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第2章
旅の始まり(3)
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「うえええ、気持ち悪い」
機動メカから降りるとツグミは開口一番そう云ってその場に座り込んだ。
「だから、酔い止めを飲め、と云っただろう。腕っ節は強いが乗り物には弱いのだな」
タイトは今朝のパンチを皮肉りながら、あきれたようにツグミを見つめた。
「だって、あんなに乗り心地が悪いとは思わなかったんだもん」
(ってか、タイトってば、今朝のこと根に持ってるなぁ……)
「オトマタさんの駆け足モードを舐めてはいけない」
(オトマタさん……? ああ、そう云えばこのメカの名前だっけか)
と、ツグミは改めて機動メカを見上げる。
フリーウエイのどん詰まり。
荒地から山地へと変わる川沿いにある小さな町のエナジー・ステーションでふたりは機動メカ、オトマタさんを停めていた。
それにしてもひどい乗り心地であった。
乗り物酔いなどついぞ経験がなかったツグミにして、嘔吐寸前!
(これなら最悪な乗り心地で有名な連邦軍の重機動メカの方が数倍快適だよ)
もちろん言葉には出さない。
「いったい、何でこんなのに乗ってるんだろう?」
ツグミは今朝初めてこの機動メカを見た時に感じた疑問を今度は口にする。
「ねえ、タイト」
「ああ、おれは忙しい。売店で食料を仕入れて来るからおまえはオヤジに頼んでエナジー充填をしてもらっておけ」
「え?」
「頼むぞ」
「ちょっとぉ……」
ツグミの言葉には耳も貸さずタイトは足早に売店に消えて行った。
それを目で追いながら、溜息をつくツグミ。
「ったく」
炎天下のためか、ステーションには誰もいなかった。
彼女は数回深呼吸をして乗り物酔いの吐き気を散らせると、億劫そうに立ち上がりエナジー・ステーションの事務所に向かって歩き出した。
今どきは珍しい骨董品レベルの手動扉を開き事務所に入って行く。
ポンコツの空調がやかましい機械音を立てているそこには、でっぷりと太ったオヤジがひとり、小型テレビでアメフトの中継を観ていた。
ちょうど地元チームの最後の攻撃が残り十三ヤードと云うところで、ランプレイか、パスプレイを選択するのか、と云う展開である。
オヤジはそれに夢中になっていてどうやら機動メカがやってきたことにさえ気づいていなかったようだ。
「ねえ、ちょっと、おっちゃん」
「ん? ああ?」
なんだよ、せっかくいいところなのに、と、でも云いた気に面倒臭そうに振り返る。
だがそこにツグミの姿を見止めると、ほう、と声を上げて愛想よく笑った。
「こりゃ可愛いお嬢ちゃんだな。いらっしゃい」
アメフトの結果も気になるが目の前の美少女と天秤にかけた末に後者を選んだらしい。
「こんちわ~。あのさ、ウチの機動メカにエナジー充填してくれる?」
ツグミはオヤジににっこりと笑って見せる。
「もちろん、喜んで」
そして、車はどこだい? と、訊ねた。
「それが、車、じゃなくって、あれなんだけど……」
ツグミの示したそれを見てオヤジは固まった。
何だ、あれは? と、その目は雄弁に語っていた。
「あれ、か?」
「そう」
「あれって、普通のエナジー充填でいいのか?」
「たぶん」
「たぶん?」
「あたしのじゃないから、よくわかんないんだけど」
「つまり……盗んで来たのか?」
「違うよ! 人聞きの悪い」
自分はそんな風に見えるのか? と、ツグミ、ちょっと落ち込む。
「持ち主は売店で買い物中なんだけど」
売店を指差す。
窓ガラスの向こうにタイトの姿が見えた。
何やらばたばたとしながら手にしていた荷物を床にぶちまけたりしていた。
(遠目に見ても、ダサい奴)
オヤジもタイトに目をやった。
「彼氏かい?」
「違うわよ! 何であたしがあんなダサいのと付き合ってなきゃ行けないのよ?」
「だろうなぁ」
「護衛なのよ」
「へ? あのひょろひょろなのが?」
「護衛はあたしの方」
「ほほう」
オヤジは興味深そうにツグミを眺める。
確かに腰のホルスターには銃がぶちこまれていたが、こんな可愛らしい娘に護衛なんてのが勤まるのだろうか、と不思議に思ったようだ。
「ともかく間違ったエナジー充填して故障でもさせちゃいけねえから、彼氏が戻って来るまで待っていた方がよさそうだな」
「彼氏じゃないってば!」
ったくもう、と呟きながら、ツグミは事務所前のベンチに座ってタイトが戻るのを待つことにした。
フリーウエイを通る車もなく、こんなところでこのエナ・スタはやっていけるんだろうか、などと考えていると、一〇分ほどしてタイトが両手に紙袋を抱えて戻って来た。
紙袋からはドライ・スイーツの山が見えている。
(またドライ・スイーツかよ?)
ツグミは眉をしかめた。
「エナジーは入ったのか?」
両手に紙袋を持ったまま、タイトが訊ねる。
「まだだよ。おっちゃんに訊いたら普通のメカ用でいいのかどうか、ってさ」
「ノロマめ。役立たずめ」
「な、何よぉ!」
「まあ仕方ないか。オトマタさんは普通のビークルではないから、エナ・スタのオヤジがわからないのも無理はない」
「じゃ、ノロマとか役立たずって何よ? プロでもわからないのにあたしにわかる訳ないでしょ? そんな云い方ないでしょ?」
「その通りだな。ただ、おまえを罵りたかっただけだ」
(ぐっ……、こいつ今朝のこと、やっぱりまだ根に持ってるな)
「どうやらおれにはSっ気があるのかも知れない。おまえに実はMっ気があるように」
「いや、Mっ気なんてないから!」
機動メカから降りるとツグミは開口一番そう云ってその場に座り込んだ。
「だから、酔い止めを飲め、と云っただろう。腕っ節は強いが乗り物には弱いのだな」
タイトは今朝のパンチを皮肉りながら、あきれたようにツグミを見つめた。
「だって、あんなに乗り心地が悪いとは思わなかったんだもん」
(ってか、タイトってば、今朝のこと根に持ってるなぁ……)
「オトマタさんの駆け足モードを舐めてはいけない」
(オトマタさん……? ああ、そう云えばこのメカの名前だっけか)
と、ツグミは改めて機動メカを見上げる。
フリーウエイのどん詰まり。
荒地から山地へと変わる川沿いにある小さな町のエナジー・ステーションでふたりは機動メカ、オトマタさんを停めていた。
それにしてもひどい乗り心地であった。
乗り物酔いなどついぞ経験がなかったツグミにして、嘔吐寸前!
(これなら最悪な乗り心地で有名な連邦軍の重機動メカの方が数倍快適だよ)
もちろん言葉には出さない。
「いったい、何でこんなのに乗ってるんだろう?」
ツグミは今朝初めてこの機動メカを見た時に感じた疑問を今度は口にする。
「ねえ、タイト」
「ああ、おれは忙しい。売店で食料を仕入れて来るからおまえはオヤジに頼んでエナジー充填をしてもらっておけ」
「え?」
「頼むぞ」
「ちょっとぉ……」
ツグミの言葉には耳も貸さずタイトは足早に売店に消えて行った。
それを目で追いながら、溜息をつくツグミ。
「ったく」
炎天下のためか、ステーションには誰もいなかった。
彼女は数回深呼吸をして乗り物酔いの吐き気を散らせると、億劫そうに立ち上がりエナジー・ステーションの事務所に向かって歩き出した。
今どきは珍しい骨董品レベルの手動扉を開き事務所に入って行く。
ポンコツの空調がやかましい機械音を立てているそこには、でっぷりと太ったオヤジがひとり、小型テレビでアメフトの中継を観ていた。
ちょうど地元チームの最後の攻撃が残り十三ヤードと云うところで、ランプレイか、パスプレイを選択するのか、と云う展開である。
オヤジはそれに夢中になっていてどうやら機動メカがやってきたことにさえ気づいていなかったようだ。
「ねえ、ちょっと、おっちゃん」
「ん? ああ?」
なんだよ、せっかくいいところなのに、と、でも云いた気に面倒臭そうに振り返る。
だがそこにツグミの姿を見止めると、ほう、と声を上げて愛想よく笑った。
「こりゃ可愛いお嬢ちゃんだな。いらっしゃい」
アメフトの結果も気になるが目の前の美少女と天秤にかけた末に後者を選んだらしい。
「こんちわ~。あのさ、ウチの機動メカにエナジー充填してくれる?」
ツグミはオヤジににっこりと笑って見せる。
「もちろん、喜んで」
そして、車はどこだい? と、訊ねた。
「それが、車、じゃなくって、あれなんだけど……」
ツグミの示したそれを見てオヤジは固まった。
何だ、あれは? と、その目は雄弁に語っていた。
「あれ、か?」
「そう」
「あれって、普通のエナジー充填でいいのか?」
「たぶん」
「たぶん?」
「あたしのじゃないから、よくわかんないんだけど」
「つまり……盗んで来たのか?」
「違うよ! 人聞きの悪い」
自分はそんな風に見えるのか? と、ツグミ、ちょっと落ち込む。
「持ち主は売店で買い物中なんだけど」
売店を指差す。
窓ガラスの向こうにタイトの姿が見えた。
何やらばたばたとしながら手にしていた荷物を床にぶちまけたりしていた。
(遠目に見ても、ダサい奴)
オヤジもタイトに目をやった。
「彼氏かい?」
「違うわよ! 何であたしがあんなダサいのと付き合ってなきゃ行けないのよ?」
「だろうなぁ」
「護衛なのよ」
「へ? あのひょろひょろなのが?」
「護衛はあたしの方」
「ほほう」
オヤジは興味深そうにツグミを眺める。
確かに腰のホルスターには銃がぶちこまれていたが、こんな可愛らしい娘に護衛なんてのが勤まるのだろうか、と不思議に思ったようだ。
「ともかく間違ったエナジー充填して故障でもさせちゃいけねえから、彼氏が戻って来るまで待っていた方がよさそうだな」
「彼氏じゃないってば!」
ったくもう、と呟きながら、ツグミは事務所前のベンチに座ってタイトが戻るのを待つことにした。
フリーウエイを通る車もなく、こんなところでこのエナ・スタはやっていけるんだろうか、などと考えていると、一〇分ほどしてタイトが両手に紙袋を抱えて戻って来た。
紙袋からはドライ・スイーツの山が見えている。
(またドライ・スイーツかよ?)
ツグミは眉をしかめた。
「エナジーは入ったのか?」
両手に紙袋を持ったまま、タイトが訊ねる。
「まだだよ。おっちゃんに訊いたら普通のメカ用でいいのかどうか、ってさ」
「ノロマめ。役立たずめ」
「な、何よぉ!」
「まあ仕方ないか。オトマタさんは普通のビークルではないから、エナ・スタのオヤジがわからないのも無理はない」
「じゃ、ノロマとか役立たずって何よ? プロでもわからないのにあたしにわかる訳ないでしょ? そんな云い方ないでしょ?」
「その通りだな。ただ、おまえを罵りたかっただけだ」
(ぐっ……、こいつ今朝のこと、やっぱりまだ根に持ってるな)
「どうやらおれにはSっ気があるのかも知れない。おまえに実はMっ気があるように」
「いや、Mっ気なんてないから!」
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