殺人鬼と綺麗な人形はやがて手を取り涙する

なつみかん

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不幸自慢編

人形は孤独から仲間を探した-11 ◆

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「汚いのは貴方達ですよ。僕以外の人間が恭華さんを傷付けるなんて吐き気がします」

「ぇ?」
人気のない高架線に突然響いた声に、男達が振り返る。

「ゴミも貴方達ですよ」
まさしくゴミを見るような目つきで男達を見下ろす。

喋っているのは長身で目がキツネのように細い男。口はニンマリと笑っている、だが細い眼から覗く瞳は、この世の闇を全て凝縮したような濁りがあり、ゆったりとした口調にもかかわらず、身体の芯から震えるような殺気を放っている。

男達は誰からともなく身震いし、カクカクと情けなく膝を震わせる。

「な、な、な、なんだよお前・・・」
一体いつから、一体どこから・・・
気が付いた時には突然いた。

そしてあの『凶華』さえ討ち取った自分が・・・自分だけではなくこの場にいる全員がその底知れぬ恐怖心から体を震わせているのだ。

猛獣を目の前にした兎のように、プルプルと。

「僕は貴方達みたいなゴミを掃除するのが仕事なんですよ」
そういう男の両手には立派なサバイバルナイフが握られていた。

片手に一本ずつと思われたナイフは、次の瞬間には4本、次の瞬間には6本にまるで手品のようにあっという間に増えた。

男はそれをジャグリングのように次から次へと宙に投げ、器用にキャッチしている。

その殺気立った視線は外れることなく真っ直ぐ男達を見ている。

宙にクルクルと投げられているナイフの数が徐々に減っていることに気が付いた時には遅かった。
自分の身に何が起こったのか理解する間もなくドサッと仰向けに倒れた。

「うわぁぁぁぁぁっ!!!ひ、ひ、人殺しっ!!」
三人が次々に倒れ、倒れた仲間の額に刺さったナイフを見てひとりが悲鳴を上げた。

全員目が見開かれ、絶命したのは間違いなかった。

一人は駆け出した背後から、一人は呆然と立ち尽くしているところを、そして腰を抜かして唇をワナワナさせている男だけが生存者となった。

「た、た、たす、たす、たすけ・・・」

「まさか!僕の人形を傷付けておいて助かるわけがないでしょう?」
フフッと男が笑う。

「貴方でしたね?最初に僕の恭華さんの顔を殴り飛ばして、角材で頭を殴ったのは・・・」
ですから、貴方には最高の苦痛を与えて差し上げます、と男の口元の笑みが器のように深くなる。

「ひぃっ~!!く、く、く、来る、来るなっ!!」
一歩一歩ゆったりと近付く男に、男が悲鳴を上げながら後退る。

その男の言葉を聞いたかのように男の歩みがピタリと止まった。

助かった?のか?

ホッと男が溜め息を吐き、額の汗を拭おうとした時、異変に気が付いた。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!ゆ、指がっ!!俺の指がぁぁ~!!」
片手の指の第一関節より上が全てない。ブシュッと噴水のように血飛沫を蒔き散らし、それを止めようと男が根元をおさえる。

「汚らしい、汚らわしい。貴方みたいなゴミ、本当は即始末したいんですけどね・・・」
虫けらを見下ろすかのように冷たい視線と殺気を情けなくへたり込んでいる男に向ける。

