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3.現代文明を再建できる?
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「私の名はエレーナ」
と、わたしを助けてくれた女の人は名乗った。
まあ、整った顔であるのだけど美人というより「男前」と言ったほうがいい感じの女性。
キュッとした眉にやや釣り目気味の目が印象的。
つーか、ここには男しかいなかったんじゃないか?
女の人いるじゃん。
「アナタが、公爵令嬢のアリシアね。よろしく」
「あ―― 今は元公爵令嬢ですけどねぇ~」
と、わたしは言った。
で、エレーカは私を檻から出すと、なにやらゴソッとかさばる何かを渡した。
「これは?」
「服よ。あなたの…… そのぉ、髪型は目立ちすぎるわ」
「はぁ。服ですか」
暗くてよく分からんのだけど、夜光の下で辛うじて「男物じゃないかな?」と思った。
「特に髪は切るつもりがなければ、これで隠して」
長い布を渡された。頭に巻けば確かに髪は隠れそう。
わたしはエレーカに手伝ってもらって金髪ドリルの髪を隠すようにして頭に布を巻く。
「で、ですね。ここに女の人いるんですね」
「まあ、いるけど…… 男の奴らにはばれないようにしているの」
ほう――と、思う。
女はいたのだ。
「女であることを隠して、ちょっと離れたところで暮らしているの」
「ひとりで?」
「そんなことあるわけないわ。そうね二〇人くらいの集団ね」
要するに、この流刑の島に女がいないというのは事実ではない。
女はいる。でも、女であることをなんとか隠して生きているらしい。
役人に薬をかがせ――あらゆる意味の、身体を含む賄賂でもって――ここに来る前に女であることを隠したのであって、そのような世事に疎いわたしは、完璧に女としてここに流刑になったわけだった。
(本当の中身は男であるのに……)
と、思ってもせん無きことだった。
ただ、エレーカの助けはまさに、地獄の血の池に下りてきたクモの糸だった。
とにかくわたしは、エレーカに連れられ、女だけが暮らす集落?というか、そんな場所に行くことになったのだ。
◇◇◇◇◇◇
「ここかぁ……」
そこは、わたしが船から見た場所だ。
そう。
高層ビル群のある廃墟の街。
そこを拠点として、確かに二〇人くらいの女の人が暮らしていた。
で、翌朝である。
わたしは、みんなの前で自己紹介することになった。
ちなみにエレーカがここのリーダーのようだった。
「お世話になります。アリシアといいます」
わたしの言葉に集まった女の人は力なくうなづく。
なんか、こう……
女ばかりというのに華やかさが全くない。
年齢は比較的若い人が多いようだけど、顔色が悪く、元気さ溌剌さが微塵も感じられない。
なんか、どんよりしていた。
「みんな、元気出して! 新しいメンバーが来たんだよ!」
「エレーカ…… 新しい人って…… ここで食べていけるの?」
「しょ、食料の蓄えも、あ、あまりないわよ……」
ああ、なんか分かってきた。
よく見れば、みんな痩せている。
女性にとって痩せたいという思いは異世界でも共通かもしれないが、彼女たちはダイエットで痩せているわけではなかった。
「アリシアは男どもに、女だと分かっていたのよ。放っておくわけにいかないわ」
はっきりとアリシアは言った。
夜は良く分からなかったけど、アリシアの身体も痩せている。
顔は整っているんだけど、女らしい柔らか味が感じられないというか、頬がそげていた。
「食べ物が無いんですか……」
恐る恐るわたしは訊いてみた。
答えは決まっているような気がした。
で、予想通りだった。
「ほら、あそこに畑を作っているけど…… どうにもね、土が悪いのよこのあたりは」
そりゃそうだった。
高層ビル群が崩れ落ち、大地には薄いコンクリートの砕け散った粉が層になっている。
元々、舗装もされていたのだろう。ゴロゴロとした石のようなものがびっしりと転がっている。
彼女たちが作ったという畑は、「畑のようなもの」にしか見えなかった。
「食べ物ができてるの? あの畑で?」
「駄目ね…… さほどの収穫はないし、森の中で木の実をとったり、川で魚をとったりだけど……」
エレーカは眉根にしわを寄せ言った。
わたしは檻から助けられたけど、助けられた先も楽園からは程遠かった。
「とにかく、男たちと長く接触したくなくて、男の多いところにはいけないの」
まあ、幸いというか不幸中の幸いなのか――
あまりものを食べていないせいで、女の人たちはぱっと見、女には見えないかもしれない。
「やっぱり…… 身体を……」
ひとりの女が口にした。
人類最古の商売について。
女には売るべきものがあるのは確かだ。
が――
「だめよ。殺されるわ」
「以前、それをやった人がどうなったか…… 精液便所の奴隷にされて、狂って死ぬわ。あいつら、女を人と思っていないのだから」
エレーカの言葉はなぜか中身が男のわたしにも突き刺さる。
まあ、わたしは肉便器にされかけたわけだけども。
しかしだ――
わたしは足元を見た。さびた金属、おそらく鉄骨だ。
それと、ガラスの破片もあった。
(この地で文明の再建。消えてしまった文明をもう一回作り直すことできるんじゃないかな)
と、思った。
さびた鉄材は、高純度の鉄鉱石以上だし、ガラスは溶かせば、何度も再利用できる。
鉄器があれば、農地の開拓も全然違ってくる。
少なくとも、この島には鉄器はないだろう。
わたしは思い返す。
男たちのリーダーであるグッデンも剣とか、鉄製の武器を持っている感じがなかった。
「あの、わたしが少し力になれるかもしれません」
わたしは前世に何をやっていたのか思い出せない。
でも、この環境なら、ある程度の文明再興ができるんじゃないかと思いつつあった。
何でか分からんけど。
と、わたしを助けてくれた女の人は名乗った。
まあ、整った顔であるのだけど美人というより「男前」と言ったほうがいい感じの女性。
キュッとした眉にやや釣り目気味の目が印象的。
つーか、ここには男しかいなかったんじゃないか?
