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第6章 《歪空回廊(トンネル)》抜けて、星海へ
(2)
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それからおよそ二十時間。
サンタ一行が旅の半ばに差し掛かったであろう頃。
再び、マグダリア・コンボイ・センター。
深夜である。
コンボイ管理サービス会社、《自由な鳥商会》は、さすがにその時間には客もなく、静かなゆったりとした時間の中にあった。
しかし基本的にコンボイ輸送は、昼夜、休みなしである。
よって《自由な鳥商会》も必然的に二十四時間営業 (マグダラでは二十三時間)。
今日の当直は、フタバであった。
事務所の奥のソファでは、特に当直でもないがやることもないらしいネコ耳キャップのマミが、丸くなって仮眠をとっている。
そんな時間。
そのしじまを破ってフォン端末の着信音が真夜中の事務所に鳴り響いた。
「はい。ありがとうございます。《自由な鳥商会》です」
フタバが、マミを起こさないように、と、ややトーンを落とした声で、しかし、しっかり愛想良くフォン端末をとった。
『ハロー、子羊ちゃん』
「さようなら、クロードさん」
フォン端末を切る。
再び、着信音が鳴った。
「はい。ありがとうございます。《自由な鳥商会》です」
『いきなり切るなんて、ひどいなぁ、子羊ちゃん』
「さようなら、クロードさん」
フォン端末を切る。
三度、着信音が鳴った。
「はい。ありがとうございます。《自由な鳥商会》です」
『こんばんは、フタバさん……』
「あら、クロードさんですの? お久しぶりです」
『ああ、フタバさんも元気そうで何よりです』
云いながら電話の主クロードは、フタバを相手におふざけはやめよう、と、真剣にそう思った。
「ところでこんな時間にどうしたんですか?」
『ええと、つまり、ハニー……、いや、ユズナ所長はいらっしゃるかな?』
「はい、おりますよ。代わりますか?」
『お願いします』
神妙な答えである。
また、と云うか、三度も電話を切られては敵わない、とでも思っているのだろう。
フタバは事務的な仕種で電話を保留にするとユズナの内線を呼び出した。
しばらく呼び出し音が鳴りそれから乱暴にフォン端末がONになる。
『……何やねん、こないな時間に』
ユズナは所長室で寝ていたらしく不機嫌そうな声であった。
「お休みでしたか? すみません。でも、もっと不機嫌になりそうな方から電話コールです」
変わらない穏やかな声の毒舌である。
『誰や?』
「お調子者の警部さんです」
『何やクロードかいな。こないな時間に難儀なやっちゃなあ。わかった。そっちに行く』
「はい、わかりました」
やがて所長室の扉を開けて赤毛をかきむしりながらユズナが事務所に現れた。
メガネが少しずれているのは、演出なのか、ご愛嬌なのか、天然なのか。
しかしそんなことは気にも留めずにフタバの隣の事務チェアに乱暴に腰掛けると、ひとつ伸びをする。
「保留中ですわ」
「ああ、わかっとる。あいつと話すには少し心の準備がいるねん」
「でしょうね。それにしてもユズナさんったらまだクロード警部にはプライベート・フォンの番号は教えていらっしゃらないのね」
「まあ、金輪際、教えへんやろな」
「可哀想なことをなさるのね」
先ほど二度も電話をブチ切りしたフタバとは思えない台詞ではある。
「かったるいけども出るか。もしかしたら例の件が何かわかったのかも知れへんしな」
ユズナがフォン端末をとると何も云う前に電話口から声がした。
『は~い、ハニー、元気でしたか?』
「誰がハニーや。どついたろか」
『う~ん、そう云うプレイも嫌いじゃないんですけどね』
(やっぱ、あほやな、こいつ。これで連邦警察の腕利きや、って、大丈夫なんかいな?)
『それはそれとして、あの写真の件ですが大変なことがわかりました』
「ほう。仕事、早いな」
『お褒めに預かって恐縮です。これからその件でお伺いしようと思うんですがご都合はいかがでしょうか?』
「ああ? 何で来る必要があんねん? 迷惑やで」
『いえ、そう云われても行かないとならないんですよ。それも昼間よりは今くらいの時間がいいんです。これから向かいますので待っていてください。30分後にお伺いします』
「ちょい、待てや……、って、切れとる。何やねん」
ユズナは乱暴にフォン端末を置いた。
「いらっしゃるんですか?」
「ああ、そうらしい。ったく、一応こざっぱりしとかんとな」
ユズナは面倒臭そうに、また髪をかきむしる。
「ふ~ん、こざっぱり、なんて、ユズナさんったらもしかして満更でもないんじゃありませんか?」
フタバがからかうように視線を向けるがユズナは肩を竦めて首を横に振った。
「満更やな」
よくわからないが否定のつもりらしい。
「ただ、やっぱり例の写真の件らしいから無下にもでけんしな。所長室におるからあのお調子者が来たら教えてんか?」
ひらひらと手を振って再び所長室に向かう。
(わざわざ来るって? 何かあったんやろか……)
思いながら、昨晩マグダラを後にしたサンタたちのことを、ふと思い出す。
(リスタルのお姫さんの『運び』か。あのお姫さん、何の写真を持ち込んだんやろか?)
