イエス伝・底辺からの救世主! -底辺で童貞の俺に神様が奇跡の力をくれたんだが-

中七七三

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20話:愛があれば姦淫じゃないんだ!

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「誰だ? 誰だ? 誰だあぁ、先生の隣の白い美女ぉぉ~」

 ペドロがシモンみたいな感じで言った。
 こいつは、ペドロなのにときどきシモンっぽい話し方をする。元シモンだからか?
 これは、マグダラのマリアを連れて出てきたときに言った言葉だ。

「マグダラのマリアだよ」

 俺は言った。周囲は固まる。空気が凝結。
 全員の視線がマグダラのマリアに集まっているのが分かる。
 ただの美女というだけではなく、空間に磁場を生じさせるような存在感があるのだ。
 で、男たちの視線が吸い寄せられるのだ。

「お前ら、欲情した目でジロジロ見るのは、姦淫したのと同じだからな! 右目くり抜くぞ! マジで!」
 
 ここにいる男で、いつも通りあるがままの視線を送っているのは、ユダぐらいなものだった。
 特にここの館の持ち主の弟だった奴等、完全に発情してやがる。

「妬いているの? イエス……」

 俺にギュッと抱き着いてくるマグダラのマリア。
 その柔らかい肉はなんですか? もしかして「おっぱい」という存在ですか?
 柔らかさと体温が染み込んできそう。30歳童貞の俺には断食以上の試練。

「イエス先生! そいつは、兄の所有物だった。ということは、俺の……」

 男の声が徐々に小さくなっていく。マグダラのマリアがその男を見つめていたのだ。
 心が引きずりこまれそうになるような深い碧い瞳。ジッとその眼が男を見ていた。

「……いえ…… いいんですけどね。館が無事なら…… ちょっと穴開いちゃいましたけど」

 男はシオシオになってしまった。
 そんな、男にツカツカと近づくマリア。
「え?」って感じで男がビビっている。

「この館は、私の物だろう? 違うのか、このブタ――」

 ガクガクと震え跪(ひざまず)く金持ち野郎。
 いや、むしろ震えというより痙攣だ。なんか前かがみになっている。

「あ、あ、あ、あ、あ…… ちょっとぉ…… まっ……」

 右手を伸ばす男。マリアがその手を取った。その瞬間だった――

 ペキッ。
「あがぁぁぁ!!」

 枯れ枝を折るような乾いた音と悲鳴が交差した。
 男の指があり得ない方向に曲がっていた。
 一瞬で、マリアが指をへし折ったのだ。
 
 悲鳴を上げていた男は、呆けた顔で涎を垂らし、ガクガクと痙攣した。
 でもって、前のめりに倒れた。

「弱い…… もう少し強ければ飼ってもよかったのに」

 なに? 飼う? 飼うってなに? マリアちゃん。
 眼前に展開された光景は、俺の想像を超えていた。

「アナタ…… 確か使用人だったわね?」

 マリアが言った。俺たちをここまで案内した男を見つめる。
 
「はい。そうですが」
「ここの館を処分したら、そのお金は全てこの方に喜捨しなさい。ナザレのイエス様に」

 凛とした声でマグダラのマリアが言った。
 威厳すら感じさせる言葉だ。なんか俺の存在が霞(かす)みそうなんだけど。
 男は了解の意志を示す。金持ちの弟は「アウアウ」言ってヨダレたれているだけ。

「ほう…… これは、捨て値でもかなりの金額になるでしょうね」

「ふーん。アナタは?」

「はい。イエス先生の弟子で、イスカリオテのユダと申します。まだ末席の者にすぎません」

 マグダラのマリアは値踏みするようにユダを見た。
 ユダは男を腰砕けにするマリアの視線を真正面から受けた。平然とだ。
 やばい…… こいつ…… 禁忌の存在か? 一瞬そんなことが頭をよぎる。
 このマリアちゃんを見て平然としているとか……

