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第8章 リステリアス宮のトラブル
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薄暗いじめじめとした石壁に囲まれた部屋であった。
天井近くに明かり取りの、形ばかりの窓がある以外は、腐りかけた木製ベッドがひとつ、ぽつんと置かれているだけである。
「ここまで中世を再現するのも、どうかと思うがな」
ベッドに腰掛けて石壁に寄りかかったままサンタが呟いた。
安っぽいベッドのぎしぎしと軋む音が不愉快である。
サンタの云う通りそこは中世ヨーロッパの城にある地下牢を模していると思われるが、扉だけはそれなりにしっかりした電子錠がついており、それが唯一現実を思い出させる。
「サンタ、こっちはなかなか寝心地がいいよ」
羽衣は何かのためにこんもりと部屋の隅に積まれていた藁の束の上で、ごろごろと転がって楽しんでいた。
「おまえは家畜かよ?」
「そっちの硬いベッドよりいいんじゃないかなぁ」
「虫とかに食われそうじゃないか」
「さっき、大きいネズミさんはいたよ」
「ドブネズミだろ! 勘弁してくれよ」
「何よ、そんなに嫌なら何でわざわざ捕まったの? さっきだって逃げようと思えば逃げられたんじゃない?」
羽衣が云う「さっき」とはラスバルトの居室でのことだろう。
確かに騎士が十数人いたとは云え、羽衣の《バイオ・ドール》の機能とサンタの体術があればあのまま脱出することは不可能ではなかったはずだ。
サンタは苦笑しながら羽衣を見た。
「だけどセロリがいるだろ?」
かれは端的にそう答えた。
「あいつはこの城の中にいるんだ。ラスバルトの奴は異常なほどの亜人嫌いだ。セロリは奴の従叔父ではあるがどうも快く思っているとは思えない。セロリをリステリアス宮に連れてきたことで安全になったと思っていたんだが、あのラスバルトの亜人嫌いの様子を見ているとそれも怪しくなってきた。今は利用価値があると思っているようだが、いずれ彼女を不幸にするのは間違いないからな」
「そうか。やっぱりセロリのこと、気になるんだ」
羽衣が腕組みをして、うんうん、と頷いて見せた。
「え? まあ、そりゃあ……。ここ何日か一緒に旅をした仲だからな」
何となく決まり悪そうにサンタは頭を掻いた。
「やっぱり、エロロリオヤジなんだ」
「だからそういうんじゃない!」
羽衣が、あははは、と、声を出して笑った。
「最近のサンタ、おちょくり甲斐があって大好き」
「バカやろ!」
まったく羽衣の奴、セロリの悪影響を受けてるな、と、ぶつぶつと呟く。
「そんなことより、羽衣」と、サンタは話をそらすように真顔になって羽衣を見た。
「ここまでの通路、把握しているか?」
「もちろん。脱出のための算段だね? だけどここまでの通路だけで脱出ルートまでわかるの?」
「ああ。ここが中世の城を模しているところが多少はヒントになる。これでもいろいろな建物の内部構造についても詳しいんだぜ」
軍時代には天性のスキルを利用した探索のエキスパートとしてのキャリアを積んで来ていたが、その頃に基礎情報として古今東西あらゆる町の構造パターン、建物の構造パターンを十分に頭に叩き込んでいたのだ。
「そっから推理するの?」
「そうだ。もっとも最後に頼るのは、直感、だけどな。羽衣、早速データをよこせ」
「どうやって?」
「あ……」
先ほど地下牢に入れられる前に持ち物をすべて没収されたのだった。
財布、時計、フォン端末、そして、ホットライン。
「そうか。何か方法はないか?」
「ふふふふ」
笑った。
羽衣が意味ありげに、笑った。
「なんだよ?」
不安そうにサンタが羽衣を見る。
羽衣は藁の山からごそごそと這い出てくると、舌なめずりしながら四つん這いでサンタに近づいて来る。
「えっへっへっへ」
嫌な笑い方をする。
不気味だ。
「な、何を企んでいる?」
「企んでなんかいないよ。データを渡せればいいんだよね?」
「そ、そうだが……」
「そもそも《速話》って音声でしょ?」
「だから?」
「つまりあたしがサンタの耳許で囁けばいいんだよ。うふ♪」
「さ、囁くってのは何だ? 最後の『うふ♪』ってのは? 『♪』までついているのは、どうしてだ?」
「じゃ、早速始めようか? きゃほ~」
羽衣がベッドに腰掛けていたサンタに抱きつく。
「あ、ちょ、ちょっと待て」
「待たないよ。早くしないとデータ忘れちゃうから、早くぅ」
「嘘つけ! データ消去しない限りおまえが忘れる訳ないだろ?」
「細かいこと云ってると嫌われるよ。ラスバルトだって楽しめって云ってたじゃん」
「じゃん、じゃねーよ」
「は~い、早く横になって」
「横になる必要ないだろ?」
「そっちの方が囁きやすいから」
羽衣が無理やりサンタを押し倒す。
《バイオ・ドール》の力は当然のことながら、その気になれば人間を凌駕する。
サンタが羽衣のそんな攻撃を回避するのは不可能であった。
ベッドに押し倒したサンタに覆いかぶさって羽衣はかれの耳許に唇を近づけた。
「じゃ、初めよ、サンタ♪」
「『♪』は、やめろ!」
