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不幸自慢編
人形は孤独から仲間を探した-12 ★◆
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「あ、恭華ちゃんおはよう」
目を覚まし、上半身を起こしてキョロキョロしている恭華を目にして、稲荷がホッとする。
丸二日、目が覚めなかったのだ。
「稲荷・・・あれ、俺・・・」
懸命に記憶を巡らせているのだろう、う~んと唸っている。
「マンションに向かっている途中で襲われたんだよ?肋骨が折れただけで頭には異常ないって。でも安静に寝てなさい、ってセンセーが」
起こしている上半身を寝かせ、布団を被せる。
「っ・・・」
恭華が突然稲荷に背を向け、布団を被る。
「え?何、恭華ちゃんどうしたの!?気持ち悪い?」
薬は副作用が出ないよう、九尾に処方し直してもらったのだ。だから恭華が眠っている間、非常に状態が安定していた。
急に蹲った恭華を見て、突然どうしたのだ、と稲荷が慌てる。
「あ、あいつ・・・お、怒って、る?」
恭華の被っている布団がプルプルと震えている。
約束の時間を過ぎるつもりはなかった。ちゃんとマンションに帰ろうとした。でも実際は途中で襲われて帰れなかったことになる。
それならばキツネは怒っているのではないだろうか。また惨たらしい暴力を振るわれるのではないだろうか。
恭華はそう懸念していた。
「怒ってないと思うよ?二日間、キツネさんずっと恭華ちゃんの看病してたよ?」
布団の上から、恭華を宥めるように優しく撫でる。
「で、でも・・・」
怖い。
「大丈夫だって、キツネさんにちゃんと謝ればいいよ。じゃあ俺、フロントの仕事があるから一回下に戻るね。またお昼作りにくるから」
稲荷が部屋から出ようとベッドサイドの椅子から立ち上がる。
「待って、稲荷!いかないで!」
稲荷の腕を咄嗟に取る。
「恭華ちゃん・・・でも俺、揚姉に殺され・・・」
フロントの仕事をさぼった、それが揚羽に知られたら、生かしてはもらえない。そう伝え、恭華の手を外そうとした。
だがその恭華の手がプルプルと小さく震えていることに気が付く。
「分かった、じゃあ家事からやっちゃおうね」
フロントに戻れないと揚羽に伝えた時、罵倒の一つでも覚悟していたものの予想に反して『分かった』の一言だけだった。
揚羽も予測していたのだろう。恭華の精神が不安定だということを。
「恭華ちゃん?」
「何?」
困ったように振り返った稲荷に、首を傾げる。
「何じゃないよ。何でついてくんの?可愛く首傾げてもダメ!寝てなきゃダメだって・・・」
今は洗濯物を干しにバルコニーに向かい歩いている途中。
稲荷の後にピッタリと恭華がついてくる。
掃除機をかけているときも、床を磨いている時も、キッチンやトイレ、お風呂掃除の時も、ピッタリと稲荷の後をついてくる。
「べ、別に!ただ稲荷の仕事ぶりを見ようと・・・元気だから寝てなくて大丈夫だし」
無理に笑った恭華の頬が引きつっている。
「ああ、ほら、無理に笑わない。ほっぺ切れちゃってるんだから。分かった、じゃあお昼にしよう」
綺麗な顔に傷付けちゃって、と稲荷が頬の剥がれかけた絆創膏を貼りなおすように押さえる。
お昼は恭華の望む寿司を握った。
ねじり鉢巻きにはっぴを着て本格的に寿司屋をオープンさせ、目の前で魚をさばき、恭華を微笑ませた。
その後は上機嫌に寿司を頬張り、素直に薬を飲み、今は大人しくソファーに腰を下ろしている。
だが稲荷が立つと、恭華も一緒に動こうとする。だから、仕方なく稲荷も一緒に腰を下ろし、TVを観ている。
