星海の運び屋~Star Carrier~

ろんど087

文字の大きさ
47 / 72
第10章 リステリアス宮、脱出大作戦

(2)

しおりを挟む
 サンタはユズナからもたらされた情報、ラスバルトとの会談で本人から直接聞いた情報を丁寧に詳細にわたってふたりに説明した。

 亜人誘拐のこと、その売買のこと、セロリが見たリストがその商品リストだったこと――。

 話が進むにつれてセロリとラフィンの顔は蒼白になって行ったが、それでも話を途中で終わらせる訳にはいかなかった。
 やがてかれはすべてを話し終えると、話し始めたときと同じようにため息をひとつついた。

「おれの話はこれで終わりだ」
 ぽつり、と、云う。

 セロリとラフィンは蒼白な顔のまま黙り込んでいた。沈痛な表情を浮かべて。
 その様子をじっと見つめるサンタ。
 それからかれはゆっくりとセロリに向かって口を開いた。

「さて、セロリ」と、サンタ。
「おまえの番だ。今の話、おまえ、薄々感づいていたんじゃないのか?」

「え?」
 セロリが、ぎくり、としてサンタを見つめ返した。
 その表情は明らかに動揺しているように見える。
「サ、サンタ……、それはどう云う意味……?」
「そのままの意味さ。おまえはこの件についてある程度気づいていたんだろ?」
「ど、どうして?」
「もともと以前から、子供たちが次々と里親にもらわれて行く事におまえは不信感を持っていたんじゃないのか? 云っても亜人の里親になろうなんて殊勝な人間が、世の中にそんなにたくさんいるとは思えなかったんだろ?」

 その言葉にセロリは俯いた。
「……はい、そうです」と、セロリは、ぽつりと答える。
「亜人に人権が認められたと云ってもまだまだ差別は少なくありません。特に連邦の中央に行けば行くほど差別が激しいのは知っていました。それなのに中央とは云えないまでも貿易のハブ惑星であり連邦中央とも関係の深い惑星マグダラで、あまりにも頻繁に里親が見つかるのがとても不自然だと感じていました」

 サンタが頷く。
「それでおまえは教会の執務室に忍び込んだんだな? ちょっとした探偵気分だったのか? まあ、別に本気で真相を探ろう、とか、そんなことを思っていたんじゃなかったんだろうけれど。だがおまえはそこで、たまたま執務机の上に置いてあったあのリストを見つけてしまった。そしてそれが自分の予想をはるかに超えたヤバいリストだと、おまえは気づいたんだな?」

「ええ、その通りです。と、云うのは、そこには私の知らない子供たち、いるはずのない子供たちの名前、必要性があるとは思えない亜人の属性記号、里親としては不自然な貰われ先が記されていたからです」
 彼女は素直に認めた。

「おまえ、あのリストの写真をおれたちに見せたとき、地名がどうとか云ってたよな? あのリストにあった地名はすべてこのリスタルの地名だった。違うか?」

 セロリは無言で頷いた。
 下唇を噛んで必死に何かを堪えているようであった。

「それでおまえは確信した。教会の子供たちだけでなく、どうやらリスタルからも亜人たちが連れて来られて、さらにどこかへ連れて行かれているのだ、と。それに教会が噛んでいるのだ、と」
「はい……、アズナガ神父が……《十三番目の使徒教会》が、リスタルの何者かと結託して亜人たちを、と思いました。亜人たちが不法な生体実験に使われている、などと云う噂も聞いたことがありましたし、これはこのまま教会にいたら自分の身も危険なのでは、と、そう思ったのです」
「それで家出をしたんだな? おまえにとってもっとも安全であるリステリアス宮まで逃れるために」
 うなだれているセロリの肩に、サンタはやさしくその手を置いた。
 大丈夫だ、と彼女を元気づけるかのように。

「……おまえ、あのSAでラスバルトに電話をしたんだな?」
「は……い」
「やはり、な。そして《歪空回廊トンネル》を使ってリスタルに向かっていること、追っ手がかからないように手配してもらうこと、それを奴に依頼したんだな? 道理でリステリアス宮に着いた時にまるでセロリが戻って来るのがわかっていたようなあの歓迎ぶりだ」

