気持ちなのであろうから。
これは恭華が本当にキツネの根本を揺るがし始めている証拠だ。
しかし、ここにきて弊害が発覚した。
キツネの感情への理解が気持ちの変化に追いつかないという弊害が。
稲荷が頬を擦りながら唸る。
「それにしても恭華ちゃん、キスの度にこんなに吸われるの?大変だね・・・」
キツネが仕事で出かけなければならない時などは、恭華の事後処理を稲荷が行う。
その際、確かに身体の至る所に鮮やかなキスマークを浮かせていた。
「まさか!吸うだけなら可愛いもんだ!!こいつのキス本当に酷いぞ?人殺すぞ?」
蛇のような粘着性を持ち、執拗なまでにねちっこいキスをする。
舌を無理矢理捻じ込み、捻じ込んだ長い舌は咽頭を塞ぎ止め、たっぷりの唾液を直接喉に流し込んでくる。
それでも溢れ出る唾液を吐き出すことは許されず、コクンと喉を鳴らすまで、唇は離れない。
あまりの苦しさに酸素を求めて口を開けると、それを覆うように、唇に噛み付かんばかりに貪ってくる。
だがここで苦しさに負けて口の端から透明な粘液を垂らそうものなら、失神するまで許してはもらえない。
逃れる方法はただ一つ。男から与えられる唾液をただただ受け入れ、懸命に飲み下せばいいのだ。
すると、キスに応えたように吸い付く恭華に満足し、離してくれる。
解放された時、42.195キロのフルマラソン後よりも息が切れ、軽い貧血を起こす低酸素状態に陥る。
苦々しそうにそう語る恭華の話を、キツネから距離を取りながら稲荷が聴く。
本当に酷いと言っていた意味がよく分かる。
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