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第8章 リステリアス宮のトラブル
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「ただの亜人の輸出」
ラスバルトは変わらない微笑を湛えたままで、サンタに向かって平然とそう告げた。
(やはり、こいつが一連の件に関与しているってことか)
(だが……)
そのラスバルトの様子はサンタの予想を裏切っていた。
かれの表情からは亜人売買と云う行為に対する罪悪感など微塵も感じられず、かれが心から、普通に『亜人』と云う商品で貿易をしているに過ぎない、と信じている事実だけが伝わってきた。
それに気づいたサンタはさすがに慄然とした。
「亜人の輸出、だって?」
「ええ、その通りです。あなたは亜人にも人権があるなんて本当に思っているのですか? 私は認めません。あんなのはただの獣です。人類から分かれた同胞? 私にしてみれば家畜と変わるところなどありませんよ」
サンタの前にある空いたグラスにワインを注ぎ、自分のそれにも注ぐ。
その様子はまるでワイン・バーでありきたりの世間話をしているかのようだった。
「だから私は子供の頃から先大公に、亜人の人権を認知するなど愚の骨頂だとずっと進言していたし、さらにあこがれの従姉、イザベラの縁談の相手が騎士長上がりの亜人などと云う話を知った時には怒りと嫌悪感の余り十日も寝込んでしまったんですよ。まあ、子供でしたからね。もちろん今となっては面と向かってそんなことを云うことはありませんけれども」
ワインを傾ける。
サンタの不快そうな視線はまったく無視している。
いや、目に入ってさえいないようだ。
そんなラスバルトの表情には、ある種、鬼気迫るものがあった。
「もちろん私如きのそんな事情でイザベラの縁談がなくなるなことなどないと、子供の私でも十分わかっていました。ですから私は子供ながらに折り合いをつけたのです。イザベラがそのまま女大公になるのならば、と。しかしそれさえも裏切られた。事もあろうにあのモロクが亜人のくせに大公になるなど由緒あるリスタル公国大公家の汚点としか思えない所業です。あなたはそうは思いませんか? もしも私の父上が存命であれば、そもそも公弟である父上こそが正統な大公になったはずでしたのに」
ラスバルトはやや興奮気味にまくし立てた。
(そして、自分がその次の大公、ってことか……)
だがラスバルトの言葉は、単純なお家騒動としてモロク大公本人に向けられていると云うよりは、亜人全体に向けられた憎悪のように聞こえた。
かれが何故そこまで亜人への嫌悪を露わにするのか、そこにどんな過去の因縁めいたものがあったのかは語られなかったが、かれが亜人を蔑視し、忌み嫌っているのは確かだった。
「ラスバルト卿」と、サンタ。
「あんたが個人的に亜人嫌いなのはわかったよ。まあ、人それぞれだからな。だが一方で、あんたのやっていることが犯罪であることには変わりない」
「ほう。『運び屋』風情が犯罪について語るのですか?」
「確かにおれみたいのが犯罪についてどうこう云っても説得力はないだろうが、いずれにしてもすぐにあんたにも連邦警察の手が伸びるのは事実だ」
「ああ、そのことですか。大丈夫。ご心配には及びませんよ」
ラスバルトは微笑している。
その平然としたラスバルトの様子にサンタは不安を憶えた。
アズナガが拘束され亜人売買の状況証拠が見つかっているのだ。
かれにとっては切羽詰った状況のはずである。
例え惑星リスタルが公国として連邦から認可された独立国であるとは云え、基本的には連邦の自治区でしかない。
ある意味、連邦の意向の前では吹けば飛ぶような存在でもある。
(なのに、何故、こいつは平然としている?)
