77 / 84
不幸自慢編
人形は孤独から仲間を探した-7
しおりを挟む
「まぁ、俺はこの先、意識なかったけど、遥さんが助けに来てくれたって・・・」
語り終えた兎夜がティーカップに手を伸ばす。
そしてチラリと稲荷を見た。この先はお前も知っているだろう?とでも言うように。
「そうだね。激怒した遥さんがここに乗り込んできて殲滅にまで追いやったからね・・・本当、血色が良くて無傷の兎夜君を見てびっくりしたよ」
フワッと困ったように稲荷が笑う。
その瞳を目にしただけで、心臓が動きを止めそうなほどの殺気を携えた遥と、その胸に抱かれ、すやすやと気持ちよさそうに眠る兎夜を見て驚いた。
キツネからあの部屋の後片付けを任されていた稲荷は、一度その光景を目にしていたからだ。兎夜が磔にされ、絶命間近の状態を。
「・・・悲惨だな。なんつーか、あれだ、生きてて良かったな」
兎夜の語る凄惨な話に描かれた光景が、これでもかというほど鮮明に浮かぶ。
まるで自分がその体験をさせられたかのように、痛みが感じられ、恭華は身震いした。
「いや、ホントにな。遥さんがいなかったら死んでたからな」
あの時、何度呼んでも遥がすぐに駆けつけてくれなかったのは、遥が里帰りをしていたためだと、後に聞かされた。
遥は何度も何度も兎夜に謝罪し、兎夜よりも落ち込み、兎夜よりも胸を痛ませた。見ているこっちが可哀想に思い、慰めるのに必死だったのだ。
しばらくは外出することさえ恐怖に感じ、引きこもり、悪夢にうなされ汗びっしょりで目覚めることも何度もあった。
そのたびに遥が落ち着かせてくれたのだ。
「なあ、稲荷・・・」
恭華が思い詰めたように稲荷を見る。
そう兎夜の話の中にどうしても、どうしても聞き逃せないワンフレーズがあったからだ。
「なぁに、恭華ちゃん?キツネさんへの苦情は受け付けないよ?」
確かに悲惨な話だ。兎夜はたまたまターゲットにされ、不運極まりないと思う。その日は稲荷もその部屋でキツネが散らかした肉片の片づけをした。
他の死体は全て切り刻まれ、その全ての首がなかった。新たな毒の研究中だとかで、死体には無数の虫に噛まれた痕が残っていた。酷い苦しみに襲われながら、息を残したまま首を切断されたに違いない。
それを考えると、兎夜などまだいい方だ。だがそんなことは口にできない。そう思ってしまうこと自体、死を身近に感じ過ぎているということなのだろう。
稲荷の感覚や考え方も十分、普通の人間とはかけ離れてしまっている証拠だ。
「違う・・・あいつ、俺にも試す、そう言ってなかったか?」
勘違いでなければ確かにそう言った。
「ああ、言ってたな・・・俺も意識が朦朧としてたから聞き間違いかもしんないけどな・・・」
「いや、やる!!あいつなら間違いなくやる!!怖っ!稲荷、俺はしばらく旅に出る、探さないでくださいって伝えておいて」
恭華はおもむろにスクッと立ち上がった。
「いやいやいやいや、待って待って恭華ちゃん!!それこそ連れ戻されて杭打たれるよ?」
恭華の腕を引き、ソファへと戻す。
ピーッという遠くで鳴る音に、稲荷が嬉々として顔を向けた。これで恭華を繋ぎ止めておける!