「恭華ちゃん、あの、その・・・えっと・・・」
「何だよ、稲荷?トイレ?」
もじもじそわそわ落ち着きのない稲荷を訝しむように片眉を上げ見つめる。
「いや、そうじゃなくて・・・」
先を続けにくそうに俯く。
「何だよ、ハッキリしないな・・・」
「あ、うん・・・キツネさん、帰ってきたって」
告げにくそうにボソッと呟くが、恭華を安心させるための笑みは忘れずに浮かべる。
「ぇっ!」
途端に恭華の方がもじもじそわそわ落ち着きを失う。
「稲荷っ!!稲荷の家に!!稲荷の家に!!稲荷の家に行こうっ!早くっ!」
慌てた恭華が立ち上がり、稲荷の腕を引く。
「駄目ですよ、恭華さん。許しません」
立ち上がった恭華の目の前に男が立ちはだかる。
「キ、キツ・・・」
突如現れた男に怯え、ワナワナと震える。キュウッと稲荷の腕を掴み、その陰に隠れる。
「あ、キツネさん、お帰りなさい。じゃあ俺は帰るッス」
「嫌だ、稲荷っ!!行かないで!」
腕ではなく全身にしがみつき、ガタガタ震える。
「恭華さん、貴方はこちらにいらっしゃい」
キツネが手を取れとばかりに差し伸べる。
稲荷の身体に頭を押し付けるようにイヤイヤと首を振る。
「馬鹿は嫌いですよ、恭華さん。もう忘れてしまったんですか、どうして怪我をしたんでしたっけ?嬲り足りませんでしたかねぇ?」
キツネの口がニンマリと持ち上がっていく。
ビクリと恭華の身体が跳ね、キュウッと稲荷の服を掴む。
「恭華ちゃん、ほら・・・」
怯えて震える恭華を守ってあげたい。庇ってあげたい。だがそれが恭華のためにならないことを稲荷は重々承知していた。
恭華が自分から歩み出すのをキツネが望んでいるのだ。今このうちに恭華が向かわなければ、明日の朝も今以上にぐったりしてベッドに横たわる恭華の姿を見ることが容易に想像できる。
トンっと恭華の背中を押す。
不安そうに稲荷を何度も振り返りながらもキツネの元へと歩いていく。
「フフッ、躾けた甲斐がありましたね。イイ子です❤」
目を伏せ、遠慮がちに伸ばされた手が触れるか触れないかのところで、キツネがグッと腕を引いた。
「ぅあっ!」
よろけた拍子に不本意極まりないがキツネの胸の中におさまる形となった。
稲荷に助けを求めようと振り返ったが、既に稲荷はいなかった。
「残念でしたねぇ、稲荷に助けてもらえずに。それより恭華さん?貴方、僕に言わなければならないことがありますよねぇ?」
恭華の顎を掴み、伏せた目を強制的に持ち上げた。
「っぁ・・・ぁ・・・」
「そんなに怯えなくても、恭華さんがイイ子にしていればそんなに酷いことはしませんよ。僕も鬼ではありませんから」
フフッと男が笑い、恭華を片腕でヒョイと抱え上げる。
いや、鬼だ。殺人”鬼”であり”鬼”畜。何をとっても鬼じゃないか。だがそんな発言が今の恭華にできる訳もなく、不安に怯える。
「ど、どこ・・・」
歩き出したキツネに不安を隠せず、恭華の視線がキョロキョロと彷徨う。
「夕飯ですよ。まだですよね?」
一つ一つの動作に怯える恭華の反応を面白がりながら、キツネが笑う。
「も、もつ鍋・・・」
それでも大好きな食べ物に対しては貪欲で、吐息のような囁きを遠慮がちにする。
「フフッ、では今日はもつ鍋にしましょう❤」
途端に輝く恭華の顔を見て、ニンマリと口を歪める。
「リビングのテーブルで鍋しましょう。できるまで恭華さんの好きなあれ観ますか、あのドラマ。それともお笑いにしましょうか?」
キツネの言葉にコクリと頷く恭華を見て、キツネがニヤニヤと笑みを浮かべ恭華の傷付いた頬を撫でる。
その後二人で鍋をつつきながら、ドラマの展開を予測し、笑いあった。
--------------------------
