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〜青春編〜
十七話 『女の子の家』
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サッカーの試合は二回戦は勝ったものの、三回戦であっさり負けてしまった。白鷺学園に勝てただけ十分凄い!ということになったのだが、それでも悔しかった。
だって中学最後の試合だったのに。折角、白鷺学園という強豪に勝てたのに。これで最後だと思ったら、もうちょっと頑張れたんじゃないかって思ってしまうのだ。
でも……優勝の道は消えてしまったし、受験勉強を頑張っている今となってはどうしようもないけれど。
でも、やっぱり残念な気持ちがあったし、あのときは泣いた。柄にもなくみんなで泣いた。部員も俺含めて全員泣いてたし。
そして今は受験だ。高校入試が控えてる今、サッカーの試合で負けていつまで経っても泣いてはいられない。そんな暇があるなら少しでも参考書を開いて問題を解くべきだとわかっているし、実際そうしているわけだが……、
「……」
無言でひたすらノートに向かってシャーペンを走らせるだけの作業というのはなかなか辛いものがある。しかもそれが何時間も同じことを繰り返していればなおさらだ。
勉強というのはそういうものだ、と言われたらそれまでなのだけど……。
だから気分転換も兼ねて散歩に出ることにした。サッカーの試合に負けたときから試合のことを考えずにひたすら勉強してたし、それにずっと集中していたせいか少し疲れていたんだと思う。
別に俺のせいで試合に負けたわけではないんだけどね。
まあとにかく、俺は息抜きのために外に出ることにした。
△▼△▼
外に出たら、ちょうど雨が降り出してきたところだった。夏によくある夕立だろう。雨で濡れるのは嫌だなぁ……でもなぁ……と思いながらも、
「(ま、いいか)」
という結論に至った。今日は家に誰もいないし。両親からも『お金渡しておくからご飯は勝手に食べてね』と言われたしなぁ……姉ちゃんは今日友達で食べるって言ってたし。
……適当にコンビニ弁当とか買うかな。
なんてことを思いながら歩いていくうちに、
「あら、中村くん?」
聞き慣れた声が聞こえてきた。振り向くとそこには石崎さんがいた。傘を差していて不思議そうな表情をしながら、
「どうしたの?中村くん。こんなところで」
「石崎さんこそ。石崎さんもこんなところで何をやってるんですか?」
「私?私は買い物帰りよ。ほら見てこれ!」
と言って彼女が見せてくれたビニール袋の中には食材が入っていた。スーパーに行った帰り道らしい。石崎さんはニコニコと笑いながらこう言った。
「今日はみのりちゃんとお泊まりなの!それで晩御飯を買ってきたの」
「へぇ。そうなんですね。俺はコンビニ弁当を買いに来ました。両親がいないんで」
俺がそう言うと、石崎さんは驚いたように目を丸くする。それからすぐに厳しい目つきになって、 こう言った。
「……駄目よ!そんなの!サッカー部のマネージャーとしてコンビニ弁当なんか許さないわ!」
……そう言いながら、石崎さんはプンスカと怒っている。……うーむ、確かにサッカーをしているときは健康や栄養には気をつけろと言われているし、そうしてたけど……部活を引退した今、そこまで気にする必要はあるのか……? しかし彼女は納得していないらしく――、
「駄目よ!部活は引退したかもしれないけど、中村くんは受験生なんだもの。しっかりしたものを食べないと!」
と言ったあと、石崎さんは勢いよく、ビシッ!! と指を突きつけてくる。その迫力に押されつつ、俺は思わず後ずさった。……めちゃくちゃ圧がすごいなぁ……
「ほら、行くといいなさい!中村くん!」
こうなった石崎さんを説得するのはほぼほぼ無理だ。諦めよう……と、俺はため息をつきながら、俺は頷いた。
△▼△▼
結局、俺は石崎さんの押しの強さに負けて彼女の家に行くことになった。笹川さんもいたから彼女はめちゃくちゃ驚いていた。石崎さんと二人で過ごしたかっただろうに……俺のせいで申し訳ない気持ちになったが、
『事情はつばめさんから聞きました。駄目ですよ、中村くん、栄養管理はきちんとしないと!』
と、笹川さんにもお叱りを受けてしまった。……コンビニ弁当じゃなくてコンビニにある金シリーズを買うって言えば良かったかもな……いや、そんなの遅いけど。そんなことを思っていると――
「中村くん……と言ったかな」
ゴゴ……という効果音が付きそうなほど威厳のある声でそう言われた。恐る恐る顔を上げると、
「お前がみのりに余計なことを吹き込んだんだろう?」
そう言って睨み付けてきたのは、背の高い男だった。年齢は俺より少し上くらいだろうか。整った顔をしているのだが、眉間にシワを寄せているせいで怖さが倍増している気がする。
『お兄ちゃん!変なこと言わないで!!』
笹川さんはオロオロしながらそう言っているが、男は意に介さずに、 ギロッ!!! と、こちらを見つめて――、
「言っておくがな!俺は絶対に認めないぞ!みのりが男と付き合うなんて!!」
……認める?男と付き合うってどういうことだ……?俺と笹川さんは別に付き合ってはいないんだけれど……俺がそう思っていると、
「まぁまぁ。雄太さん。いい大人が中学生に怒鳴っても仕方ありませんよ」
そう言って、穏やかな笑みを浮かべながら割ってきたのは、石崎さんだった。石崎さんって本当いい笑顔で無自覚な毒舌吐いたりするんだよなぁ……