「なあ、ユダ」
「なんでしょうか? 先生」
「オマエさぁ、もしかして、男の方に興味があるとかないよな……」

 ユダヤ教おいて、ホモは大罪である。
 ぶち殺される。神に呪われる存在だ。

「ははは、そんなことあるわけないじゃないですか」

 明るく言ったユダ。歯がキラっと光る。
 まあ、聞いたところでカミングアウトするやつなどいないのだ。
 今後、コイツは要警戒だ。俺の菊門を狙って弟子になったのやもしれぬ。

「先生ぇ~ そのナカダラのマリア連れていくんですか?」

 ペドロよ『マグダラ』と『ナカダラ』じゃ『ダラ』しか合ってないよ。
 せめて『ダラダラ』くらいにしとけよ。マジで。俺が恥ずかしいわ。

「別嬪だぁぁ。ハラ減った……」

 性欲よりも食欲が勝ったアンデレだ。
 奇蹟の力がなかったらコイツの食費破産してしまう。
 230センチ、250キロの巨体だが、今のところなんの役に立っていない。
 
「イエス様、彼らも、弟子ですか?」

「ああ、一応俺の一番弟子のペドロ、時々シモンだけど。それに弟のアンデレ」

「そうですか」

 マグダラのマリアは、禿げとデカイ男と認識した以上の感情を全く見せず俺に言った。
 マグダラをナカダラと言われたことすら気にした様子はなかった。

「おい、行くぞ、ペドロ。悪魔祓いは済んだ。マグダラのマリアは、俺と共に行くのだよ」
 
 それを聞いて、キュッと俺に抱き着くマリアちゃん。おっぱいが薄い布越しに触れる。

「まあ、いいすっけどね。先生が言うなら……」

 ペドロはちょっと不満そうに言った。
 そして、俺たちは、マグダラを出てた。
 拠点としているカファルナウムの街に戻るのだった。

        ◇◇◇◇◇◇

 灯明皿の明かりが揺れる。薄明りの中のマリアは…… あばば。煽情度がアップしている。
 やばい。エロすぎる。おっぱいでかい。キレイ可愛い。
 あ、あ、あ、あ、あ、あ……

 カファルナウムの街に戻って、俺たちは支援者の家にいるわけだ。
 で、部屋にはマリアと俺だけ。マジで。弟子はいない。

「どうしたのですか? イエス様」

 俺に以外に見せる刺すような強気な視線が影をひそめる。
 碧い瞳。揺れるようなまつ毛の影ができる。それだけ金色のまつ毛が長い。
 しなだれかかる俺に。やばい。底辺大工30年で童貞の俺には刺激が強すぎるのだ。
 細く柔らかな金髪が俺にハラハラと触れるのだ。

 だいたい、女のことなど何も知らんのだった。ヤバい。
 で、マリアちゃんはあれだよね。金持ちに愛妾として仕込まれた存在だよね。
 でも、味見の寸前に金持ち死んだってことは、処女だよね。
 処女なのに、とびきりの娼婦並みのテクもっているんだよね……

「汝姦淫するなかれ、汝姦淫するなかれ、汝姦淫するなかれ」

 ブツブツと言った。俺は。
 モーゼが受け取った十戒の中の一つ。
 出エジプト記の20章の14だ。

「どうしちゃったの、こんなに立派なのに」
「ああ、割礼しているから、敏感なんで、ちょっと……」

 これは姦淫なのか? どうなんだ?
 主に聞けばいいけど、主に聞いて『ダメ』とか直接言われたら、発狂しちゃうかもしれない。
 だから訊けない。

 冷静になれ俺。
 つまりだ。これから、俺とマリアがすることが、姦淫なのかどうかが問題なのである。
 
『もし人がまだ婚約しない処女を誘って、これと寝たならば、彼は必ずこれに花嫁料を払って、妻としなければならない』

 これ、モーゼの十戒な。出エジプト記の22章の16だ。
 つまり、婚前交渉を禁止しているわけではない。要するの嫁にするなら問題ないわけだよ。
 これをそのまま、理解すると、婚約者相手名なら、婚前交渉し放題ってことだ。