「お前もあれだな、何か毎日大変そうだな・・・」
「そう、そうなんだよ!!ホントこの苦労を誰かと分かち合いたかったんだ。ありがとな兎夜」
「や、俺なんか聞くことしかできないけどな・・・ああ、でも待て。今の話じゃ、結局最後はラブラブじゃね?それじゃ俺の勝ちだろ?」
確かに酷く加虐されていたが、結局今の話では、危ないところをキツネは助けに来てくれた、そして最後は仲良く鍋と、温い緩い話でしかない。
「ああ・・・それ続きがあるんだよね、恭華ちゃん・・・」
そう、次の日キツネの部屋を訪れて愕然とした稲荷は知っていた。その鍋の後、恭華の身に起こった不幸を。
「・・・・・・・・・・・・・ああ、うん」
思い出したくもないと恭華が顔を伏せる。
鍋の後、キツネに言わなければいけないことを、どうしても恭華は言えず、結局その晩も嬲られたのだ。
稲荷が被験者となった媚薬を投与され、前に肉が食い込む程に輪ゴムで縛られ戒められた後、バイブで散々弄られた。
そのバイブを抜かないままキツネに挿入され、二輪挿しされた恭華は普段の比ではない出血をした。
肛門だけではなく直腸まで切れ、中々出血が止まらなかったのだ。
流血で痛みしか与えられていないにも拘わらず、投与された薬により喘ぎ乱れ、解放されない快楽に身悶えていた。
体の自由を奪われてはいなかったが、外すなというキツネの命令により、前を自分で外すことを許されず、キツネが仕事に行っている間ずっと、悶え苦しんでいた。
当然、悦楽という苦しみを逃すためにのたうち回ったせいで折れた肋骨で臓器が傷付き、何度も吐血する。それでもそれに勝る吐き出せない熱からは逃れられず、号泣しながら転げまわったのだ。
「で、結局、その後恭華ちゃん、入院だよね。そりゃそうだ、あんなに血を流した挙句にあんなに射精したらねぇ・・・」
血が足りなくなって当然だ。それに、本来安静とまでは言わないが、動いていい怪我ではなかったのだ。
当然、患者の容体を悪化させたキツネに対し、九尾は激怒し、稲荷に当たり散らした。その九尾により恭華以上に酷い暴行をされたことは恭華には秘密だ。
「ヤベーな、その非人道的な暴力・・・」
キツネに比べ、何と遥の優しいことか。
恭華を見る。自分は本当に幸せなんだなと、兎夜はしみじみと実感した。
兎夜に見られている。自分は本当に不運なんだなと、恭華はしみじみと実感した。
「で、稲荷、どうだった?」
憐れむような兎夜の目に耐え切れず、稲荷を振り返る。
「え?う~ん、やっぱり現在進行形って意味でも、恭華ちゃんの勝ちかな?」
恭華が本当に不幸自慢をするのなら、間違いなくついこの前の、犬のような生活を強いられていた体験がNo.1である筈だ。
それを語れる程には、まだ恭華の心は癒えていないということなのだ。それを知ってしまっているからこそ、余計に恭華の不幸を感じざるを得ない。
「やった!勝った!!・・・・・・・・・・何の喜びも感じない。何にも嬉しくねーな。何の自慢にもならないし・・・」
両手を上げたポーズのまま、徐々に表情を暗くしていく。
ついには口がへの字にキュッと結ばれる。
「わぁ、ちょっと恭華ちゃん!!?大丈夫、恭華ちゃんなんてまだ幸せな方だって!!いつも言ってるでしょ?センセーがどんなにヒドイか・・・」
恭華が稲荷を見る。
だが恭華の表情はへの字のままだ。
「分かった、分かった!!じゃあ俺もその不幸自慢参加させて!!俺の場合キツネさんじゃなくてセンセーだけど、いいよね?」
ね?と念を押すように兎夜を見る。
「え、ああ・・・」
誰だよ、センセーって、と思ったが気圧されてもう肯定以外の選択肢など用意されていなかった。