「ほらっ!スコーンが焼けた!お茶のお代わりも淹れるよ!」
不満が残っていた恭華の顔が途端に輝いた。
「スコーン!!」
素直に座り、オーブンへと駆けて行った稲荷をチラチラと気にしながら待つ。
「恭華・・・お前ここに監禁されてるんだろ?」
「え?ああ・・・」
監禁よりは自由だが、捕らえられているのだから、軟禁状態のようなものだ。
「逃げたいとか思わないのかよ?よく一緒にいられるな、あんな狂気の塊と!」
稲荷を気にしながら恭華に体ごと寄せ、耳打ちをする。
「努力はし尽くした。もう諦めた・・・」
ターゲットにされていた当初はともかく、今はそれなりに大切にしてくれているらしい。
恭華は全くそんな実感がわかないが、稲荷や九尾曰く、信じられない程恭華に優しい・・・らしい。
確かに逆らわなければそこまで酷い思いはしない。恭華が精神を壊した後、キツネは断然優しくなった。恭華が欲しがるもの(主にお取り寄せグルメ)は何でも次の日にはキツネが手に入れてくる。
「へ~・・・じゃあ好きになっちゃったのか?」
今もこうして大人しく部屋の中にいる。本気で嫌だったら逃げればいいのだ。どこにだって。この生活が好きになったのか、そういう意味で兎夜は言った。高級マンションに住み、何一つ不自由ない、いい暮らしをしているように見える。
「ハ?・・・ハァ?あるわけねーだろっ!あんな奴大嫌いだ!聞いてなかったか?監禁だっつってんだろ?」
何がどうしてそうなるんだ?もしかしてこの兎夜、頭悪いんじゃなかろうかと、眉を寄せる。
「いや、そんな怒んなって・・・だって逃げればいいし。遥さんが何か願いは?って聞いた時、逃げたいって言えばよかっただろ?」
まさか殺人鬼そのものを好きになったのかと聞いていると捉えられるとは思っていなかった兎夜は、驚きながらも言いたかったことを口にする。
「はーい、ストップ!仲良くしてくれるのは嬉しいけどね、うちの恭華ちゃんを唆さないでねぇ」
恭華と兎夜の間に割り込むようにスコーンの皿を差し出す。
「美味そー!!稲荷、稲荷、食べていい?」
稲荷に一応声をかけたが、その手は既に皿の上にあり、自分が食べたいスコーンがその手により押さえられている。
「もちろん。お好みでジャムとクリームチーズもどうぞ」
恭華にふわりと笑いかけると、恭華と兎夜の間に体を滑り込ませ、自らも座る。
それにしても『大嫌い』か。稲荷が言われた訳ではないのにグサリときた。それはそうだと分かっていたが、本当に恭華の口から聞いてしまうとキツネが少し憐れだ。
嫁にしたいという程、恭華のことが好きなのだ。もはやあの男の世界の中心は恭華にある。
「美味っ!!」
恭華の関心は既にスコーンにしかなく、一つ手に取って食べているにもかかわらず、既にもう一方の手にはおかわり用のスコーンが確保されている。
「ホントにうめぇ・・・稲荷、スゲー」
こちらは相当の甘党のようで、スコーンの割合より塗っているジャムの方が多い。
「兎夜君、俺ね、一応年上!もう成人してるんだから!『稲荷さん』ね!」
「あー、はいはい。稲荷はさっき誑かすなって言ってたけど、そんなの恭華の自由だろうが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そだね」
いい。もういいのだ。だってそうだろう?いつだってそうだろう?もう一度、『稲荷さん』と呼べと言ったところで、自分の器を小さくするだけだろう?
