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第4章
危険な一夜(4)
しおりを挟む「はあ~、やっと人里に出たねえ。もう、体があちこち、ガタガタだよ」
オトマタさんが森の中から街道に脚を踏み入れると、リアシートのツグミが、やったぁ、と歓喜の声を上げた。
「本当にオトマタさんたら、乗り心地悪いってばないんだもん」
そんなツグミを操縦席から振り返ってタイトは無表情な視線で眺める。
「キノコの毒はもう大丈夫なのか?」
「ん? ああ、おかげさまで。タイトの献身的な看病のおかげで元気一杯だよ」
力瘤を作り、それからタイトにウインク。
「ふん」と、タイト。
「献身的とか、くだらないことを云うな。ドMのおまえのことだ。どうせキノコの毒で痺れていながらそれを喜んでいたのだろう? 逆に治療などと余計なことをしてしまって悪かったな」
「いや……せっかく感謝してるのにそれってヒドすぎるよ」
ぷうっ、と、ふくれっ面を見せるツグミ。
「ところでこの先に少し大きな町がある」と、タイト。
「それを過ぎればサイトンまではあとひと山と云う距離のはずだ。目的地は近い」
タイトはモニタに表示されている地図に目をやる。
「オトマタさん」と、かれは機動メカに声をかけた。
「え? タイト? オトマタさんに話しかけてるの?」
小首を傾げるツグミ。
こいつ、ついにおかしくなったのか? とでも云いた気である。
それを無視して、タイトは、そうか、忘れていたな、と呟きコクピットのスイッチに触れた。
「おまえには云ってなかったが、オトマタさんには言語回路も装備されている。つまり……」
『しゃべれる、っちゅうことやなぁ』
突然、電子合成音がコクピット内のスピーカーから流れ出した。
『あんさんがわての言語機能をオフったままにするさかいにナンもしゃべれんで難儀したで』
「えええ? って、何で関西弁?」
ツグミが驚きの声を上げる。
しゃべる、と云うのも初耳だったが、関西弁?
『関西弁をバカにしたらアカンで、姐さん』
オトマタさんが云った。
ツグミはそれにどう反応して良いかわからない。
そもそも、どこに向かって話しかければいいのだろうか?
『と、云う前にや。まずは挨拶せなな。……お初にお目にかかります。わてがオトマタ云うもんです。よろしゅうな』
「ど、どう云う……タ、タイト? これって?」
「どう云うも何も聞いた通りだ。研究所に関西弁をしゃべるオーヤマと云う男がいたので、その男をサンプリングしただけだ」
「はああ?」
「そもそも、おまえがいなければおれは一人旅だからな。オトマタさんとしか普段は会話をしないことになるので、それならば楽しい方が良かろう、と思って、所内ではなかなか楽しい男だったオーヤマと云う研究員のオヤジからサンプリングしたのだ」
『そう云うこっちゃな』
オトマタさんが頷く。
実際に頷いている訳ではないが、同意するようにコクピットのパイロットランプをチカチカと光らせる。
「多少ウザいが、まあ暇つぶしにはなる。ウザいのはサンプリングの元となった研究員の性格が反映されているためだが」
『そやな。わての元ネタになったあのおっちゃんはかなりウザい奴やってんからな。それよか姐さん、わてが丁寧に自己紹介したのにあんたは挨拶せんのかい? 可愛い顔しとるくせに礼儀がなってないんとちゃうか?』
指摘する。
AIのくせに。
「ウザい……確かに。あんた、よくこんなのと旅出来るね、タイト」
その台詞にコクピット内のランプ類がまたチカチカと先ほどとは違う調子で明滅した。
どうやらオトマタさんがムッとしたことを表現しているようである。
AIのくせに。
『ほう。云うやないか? それならわても云わせてもらいますけどな。大体やな、誰も見てへん、思って、姐さん、後ろのシートで脚を投げ出してお気楽に座っとったけど、レディとしては雑過ぎるんちゃいますか? わてにはパンツ丸見えやってんで? ピンクの縞パンツ。……ま、色気は皆無やけどもな』
ツグミ、反射的にミニスカートを両手で押さえる。
「あ、あんた……」
顔が見る見る紅くなるのが自分でもわかった。
(パンツ丸見えって、色気は皆無って、こいつ……)
相手はAIなのだが。
『ばっちり写メ撮ったさかいに、わての胸先三寸でネットにパーっと拡散することも出来るんやで? ほれ、どないや? ほれ、ほれ、悔しいか? もっと苛めて欲しいんとちゃうんか? ドMの姐さん?』
「く……」
返す言葉が出て来ない。
まさしくウザいオヤジそのもののオトマタさんであった。
(こ、この性格……)
「そのくらいにしてくれないか、オトマタさん。この娘を喜ばせてどうするのだ?」
『ああ、あんさん、すんまへん。このドMの姐さんが、苛められたい、云う顔つきやったさかいついサービスしてもーた』
(喜ばせる? ドM? 苛められたい? サービス?)
「あ、あたしは喜んでないから! あ、あたしはドMじゃないから! 苛められたいなんて、思ってないからね!」
顔を真っ赤にして抗議する。相手はAIだと云うのに。
『おお、そないに喜んでもらえるとはAI冥利に尽きるな、ホンマ』
「よかったな、オトマタさん。いい遊び相手が出来て」
タイトひとりでもややこしいのにまたややこしいのが増えてしまった、と、これからの旅のことを考えてツグミはがっくりとうなだれるのだった。
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