殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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犬生活編

人形は哀しみに諦めをおぼえた-9

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「恭華さん!!」

九尾と恭華がティータイムを優雅に楽しんでいる時、突然それはやってきた。

珍しくバタバタと音を立てながら慌てて恭華に駆け寄り、手を乱暴に掴む。

恭華の表情は変わらないが、いささか緊張している。いや怯えている。

「おい、何事だ、手を離せ。診察中だぞ?勝手に入ってくるな」
不躾に入ってきたキツネに九尾が不愉快さを露わにし、声を荒げる。

「失礼しました、ですが少々お時間をいただきたいのです」
キュッと握った手は離さない。

「恭華どうする?断ってもいいぞ」
バシッとキツネの手を払う。

コクリと小さく恭華がうなずく。

「ありがとうございます、恭華さん!!」
勝ち誇ったように九尾を一瞥すると、再び恭華の手を握る。

「恭華さん・・・僕・・・僕・・・僕・・・」
ただでさえ悠長に話すキツネが言葉に躊躇いを見せると会話が進まない。

「何だ?」
苛立つ九尾が先を促す。

「ちょっとキューちゃんは黙っていてください」
キッと九尾を睨みつける。

「恭華さん、僕・・・僕と・・・僕と結婚してください!!」

「は?」
キョトンとしている恭華を代弁するかのように九尾が答える。

「僕と結婚」
「キツネ、ちょっと来い」

キツネの告白を遮るかのように九尾が割って入り、キツネを引きずっていく。

「最近変わったことは?頭を打ったとか」

「いえ、特に」

「頭痛や眩暈はどうだ?幻覚が見えるとか」

「いえ、特に。ただ動悸はします。恭華さんにドキドキと。目を瞑ると幻覚が見えます、恭華さんの」

「よし、胸を出せ」
聴診器を当て、真剣にキツネの診察を始める。

「ああ、もう何やってんッスか?」 
恭華を放置して何いい大人二人がお医者さんごっこをしているのだと、稲荷が責める。

「キツネさん、恭華ちゃんからの伝言ッス。NOだそうッスよ」
当たり前だろう。もう何から突っ込んだら良いか分からない。

だがキツネは予測もしていなかったのか、「え?」という口をして即座に恭華を見る。

「・・・・・そう、ですか」
目に見えて落ち込むキツネとその取り巻き二人を尻目に、恭華が寝室に向かってペタペタと歩き出していた。

「あ、恭華ちゃん寝るの?ちゃんと水分取った?」
稲荷が慌ててティーカップを覗く。

「ああっ!また一口も飲んでない!ダメっ、そんな子は寝かせません!」
颯爽と歩いていく恭華の腕を取り、ダイニングへと座らせる。

「この一杯だけでいいから」
ティーカップを恭華に握らせる。

恭華はコクンとうなずき、素直に飲み始めた。

何にも興味を示さない恭華は一日の大半を寝て過ごす。

こうして九尾や稲荷に誘われたり、ポチに散歩をねだられなければ、寝室から出ようとしないどころか、ベッドから体を起こそうともしない。

「恭華は稲荷の言うことは聞くんだな・・・」
九尾がボソッと呟く。

「ええ、僕の言うことを聞いてくれないのは何故でしょうねぇ?」
毎日恭華と心の距離を縮めようと努力している。謝罪も一方的ではあるものの行っている。それは嘘偽りのないキツネの心からの謝罪、反省なのだ。

だが恭華の心には届かない。

「恭華がああなったのはお前が原因だろ?俺が恭華でもお前のこと許さない。無視するだろうな、存在を・・・」
自分が稲荷にしていることを棚に上げ、いけしゃあしゃあと言ってのける九尾を、キツネが一瞥する。

「稲荷は強いですね・・・」
フーとキツネが大きなため息を吐く。

「まあ、あれはな。並大抵のことでは壊れない。恭華だって強いだろ?」
普通の人間が殺人犯のアジトで暮らすことを強要されたら、とっくに精神を病み、正常ではいられない。

だが恭華は十分環境に適応している。いやそれを逆手に取っているようにさえ九尾には見えた。

「ええ、まあ。恭華さんは強いです。強いがゆえに死に対する恐怖や生に対する未練が少ないんですよ」
キツネが奪ってきた多くの命は、もっと生に対して貪欲で、死に対して畏怖の念を抱いていた。それは醜い感情となって現れ、仲間を売り、大枚をはたき、何としてでも死から逃れ、生にしがみつこうとする。

「それが恭華の弱さでもある」

「は~・・・キューちゃん、人に嫌われるのって怖いことなんですね。つらいことなんですね」

キツネの言葉に驚きを隠せない九尾が再びキツネの診察を始めたのは言うまでもない。
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