泣きたい気持ちを抑え、眉を下げつつも笑顔で兎夜に答える。
「恭華、どうなんだよ?」
「逃げても無駄なんだって!どこまでも追ってくるんだって!・・・遥さんに願ったら、叶えてもらえるのかな・・・」
逃げることなどもう諦めている。
もしも逃げたいと願ったら、本当に遥は叶えてくれるのだろうか。
だが・・・
「ああ、言ってみろって」
「・・・・・・機会があれば・・・」
スコーンを手に気持ちが弾んでいる兎夜に対し、恭華は顔を伏せ、その表情は浮かない。
だが、そんな願いは口にできない。
願いを叶えてもらえるなら、本当に願いを叶えてもらえるならば、自分が願わなくてはならないことはそんなことではない。
恭華に関わったせいで、不本意に殺されていった人々がいる。もしも本当に願いを叶えてもらうならば、それを願わなければ逃げたいなどという願いは到底言えそうもない。
まだ、人間を捨てたくはないから。
「恭華ちゃん、キツネさん今は本当に恭華ちゃんのこと大事にしてるよ?恭華ちゃんのこと大好きだよ?だから・・・ね?」
と、困った表情を浮かべながらも、力なく笑う。
そしてさり気なく恭華にスコーンを握らせる。だが、恭華がうなずくまでそのスコーンを手放す気はない。
グッとスコーンを引いた恭華が放してくれない稲荷をバッと見る。稲荷の真剣な表情に思わずコクンと小さくうなずいた。
ふわりと微笑んだ稲荷がスコーンを恭華に渡す。
「で、でも!!今、優しいっていっても、俺が逆らったらあいつまた暴力に物言わせて俺を黙らせるんだろ?いっつもそう!」
稲荷に非はないことは分かっている。だがこの憤りをどうしても止めることができない。稲荷を鋭く睨みつけ、声を荒げた。
「う、うん・・・ごめん、俺にはそんなことないよとは言えない。でもほら、兎夜君の話聞いたでしょ?かなり酷かったでしょ?」
それに比べたらやっぱり恭華ちゃんは特別対応でしょ?と稲荷が恭華の頭を撫でる。
「待て待て!!俺だっていつも酷い目に遭ってる!じゃねーな、遭わされてる!」
そうだ、今日は不幸自慢をしているのであった。思い出した。
ならば自分の身に起こった不幸も思う存分伝えなければなるまい。
「分かったから、落ち着けよ恭華。聞くから」
「うん、そうだね、お茶のお代わりもどうぞ」
稲荷が恭華にティーカップを持たせた。
「ああ。あれは俺が捕まってしばらくしてから・・・俺は本気で逃げようとあいつと戦ったことがある・・・」
素直に受け取った恭華は、休憩とばかりに口を付け、フゥと一息ついた。
「え!?なんつーかスゲーな・・・普通殺人鬼と戦おうなんて思わねぇよっ。しかもあいつマジでシャレになんねー程ヤバい奴だろ?」
「あ、うん、だよな。俺は後悔した。本気で後悔した。今ではもう何で勝てるって思ったか分からないけど、多分あの時は気狂ってたんだな・・・パニクって・・・」
「ああ、あの時ねぇ・・・」
稲荷が懐かしむようにうんうんとうなずく。
「途中俺は気を失ってたから、後で稲荷に教えてもらった部分もあるんだけどな・・・」
稲荷のスコーンを頬張り、口にカスを付けながら語り出した。
語り終えた兎夜がティーカップに手を伸ばす。
そしてチラリと稲荷を見た。この先はお前も知っているだろう?とでも言うように。
「そうだね。激怒した遥さんがここに乗り込んできて殲滅にまで追いやったからね・・・本当、血色が良くて無傷の兎夜君を見てびっくりしたよ」
フワッと困ったように稲荷が笑う。
その瞳を目にしただけで、心臓が動きを止めそうなほどの殺気を携えた遥と、その胸に抱かれ、すやすやと気持ちよさそうに眠る兎夜を見て驚いた。
キツネからあの部屋の後片付けを任されていた稲荷は、一度その光景を目にしていたからだ。兎夜が磔にされ、絶命間近の状態を。
「・・・悲惨だな。なんつーか、あれだ、生きてて良かったな」
兎夜の語る凄惨な話に描かれた光景が、これでもかというほど鮮明に浮かぶ。
まるで自分がその体験をさせられたかのように、痛みが感じられ、恭華は身震いした。
「いや、ホントにな。遥さんがいなかったら死んでたからな」
あの時、何度呼んでも遥がすぐに駆けつけてくれなかったのは、遥が里帰りをしていたためだと、後に聞かされた。
遥は何度も何度も兎夜に謝罪し、兎夜よりも落ち込み、兎夜よりも胸を痛ませた。見ているこっちが可哀想に思い、慰めるのに必死だったのだ。
しばらくは外出することさえ恐怖に感じ、引きこもり、悪夢にうなされ汗びっしょりで目覚めることも何度もあった。
そのたびに遥が落ち着かせてくれたのだ。
「なあ、稲荷・・・」
恭華が思い詰めたように稲荷を見る。
