イエス伝・底辺からの救世主! -底辺で童貞の俺に神様が奇跡の力をくれたんだが-

中七七三

文字の大きさ
37 / 44

37話:ゴルゴダの丘

しおりを挟む
 俺は捕まっているのだけど、それは物理的に肉体が拘束されているだけ。
 はっきりって、どーでもいい感じのピンチでもなんでもない。

 で、偉そうにやってきたのが、クズ野郎――
 もう見るからにクズだった。

「大司祭カヤパだ――」
「ふーん」
  
 縛られ、床に放置された俺はそいつを見た。

「こりゃ、救われなぇな。絶対に救われねえわ。ひひひひひ」

 金と権力と権威という虚飾を身に纏い、その重みで泥沼に沈んでいくような野郎だった。

「そうか―― 救われぬか?」

「ああ、そうだな」

「では、どうすれば救われるのだ?」

「俺を解き放って、無一文になって出直せば、可能性はあるかもぁ~ 知らんけど」

「知らんのか?」

「知るかよ、人を救うのかどうか決めるのは神だぜ」

「ほう――」

 冷たい凍りつくような目でカヤパは俺を見た。

「では訊こう」

「ああいいぜ」

「オマエは何者だ?」

「神の子」

 俺の言葉は空間の中に静かに響く。
 真実の言葉なのだからどうしようもない。

「なるほど……」

 そう言ってカヤパはすっと踵を返した。
 話はこれで終わりだった。

        ◇◇◇◇◇◇

 で、俺は解放されたわけでもなく、ローマの総督府に引き渡された。
 ユダヤのことを、ユダヤで解決しねーで、ローマに丸投げするというのは、全く持って屑の証左であるな、と俺は思うしかない。

 で、総督のピラトはユダヤ人を集め、俺を裁くことにした。
 集まっているのは、俺に対し反発をもっている民衆だけだ。
 俺の信者、支持者は排除され、その場には誰もいない。
 だから、結果は分っている。

 茶番だ。

 全ては茶番でしかないが、その茶番を経ないと俺の計画にたどり着かないのだからどうしようもないのだ。

 そして、茶番が始まった。

        ◇◇◇◇◇◇

「ローマは寛大である。罪びとであっても許す。それもユダヤの民が決めことだ」

 基本的に俺の有罪は決まっている。
 大衆を扇動し神の子と名乗り、神殿で大暴れしたことであるのだけど、まあ、基本はどうでもいい。
 つーか、ここで俺を罰してくれないと困るといえば困るのだけど、予定調和的にそうなるだろうとは思う。

 なんか、人相の悪い男が引き出されてきた。

「これは、人殺し、テロリストのバラバだ。この男を助けるか、神の子を僭称せんしょうするペテン師を助けるか、ユダヤの民で決めるかよい」

 ああ、これはローマも面倒くさいだな――と、俺は思った。
 ユダヤ内部のゴタゴタに関わるのは嫌なのだ。
 だから、最後の局面で「決めたのはユダヤ人だよね」と言いたいわけだ。
 ま、どーでもいいけど。

「偽救世主を殺せ! インチキペテン師のイエスを殺せ! 十字架にかけぉぉ!」

 群集の声は俺を罰することを求める声で満ちた。

「おい、神の子よ」

 ピラトが呟くような声で言った。

「オマエを裁いたのはローマではない。ユダヤの民、同胞だ――」

「だから?」

「もしもだ―― オマエが本物の神の子で、救世主なら……」

 ピラトはそこで、突き抜けるように青い空を見上げる。

「ユダヤは己が救世主を殺した罪を背負い続けるのだろうな。さて、歴史はどんな罪を背負わせるのか……」

 ピラトは淡々と俺に言った。
 これで一仕事が終わったという感じで。

        ◇◇◇◇◇◇

 俺はゴルゴダ(髑髏)というクソ縁起の悪い丘まで十字架を運ぶことになった。
 クソ重い。
 大工をやっているときも、こんな重い木材を運んだことはない。
 というか、俺に大事な資材を運ばせるようなことはなかったのだけど。

「クソ重いんだけどよぉ」

「文句を言わず、運べよ」

「俺なんか痩せてんだから、こんな頑丈な十字架いらんだろ」

「せっかく、はりつけになるんだから立派な方がいいじゃねぇか。ひひひひ」

「ああ、そうかよ!」

 沿道には俺を蔑む視線が満ちていた。
 が――
 一瞬、気づいた。
 マリアちゃんがいた。
 声を掛けようとして止められていた。
 正解だ。
 俺も、視界の隅にはいれたが、そっちを見ることはなかった。
 だって、俺との関係を色々探られたら、まずいことになるからな。

 弟子たちには「俺とは関係ない」と三回言えと忠告してあるので、連座させられるような者はいなかった。
 計画は俺ひとりでやるのだから。

 坂道を登って、やっと刑場――ゴルゴダの丘――に到着した。
 陰気臭い場所だ。

 で、俺は十字架に磔になった。
 手足を縛り付けられ、釘までぶち込まれた。
 すげぇ痛いんだけど。

 もって、俺は磔になって晒された。
 頃合は、まだ来ていないのかなと思った。
しおりを挟む
感想 18

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ美少女転校生と共に体育倉庫に閉じ込められ、大問題になりましたが『結婚しています!』で乗り切った嘘のような本当の話

桜井正宗
青春
 ――結婚しています!  それは二人だけの秘密。  高校二年の遙と遥は結婚した。  近年法律が変わり、高校生(十六歳)からでも結婚できるようになっていた。だから、問題はなかった。  キッカケは、体育倉庫に閉じ込められた事件から始まった。校長先生に問い詰められ、とっさに誤魔化した。二人は退学の危機を乗り越える為に本当に結婚することにした。  ワケありヤンデレ美少女転校生の『小桜 遥』と”新婚生活”を開始する――。 *結婚要素あり *ヤンデレ要素あり

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

本能寺からの決死の脱出 ~尾張の大うつけ 織田信長 天下を統一す~

bekichi
歴史・時代
戦国時代の日本を背景に、織田信長の若き日の物語を語る。荒れ狂う風が尾張の大地を駆け巡る中、夜空の星々はこれから繰り広げられる壮絶な戦いの予兆のように輝いている。この混沌とした時代において、信長はまだ無名であったが、彼の野望はやがて天下を揺るがすことになる。信長は、父・信秀の治世に疑問を持ちながらも、独自の力を蓄え、異なる理想を追求し、反逆者とみなされることもあれば期待の星と讃えられることもあった。彼の目標は、乱世を統一し平和な時代を創ることにあった。物語は信長の足跡を追い、若き日の友情、父との確執、大名との駆け引きを描く。信長の人生は、斎藤道三、明智光秀、羽柴秀吉、徳川家康、伊達政宗といった時代の英傑たちとの交流とともに、一つの大きな物語を形成する。この物語は、信長の未知なる野望の軌跡を描くものである。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【コミカライズ決定】勇者学園の西園寺オスカー~実力を隠して勇者学園を満喫する俺、美人生徒会長に目をつけられたので最強ムーブをかましたい~

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】 【第5回一二三書房Web小説大賞コミカライズ賞】 ~ポルカコミックスでの漫画化(コミカライズ)決定!~  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、カクヨム、pixivにも投稿中。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

処理中です...