「うん、いじわるぅ」
そして羽衣がデータ転送を開始した。
天井近くに明かり取りの、形ばかりの窓がある以外は、腐りかけた木製ベッドがひとつ、ぽつんと置かれているだけである。
「ここまで中世を再現するのも、どうかと思うがな」
ベッドに腰掛けて石壁に寄りかかったままサンタが呟いた。
安っぽいベッドのぎしぎしと軋む音が不愉快である。
サンタの云う通りそこは中世ヨーロッパの城にある地下牢を模していると思われるが、扉だけはそれなりにしっかりした電子錠がついており、それが唯一現実を思い出させる。
「サンタ、こっちはなかなか寝心地がいいよ」
羽衣は何かのためにこんもりと部屋の隅に積まれていた藁の束の上で、ごろごろと転がって楽しんでいた。
「おまえは家畜かよ?」
「そっちの硬いベッドよりいいんじゃないかなぁ」
「虫とかに食われそうじゃないか」
「さっき、大きいネズミさんはいたよ」
「ドブネズミだろ! 勘弁してくれよ」
「何よ、そんなに嫌なら何でわざわざ捕まったの? さっきだって逃げようと思えば逃げられたんじゃない?」
羽衣が云う「さっき」とはラスバルトの居室でのことだろう。
確かに騎士が十数人いたとは云え、羽衣の《バイオ・ドール》の機能とサンタの体術があればあのまま脱出することは不可能ではなかったはずだ。
サンタは苦笑しながら羽衣を見た。
「だけどセロリがいるだろ?」
かれは端的にそう答えた。
「あいつはこの城の中にいるんだ。ラスバルトの奴は異常なほどの亜人嫌いだ。セロリは奴の従叔父ではあるがどうも快く思っているとは思えない。セロリをリステリアス宮に連れてきたことで安全になったと思っていたんだが、あのラスバルトの亜人嫌いの様子を見ているとそれも怪しくなってきた。今は利用価値があると思っているようだが、いずれ彼女を不幸にするのは間違いないからな」
「そうか。やっぱりセロリのこと、気になるんだ」
羽衣が腕組みをして、うんうん、と頷いて見せた。
「え? まあ、そりゃあ……。ここ何日か一緒に旅をした仲だからな」
何となく決まり悪そうにサンタは頭を掻いた。
「やっぱり、エロロリオヤジなんだ」
「だからそういうんじゃない!」
羽衣が、あははは、と、声を出して笑った。
「最近のサンタ、おちょくり甲斐があって大好き」
「バカやろ!」
まったく羽衣の奴、セロリの悪影響を受けてるな、と、ぶつぶつと呟く。
「そんなことより、羽衣」と、サンタは話をそらすように真顔になって羽衣を見た。
「ここまでの通路、把握しているか?」
「もちろん。脱出のための算段だね? だけどここまでの通路だけで脱出ルートまでわかるの?」
「ああ。ここが中世の城を模しているところが多少はヒントになる。これでもいろいろな建物の内部構造についても詳しいんだぜ」
軍時代には天性のスキルを利用した探索のエキスパートとしてのキャリアを積んで来ていたが、その頃に基礎情報として古今東西あらゆる町の構造パターン、建物の構造パターンを十分に頭に叩き込んでいたのだ。
「そっから推理するの?」
「そうだ。もっとも最後に頼るのは、直感、だけどな。羽衣、早速データをよこせ」
「どうやって?」
「あ……」
先ほど地下牢に入れられる前に持ち物をすべて没収されたのだった。
財布、時計、フォン端末、そして、ホットライン。
「そうか。何か方法はないか?」
「ふふふふ」
笑った。
羽衣が意味ありげに、笑った。
「なんだよ?」
不安そうにサンタが羽衣を見る。
羽衣は藁の山からごそごそと這い出てくると、舌なめずりしながら四つん這いでサンタに近づいて来る。
「えっへっへっへ」
嫌な笑い方をする。
不気味だ。
「な、何を企んでいる?」
「企んでなんかいないよ。データを渡せればいいんだよね?」
「そ、そうだが……」
「そもそも《速話》って音声でしょ?」
「だから?」
「つまりあたしがサンタの耳許で囁けばいいんだよ。うふ♪」
「さ、囁くってのは何だ? 最後の『うふ♪』ってのは? 『♪』までついているのは、どうしてだ?」
「じゃ、早速始めようか? きゃほ~」
羽衣がベッドに腰掛けていたサンタに抱きつく。
「あ、ちょ、ちょっと待て」
「待たないよ。早くしないとデータ忘れちゃうから、早くぅ」
「嘘つけ! データ消去しない限りおまえが忘れる訳ないだろ?」
「細かいこと云ってると嫌われるよ。ラスバルトだって楽しめって云ってたじゃん」
「じゃん、じゃねーよ」
「は~い、早く横になって」
「横になる必要ないだろ?」
「そっちの方が囁きやすいから」
羽衣が無理やりサンタを押し倒す。
《バイオ・ドール》の力は当然のことながら、その気になれば人間を凌駕する。
サンタが羽衣のそんな攻撃を回避するのは不可能であった。
ベッドに押し倒したサンタに覆いかぶさって羽衣はかれの耳許に唇を近づけた。
「じゃ、初めよ、サンタ♪」
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そして羽衣がデータ転送を開始した。
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