 さすがだ――
 さすが、産めよ増やせよ地に満ちよと言い切った主だ。

 しかも、どちらかといえば、誘われているの俺だし。
 
 結論。
 ここで、俺がマリアと色々いたしたして、俺が童貞でなくなっても、全然戒律違反じゃないということになる。
 OKだ。
 やること自体はOKだ。うん、大丈夫。

 しかし――
 実はだ。主は「もう一回、十戒あげるから、前の無し」って言って新しいの出している。
 これは、どうだった?
 確か「殺すな」「盗むな」無くなっただけだと思うんだけど。
 あとは、異教徒の女を姦淫するのはダメだ。このマリアは大丈夫。だって、俺の弟子だからね。

「よっしゃ!」

 となると、次はプレイ内容の禁止事項だ…… 
 童貞の俺には、これがよく分からない。単純に「産めよ増やせよ地に満ちよ」行為だけに限定されるのか?
 それ以外の気持ちいいことは姦淫になるのか?
 
「ぐ、ぎぎぎぎぎぎぎぎ」

 俺は歯を喰しばって考える。どうだった?
 
 俺はNG行為を思い浮かべる。
 獣姦はダメだ。死刑だ。確か…… う~ん……

 レビ記だ!! 

『男がもし女と寝て精を漏らすことがあれば、彼らは共に水に身をすすがなければならない。彼らは夕まで汚れるであろう』
 
 15章の18やな。
 漏らしてもいいが、洗わないといかん。うん、これはいい。
 あとは、生理中の女とやるのあかんのな。それは大丈夫だ。
 
 あとはなんだぁぁぁぁ。
 俺の限界に達しそうな脳に、戒律が蘇っていく。俺の死んだ人間のオヤジが言って聞かせてくれたおかげだ。
 感謝だ。オヤジ。

『あなたがたは、だれも、その肉親の者に近づいて、これを犯してはならない』
『あなたの母を犯してはならない』
『あなたの父の妻を犯してはならない』
『あなたの姉妹、すなわちあなたの父の娘にせよ、母の娘にせよ、家に生れたのと、よそに生れたのとを問わず、これを犯してはならない』
『あなたのむすこの娘、あるいは、あなたの娘の娘を犯してはならない』
『あなたの父の妻があなたの父によって産んだ娘は、あなたの姉妹であるから、これを犯してはならない』
『あなたの父の姉妹を犯してはならない』
『またあなたの母の姉妹を犯してはならない』
『あなたの父の兄弟の妻を犯し、父の兄弟をはずかしめてはならない』
『あなたの息子の嫁を犯してはならない』
『あなたの兄弟の妻を犯してはならない』
 
 これだ。近親相姦と一族の中でやるのは姦淫だな。OK!
 実は俺とマリアが生き別れの兄妹とかはあり得ん…… よな……
 一瞬、ヤリマンの赤ちゃん量産機の俺の母・淫売のマリアのことが頭をよぎる。
 しかし、そんな偶然はないだろう。
 
 他にはだ――

『あなたは女とその娘とを一緒に犯してはならない』
『あなたは妻のなお生きているうちにその姉妹を取って、同じく妻となし、これを犯してはならない』

 親子ドンブリと姉妹ドンブリだ。これは大丈夫。将来もないだろう。

『隣の妻と交わり、彼女によって身を汚してはならない』

 浮気な。神よりさきに、マリアにぶち殺さるかもしれん。

『あなたは女と寝るように男と寝てはならない』

 ホモは絶対ない。ユダ…… アイツは大丈夫か?

『あなたは獣と交わり、これによって身を汚してはならない。また女も獣の前に立って、これと交わってはならない』

 獣姦。これは死んでもやらんわ。

「ふぅ、ふぅ、ふぅ――」

 俺の呼気が荒くなった。もう大丈夫だ。
 愛ってなんだ? ためらわないことだ!
 ああ!!
 愛があればいい。 姦淫ではない。全ての行為は姦淫ではない!!
 
「ふふ、かわいい人ね…… 緊張しているの?」

 マリアが焦れたように俺に抱き着いてきた。
 口を合わせる。初めて――

 あああああああああああ――
 
 そして俺は、卒業したのであった。イエーイ!
 
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