知らない世界に転生したと思ったら、すぐ側にガチ勢がいた件について

花宮

文字の大きさ
42 / 75
二章 〜思惑〜

三十三話 『真実』

しおりを挟む
身勝手な言葉を聞いていると、心の奥底に閉じ込めた様々な感情が噴き上がってきた。
 

彼の……スティーブン様の配慮のない言葉を聞いていると、自分一人ではとても抱え切れない負の感情達が一挙に反応を示した。駄目だ。冷静にならなきゃ……!そうは思っても、一度溢れ出した感情は止まらない。
私は感情のままに叫んだ。


「スティーブン様に私の何がわかるんですか!私だって……私だってこんなことしたくないですよ!でも仕方ないじゃないですか……!こうするしかなかったんですよ!!」


私は肩で息をしながら叫ぶ。スティーブン様は驚いた様子で私を見ていたが、そんなもの知らない。今はただ感情を発散させたかった。八つ当たりと言えばそれまで。でも、感情が抑えきれないのだ。


「これは私一人だけの問題。私一人が我慢していれば、何も問題なかったはずなのに……!」


周りに人が集まってくるけどそんなものどうでもよかった。


「私は!私はただ普通に幸せになりたいだけなのに……!」


もう嫌だ、こんな世界。
私はただ幸せになりたいだけなのに、どうしてそれが許されないの……? 私が泣いている間、辺りには困惑した空気が流れていたが、私の知ったことではない。今はとにかく悲しかった。泣きたかった。


「……場所変える?ここじゃ目立つし」


スティーブン様が優しく声を掛けてくれる。私はこくりと頷き、彼の提案にのることにした。


△▼△▼


――何故提案を乗ったのかは分からない。ただ単に悲しかったから、誰かに聞いて欲しかったのか。それとも、スティーブン様に苛立ったから、見返してやりたかったのか……


どちらなのか分からないけど、とにかく私は彼と共に行くことにしたのだった。
スティーブン様に連れられやって来たのは……


「談話室?」


「そう。僕のお気に入りの場所だよ」


スティーブン様はそう言って扉を開けた。
部屋に入ると、そこにはソファーやテーブルがあり、壁には絵画が飾られていて、その隣には本棚があったし、紅茶やコーヒー豆も置いてある。


談話室、というよりはホテルのロビーに近い雰囲気だった。スティーブン様はソファに座るよう促した。
私が座ったのを確認してから、彼も向かい側のソファに座る。
彼は私を見据えると、ゆっくりと口を開いた。


「でさー。どうなの?実際さー。俺には分からないからさ、君の気持ち」


淡々した口調で彼は聞いてきた。私は俯きながら、こう言った。

「先は八つ当たりして大変申し訳ございませんでした。そこについては謝罪いたします。ただ、私個人の問題なのであまり詮索しないで頂けると助かります」


「……俺にあんだけの罵声を浴びせたん
だから、俺は聞く権利あると思うけど」


そう言いながら彼はふっと笑った。
確かにそうだ。私は感情に任せて彼に暴言を吐いてしまったのだから、スティーブン様にも聞く権利はあるだろう。でも……


「信じますか?どんな馬鹿げた話でも」


「信じるよ」

即答なことに驚いた。彼は私の目をじっと見つめている。その目は真剣なもので、嘘を言っているようには見えなかった。しかし、彼は………、


『人のことを憶測で語るのはどうかと思うんです』


そんな声が頭の中に響き渡る。ナタリー・アルディの声ではなく……


「(……美香?)」


前世の親友の声が脳裏に響く。私は混乱し、頭を抱える。その様子を見ていたスティーブン様は心配そうに声を掛けてきた。


……ヤリチン、責任逃げ、浮気症……というのはリリィから聞いた言葉で私も普段の言動から『女たらしで遊び人』の印象が強く、とてもじゃないが信用できない男なのだ。


しかし――、


『ねぇ。話しちゃいましようよ。このこと』


美香の声が響く。……話すべきなのか?信用できるのか?彼は。
私は少しの間悩みながら……


「……笑ったらその瞬間殺しますから」


「おうオッケー。殺せるものならやって見なさいな」


彼は余裕綽々といった様子で言い、笑みを浮かべていたが。


「………私は……前世の記憶を……持っているんです」


その言葉を口にした瞬間、スティーブン様の目が見開かれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

悪役令嬢の慟哭

浜柔
ファンタジー
 前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。  だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。 ※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。 ※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。 「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。 「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。

【完結】ヒロインに転生しましたが、モブのイケオジが好きなので、悪役令嬢の婚約破棄を回避させたつもりが、やっぱり婚約破棄されている。

樹結理(きゆり)
恋愛
「アイリーン、貴女との婚約は破棄させてもらう」 大勢が集まるパーティの場で、この国の第一王子セルディ殿下がそう宣言した。 はぁぁあ!? なんでどうしてそうなった!! 私の必死の努力を返してー!! 乙女ゲーム『ラベルシアの乙女』の世界に転生してしまった日本人のアラサー女子。 気付けば物語が始まる学園への入学式の日。 私ってヒロインなの!?攻略対象のイケメンたちに囲まれる日々。でも!私が好きなのは攻略対象たちじゃないのよー!! 私が好きなのは攻略対象でもなんでもない、物語にたった二回しか出てこないイケオジ! 所謂モブと言っても過言ではないほど、関わることが少ないイケオジ。 でもでも!せっかくこの世界に転生出来たのなら何度も見たイケメンたちよりも、レアなイケオジを!! 攻略対象たちや悪役令嬢と友好的な関係を築きつつ、悪役令嬢の婚約破棄を回避しつつ、イケオジを狙う十六歳、侯爵令嬢! 必死に悪役令嬢の婚約破棄イベントを回避してきたつもりが、なんでどうしてそうなった!! やっぱり婚約破棄されてるじゃないのー!! 必死に努力したのは無駄足だったのか!?ヒロインは一体誰と結ばれるのか……。 ※この物語は作者の世界観から成り立っております。正式な貴族社会をお望みの方はご遠慮ください。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムで完結済み。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

悪役令嬢によればこの世界は乙女ゲームの世界らしい

斯波@ジゼルの錬金飴③発売中
ファンタジー
ブラック企業を辞退した私が卒業後に手に入れたのは無職の称号だった。不服そうな親の目から逃れるべく、喫茶店でパート情報を探そうとしたが暴走トラックに轢かれて人生を終えた――かと思ったら村人達に恐れられ、軟禁されている10歳の少女に転生していた。どうやら少女の強大すぎる魔法は村人達の恐怖の対象となったらしい。村人の気持ちも分からなくはないが、二度目の人生を小屋での軟禁生活で終わらせるつもりは毛頭ないので、逃げることにした。だが私には強すぎるステータスと『ポイント交換システム』がある!拠点をテントに決め、日々魔物を狩りながら自由気ままな冒険者を続けてたのだが……。 ※1.恋愛要素を含みますが、出てくるのが遅いのでご注意ください。 ※2.『悪役令嬢に転生したので断罪エンドまでぐーたら過ごしたい 王子がスパルタとか聞いてないんですけど!?』と同じ世界観・時間軸のお話ですが、こちらだけでもお楽しみいただけます。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

処理中です...