星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

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第6章 《歪空回廊(トンネル)》抜けて、星海へ

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 かっきり30分後に《自由な鳥フリーバーズ商会》の事務所の扉が開いた。
 そこに立っていたのは気障なストライプのスーツを身に着けたブロンド長髪の男。
 何故か大きな花束を抱えている。

 連邦警察のクロード警部だった。

 かれはさらさらの金髪をかきあげると、指を二本立てて、やあ、と、挨拶をした。
 受付のカウンターの向こうでフタバが微妙な作り笑いをしているのに気づいているのか、いないのか、ともかく軽快なステップで事務所に入ってくるとフタバの前に抱えていた花束を置いた。

「さっきの電話は失礼しましたね、子羊……、いや、フタバさん。これはほんのお詫びの印です」
「まあ、クロード警部、綺麗なお花ですこと。早速、花瓶には活けずにいきなりドライフラワーにしてしまうことにしますわ。ありがとう」
「どういたしまして。と、云うか、せっかくの花なので出来れば生きている状態で愛でてほしいのですけれども」
「あら、クロードさんったら、冗談ばっかり」

 ほほほ、と、笑いながらフタバは花束を手に取ると邪険にその辺の事務机の上に放り出す。
 それから所長室に連絡を入れた。

「バカが来ました」
『ああ、来よったか。今、行く』

 まもなくユズナが所長室から出て来た時には、クロード警部は、勝手知ったる、と云う様子で事務所の奥まで入ってきていた。
 フタバのひどい仕打ちにも特にめげた様子がないのはたいした神経であると云えた。

 そんなかれが徐に事務机に広げていたのは、サンタが持ち込んだ写真を拡大したものだった。
 ただ拡大しただけではなく、加工して細部までもはっきりと見えるようにしてあるところを見ると、かなり本気で調べたらしい。

(持つべきものは便利な男やな)

 そんなユズナの内心の呟きなど知る由もなく、クロード警部は自慢げに拡大写真を事務机に並べ終わるとドヤ顔でユズナを見た。

「これはリストです」
「そんなん、子供が見てもわかるやろ」

 一刀両断。

「い、いやいや、そりゃそうなんですが、これはただのリストではありません。ここを見てください」
 クロードが指し示すところにはユズナの記憶にある名前が並んでいた。

「ああ、こいつらか。『運び屋』やな。最近、妙に羽振りのようなった奴らやろ?」

 いつの間にか目を覚ましたマミが横からリストを覗き込んだ。
「ああ、そうだにゃ。こいつとこいつはエンジンの積み替えしているし、こっちは足回りを換えてるにゃん。ん……あれ? オールペンして『イタ車』にしちゃった奴もいるにゃあ」
「……て、ことは、だ」と、ユズナ。
「例の『噂の仕事』に関わった連中やな?」

 クロードが大袈裟に頷いた。
「その通りです。さすが、ハニー」
「誰でもわかるこっちゃ。褒めても何も出えへん。この写真の出所が《十三番目の使徒教会》やから、つまりはあの『噂の仕事』のスポンサーも《十三番目の使徒教会》だったっちゅうことやな。けど、それがどないしてん? 別に教会が何かのスポンサーになることなんて珍しくもないやろ?」
 ちっちっち、と、舌を鳴らしながら、クロードは立てた人差し指を左右に振って見せる。
「ハニー、よく考えてください。つまり……」
 そこへ今度はフタバが割り込んだ。

「つまりこれは『運び屋』が運んでいた積荷のリストであると同時に、シスターちゃんの言葉が正しいのならば、教会が里親斡旋をしていた慈愛に満ちた孤児たちのリストでもある。それが問題と云うことですわ」

 クロードが開きかけた口のまま、固まった。
 それは、ボクが恰好良く云うつもりだったのに、と。

「つまり奴らの『積荷』が『孤児たち』やったと? けど『運び屋』が人を運ぶのは基本的にはあかんやろ。何やら法律があんねんな?」
 コンボイ輸送に関わっている会社の所長にはあるまじき発言ではあるが、そのあたりは優秀な部下たちが何とかしているのだろう。
「ええ。旅客輸送の免許がなければ人は運べません。サンタさんみたいに依頼人として乗せている分には除外されますけれども。でも……」
 フタバは少しだけ表情を曇らせる。

「それよりもこちらの受取人らしき方々の名前ですが……」
 フタバは別の列に記載されている名前を示して見せた。
「見覚えはありませんか?」
「ああ。確かに。マグダラの名士やな、こいつは。政治家もおるやないか。それから……研究所? 何や、これは?」
「おかしいと思いませんか、ユズナさん?」
「受取人がマグダラのどこぞの社長やら政治家ならば、まあ、立派なところにもらわれた、ってことで理解出来るが、研究所やらの施設、ってのは妙やな」
「もうひとつあるにゃん」
 マミが子供の名前と思しき欄の隣に記載されている記号を指差して見せる。
「これは属性の記号にゃ」
「属性?」
「亜人の属性だにゃ」