ユズナは所長室の壁掛け時計を見上げ少し不安げな様子で、今頃かれらはどのあたりだろうか、と、思いを馳せるのだった。
サンタ一行が旅の半ばに差し掛かったであろう頃。
再び、マグダリア・コンボイ・センター。
深夜である。
コンボイ管理サービス会社、《自由な鳥商会》は、さすがにその時間には客もなく、静かなゆったりとした時間の中にあった。
しかし基本的にコンボイ輸送は、昼夜、休みなしである。
よって《自由な鳥商会》も必然的に二十四時間営業 (マグダラでは二十三時間)。
今日の当直は、フタバであった。
事務所の奥のソファでは、特に当直でもないがやることもないらしいネコ耳キャップのマミが、丸くなって仮眠をとっている。
そんな時間。
そのしじまを破ってフォン端末の着信音が真夜中の事務所に鳴り響いた。
「はい。ありがとうございます。《自由な鳥商会》です」
フタバが、マミを起こさないように、と、ややトーンを落とした声で、しかし、しっかり愛想良くフォン端末をとった。
『ハロー、子羊ちゃん』
「さようなら、クロードさん」
フォン端末を切る。
再び、着信音が鳴った。
「はい。ありがとうございます。《自由な鳥商会》です」
『いきなり切るなんて、ひどいなぁ、子羊ちゃん』
「さようなら、クロードさん」
フォン端末を切る。
三度、着信音が鳴った。
「はい。ありがとうございます。《自由な鳥商会》です」
『こんばんは、フタバさん……』
「あら、クロードさんですの? お久しぶりです」
『ああ、フタバさんも元気そうで何よりです』
云いながら電話の主クロードは、フタバを相手におふざけはやめよう、と、真剣にそう思った。
「ところでこんな時間にどうしたんですか?」
『ええと、つまり、ハニー……、いや、ユズナ所長はいらっしゃるかな?』
「はい、おりますよ。代わりますか?」
『お願いします』
神妙な答えである。
また、と云うか、三度も電話を切られては敵わない、とでも思っているのだろう。
フタバは事務的な仕種で電話を保留にするとユズナの内線を呼び出した。
しばらく呼び出し音が鳴りそれから乱暴にフォン端末がONになる。
『……何やねん、こないな時間に』
ユズナは所長室で寝ていたらしく不機嫌そうな声であった。
「お休みでしたか? すみません。でも、もっと不機嫌になりそうな方から電話コールです」
変わらない穏やかな声の毒舌である。
『誰や?』
「お調子者の警部さんです」
『何やクロードかいな。こないな時間に難儀なやっちゃなあ。わかった。そっちに行く』
「はい、わかりました」
やがて所長室の扉を開けて赤毛をかきむしりながらユズナが事務所に現れた。
メガネが少しずれているのは、演出なのか、ご愛嬌なのか、天然なのか。
しかしそんなことは気にも留めずにフタバの隣の事務チェアに乱暴に腰掛けると、ひとつ伸びをする。
「保留中ですわ」
「ああ、わかっとる。あいつと話すには少し心の準備がいるねん」
「でしょうね。それにしてもユズナさんったらまだクロード警部にはプライベート・フォンの番号は教えていらっしゃらないのね」
「まあ、金輪際、教えへんやろな」
「可哀想なことをなさるのね」
先ほど二度も電話をブチ切りしたフタバとは思えない台詞ではある。
「かったるいけども出るか。もしかしたら例の件が何かわかったのかも知れへんしな」
ユズナがフォン端末をとると何も云う前に電話口から声がした。
『は~い、ハニー、元気でしたか?』
「誰がハニーや。どついたろか」
『う~ん、そう云うプレイも嫌いじゃないんですけどね』
(やっぱ、あほやな、こいつ。これで連邦警察の腕利きや、って、大丈夫なんかいな?)
『それはそれとして、あの写真の件ですが大変なことがわかりました』
「ほう。仕事、早いな」
『お褒めに預かって恐縮です。これからその件でお伺いしようと思うんですがご都合はいかがでしょうか?』
「ああ? 何で来る必要があんねん? 迷惑やで」
『いえ、そう云われても行かないとならないんですよ。それも昼間よりは今くらいの時間がいいんです。これから向かいますので待っていてください。30分後にお伺いします』
「ちょい、待てや……、って、切れとる。何やねん」
ユズナは乱暴にフォン端末を置いた。
「いらっしゃるんですか?」
「ああ、そうらしい。ったく、一応こざっぱりしとかんとな」
ユズナは面倒臭そうに、また髪をかきむしる。
「ふ~ん、こざっぱり、なんて、ユズナさんったらもしかして満更でもないんじゃありませんか?」
フタバがからかうように視線を向けるがユズナは肩を竦めて首を横に振った。
「満更やな」
よくわからないが否定のつもりらしい。
「ただ、やっぱり例の写真の件らしいから無下にもでけんしな。所長室におるからあのお調子者が来たら教えてんか?」
ひらひらと手を振って再び所長室に向かう。
(わざわざ来るって? 何かあったんやろか……)
思いながら、昨晩マグダラを後にしたサンタたちのことを、ふと思い出す。
(リスタルのお姫さんの『運び』か。あのお姫さん、何の写真を持ち込んだんやろか?)
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