「じゃあ恭華ちゃんが表情を戻したあの日の話・・・俺、センセーに引きずられていったでしょ?」
目を覚まし、上半身を起こしてキョロキョロしている恭華を目にして、稲荷がホッとする。
丸二日、目が覚めなかったのだ。
「稲荷・・・あれ、俺・・・」
懸命に記憶を巡らせているのだろう、う~んと唸っている。
「マンションに向かっている途中で襲われたんだよ?肋骨が折れただけで頭には異常ないって。でも安静に寝てなさい、ってセンセーが」
起こしている上半身を寝かせ、布団を被せる。
「っ・・・」
恭華が突然稲荷に背を向け、布団を被る。
「え?何、恭華ちゃんどうしたの!?気持ち悪い?」
薬は副作用が出ないよう、九尾に処方し直してもらったのだ。だから恭華が眠っている間、非常に状態が安定していた。
急に蹲った恭華を見て、突然どうしたのだ、と稲荷が慌てる。
「あ、あいつ・・・お、怒って、る?」
恭華の被っている布団がプルプルと震えている。
約束の時間を過ぎるつもりはなかった。ちゃんとマンションに帰ろうとした。でも実際は途中で襲われて帰れなかったことになる。
それならばキツネは怒っているのではないだろうか。また惨たらしい暴力を振るわれるのではないだろうか。
恭華はそう懸念していた。
「怒ってないと思うよ?二日間、キツネさんずっと恭華ちゃんの看病してたよ?」
布団の上から、恭華を宥めるように優しく撫でる。
「で、でも・・・」
怖い。
「大丈夫だって、キツネさんにちゃんと謝ればいいよ。じゃあ俺、フロントの仕事があるから一回下に戻るね。またお昼作りにくるから」
稲荷が部屋から出ようとベッドサイドの椅子から立ち上がる。
「待って、稲荷!いかないで!」
稲荷の腕を咄嗟に取る。
「恭華ちゃん・・・でも俺、揚姉に殺され・・・」
フロントの仕事をさぼった、それが揚羽に知られたら、生かしてはもらえない。そう伝え、恭華の手を外そうとした。
だがその恭華の手がプルプルと小さく震えていることに気が付く。
「分かった、じゃあ家事からやっちゃおうね」
フロントに戻れないと揚羽に伝えた時、罵倒の一つでも覚悟していたものの予想に反して『分かった』の一言だけだった。
揚羽も予測していたのだろう。恭華の精神が不安定だということを。
「恭華ちゃん?」
「何?」
困ったように振り返った稲荷に、首を傾げる。
「何じゃないよ。何でついてくんの?可愛く首傾げてもダメ!寝てなきゃダメだって・・・」
今は洗濯物を干しにバルコニーに向かい歩いている途中。
稲荷の後にピッタリと恭華がついてくる。
掃除機をかけているときも、床を磨いている時も、キッチンやトイレ、お風呂掃除の時も、ピッタリと稲荷の後をついてくる。
「べ、別に!ただ稲荷の仕事ぶりを見ようと・・・元気だから寝てなくて大丈夫だし」
無理に笑った恭華の頬が引きつっている。
「ああ、ほら、無理に笑わない。ほっぺ切れちゃってるんだから。分かった、じゃあお昼にしよう」
綺麗な顔に傷付けちゃって、と稲荷が頬の剥がれかけた絆創膏を貼りなおすように押さえる。
お昼は恭華の望む寿司を握った。
ねじり鉢巻きにはっぴを着て本格的に寿司屋をオープンさせ、目の前で魚をさばき、恭華を微笑ませた。
その後は上機嫌に寿司を頬張り、素直に薬を飲み、今は大人しくソファーに腰を下ろしている。
だが稲荷が立つと、恭華も一緒に動こうとする。だから、仕方なく稲荷も一緒に腰を下ろし、TVを観ている。
「恭華ちゃん、あの、その・・・えっと・・・」
「何だよ、稲荷?トイレ?」
もじもじそわそわ落ち着きのない稲荷を訝しむように片眉を上げ見つめる。
「いや、そうじゃなくて・・・」
先を続けにくそうに俯く。
