殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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不幸自慢編

人形は孤独から仲間を探した-10 ◆

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「目覚めましたね・・・」
「え!?嘘っ!」
二人で仲良く頭をくっつけながら画面を見つめる。

「くっ・・・痛っ・・・」
目を開け、身体を起こそうとしたが関節の節々の痛みに耐えかね、すぐに倒れ込む。

「ぅっ・・・ゲェッー」
動いた途端に気分が悪くなり、そのまま布団に嘔吐する。

このまま横になっていたい。全身が痛い、気持ち悪い、喉に違和感がある。絞められた首のせいで呼吸が苦しい。

でも夢でなければ朝の10時までにキツネは帰ってこいと言っていた。
帰らなければ・・・

怖かった。
昨日、じわじわと殺される恐怖を感じた。ナイフで刺された時よりも、よっぽど怖い。
やんわりと一つずつ身体の動きを封じられ、ゆるゆると体力を、生命力を奪われていく。何度も何度も繰り返し同じ苦しみを与えられ、この苦しみが永遠に続くのではないかと感じさせられた。怖かった。

今日、キツネの言った通りに帰らなかったと思うと、正直怖い。
あんな男に従うなんて、あんな男に恐怖を感じるなんて、負けた気がして悔しくて仕方がない。

でも、今は帰らなければ。ただただ恐怖から逃れるために帰らなければ。

「くっ!」
身体中の痛みを我慢し、立ち上がったものの、膝が震えて真っ直ぐ立てない。昨日何度も外されてははめられた関節が悲鳴を上げているのだ。

それに筋肉の筋や血管を狙うように拳を打たれた打撲も痛む。

フラフラと千鳥足よりも危うい足取りで、梁や鴨居に体をぶつけながら玄関を目指す。幸か不幸か部屋から玄関までの歩数はわずか5歩。ドアを開ける。


「ちょっとちょっと!?……恭華ちゃん全裸で……」
タブレットを覗き込んでいた稲荷が驚きの声を上げ、立ち上がる。

「痛っ!」
ガンッと車の天井に頭を強打し、不本意ながら大人しく座席シートに戻っていく。

「いいから稲荷静かにしてください」
せっかくシートに不時着した稲荷をキツネが横に押し出す。

「痛っ!」
ガンッと窓に頭を強打し、タブレット映像の閲覧権を奪われた形でシートに横たわった。


「寒っ……は、裸……」
玄関のドアを開け、その寒さから自分が全裸だということに気が付いた。

慌ててドアを閉め、フラフラした足取りで服を取りに行く。初めて服を一人で着られるようになった幼児よりも、もたもたと手間取りながら着衣する。

季節がら、コートやマフラーの必要は既にないが、寒気を感じ羽織った。そして首に残るキツネの手の痕を隠すためにマフラーを巻く。

「っ……き、気持ち悪……ウェーッ」
布団ではなく畳に吐いてしまった。拭かなくては、とキッチンから布巾を持ち出す。のろのろとした動作で床を拭き終え、ようやく部屋から出発した時には既に9時半を過ぎていた。

このまま歩いても間に合わない。

だが駅まで出なければタクシーさえ拾えない。タクシーを拾ったところで、一般人が運転している限りキツネのマンションまでたどり着けないのだ。
少し手前で降ろしてもらわなければならない。

フラフラとした足取りで歩き出す。


「稲荷、つけてください」
恭華が歩き出したのを確認し、まだシートに横たわりすっかり拗ねている稲荷に声を掛ける。

「え!?拾ってあげないんッスか?恭華ちゃん辛そうッス・・・」
「ええ、靴下ちぐはぐに履いていらっしゃいましたしね」
靴下を正常に履くことさえできないのだ。つけるのではなく、このまま車で拾ってあげればいいのだ。きちんと10時までに帰るように出発しようとした、それだけでもう十分ではないか。

「可愛かったですね❤最後まで恭華さんにお任せします。確認したいんです、確信したいんですよ」
キツネはタブレットから目を離すことなく、独り言のように呟いた。

キツネの言いたいことは何となく分かる。それはキツネの本来持つべき感情が揺さぶられているからに過ぎないのだから。何も言えない稲荷は渋々恭華の後をつけ、黒のワゴンをノロノロと走らせた。

