【完結】君に伝えたいこと

かんな

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〜青春編〜

十六話 『罵声』

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結果は5vs6で俺たち――翡翠中学のチームの勝ちだった。あの強豪の白鷺学園チームに勝てるなんて思ってもいなかったから正直かなり嬉しい。


でも――、


「ふざけんなよっ!この俺が!負けるはずねえだろ!強豪ならともかく、あんな名も知らないような弱いやつらに!」


あいつが暴れている。……本当に小学生の頃から何も変わっていないんだな……!グズだしバカだし。頭のいいバカってこういうことを言うのか? まぁいいか……。とりあえずあのクソ野郎をどうにかしないとな……


「元はと言えばお前のせいだ!お前がちゃんとキーパーしねーから!」


そう言いながらあいつはキーパーをしていた男に殴りかかろうとした。俺はその瞬間体が勝手に動いてしまった。
だってこの男が小学生の時の俺と重なって見えてしまったから……


「は?何だよ。お前……!情けか?負けた相手に情けをかけられるとかマジでありえねーだろ」


……あいつの言う通り確かにプライドを傷つけたかもしれない。だけど、それでも言わずにはいられなかった。だってこれは――


「俺はこのキーパーくんの為に庇ってない。これは俺のエゴだ」


これは本当のことだし、嘘偽りのない本心だから。プライドが傷つく?……そんなものどうでもいい。これは俺の問題であってこいつには関係ない話なんだから。


「は?いつも宮沢の後ろを隠れていたお前に何が出来るんだよ!?」


そう言いながら、あいつは俺に怒鳴ってくる。確かにそうだ。あの日は祐介の助けがなかったら間違いなくボコられていただろう。そして今も助けられている。


でも――、


「何もできねーよ。これだって自己満足だし」


「はぁ?じゃあお前はただのお節介焼きなのか?」


「ああ、そうだよ。悪いか?それにさっき言っただろ?これは俺のエゴだって……」


エゴ。自分の欲求を満たすための行動。それが今の俺にとって一番正しい行動だと思うから。
するとあいつは――


「ハッ!お前はそうだとしても、だ!こいつは違うぜ?負けた相手に庇われるとかめちゃくちゃ屈辱的だろ?」


確かに俺もそう思う。もし逆の立場だったとしたら、絶対に嫌だ。それこそ死にたいくらいに恥ずかしいし惨めになると思う。
でも――、 それをわかっていてもなお、俺はこいつを助けてやりたいと思ったんだ。
だってそれは昔の自分と似ている気がしたから……それに――、


「お前は?お前はどうなんだよ?キーパーくん!先から黙ってるけど悔しくねぇのか?」


こんなことを言われても何も反論しないところを見ると、相当気が弱い奴だ。……本当に小学生の自分を見ているみたいだ……。


でも、俺は――


『お前の意見はねーのかよ!なんのために口があると思ってる!』


あいつにそう言われて、こいつに反論することが出来た。だから、今度は――と思っていると、


「あらぁ?」


ドスの低い声が聞こえてきた。
恐る恐る振り返るとそこには、ニッコリと微笑む女の子がいた。……誰ですかあなた? 突然現れた謎の美少女に戸惑っていると、何故かあいつは顔を真っ青にして震え始めた。


一体どういうことだろうか……何故あんなにも怯えているんだろう……謎すぎる。
すると彼女はこちらに向かって歩いて、


「あらぁ。美月さんにしつこく近寄ってくる殿方がいると聞いて偵察しに来ましたが……まさか貴方のことだとは言いませんわよね?」


……圧がすごい。笑顔なのに目が笑ってないし、殺気を放っているように感じる……


「どうしたんだ……?こいつ…?」


「あ、あいつ……水瀬さんのこと……馬鹿じゃん……」


キーパーくん……めちゃくちゃ、ビクビクしてますやん……状況が全く読めないんだけど……てゆうか、今どき『殿方』なんて普通使わないぞ……


「美月さんは私の大事な友達なので……変な虫に寄られては許せないので…ね?」


……そう言いながら扇子をあいつの顎に添えた。その瞬間あいつの顔色が更に悪くなっていく。
まるで蛇に睨まれた蛙のように……。


「は、はぁいぃ!」


先までの迫力がどこへやら。あいつは情けない声で返事をした。


「……ったく。最初から素直になればいいものを」


……てゆうか、ここって関係者以外入れないんじゃなかったっけ……?俺がそう思っていると、


「何かしら。私に用事かしら」


そう言いながら彼女は俺の方に視線を向けた。扇子を持ち、いかにも不機嫌という態度を露骨に出しながら……、


「い、いえ……ただ、そのここ……関係者以外立ち入り禁止ですよね……?」


「えぇ、知っていますよ。でも、私のお友達が入れてくれたんです。あいつを潰してくれるのなら入ってもいい……と、そう言ってくださったので」


…そう言いながら、彼女は微笑む。その笑みはとても美しく、とても怖いものだった。


「そ、そうなんですか……」


「ええ。私もあの人に関わるの嫌ですけど友人のために仕方なく……ね」


そう言って彼女は笑った。
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