「何だよ、ハッキリしないな・・・」
「あ、うん・・・キツネさん、帰ってきたって」
告げにくそうにボソッと呟くが、恭華を安心させるための笑みは忘れずに浮かべる。
「ぇっ!」
途端に恭華の方がもじもじそわそわ落ち着きを失う。
「稲荷っ!!稲荷の家に!!稲荷の家に!!稲荷の家に行こうっ!早くっ!」
慌てた恭華が立ち上がり、稲荷の腕を引く。
「駄目ですよ、恭華さん。許しません」
立ち上がった恭華の目の前に男が立ちはだかる。
「キ、キツ・・・」
突如現れた男に怯え、ワナワナと震える。キュウッと稲荷の腕を掴み、その陰に隠れる。
「あ、キツネさん、お帰りなさい。じゃあ俺は帰るッス」
「嫌だ、稲荷っ!!行かないで!」
腕ではなく全身にしがみつき、ガタガタ震える。
「恭華さん、貴方はこちらにいらっしゃい」
キツネが手を取れとばかりに差し伸べる。
稲荷の身体に頭を押し付けるようにイヤイヤと首を振る。
「馬鹿は嫌いですよ、恭華さん。もう忘れてしまったんですか、どうして怪我をしたんでしたっけ?嬲り足りませんでしたかねぇ?」
キツネの口がニンマリと持ち上がっていく。
ビクリと恭華の身体が跳ね、キュウッと稲荷の服を掴む。
「恭華ちゃん、ほら・・・」
怯えて震える恭華を守ってあげたい。庇ってあげたい。だがそれが恭華のためにならないことを稲荷は重々承知していた。
恭華が自分から歩み出すのをキツネが望んでいるのだ。今このうちに恭華が向かわなければ、明日の朝も今以上にぐったりしてベッドに横たわる恭華の姿を見ることが容易に想像できる。
トンっと恭華の背中を押す。
不安そうに稲荷を何度も振り返りながらもキツネの元へと歩いていく。
「フフッ、躾けた甲斐がありましたね。イイ子です❤」
目を伏せ、遠慮がちに伸ばされた手が触れるか触れないかのところで、キツネがグッと腕を引いた。
「ぅあっ!」
よろけた拍子に不本意極まりないがキツネの胸の中におさまる形となった。
稲荷に助けを求めようと振り返ったが、既に稲荷はいなかった。
「残念でしたねぇ、稲荷に助けてもらえずに。それより恭華さん?貴方、僕に言わなければならないことがありますよねぇ?」
恭華の顎を掴み、伏せた目を強制的に持ち上げた。
「っぁ・・・ぁ・・・」
「そんなに怯えなくても、恭華さんがイイ子にしていればそんなに酷いことはしませんよ。僕も鬼ではありませんから」
フフッと男が笑い、恭華を片腕でヒョイと抱え上げる。
いや、鬼だ。殺人”鬼”であり”鬼”畜。何をとっても鬼じゃないか。だがそんな発言が今の恭華にできる訳もなく、不安に怯える。
「ど、どこ・・・」
歩き出したキツネに不安を隠せず、恭華の視線がキョロキョロと彷徨う。
「夕飯ですよ。まだですよね?」
一つ一つの動作に怯える恭華の反応を面白がりながら、キツネが笑う。
「も、もつ鍋・・・」
それでも大好きな食べ物に対しては貪欲で、吐息のような囁きを遠慮がちにする。
「フフッ、では今日はもつ鍋にしましょう❤」
途端に輝く恭華の顔を見て、ニンマリと口を歪める。
「リビングのテーブルで鍋しましょう。できるまで恭華さんの好きなあれ観ますか、あのドラマ。それともお笑いにしましょうか?」
キツネの言葉にコクリと頷く恭華を見て、キツネがニヤニヤと笑みを浮かべ恭華の傷付いた頬を撫でる。
その後二人で鍋をつつきながら、ドラマの展開を予測し、笑いあった。
--------------------------
「お前もあれだな、何か毎日大変そうだな・・・」
「そう、そうなんだよ!!ホントこの苦労を誰かと分かち合いたかったんだ。ありがとな兎夜」