ラスバルトは、そんなサンタの内心を見透かすような目で、かれを見た。
「我が国にはとっておきの切り札がありますからね」
「切り札?」
「ええ。あなたもセルリアにもらったのではないですか? リスタル金貨ですよ」
リスタル金貨。
確かに高価なものである。
しかし所詮はただの貨幣であり、そもそも連邦の標準流通通貨でさえないローカルなコインである。
「どういう意味だ?」
「わかりませんか? まあ、いいでしょう」
ラスバルトはサンタの問いには答えずに、優雅に立ち上がった。
そうした立ち居振る舞いは、まさしく貴族のそれである。
「お話はここまでにしましょう」と、ラスバルト。
「最後にもう一度お訊ねしますが、私に協力してくれる気は?」
「ないね」
「わかりました。残念ですが仕方ありません、ウイードさん」
かれは、窓際にある豪華で巨大な執務机、おそらく、普段かれが執務に使っているであろうそれにもたれかかる。
「少し飲み過ぎたようです」
自嘲的に呟くと、くく、と含み笑いめいた声を上げる。
「ご協力いただくのはあきらめたとして、ただあなた方は様々な情報をお持ちになっている。それはそれで私としては非常に不都合なのですよ」
サンタと羽衣が素早くソファから立ち上がる。
しかし同時にラスバルトは執務机にあった呼び鈴を鳴らしていた。
部屋の正面と側面の扉が開き十数人の騎士がどっと部屋になだれ込んで来ると、即座にサンタと羽衣を取り囲む。手にした長槍の切っ先をふたりにぴたりと向けて。
その切っ先からは青白い火花が飛んでいるのがわかった。
電磁槍である。殺傷目的ではなく、拘束目的の武器だ。
「手向かいはしないでください。ここは私の居室なのでね。暴れるのはご遠慮願いたい」
「よく云うぜ」
「悪いようにはしませんよ、ウイードさん、レディ羽衣。ただセルリア公女の誘拐と亜人売買事件の首謀者として罪を償ってもらう。それだけです」
ラスバルトが合図すると騎士たちがサンタと羽衣に詰め寄る。
羽衣が、どうする? と云うようにサンタを見たが、サンタは黙って首を振った。
かれらはまもなく、騎士たちによって囚われの身となった。
プラスチック・ロープでがっちりと手首を拘束されたサンタに、満足顔のラスバルトが近づいて来る。
そして耳許に唇を近づけて囁いた。
「レディ羽衣はなかなかエキセントリックな美人ですね? 彼女にはどこかのお金持ちのペットになってもらいましょう。なかなか良い値がつきそうです」
それから凛とした声で騎士たちに命令した。
「この者たちを地下牢へ」
騎士たちがふたりを引っ立てる。
「恋人同士仲良く同じ牢に入れてあげましょう。短い時間かも知れませんがせめて最後の時間を楽しんでください」
ラスバルトが引っ立てられて行くふたりの後姿に別れの言葉を告げた。
「まあ、恋人なんて……恥ずかしい」
照れる羽衣。
「おまえ、このシリアスな展開で、台詞、それだけかよ?」
後手に縛られたまま、サンタはため息をついた。
ラスバルトは変わらない微笑を湛えたままで、サンタに向かって平然とそう告げた。
(やはり、こいつが一連の件に関与しているってことか)
(だが……)
そのラスバルトの様子はサンタの予想を裏切っていた。
かれの表情からは亜人売買と云う行為に対する罪悪感など微塵も感じられず、かれが心から、普通に『亜人』と云う商品で貿易をしているに過ぎない、と信じている事実だけが伝わってきた。
それに気づいたサンタはさすがに慄然とした。
「亜人の輸出、だって?」
「ええ、その通りです。あなたは亜人にも人権があるなんて本当に思っているのですか? 私は認めません。あんなのはただの獣です。人類から分かれた同胞? 私にしてみれば家畜と変わるところなどありませんよ」
サンタの前にある空いたグラスにワインを注ぎ、自分のそれにも注ぐ。
その様子はまるでワイン・バーでありきたりの世間話をしているかのようだった。
「だから私は子供の頃から先大公に、亜人の人権を認知するなど愚の骨頂だとずっと進言していたし、さらにあこがれの従姉、イザベラの縁談の相手が騎士長上がりの亜人などと云う話を知った時には怒りと嫌悪感の余り十日も寝込んでしまったんですよ。まあ、子供でしたからね。もちろん今となっては面と向かってそんなことを云うことはありませんけれども」
ワインを傾ける。
サンタの不快そうな視線はまったく無視している。
いや、目に入ってさえいないようだ。
そんなラスバルトの表情には、ある種、鬼気迫るものがあった。