女の人いるじゃん。
「アナタが、公爵令嬢のアリシアね。よろしく」
「あ―― 今は元公爵令嬢ですけどねぇ~」
と、わたしは言った。
で、エレーカは私を檻から出すと、なにやらゴソッとかさばる何かを渡した。
「これは?」
「服よ。あなたの…… そのぉ、髪型は目立ちすぎるわ」
「はぁ。服ですか」
暗くてよく分からんのだけど、夜光の下で辛うじて「男物じゃないかな?」と思った。
「特に髪は切るつもりがなければ、これで隠して」
長い布を渡された。頭に巻けば確かに髪は隠れそう。
わたしはエレーカに手伝ってもらって金髪ドリルの髪を隠すようにして頭に布を巻く。
「で、ですね。ここに女の人いるんですね」
「まあ、いるけど…… 男の奴らにはばれないようにしているの」
ほう――と、思う。
女はいたのだ。
「女であることを隠して、ちょっと離れたところで暮らしているの」
「ひとりで?」
「そんなことあるわけないわ。そうね二〇人くらいの集団ね」
要するに、この流刑の島に女がいないというのは事実ではない。
女はいる。でも、女であることをなんとか隠して生きているらしい。
役人に薬をかがせ――あらゆる意味の、身体を含む賄賂でもって――ここに来る前に女であることを隠したのであって、そのような世事に疎いわたしは、完璧に女としてここに流刑になったわけだった。
(本当の中身は男であるのに……)
と、思ってもせん無きことだった。
ただ、エレーカの助けはまさに、地獄の血の池に下りてきたクモの糸だった。
とにかくわたしは、エレーカに連れられ、女だけが暮らす集落?というか、そんな場所に行くことになったのだ。
◇◇◇◇◇◇
「ここかぁ……」
そこは、わたしが船から見た場所だ。
そう。
高層ビル群のある廃墟の街。
そこを拠点として、確かに二〇人くらいの女の人が暮らしていた。
で、翌朝である。
わたしは、みんなの前で自己紹介することになった。
ちなみにエレーカがここのリーダーのようだった。
「お世話になります。アリシアといいます」
わたしの言葉に集まった女の人は力なくうなづく。
なんか、こう……
女ばかりというのに華やかさが全くない。
年齢は比較的若い人が多いようだけど、顔色が悪く、元気さ溌剌さが微塵も感じられない。
なんか、どんよりしていた。
「みんな、元気出して! 新しいメンバーが来たんだよ!」
「エレーカ…… 新しい人って…… ここで食べていけるの?」
「しょ、食料の蓄えも、あ、あまりないわよ……」
ああ、なんか分かってきた。
よく見れば、みんな痩せている。
女性にとって痩せたいという思いは異世界でも共通かもしれないが、彼女たちはダイエットで痩せているわけではなかった。
「アリシアは男どもに、女だと分かっていたのよ。放っておくわけにいかないわ」
はっきりとアリシアは言った。
夜は良く分からなかったけど、アリシアの身体も痩せている。
顔は整っているんだけど、女らしい柔らか味が感じられないというか、頬がそげていた。
「食べ物が無いんですか……」
恐る恐るわたしは訊いてみた。
答えは決まっているような気がした。
で、予想通りだった。
「ほら、あそこに畑を作っているけど…… どうにもね、土が悪いのよこのあたりは」
そりゃそうだった。
高層ビル群が崩れ落ち、大地には薄いコンクリートの砕け散った粉が層になっている。
元々、舗装もされていたのだろう。ゴロゴロとした石のようなものがびっしりと転がっている。
彼女たちが作ったという畑は、「畑のようなもの」にしか見えなかった。
「食べ物ができてるの? あの畑で?」
「駄目ね…… さほどの収穫はないし、森の中で木の実をとったり、川で魚をとったりだけど……」
エレーカは眉根にしわを寄せ言った。
わたしは檻から助けられたけど、助けられた先も楽園からは程遠かった。
「とにかく、男たちと長く接触したくなくて、男の多いところにはいけないの」
まあ、幸いというか不幸中の幸いなのか――
あまりものを食べていないせいで、女の人たちはぱっと見、女には見えないかもしれない。
「やっぱり…… 身体を……」
ひとりの女が口にした。
人類最古の商売について。
女には売るべきものがあるのは確かだ。
が――
「だめよ。殺されるわ」
「以前、それをやった人がどうなったか…… 精液便所の奴隷にされて、狂って死ぬわ。あいつら、女を人と思っていないのだから」
エレーカの言葉はなぜか中身が男のわたしにも突き刺さる。
まあ、わたしは肉便器にされかけたわけだけども。
しかしだ――
わたしは足元を見た。さびた金属、おそらく鉄骨だ。
それと、ガラスの破片もあった。
(この地で文明の再建。消えてしまった文明をもう一回作り直すことできるんじゃないかな)
と、思った。
さびた鉄材は、高純度の鉄鉱石以上だし、ガラスは溶かせば、何度も再利用できる。
鉄器があれば、農地の開拓も全然違ってくる。
少なくとも、この島には鉄器はないだろう。
わたしは思い返す。
男たちのリーダーであるグッデンも剣とか、鉄製の武器を持っている感じがなかった。
「あの、わたしが少し力になれるかもしれません」
わたしは前世に何をやっていたのか思い出せない。
でも、この環境なら、ある程度の文明再興ができるんじゃないかと思いつつあった。
何でか分からんけど。
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