タタタッと軽快に駆けてくる何者かの足音に、へたり込んでいる男が助かったと思い顔を上げる。

ふわふわした男が駆け寄ってくる。目の前の危ない男に比べ何と優しそうなことか。警察を、と手を伸ばす。

「ああ!!恭華ちゃん!!酷い・・・」
後から駆けてきた稲荷が、助けを求めるように手を伸ばす男に目をやることなく、横たわる恭華の脇にしゃがみ込む。

頭から大量の血を流し、顔も角材で殴られたのだろう。頬に裂傷が残っている。口からは胃液に混ざり血が流れ出ていた。

ぎゃあぎゃあと喚いているそこの男よりもよっぽど虫の息な恭華を優しく撫で、抱えようと体勢を整えた。

「駄目です、稲荷、抱えないでください。折れた肋骨が内臓を傷付けています」
虫けら男から目を離さずに、キツネが稲荷に声を掛ける。

「ああ、それで吐血・・・恭華ちゃん、ちょっと待っててね、今担架を用意するからね」
立ち上がると、虫けら男に冷眼を向け、横をすり抜けていく。

「ま、ま、待っ!!た、た、助け・・・」
横を通りかかった稲荷の足を無事な手で掴み、助けを求める。

一見して優男のこいつなら、助けてもらえるかもしれない。助けてもらえなかったとしても間違いなくこのキツネ男よりはマシに決まっている。

「もしかして俺に言ってる?助けて?俺の恭華ちゃんを傷付けておいて、笑わせないでよ。ああ、せめてもの慈悲に俺が殺してやろうか?一思いに」
優しそうだった垂れ目が吊り上がり、凶悪なまでの殺気を放つ。

「ひっ!!あ、あ、悪魔っ・・・」
何だコイツ!?この悪魔の化身かとも思われる豹変ぶり、キツネ男よりヤバいじゃないか!慌てて手を離す。が、そこでまた異変に気が付いた。

「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!!!ゆ、指がっ!!俺の指がぁぁ~!!」
稲荷の足を掴んでいた方の指の第一関節より上が全てない。ブシュッと噴水のように血飛沫を散らし、両手から水芸のように溢れさせる。

「あ、稲荷、何勝手に・・・それに誰が貴方のですか?僕の!僕の!僕の恭華さんです」
聞き捨てならないと、キツネが稲荷を見る。

「すみません、つい・・・でも指だけで我慢したッスから」
そう言い残すと稲荷は車へと駆けていった。

「フフフフッ、あの稲荷を怒らせるなんて、貴方凄い珍しい経験をしましたね。いえ、それだけ恭華さんの影響力が大きいということなんでしょうねぇ」

「ぎゃぁぁぁぁっ!!し、し、死んじゃうっ!!」
噴水のような手を差し出しながら男が喚き散らす。

「うるさいですよ。まだまだ死んでもらっては困ります」
フフッと不気味に笑う。

「んなっ!!?」
さっき仲間の死によって減ったナイフの本数が・・・増えている!?

確かにあのジャグリングの中からナイフが一本ずつ放たれて仲間たちを一撃で仕留めていった。残るナイフは一本だった・・・。それがなぜまた6本に。

虫けら男の表情が絶望に満ちていった。

「うわっ・・・ほらだから俺に殺された方が楽だったのに・・・」
ストレッチャーを手に稲荷が戻ってきた頃、虫けら男はすべての腕と足を失い、ダルマ状態となっていた。

それも、関節ごとに一つずつ切断されたであろう体の部位が散らばっている。

ダルマになっても男の息はあり、はひはひと鼻水や唾液を垂れ流しながら泣き喚いている。

「フフッ、稲荷、もう九尾には連絡取れましたか?」

「はい、センセーのとこに直接向かうッス。キツネさんもそんな奴と遊んでないで早く行くッスよ」
ストレッチャーに恭華を乗せ、慎重に運ぶ。

「ええ、残るは首だけですから」

それを聞いた男の目が見開かれ、口を開きかけたが、男が声を発する前にその首はポロッと落ちて行った。

「お揚げに連絡しておいてくださいね」

「ああ、それももうしたッス」
いいから早く一緒に持ってください、と稲荷がキツネに冷たくあたる。

「稲荷、怒っています?」

「元はといえばキツネさんが恭華ちゃんを放置したのが原因ッス」
何度も何度ももっと大切にしろと言っているのに。

これでもしも恭華が助からなかったとして、一番後悔するのはキツネなのだ。一番悲しむのもキツネなのだ。一番辛いのもキツネなのだ。

玩具と言いつつ、特別なのは明らかなのだ。ならばもっと大切にするべきだ・・・分かっている。そうは言ってもキツネにはその感覚がないのだ。感性がないのだ。そんな感情の経験さえないのだ。だから怒っても仕方がないこと。

九尾の元へと向かう憂鬱さなどすっかり忘れ、ハアと深い溜息を吐き、車を走らせた。
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