そう兎夜の話の中にどうしても、どうしても聞き逃せないワンフレーズがあったからだ。
「なぁに、恭華ちゃん?キツネさんへの苦情は受け付けないよ?」
確かに悲惨な話だ。兎夜はたまたまターゲットにされ、不運極まりないと思う。その日は稲荷もその部屋でキツネが散らかした肉片の片づけをした。
他の死体は全て切り刻まれ、その全ての首がなかった。新たな毒の研究中だとかで、死体には無数の虫に噛まれた痕が残っていた。酷い苦しみに襲われながら、息を残したまま首を切断されたに違いない。
それを考えると、兎夜などまだいい方だ。だがそんなことは口にできない。そう思ってしまうこと自体、死を身近に感じ過ぎているということなのだろう。
稲荷の感覚や考え方も十分、普通の人間とはかけ離れてしまっている証拠だ。
「違う・・・あいつ、俺にも試す、そう言ってなかったか?」
勘違いでなければ確かにそう言った。
「ああ、言ってたな・・・俺も意識が朦朧としてたから聞き間違いかもしんないけどな・・・」
「いや、やる!!あいつなら間違いなくやる!!怖っ!稲荷、俺はしばらく旅に出る、探さないでくださいって伝えておいて」
恭華はおもむろにスクッと立ち上がった。
「いやいやいやいや、待って待って恭華ちゃん!!それこそ連れ戻されて杭打たれるよ?」
恭華の腕を引き、ソファへと戻す。
ピーッという遠くで鳴る音に、稲荷が嬉々として顔を向けた。これで恭華を繋ぎ止めておける!
「ほらっ!スコーンが焼けた!お茶のお代わりも淹れるよ!」
不満が残っていた恭華の顔が途端に輝いた。
「スコーン!!」
素直に座り、オーブンへと駆けて行った稲荷をチラチラと気にしながら待つ。
「恭華・・・お前ここに監禁されてるんだろ?」
「え?ああ・・・」
監禁よりは自由だが、捕らえられているのだから、軟禁状態のようなものだ。
「逃げたいとか思わないのかよ?よく一緒にいられるな、あんな狂気の塊と!」
稲荷を気にしながら恭華に体ごと寄せ、耳打ちをする。
「努力はし尽くした。もう諦めた・・・」
ターゲットにされていた当初はともかく、今はそれなりに大切にしてくれているらしい。
恭華は全くそんな実感がわかないが、稲荷や九尾曰く、信じられない程恭華に優しい・・・らしい。
確かに逆らわなければそこまで酷い思いはしない。恭華が精神を壊した後、キツネは断然優しくなった。恭華が欲しがるもの(主にお取り寄せグルメ)は何でも次の日にはキツネが手に入れてくる。
「へ~・・・じゃあ好きになっちゃったのか?」
今もこうして大人しく部屋の中にいる。本気で嫌だったら逃げればいいのだ。どこにだって。この生活が好きになったのか、そういう意味で兎夜は言った。高級マンションに住み、何一つ不自由ない、いい暮らしをしているように見える。
「ハ?・・・ハァ?あるわけねーだろっ!あんな奴大嫌いだ!聞いてなかったか?監禁だっつってんだろ?」
何がどうしてそうなるんだ?もしかしてこの兎夜、頭悪いんじゃなかろうかと、眉を寄せる。
「いや、そんな怒んなって・・・だって逃げればいいし。遥さんが何か願いは?って聞いた時、逃げたいって言えばよかっただろ?」
まさか殺人鬼そのものを好きになったのかと聞いていると捉えられるとは思っていなかった兎夜は、驚きながらも言いたかったことを口にする。
「はーい、ストップ!仲良くしてくれるのは嬉しいけどね、うちの恭華ちゃんを唆さないでねぇ」
恭華と兎夜の間に割り込むようにスコーンの皿を差し出す。
「美味そー!!稲荷、稲荷、食べていい?」
稲荷に一応声をかけたが、その手は既に皿の上にあり、自分が食べたいスコーンがその手により押さえられている。
「もちろん。お好みでジャムとクリームチーズもどうぞ」
恭華にふわりと笑いかけると、恭華と兎夜の間に体を滑り込ませ、自らも座る。
それにしても『大嫌い』か。稲荷が言われた訳ではないのにグサリときた。それはそうだと分かっていたが、本当に恭華の口から聞いてしまうとキツネが少し憐れだ。
嫁にしたいという程、恭華のことが好きなのだ。もはやあの男の世界の中心は恭華にある。
「美味っ!!」
恭華の関心は既にスコーンにしかなく、一つ手に取って食べているにもかかわらず、既にもう一方の手にはおかわり用のスコーンが確保されている。
「ホントにうめぇ・・・稲荷、スゲー」
こちらは相当の甘党のようで、スコーンの割合より塗っているジャムの方が多い。
「兎夜君、俺ね、一応年上!もう成人してるんだから!『稲荷さん』ね!」