 セロリの頬を涙がつたうのが見えた。
「すみません。サンタのおっしゃる通りです。結果的に私はサンタと羽衣を利用したのです」

 サンタはその言葉に、ふっ、と笑顔を見せた。
「おれたちは『運び屋』だ。クライアントが多少の隠し事をしていたとしても『運ぶ』ことには変わりない。気にする必要なんかないさ」
「……はい。それもおっしゃる通りだと思います。ありがとうございます。プロの『運び屋』に対して失礼でしたね。それに……サンタはいつも優しいです」

 無理やり笑って見せる。痛々しい笑顔であった。 
 しかし。

「ただ……まさか大公家のリステリアス宮にこんなものがあって、それに《十三番目の使徒教会》と結託していたのが、ラスバルトだったなんて……」

 セロリはそれだけ云うと、まるですべてをサンタに話したおかげで力尽きた、とでも云うようにその場にへたり込んでしまった。
 無理もないだろう。自分の居城でこともあろうに亜人の子供の売買が行われていると云う、その現場に遭遇してしまったのだ。衝撃を受けない訳はなかった。

 そのまま、彼女は頭を抱え込む。
 気丈を装っていてもまだ彼女は幼かったのだ。

「セルリア様!」

 慌ててラフィンが駆け寄り肩を支える。
 彼女も実の弟がそんなことに手を染めていることに大きなショックを受けていたようではあったが、それ以上にセロリのことを心配していた。
 それほどにセロリの様子は普段の彼女からは想像もつかないほど憔悴しきっていた。

 暗闇の隠し通路の中に重苦しい空気が流れていた。
 沈黙が続く。
 その空気に耐えかねたのか……。

「あれは低温貯蔵庫だね」

 羽衣が再び壁の割れ目から施設を覗き込んで、ぽつりと呟いた。

「この手前のラインで亜人に処置をしてあそこのカプセルに封印した後、低温貯蔵庫に格納しておいてコンテナが着いた時に出荷するみたい……」

「やめてください、羽衣!」
 セロリが大きなネコ耳を塞いで、叫んだ。

 その声に、羽衣が、ぎょっとして黙り込む。

「そ、そんな解説、しないでください。聞きたくありません!」
 セロリは耳を塞いだままさらに叫ぶ。

 そしてそのまま床に突っ伏して泣き出した。
 今まで必死に我慢していた涙が、羽衣の冷静な分析の言葉を聞いて臨界点を突破してしまったのだ。

 彼女は恥も外聞もなく大声で泣いた。
 サンタたちにとってそれは初めて聞くセロリの絶望に満ちた泣き声であった。
 ラフィンが必死に、姫様、姫様、と呼びながら、途方に暮れて背中を撫でさすったがセロリは大声で泣き続けた。
 とめどなく涙を溢れさせ、声を限りに泣いていた。

「あ……」

 羽衣が言葉を失ってすがるようにサンタを見た。
 空気を換えようと云うつもりで云った言葉がセロリを傷つけてしまったことに彼女は気づいた。
 サンタがそんな羽衣を見て悲しそうに微笑し、それから頭を撫でてやる。

「あ、サンタ、あたし……」
「何も云うな」
「あの、あたし、セロリを傷つけちゃったの?」
「今はいい。何も云うな」
「うん」
 どうして良いかわからない、と云うように頷く。

 サンタはそんな羽衣の頭を優しく引き寄せて、自分の胸に抱いた。

 羽衣は優秀な《バイオ・ドール》である。
 だが人間ではない。人間らしくはあるが人間ではない。
 だから、ときおり、こんなこともある。

「ひとつひとつ、学んで行けばいいんだ、羽衣」
「うん。ごめんなさい……。ごめんなさい」

 云いながら、羽衣も泣いていた。
 サンタはそんな羽衣を抱き寄せたまま立ち尽くし、ラフィンは突っ伏して泣いているセロリの周りをうろうろと歩きまわりながら、ぶつぶつと神への祈りの言葉を呟いている。

(ふう、おれも泣きたくなって来た。ともかくみんなが落ち着くまで、しばらくここで待つしかないが……)

 サンタは、もう一度雄弁なため息をつくと石造りの天井を眺める。

(それにしても、ラスバルトめ……)
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

錬金術師と銀髪の狂戦士

ろんど087
SF
連邦科学局を退所した若き天才科学者タイト。 「錬金術師」の異名をかれが、旅の護衛を依頼した傭兵は可愛らしい銀髪、ナイスバディの少女。 しかし彼女は「銀髪の狂戦士」の異名を持つ腕利きの傭兵……のはずなのだが……。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。 記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語

jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
 中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ  ★作品はマリーの語り、一人称で進行します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...