 亜人――惑星リスタルに多数存在する人ならぬ人。半獣人である。
 それがどのような経緯でリスタルに存在するのかは一般人には知らされてはいない。
 ただ、かつて《失われた惑星》として再発見された当時から惑星リスタルには普通に亜人が存在していた、と云われている。

「シスターちゃんも亜人だったしにゃ」
「え? あの娘、亜人やったんか?」
「だにゃ。マミちゃんの目はごまかせないにゃん。同じ『ネコ』属性だからにゃ」
 マミの場合は単純にネコ耳キャップを被ってネコ言葉を使うだけの普通の人間ではあるが。

「ちっ、サンタの奴、ただのロリじゃ飽き足らずに亜人ロリ趣味やったんか。今度会ったらたっぷりどついてやらな……。ま、それはそれとして、要するに亜人の子供たちの斡旋リスト?」

「亜人ちゃんは一部のセレブのじじいには人気があるにゃ。それから生体工学系の研究施設や研究機関にもにゃ。亜人の生命力は普通の人類よりも強いからその臓器もニーズがあるし、つまりは……変態趣味の慰み者にされたり、人体実験されたり、いずれ違法に扱われている可能性が高いってことにゃ」

 何とも云えない表情でマミが吐き捨てる。
 いかにも不愉快そうであった。
 いつもきゃらきゃらしているマミには似合わない表情であった。
 が、そんなマミの言葉が終わるか終わらないかのうちに、ユズナが平手でテーブルを叩く音が深夜の事務所に響いた。

「外道が! こいつは亜人の子供を欲しがっている訳のわからん連中に、亜人を売ってるのかも知れないってリストなんか?」
「亜人売買のリストなんですのね?」
 フタバも呟くとクロード警部に目をやる。
 かれは事務所の隅で膝を抱えて体育座りしていた。

「ボクが恰好良く説明しようと思ったのに何で先に云っちゃうんだよ。せっかくこれでユズナさんから尊敬の眼差しで見てもらえると思ったのに……」

 ぶつぶつ……。

「まあまあ、お調子者警部ったら」
 にこやかな表情と口調でフタバが云いながらクロードの前まで歩み寄る。それからかれのネクタイをつかむと乱暴に立ち上がらせた。
「クロードさん、こんなところでぼやぼやしていてよろしいんですの?」

 笑顔の中に恐ろしい気配を感じて、クロードは「ひ~っ」と悲鳴を上げた。

「フタバ、手荒なことすな。おまえは切れると恐ろし過ぎやで。ただ、おい、クロード、ウチもフタバと同じ気持ちや。こないなこと許せへんわ。おまえは連邦警察としてこれからどないするつもりや?」

 ユズナに諭されてフタバが手を離すと、クロードは慌てて襟を直し、それからこう云った。
「今、ハニーの優秀な部下の方々が推理されていた通りだと思っています。そこでちょっとコンボイ・ドックを調べさせて欲しいと思ってセンターまでやって来ました。リストにある『運び屋』のコンボイが何台かセンターに停泊しているはずです。それらを調査して裏をとりたいんですが、協力してもらえませんでしょうか?」
「まあ、ウチらに出来ることなら協力するのはやぶさかではないねんけど、何でわざわざこの夜中なんや? ……あ、まさか、おまえ、令状持ってへん、とか?」

 クロードは頭を掻いて引きつった笑みを見せた。

「実はそうなんですよ。何せ相手は教会ですし、おまけにこんなことが発覚してないってことは、結構上からの力もかかっているんじゃないか、と、思っているのです。下手をすれば地区警察、市警察もグルなんじゃないか、と。そうなると令状をとる手続きは連邦裁判所まで持っていく必要があるんですが時間がかかってしまいますので……」
「んで、令状なしにコンボイをひん剥いて調べようって魂胆かい?」
「ええ。ご迷惑でしたらボクが独断でやることになりますが」

 ユズナはクロードを睨みつけた。
 クロードは反射的に目をそらす。

「おまえな、そんなん迷惑に決まっとるやろが」
「で、ですよね」
 下手すりゃ逆にこちらが犯罪者だし、と、かれは心の中で呟く。

 しかしユズナはそんなかれの内心のことなどお見通し、とでも云うように、にやり、と笑みをこぼす。
「けど、まあ、手伝ったるわ。亜人売買なんちゅう外道の所業はウチも心底好かん。こう見えても正義の味方やねん」
 そしてフタバとマミに目をやる。

 フタバはにっこりと微笑し、マミは親指を立てて同意を示した。

「……ってことや、ボケ警部。よかったな。んで、どっから調べりゃいいんや? あとで礼はたっぷりもらうで」
 ユズナは不敵に笑うと片目をつぶって見せた。
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