「もちろん私如きのそんな事情でイザベラの縁談がなくなるなことなどないと、子供の私でも十分わかっていました。ですから私は子供ながらに折り合いをつけたのです。イザベラがそのまま女大公になるのならば、と。しかしそれさえも裏切られた。事もあろうにあのモロクが亜人のくせに大公になるなど由緒あるリスタル公国大公家の汚点としか思えない所業です。あなたはそうは思いませんか? もしも私の父上が存命であれば、そもそも公弟である父上こそが正統な大公になったはずでしたのに」
ラスバルトはやや興奮気味にまくし立てた。
(そして、自分がその次の大公、ってことか……)
だがラスバルトの言葉は、単純なお家騒動としてモロク大公本人に向けられていると云うよりは、亜人全体に向けられた憎悪のように聞こえた。
かれが何故そこまで亜人への嫌悪を露わにするのか、そこにどんな過去の因縁めいたものがあったのかは語られなかったが、かれが亜人を蔑視し、忌み嫌っているのは確かだった。
「ラスバルト卿」と、サンタ。
「あんたが個人的に亜人嫌いなのはわかったよ。まあ、人それぞれだからな。だが一方で、あんたのやっていることが犯罪であることには変わりない」
「ほう。『運び屋』風情が犯罪について語るのですか?」
「確かにおれみたいのが犯罪についてどうこう云っても説得力はないだろうが、いずれにしてもすぐにあんたにも連邦警察の手が伸びるのは事実だ」
「ああ、そのことですか。大丈夫。ご心配には及びませんよ」
ラスバルトは微笑している。
その平然としたラスバルトの様子にサンタは不安を憶えた。
アズナガが拘束され亜人売買の状況証拠が見つかっているのだ。
かれにとっては切羽詰った状況のはずである。
例え惑星リスタルが公国として連邦から認可された独立国であるとは云え、基本的には連邦の自治区でしかない。
ある意味、連邦の意向の前では吹けば飛ぶような存在でもある。
(なのに、何故、こいつは平然としている?)
ラスバルトは、そんなサンタの内心を見透かすような目で、かれを見た。
「我が国にはとっておきの切り札がありますからね」
「切り札?」
「ええ。あなたもセルリアにもらったのではないですか? リスタル金貨ですよ」
リスタル金貨。
確かに高価なものである。
しかし所詮はただの貨幣であり、そもそも連邦の標準流通通貨でさえないローカルなコインである。
「どういう意味だ?」
「わかりませんか? まあ、いいでしょう」
ラスバルトはサンタの問いには答えずに、優雅に立ち上がった。
そうした立ち居振る舞いは、まさしく貴族のそれである。
「お話はここまでにしましょう」と、ラスバルト。
「最後にもう一度お訊ねしますが、私に協力してくれる気は?」
「ないね」
「わかりました。残念ですが仕方ありません、ウイードさん」
かれは、窓際にある豪華で巨大な執務机、おそらく、普段かれが執務に使っているであろうそれにもたれかかる。
「少し飲み過ぎたようです」
自嘲的に呟くと、くく、と含み笑いめいた声を上げる。
「ご協力いただくのはあきらめたとして、ただあなた方は様々な情報をお持ちになっている。それはそれで私としては非常に不都合なのですよ」
サンタと羽衣が素早くソファから立ち上がる。
しかし同時にラスバルトは執務机にあった呼び鈴を鳴らしていた。
部屋の正面と側面の扉が開き十数人の騎士がどっと部屋になだれ込んで来ると、即座にサンタと羽衣を取り囲む。手にした長槍の切っ先をふたりにぴたりと向けて。
その切っ先からは青白い火花が飛んでいるのがわかった。
電磁槍である。殺傷目的ではなく、拘束目的の武器だ。
「手向かいはしないでください。ここは私の居室なのでね。暴れるのはご遠慮願いたい」
「よく云うぜ」
「悪いようにはしませんよ、ウイードさん、レディ羽衣。ただセルリア公女の誘拐と亜人売買事件の首謀者として罪を償ってもらう。それだけです」
ラスバルトが合図すると騎士たちがサンタと羽衣に詰め寄る。
羽衣が、どうする? と云うようにサンタを見たが、サンタは黙って首を振った。
かれらはまもなく、騎士たちによって囚われの身となった。
プラスチック・ロープでがっちりと手首を拘束されたサンタに、満足顔のラスバルトが近づいて来る。
そして耳許に唇を近づけて囁いた。
「レディ羽衣はなかなかエキセントリックな美人ですね? 彼女にはどこかのお金持ちのペットになってもらいましょう。なかなか良い値がつきそうです」
それから凛とした声で騎士たちに命令した。
「この者たちを地下牢へ」
騎士たちがふたりを引っ立てる。
「恋人同士仲良く同じ牢に入れてあげましょう。短い時間かも知れませんがせめて最後の時間を楽しんでください」
ラスバルトが引っ立てられて行くふたりの後姿に別れの言葉を告げた。
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