「や、俺なんか聞くことしかできないけどな・・・ああ、でも待て。今の話じゃ、結局最後はラブラブじゃね?それじゃ俺の勝ちだろ?」
確かに酷く加虐されていたが、結局今の話では、危ないところをキツネは助けに来てくれた、そして最後は仲良く鍋と、温い緩い話でしかない。
「ああ・・・それ続きがあるんだよね、恭華ちゃん・・・」
そう、次の日キツネの部屋を訪れて愕然とした稲荷は知っていた。その鍋の後、恭華の身に起こった不幸を。
「・・・・・・・・・・・・・ああ、うん」
思い出したくもないと恭華が顔を伏せる。
鍋の後、キツネに言わなければいけないことを、どうしても恭華は言えず、結局その晩も嬲られたのだ。
稲荷が被験者となった媚薬を投与され、前に肉が食い込む程に輪ゴムで縛られ戒められた後、バイブで散々弄られた。
そのバイブを抜かないままキツネに挿入され、二輪挿しされた恭華は普段の比ではない出血をした。
肛門だけではなく直腸まで切れ、中々出血が止まらなかったのだ。
流血で痛みしか与えられていないにも拘わらず、投与された薬により喘ぎ乱れ、解放されない快楽に身悶えていた。
体の自由を奪われてはいなかったが、外すなというキツネの命令により、前を自分で外すことを許されず、キツネが仕事に行っている間ずっと、悶え苦しんでいた。
当然、悦楽という苦しみを逃すためにのたうち回ったせいで折れた肋骨で臓器が傷付き、何度も吐血する。それでもそれに勝る吐き出せない熱からは逃れられず、号泣しながら転げまわったのだ。
「で、結局、その後恭華ちゃん、入院だよね。そりゃそうだ、あんなに血を流した挙句にあんなに射精したらねぇ・・・」
血が足りなくなって当然だ。それに、本来安静とまでは言わないが、動いていい怪我ではなかったのだ。
当然、患者の容体を悪化させたキツネに対し、九尾は激怒し、稲荷に当たり散らした。その九尾により恭華以上に酷い暴行をされたことは恭華には秘密だ。
「ヤベーな、その非人道的な暴力・・・」
キツネに比べ、何と遥の優しいことか。
恭華を見る。自分は本当に幸せなんだなと、兎夜はしみじみと実感した。
兎夜に見られている。自分は本当に不運なんだなと、恭華はしみじみと実感した。
「で、稲荷、どうだった?」
憐れむような兎夜の目に耐え切れず、稲荷を振り返る。
「え?う~ん、やっぱり現在進行形って意味でも、恭華ちゃんの勝ちかな?」
恭華が本当に不幸自慢をするのなら、間違いなくついこの前の、犬のような生活を強いられていた体験がNo.1である筈だ。
それを語れる程には、まだ恭華の心は癒えていないということなのだ。それを知ってしまっているからこそ、余計に恭華の不幸を感じざるを得ない。
「やった!勝った!!・・・・・・・・・・何の喜びも感じない。何にも嬉しくねーな。何の自慢にもならないし・・・」
両手を上げたポーズのまま、徐々に表情を暗くしていく。
ついには口がへの字にキュッと結ばれる。
「わぁ、ちょっと恭華ちゃん!!?大丈夫、恭華ちゃんなんてまだ幸せな方だって!!いつも言ってるでしょ?センセーがどんなにヒドイか・・・」
恭華が稲荷を見る。
だが恭華の表情はへの字のままだ。
「分かった、分かった!!じゃあ俺もその不幸自慢参加させて!!俺の場合キツネさんじゃなくてセンセーだけど、いいよね?」
ね?と念を押すように兎夜を見る。
「え、ああ・・・」
誰だよ、センセーって、と思ったが気圧されてもう肯定以外の選択肢など用意されていなかった。
「じゃあ恭華ちゃんが表情を戻したあの日の話・・・俺、センセーに引きずられていったでしょ?」
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