「ぅっ・・・・」
歩くのが辛い、気持ち悪い、体中が痛い。

何度目になるか分からない休憩を挟む。車輪止めのブロックに腰を下ろし、大きく溜息を吐く。
まだ駅にも辿り着いていない。

ハァハァと息を整えると、再び立ち上がりよたよたと歩き出す。

近道をしようと高架線を通ることにした、これが最大の不運だったといえる。
ガラの悪いごろつきが、数人いるのは分かっていた。
だがそこを通らなければ来た道を戻らなければいけないことになるのだ。

普段なら臆することなく素通りするところだが、今はなるべく関わりたくなかった。マフラーで極力顔を隠し、俯きながら歩く。
しかし嫌な予感は的中し、やはり絡まれた。

「なあ、おい、あれ、『凶華』じゃね?」
「あ!間違いないな、この前仲間がやられたばっかじゃん」
ごろつきが恭華だと気がつき、5、6人程度の集団で歩み寄ってくる。

不運は重なるものだ。『凶華』だと知っていて、それも恨みをお持ちの方々だった。

「ちょ、ごめ・・・今日無理」
片手を顔の前まで上げ、すまんのポーズで歩き出す。最低限の単語しか喋りたくない。喉は痛いし、腹も痛い、日常動作の何もかもが苦痛だ。

「おいおいおいおい、ちょっと待て」
そのまま通り過ぎようとした際、肩を鷲掴みにされた。

「痛っ!」
肩には酷い打撲がある。それに触れられただけで関節が外れそうに痛い。

「素通りとはいい度胸だな。サスガ、『凶華』様か?」
強引に恭華を振り向かせ、そのまま腰から入れた拳を顔目がけて放つ。

ガッと恭華の頬に命中し、恭華が倒れ込んだ。

「え?」
殴った本人が一番驚いている。

『凶華』を見たら、見た瞬間に殴れ、それでも勝てないのだから、と『凶華』の名を知っている者でその鉄則を知らない奴はいない程の言い伝えに則り、殴ったのだ。

そしたらどうであろうか?驚くほどの手応え。

「っ・・・」
殴られた衝撃で体を硬いアスファルトに強打した恭華は起き上がれずに呻く。

「これ、本当に『凶華』か?」
「いや間違いねーよ、俺この前やられたばっかだ、コイツに」
「まあ、こんなに顔が綺麗な奴、滅多にいないしな・・・なんか顔殴られた痕があるけど」

そう、男が殴る前に既に恭華の頬は腫れていたのだ。

「なんかチャンスじゃね?」
「だな、『凶華』やったら俺らの名上がるし」

ごろつきが横たわる恭華に目をチラリと向ける。
既に瀕死なようだが、これに追い討ちをかけるかどうかを迷っていた。

一人が高架線に捨てられていた角材を手にした。
それを目にした全員が角材を手に恭華を囲む。日本人特有の前に倣う文化はごろつきにも例外なくあるらしい。

「殺さない程度にしろよ?」
「分かってるって・・・うわぁ、マジであの『凶華』をボコれるとか・・・」

角材を振り上げ、昂揚に任せて振り下ろす。

恭華の頭に勢いよく振り落とされ、ゴッという鈍い音をさせた。

「ぅっ」
頭部に激痛を感じ、額からこめかみに向かい流れる温かいものを感じる。
身体を起こせない恭華は、囲まれるままどうすることもできず、身を護るように小さく蹲る。


「ヤベー、爽快感パネーわ!」
興奮した男が、恭華の腹部を突き刺すように角材を垂直に落とす。

「ガッ!・・・ゲホゲホっ」
元々吐き気が治まらなかった胃に打撃を与えられ、嘔吐する。

フフッと恍惚に染まっていく仲間の顔を見て、ドン引きするどころか、俺も俺もと次々に角材を振り下ろしていく。

「ヒャァハー!!!」
「あはははははは!!」
「死ねー死ねー!!!」
あっという間に男達は狂気に染まり、角材の先端は真っ赤に染まった。

胃液を吐きまくっていた恭華は、大量の吐血を最後に、全く反応を示さなくなった。

「うわっ、汚ねー、こうなっちゃえば『凶華』も変わんねーな、そこら辺のゴミと」
「顔も体も頭もグチャグチャ・・・コイツ生きてる?」
「まあいいんじゃね?死んだらそれはそれで。コイツが死んだらどれだけの人を喜ばせられるか・・・あ!コイツに恨みありそうな奴ら呼んじゃう?」
ゲラゲラと下衆びた笑いを高架線に響かせ、動かなくなった恭華を尚も角材でグリグリと突く。
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