「つばめさんのいうとおり……だよ!お兄ちゃん…」
か細く、消え入りそうな声で笹川さんがそう言ったので男は慌てた様子だ。先まで怒っていたのが嘘のように狼乱していた。
だって中学最後の試合だったのに。折角、白鷺学園という強豪に勝てたのに。これで最後だと思ったら、もうちょっと頑張れたんじゃないかって思ってしまうのだ。
でも……優勝の道は消えてしまったし、受験勉強を頑張っている今となってはどうしようもないけれど。
でも、やっぱり残念な気持ちがあったし、あのときは泣いた。柄にもなくみんなで泣いた。部員も俺含めて全員泣いてたし。
そして今は受験だ。高校入試が控えてる今、サッカーの試合で負けていつまで経っても泣いてはいられない。そんな暇があるなら少しでも参考書を開いて問題を解くべきだとわかっているし、実際そうしているわけだが……、
「……」
無言でひたすらノートに向かってシャーペンを走らせるだけの作業というのはなかなか辛いものがある。しかもそれが何時間も同じことを繰り返していればなおさらだ。
勉強というのはそういうものだ、と言われたらそれまでなのだけど……。
だから気分転換も兼ねて散歩に出ることにした。サッカーの試合に負けたときから試合のことを考えずにひたすら勉強してたし、それにずっと集中していたせいか少し疲れていたんだと思う。
別に俺のせいで試合に負けたわけではないんだけどね。
まあとにかく、俺は息抜きのために外に出ることにした。
△▼△▼
外に出たら、ちょうど雨が降り出してきたところだった。夏によくある夕立だろう。雨で濡れるのは嫌だなぁ……でもなぁ……と思いながらも、
「(ま、いいか)」
という結論に至った。今日は家に誰もいないし。両親からも『お金渡しておくからご飯は勝手に食べてね』と言われたしなぁ……姉ちゃんは今日友達で食べるって言ってたし。
……適当にコンビニ弁当とか買うかな。
なんてことを思いながら歩いていくうちに、
「あら、中村くん?」
聞き慣れた声が聞こえてきた。振り向くとそこには石崎さんがいた。傘を差していて不思議そうな表情をしながら、
「どうしたの?中村くん。こんなところで」
「石崎さんこそ。石崎さんもこんなところで何をやってるんですか?」
「私?私は買い物帰りよ。ほら見てこれ!」
と言って彼女が見せてくれたビニール袋の中には食材が入っていた。スーパーに行った帰り道らしい。石崎さんはニコニコと笑いながらこう言った。
「今日はみのりちゃんとお泊まりなの!それで晩御飯を買ってきたの」
「へぇ。そうなんですね。俺はコンビニ弁当を買いに来ました。両親がいないんで」
俺がそう言うと、石崎さんは驚いたように目を丸くする。それからすぐに厳しい目つきになって、 こう言った。
「……駄目よ!そんなの!サッカー部のマネージャーとしてコンビニ弁当なんか許さないわ!」
……そう言いながら、石崎さんはプンスカと怒っている。……うーむ、確かにサッカーをしているときは健康や栄養には気をつけろと言われているし、そうしてたけど……部活を引退した今、そこまで気にする必要はあるのか……? しかし彼女は納得していないらしく――、
「駄目よ!部活は引退したかもしれないけど、中村くんは受験生なんだもの。しっかりしたものを食べないと!」
と言ったあと、石崎さんは勢いよく、ビシッ!! と指を突きつけてくる。その迫力に押されつつ、俺は思わず後ずさった。……めちゃくちゃ圧がすごいなぁ……
「ほら、行くといいなさい!中村くん!」
こうなった石崎さんを説得するのはほぼほぼ無理だ。諦めよう……と、俺はため息をつきながら、俺は頷いた。
△▼△▼
結局、俺は石崎さんの押しの強さに負けて彼女の家に行くことになった。笹川さんもいたから彼女はめちゃくちゃ驚いていた。石崎さんと二人で過ごしたかっただろうに……俺のせいで申し訳ない気持ちになったが、
『事情はつばめさんから聞きました。駄目ですよ、中村くん、栄養管理はきちんとしないと!』
と、笹川さんにもお叱りを受けてしまった。……コンビニ弁当じゃなくてコンビニにある金シリーズを買うって言えば良かったかもな……いや、そんなの遅いけど。そんなことを思っていると――
「中村くん……と言ったかな」
ゴゴ……という効果音が付きそうなほど威厳のある声でそう言われた。恐る恐る顔を上げると、
「お前がみのりに余計なことを吹き込んだんだろう?」
そう言って睨み付けてきたのは、背の高い男だった。年齢は俺より少し上くらいだろうか。整った顔をしているのだが、眉間にシワを寄せているせいで怖さが倍増している気がする。
『お兄ちゃん!変なこと言わないで!!』
笹川さんはオロオロしながらそう言っているが、男は意に介さずに、 ギロッ!!! と、こちらを見つめて――、
「言っておくがな!俺は絶対に認めないぞ!みのりが男と付き合うなんて!!」
……認める?男と付き合うってどういうことだ……?俺と笹川さんは別に付き合ってはいないんだけれど……俺がそう思っていると、
「まぁまぁ。雄太さん。いい大人が中学生に怒鳴っても仕方ありませんよ」
そう言って、穏やかな笑みを浮かべながら割ってきたのは、石崎さんだった。石崎さんって本当いい笑顔で無自覚な毒舌吐いたりするんだよなぁ……
「つばめさんのいうとおり……だよ!お兄ちゃん…」
か細く、消え入りそうな声で笹川さんがそう言ったので男は慌てた様子だ。先まで怒っていたのが嘘のように狼乱していた。
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