「あー、はいはい。稲荷はさっき誑かすなって言ってたけど、そんなの恭華の自由だろうが」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・そだね」
いい。もういいのだ。だってそうだろう?いつだってそうだろう?もう一度、『稲荷さん』と呼べと言ったところで、自分の器を小さくするだけだろう?
泣きたい気持ちを抑え、眉を下げつつも笑顔で兎夜に答える。
「恭華、どうなんだよ?」
「逃げても無駄なんだって!どこまでも追ってくるんだって!・・・遥さんに願ったら、叶えてもらえるのかな・・・」
逃げることなどもう諦めている。
もしも逃げたいと願ったら、本当に遥は叶えてくれるのだろうか。
だが・・・
「ああ、言ってみろって」
「・・・・・・機会があれば・・・」
スコーンを手に気持ちが弾んでいる兎夜に対し、恭華は顔を伏せ、その表情は浮かない。
だが、そんな願いは口にできない。
願いを叶えてもらえるなら、本当に願いを叶えてもらえるならば、自分が願わなくてはならないことはそんなことではない。
恭華に関わったせいで、不本意に殺されていった人々がいる。もしも本当に願いを叶えてもらうならば、それを願わなければ逃げたいなどという願いは到底言えそうもない。
まだ、人間を捨てたくはないから。
「恭華ちゃん、キツネさん今は本当に恭華ちゃんのこと大事にしてるよ?恭華ちゃんのこと大好きだよ?だから・・・ね?」
と、困った表情を浮かべながらも、力なく笑う。
そしてさり気なく恭華にスコーンを握らせる。だが、恭華がうなずくまでそのスコーンを手放す気はない。
グッとスコーンを引いた恭華が放してくれない稲荷をバッと見る。稲荷の真剣な表情に思わずコクンと小さくうなずいた。
ふわりと微笑んだ稲荷がスコーンを恭華に渡す。
「で、でも!!今、優しいっていっても、俺が逆らったらあいつまた暴力に物言わせて俺を黙らせるんだろ?いっつもそう!」
稲荷に非はないことは分かっている。だがこの憤りをどうしても止めることができない。稲荷を鋭く睨みつけ、声を荒げた。
「う、うん・・・ごめん、俺にはそんなことないよとは言えない。でもほら、兎夜君の話聞いたでしょ?かなり酷かったでしょ?」
それに比べたらやっぱり恭華ちゃんは特別対応でしょ?と稲荷が恭華の頭を撫でる。
「待て待て!!俺だっていつも酷い目に遭ってる!じゃねーな、遭わされてる!」
そうだ、今日は不幸自慢をしているのであった。思い出した。
ならば自分の身に起こった不幸も思う存分伝えなければなるまい。
「分かったから、落ち着けよ恭華。聞くから」
「うん、そうだね、お茶のお代わりもどうぞ」
稲荷が恭華にティーカップを持たせた。
「ああ。あれは俺が捕まってしばらくしてから・・・俺は本気で逃げようとあいつと戦ったことがある・・・」
素直に受け取った恭華は、休憩とばかりに口を付け、フゥと一息ついた。
「え!?なんつーかスゲーな・・・普通殺人鬼と戦おうなんて思わねぇよっ。しかもあいつマジでシャレになんねー程ヤバい奴だろ?」
「あ、うん、だよな。俺は後悔した。本気で後悔した。今ではもう何で勝てるって思ったか分からないけど、多分あの時は気狂ってたんだな・・・パニクって・・・」
「ああ、あの時ねぇ・・・」
稲荷が懐かしむようにうんうんとうなずく。
「途中俺は気を失ってたから、後で稲荷に教えてもらった部分もあるんだけどな・・・」
稲荷のスコーンを頬張り、口にカスを付けながら語り出した。
11
あなたにおすすめの小説
終焉の晩餐会:追放される悪役令息は、狂欲の執事と飢えた庭師を飼い慣らす
河野彰
BL
かつて、ローゼンベルグ家の庭には白薔薇が咲き誇っていた。嫡男リュシアンは、そのバラのように繊細で、風が吹けば折れてしまいそうなほど心優しい青年だった。しかし、名門という名の虚飾は、代々の放蕩が積み上げた「負の遺産」によって、音を立てて崩れようとしていた。
悪役になり切れぬリュシアンと彼を執拗にいたぶる執事のフェラム、純粋な愛情を注ぐ?庭師のルタムの狂気の三重奏。
氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~
春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』
アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。
唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。
美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。
だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。
母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。
そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。
——カイエンが下す「最後の選択」とは。
ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。
[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった
ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン
モデル事務所で
メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才
中学時代の初恋相手
高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が
突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。
昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき…
夏にピッタリな青春ラブストーリー💕
義兄は双子の義弟に三つの隠し事
ユーリ
BL
「兄さんは絶対あげねえからな」「兄さんは俺らのだからな」
魔法省専属モデルを務める双子を義弟に持つ伊央は、この双子の義弟に三つの隠し事をしていた。なんとかして双子はそれらを暴こうとするけれど、伊央と謎の関係性を持つカメラマンの邪魔が入ったりでなかなか上手くいかなくて…??
「兄さん大好き!」「大好き兄さん!」モデルの双子の義弟×十二歳年上の義兄「二人いっぺんは無理です」ーー今日も三人は仲良しです。
俺以外美形なバンドメンバー、なぜか全員俺のことが好き
toki
BL
美形揃いのバンドメンバーの中で唯一平凡な主人公・神崎。しかし突然メンバー全員から告白されてしまった!
※美形×平凡、総受けものです。激重美形バンドマン3人に平凡くんが愛されまくるお話。
pixiv/ムーンライトノベルズでも同タイトルで投稿しています。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!
https://www.pixiv.net/artworks/100148872
お兄ちゃんができた!!
くものらくえん
BL
ある日お兄ちゃんができた悠は、そのかっこよさに胸を撃ち抜かれた。
お兄ちゃんは律といい、悠を過剰にかわいがる。
「悠くんはえらい子だね。」
「よしよ〜し。悠くん、いい子いい子♡」
「ふふ、かわいいね。」
律のお兄ちゃんな甘さに逃げたり、逃げられなかったりするあまあま義兄弟ラブコメ♡
「お兄ちゃん以外、見ないでね…♡」
ヤンデレ一途兄 律×人見知り純粋弟 悠の純愛ヤンデレラブ。
従僕に溺愛されて逃げられない
大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL!
俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。
その傍らには、当然のようにリンがいる。
荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。
高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。
けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。
当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。
居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。
さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。
主従なのか、恋人なのか。
境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。
従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる