錬金術師と銀髪の狂戦士

ろんど087

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第2章

旅の始まり(4)

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 エナジー・ステーションから少し離れた川沿いに再び機動メカを停めて、ふたりは川原の土手の芝生に並んで腰掛け食事をしていた。

 タイトは相変わらずのドライ・スイーツ。
 ツグミはタイトが売店で買ってきたクラブ・ハウス・サンド。

「ふ~ん、タイトがマトモな食料を買って来てくれるなんて、意外だね」

「失礼な云い草だな」

「いや、だってあんたって非常識だから、ドライ・スイーツ以外の食料なんて知らないんだと思ってたよ」

「研究所では毎食、普通の食事をしていたのだ。当たり前だろう」

「研究所、ねえ……」

 ツグミは発泡水ソーダをラッパ飲みすると、機動メカに目をやった。

「あの機動メカ、オトマタさんだっけ? あれも研究とかに関係あるの?」

 タイトがオトマタさんに目をやる。
 ああ、あれか、と呟く。

「あれは趣味だ。中古の探査用機動メカを入手して、趣味でいろんな装備をつけたのだ。まあ、美少女フィギュアを改造していろいろするのと同じようなものだ」

「そんなのとおんなじレベルなのかよ?」

「天才とはそう云うものだ」
 
「天才って、がっかりだね」と、ツグミはがっくりとうなだれて見せる。
「……じゃ、別に何か目的があって乗ってる訳ではないんだ? そもそも自家用車にしちゃ、乗り心地悪過ぎるし」

 ツグミとしては先ほどの機動メカ酔いが相当こたえていた。

「まあ、今まではそうだったのだが、今回ばかりは目的地がかなり山奥になる。険しい道もあるのでオトマタさんが役に立つはずだ。こいつの自動制御は卓越した性能を持っているからな」

「自動制御? AIが装備されているってこと?」

「そうだ」

「そうか。じゃ、オトマタさんって〈機械人形メカドール〉なのね」

「ふむ。よくその〈機械人形〉と云う呼び名を知っているな。一般的ではないと思うが」

 広義で云えば〈機械人形〉とはAIを搭載した機器一般のことであるが、通常は人型の自律ロボット兵器のことをそう呼んでいる。
 いわゆる軍で利用している前線部隊の歩兵ドロイドなどを意味する言葉であり、確かに一般人が使う言葉ではなかった。

「え? ああ、まあ……一応、傭兵だしね」

「なるほど」

(いけない、いけない。つい余計な単語が出ちゃう。こいつ、あたしがエージェントだって気づいてないよね?) 

 ツグミはタイトを見るが変わらずの無表情である。

(……ダメだ。ぜんっぜん、表情読めない。やりにくい奴)

「ってことはさ」と、ツグミはごまかすように話を続ける。
「あんたの研究って、こう云うメカの開発とか、そう云うのだったんだ?」

「違う。それは趣味だと云っただろう」

「じゃ、何よ?」

 その問いにタイトは少しだけ考える素振りを見せる。
 云っても良いものか、と思っているらしい。

「……趣味とは云ったが研究の成果はこれにも投入している。例えば特殊な技術でこいつのAIはおれの精神と直接同期リンクしている。だからおれが離れていてもこいつは常におれが何処にいるのかを把握して、発信器などの機器なしに自動追尾トレースすることが出来るのだ」

「精神とAIが同期? そんなことが出来るの? それって科学的なの? 何か眉唾っぽく聞こえるんだけども」

「おれの研究者時代のあだ名は〈錬金術師アルケミスト〉だ。不可能なことを可能にする者、とも呼ばれていた」

「え? 引くなぁ、それ」

 自分が〈銀髪の狂戦士バーサーカー〉と云う二つ名で呼ばれており、それが実はお気に入りである、と云うことは棚に上げて、ツグミは心底嫌な顔をしてずりずりと土手の芝生の上を横滑りして、タイトから離れて行く。

「バカは考えることが同じだな。たいていの一般人はそう云う反応をする」

「な、何よ? バカって何よ?」

 と、云うより、たいていの一般人をバカよばわりである。

「錬金術=アルケミーは、化学=ケミストリの語源でもあるのだ。錬金術は決してオカルトの話ではなく立派な科学なのだ、とおれは思っている」

「そ、そう、なの?」

「……と、おまえに説明しても疲れるだけ損だからこれ以上はやめておくが」

「う、ムカつくぅ」

 タイトはツグミを見る。無表情で。

「そうか。――バカにされて悔しいか?」

「……悔しいよ」

「嬉しいか?」

「って、何で?」

「おまえのドMッ気が刺激されたかと思って」

「だから、Mじゃないってば!」

「おれの見込み違いか」

「何を見込んでるのよ、あんたは?」

「せっかく良いキャラ設定だと思ったのだが。露出狂のドM美少女」

 タイト、ぽつり、と呟く。

「キャラ設定って何……って、え? 美少女?」

 ツグミは一瞬タイトを見て、それからどぎまぎしたように目を逸らした。

「び、美少女って……そ、そんなおだてたって、あ、あたしはちっとも嬉しくなんかないんだからね」

 両手を頬に当てて目をへの字にしている。確実に嬉しがっていた。

「おだてる? そんな気はないが。統計的に見ても美少女なのではないか? おまえの写真をネット上のいわゆる美少女の写真と照合して解析した結果だ。間違いはない」

「って、いつの間に写真なんか撮ってるのよ?」

「おまえの寝顔を、な」

「……!」

 ツグミの顔が真っ赤に染まる。

「あ、あ、あ、あんた……」

「冗談だ。夕べはおれの方が先に寝たし今朝は後から起きただろう? もっともバスルームで二度寝させられたが……」

「う……、まだ云うか」

「おまえの顔をオトマタさんに『記憶』させたのだ。防犯のための顔認証だ。未登録の人間がオトマタさんに乗れば一〇〇万ボルトの電撃で死に至る」

「おい! それ、物騒すぎる装備でしょ?」

「それほど重要なのだ。オトマタさんには〈賢者の石〉が搭載されてもいるからな」

「〈賢者の石〉? 何、それ? ってか、すごく錬金術っぽい名前なんだけど」

 まるで厨二病を見るような目つきで、タイトを見る。

「ラピスのことだ。聞いたことはないか? まあ、連邦の重要機密に関することだが」

「な、重要機密? あんた、何を知ってるの?」

 ツグミが真顔になる。
 タイトはその反応にも無頓着であった。

「そんな顔をする必要はない。ラピス自体は機密ではないし、研究者でなくても知られていることだぞ。例えば星海を渡る星船の〈歪空機関エンジン〉も超光速道路である〈歪空回廊トンネル〉もラピス――〈賢者の石〉をその基盤とした技術だ。それがなければ人類は星海に乗り出すことは出来ない。つまり今の連邦の版図はラピスによって維持されており、それなしには成立し得ないと云うことだ」

「へええ。初めて聞いた」

「そうか? 聞いたことくらいはありそうだが……。もっとも重要機密なのはその利用方法であって、いまだに科学局によってこれらの〈歪空技術〉全般ついては厳重に管理されていて外に洩れることはない。連邦のキーとなる最重要機密だ。その他にもラピスの応用技術は連邦最重要機密として科学局に管理されるようになっている。しかしラピスそれ自体は、実は今では比較的ありふれたものなのだ」

 云いながらタイトはシャツの首元に手を入れ、革製のラリエットを取り出した。
 ツグミが夕べ気づいた薄いピンク色の石の嵌められたそれである。

「これがラピスだ。このようにごくありふれた石で装飾用にもそれなりに出回っている。昔は希少なものだったが、純度の低いものはここ何十年かの間に鉱床が多数、見つかっているからな」

「へえ。……ってか、あんたにしちゃ珍しいよね、アクセサリーなんて。そんな物には興味がないんだと思ってた」

「魔除けのようなものだ。おまえの〈鍵〉と同じように」

 ツグミが、えっ? と、呟いてベルトに吊っていた二本の鍵に手をやる。

「それも魔除けだろう? 傭兵は験を担ぐと云うしな」

「ま、まあね……」

 何とも云えない笑顔を見せる。

「そ、それで? えっと、この石がその、星船の動力になるの?」

「そうだ。純度の高い物だけだが」

「ふーん、知らなかったなぁ」

「バカに知らせても意味がないからな」

「バカって云うな!」

「それはさておき」

「おくなよ!」

「オトマタさんには比較的純度の高いラピスが搭載されAIに接続されている。ラピスは途轍もない力を持つエネルギー結晶体だ。だからこそ星船の動力源足りえるのだが利用方法はそれだけではない。
 そもそも空間を捻じ曲げること自体そのメカニズムはよくわかっていない。ただどうやらラピスには時空間的な制約を無効化する性質があるようだし、それは物質だけに作用するものではないことが近年わかってきた。
 そこでその利用方法のひとつとして開発されたのが〈精神同期サイコリンク〉だ。特殊な方法でラピスに刺激を与えて人間の精神と同期させることで、その人間の位置情報、精神状態、などをモニタすることが出来る。なので現時点ではある程度の制約はあるものの、常にオトマタさんはおれの位置を捕捉することが出来るようになっている。通称〈魔法の迷子札〉だ。
――おれとしては魔法ではなく科学だとは思っているのだが」

 ツグミは感心したように頷いた。
 目がきらきらと輝いている。
 タイトを見る目つきに、心なしか尊敬の念がこもっていた。

「凄いじゃん、それって。半分くらいはよくわからなかったけど、そうしたら行方不明者の捜索とか、犯罪者の追跡とか、そんなのに応用できるってこと? 市民登録でその〈精神同期〉ってのをやればバッチリじゃん? そうすれば誰が何処にいるか一目瞭然……。
 って、あれ? じゃ何でやらないんだろう? コストの問題?」

「知らんし、興味もない。政府のやることなど科学者にとってはどうでも良いことだ」

 それを聞いた途端、ツグミの目からタイトに対する尊敬の念が、消えた。

「いきなり、無責任な意見が出てきたね。連邦の人間として、それってどうなの?」

「科学者とはそう云う人種だ」

 一瞬でもこいつを尊敬したあたしがバカだった、と、ツグミは後悔した。

「まあ、そうかも知れないけど……。でもそんな機能がオトマタさんについているって云うんだよね? どうやってそれ作ったの? あんたが作ったの?」

「いや、それが……」と、タイト。
「おれが作ったのだと思うのだが、どうも思い出せないのだ」

「へ? 思い出せないって……」

「何か、こう、霞がかかっているようで記憶がはっきりしない」

「それって大丈夫なの?」

「わからない」

 そこでタイトは口を閉ざすと遠くに視線を移した。
 ツグミはそれには何も云わずに、ただじっとタイトの横顔を見つめていた。
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