殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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不幸自慢編

人形は孤独から仲間を探した-4 ◆

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【CASE1 TOYA】

大学の一限を寝坊し、二限から出席したものの、あまりの退屈さに途中で帰宅することにした。

そのまま帰ると遥がうるさい。ただでさえ、寝坊して一限をサボったことに小言を言われたのだ。

真面目に授業を受けろとか、つまらないとは何事かとか、自分の理解が足りないつまり勉強不足なのだとか・・・人間ではない遥の言うことは、至極全うな人間の言うことなのだ。

今日、本当は四限まで授業だったのだ。

時間までファミレスかどこかでグダグダしているか、とたまたま入った店に奴がいたのだ。

兎夜が入った時、ちょうどその男はお会計をしていた。
遥程の高身長に滅多に会わない、だからこそ、遥ぐらい背が高い男だなと見上げた先に、キツネの目をした男と目が合った。

虫の知らせというものだろうか、嫌な感じがして兎夜は身を震わせた。男は口元にニンマリと気持ち悪い笑みを浮かべ、店から出て行った。

ドリンクバーで時間を潰し、カラスが空しく鳴き始める頃、そろそろいいだろうと帰宅に向けて店を出た。

そこで兎夜の記憶は途切れていた。

特に頭に強い衝撃を受けたとか、バチッと何かが爆ぜる音がしたとか、腹部に重い打撃を受けたとか、そんなことは一切なく、本当にバッサリと全く一切の記憶をそこで絶った。

次に目が覚めたのは異臭がする真っ暗な部屋だった。

「え!?・・・何ここ、どこ?あれ、俺確か・・・」
ファミレスから出て、それでどうしたか。記憶がない。

不安に駆られた兎夜が状況を把握しようとキョロキョロする。暗い室内。内装は打ちっぱなしのコンクリート。
照明などの器具が一切なく、光の射さない部屋。

ダイニングテーブルのような台に兎夜は乗せられていた。
暗い部屋にも目が慣れてきた。だが鼻が慣れない。目覚めた時から鼻を突く酷い悪臭。顔を歪めた兎夜は、生臭さを紛らわせるために手の甲を鼻にあてる。

とにかくこの部屋から出なければ、臭くてたまらない。

「うっ・・・」
ダイニングテーブルから飛び降り足の裏にヌルッという感触がして、気色の悪さに台に戻る。

「何だよっ!!気持ち悪ぃ!」
そのヌメリ気の正体を確かめるべく、足を顔の前まで持ち上げ、クンクンと嗅ぐ。

「・・・血?」
確証はないが、そんな生臭さがする。
そしてようやく気が付いた、自分が全裸であるということに。

「・・・え?何で俺、裸なんだよ・・・」

しばらく自分の体を見つめていた兎夜だったが、血の水溜りを目で追っていった先に塊を見つける。様々な場所に複数、その塊は存在していた。

「・・・なんだ、あれ・・・」

「フフッ、あれは数分前まで人間だったものですよ。随分野性的な方ですねぇ」

不気味に響いた悠長な笑いと声にビクッと反応し、兎夜が自分の足を手放す。

「誰だ!?に、人間だったもの・・・って?」
声の主を振り返り問いかけた。

「ひっ!!」
振り向いた先の男を目にし、思わず情けなく短い悲鳴が漏れた。

長身で目が開いているのか判断できない程に細い。だがその目から覗く僅かな瞳は濁り切っている。

そして慣れてきた夜目にははっきりと見て取れた。男が夥しい返り血を浴びていることを。
オールバックにしている髪の先端から、ポタリポタリと血が滴り落ちる。

恐怖に震え、愕然とする兎夜は口を開けたまま固まった。

「フフッ、どうしました?血も滴るいい男に見惚れましたか?」
ニンマリと男が歯を見せずに笑う。

「は?」
男の言っている意味が分からず思わず声が漏れた。しかしそこで初めて男が何か手に握っていることに気が付いた。

兎夜の視線に気が付いた男が、ソレを掴んでいる手を肩まで持ち上げる。

「うわぁぁぁぁぁっ!!!」
男の持っているソレを視認した兎夜が驚き跳ね上がる。男から遠ざかるようにダイニングテーブルの端まで後退る。

首だ、人間の首。

髪を掴んでいるのだ。まるで武者の首を取った武人のように。それを掴んで笑っているのだ。普通じゃない、異常だ、快楽殺人鬼。

コイツ・・・ファミレスにいた男・・・何て危ない奴。遥より危ない。

首の断面からは大量の血が流れ出ている。根元には白く覗く骨や神経などを垂れ下げその先端からポタッと血を垂らす。
眼球は飛び出し、馬のように舌は長くダラリと垂れさがり、その顔は苦痛に満ち溢れていた。

ドサッと頭を放り出し、狂気の塊が一歩一歩ゆっくりと近付く。

「く、来るなっ!!俺をどうする気だ!?殺すのか!?」
そうなのか?ここで、こんな暗い部屋で、こんな訳の分からない殺人鬼に、こんな誰とも知らない死体に囲まれて死んでいくのか?

嫌だ!

男が立っている方とは逆にダイニングテーブルから足を下ろそうとしたが、黒い影が兎夜を覆う。ハッとして上を向いた。

「逃がしませんよ?貴方はこれらよりも多少、顔が好みですので体の相性さえ合えば暫くは僕の玩具として可愛がって差し上げますよ」
男の細い眼が開かれ、冷たい光を放っていた。

「体?相性?・・・オモチャ・・・」

フフッと笑う男が、驚き動きを止めていた兎夜の胸をトンと押す。

簡単に転がった兎夜が上半身を起こそうとした際、男が兎夜の片手を取る。

「うわっ!ちょ、ちょっと・・・な、なに・・・」
片手をとられたことでバランスを崩した兎夜が横向きに転がったが、男が気にする様子はない。

「くっ!」
力を込め振りほどこうとするが、まったく動かない。

握られている男の冷たい手にヌメヌメとした血の若干の生暖かさを感じる。気持ちが悪い。自分にもその血が付着したかと思うと悍ましい。

ついにはもう片方の手も取られ、頭上に両手首を固定するように縫い付けられ身動きが取れなくなった。
分かる。まるで遥を相手にしている時と同じだ。

全く勝てる気がしない。遊ばれているという感覚。

先程からドキドキと鼓動の高鳴りが激しく聞こえる。ヤバいと、心臓が警鐘を鳴らしているのだ。

普段から常に天変地異が付きまとう遥のそばにいるため、このような危険な状況にも慣れている・・・そう思っていた。

だがそれは常にそばに遥がいたからだ。

今は怖くて仕方がない。腕が、足が、全身が恐怖を訴え震える。このままではすぐに自分もアレらのように殺される。

腕が頭上で括られ動かせないため、のしかかっている男を蹴り飛ばそうと足を男の腹部目掛けて蹴り上げる。

「フフッ、諦めが悪いですねぇ。震えていますよ?」
ドカッと重いと定評のある蹴りが命中したにも拘わらず、男が動じる様子はない。

クスクスと笑いながら悠長に響く男の声に、ムッとしながらも兎夜はどうすることもできず、腹に触れている足に力を込め、蹴り飛ばそうとする。

びくともしない。それどころか見上げた男は歯を見せずニンマリと嬉しそうに笑っていた。

コイツ・・・

「少々、やんちゃなようで・・・。嫌いではないんですがね、今はそういうの恭華さんにしか求めていないんですよ。申し訳ありませんが大人しく僕に犯られて、殺られていただけませんか?ただの繋ぎなんですから・・・」
暗い部屋、悠長に男が声を響かせる。

「はあっ!?知るか!!」
そんな男の事情など、擦り付けられても困る。犯られたくも殺られたくもないに決まっているではないか。それもこんな酷い目に遭わせておいて繋ぎとか、ふざけんなよ?ならなおのこと、無事に帰せ!

大人しくなどしていられるはずがない。

靴底を男の腹に据え置いたまま、もう片方の足を振り上げ、男の脇腹に蹴りを喰らわせる。

「フフッ、貴方も分からない人ですねぇ。大人しくしなかったことを後悔しますよ?」
恭華さんといい勝負ですと、不敵に笑う男が兎夜の前に麺棒程の太さの木の棒をちらつかせる。

「?」
兎夜がそれを目で追う。

先がとがっている?まるで、まるで・・・

「ああ、こちらですか?そんなに急がなくてもすぐにお教えしますよ」
クスクスと笑う男が、木の棒を兎夜の掌に押し付ける。
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