悪役令嬢は絶海の孤島に流刑になったので島を開拓することにしました

中七七三

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2.悪役令嬢から肉便器への転落か?

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「ワイが島名主のドワイド・グッデンである」

 日焼けした褐色の肌の男が言った。
 流刑となったわたしたちは、船から降りた。
 で、流人たちの代表の皆様と顔合わせしたのだけど、どの顔も凶悪さを突きぬけ、日本であれば「凶器準備集合罪」で連れて行かれそうな顔面造形の持ち主ばかりなのでたまらない。
 悪役令嬢の「悪役」なんて乙女ゲームの中の極めて狭い中の「悪役」であるな――と、実感できる凶悪さなのだ。

 たまらん。
 怖い。
 ちびりそう。

 わたしは、恐怖から逃れるように視線を逸らした。
 凶悪な顔面が並んでいるのを見せ付けられるのは環境セクハラと主張してもいいのではないかと思う。
 わたしは、公爵令嬢で悪役令嬢ではなくなったが肉体は女であることは間違いない。
 前世は男であるけども……

 船着場から近くの広場、小さな村のようなになっている。
 超高層ビルの廃墟はここからでも見える。
 どうも、一棟だけでなく、摩天楼の残骸という感じであるのが分かった。

(わたしは、前世になにをやっていたんか?)

 と、思う。前世が日本人であるということは思い出せる。
 断片的な経験の記憶もあるのだけど、自分の名前とか、職業とかなんで、こんなゲーム的異世界にいるのかは全く分からなかった。

「よそ見すんなよ、ドリル金髪のねーちゃん。ひひひひひ」

「あ、すいません」

 人類と言うにはあまり凶悪すぎる相貌を持った男が言った。
 はく息が黄ばみ、空気を汚染してる感じ。端的に言って凄く臭そうだった。

「とにかく、この島にきたら、ワイの命令が絶対だ! ええな?」

 島名主・ドワイドの土間声が響く。
 鼓膜が振るえ、腐っていきそうだった。

「でだ――」

 ばかでかい血走った目玉をぎょろっと、わたしに向ける島名主。

「女がこの島にくるのは。八年ぶり三回目だ……」

 ちょっと低迷していた高校野球名門校のように言われた。
 凶悪、凶状持ち、極悪非道の流人たちが「うひひひひひひ」と笑みを浮かべている。

(あああ、これは…… 乙女ゲーからエロゲーかぁ? 陵辱輪姦で「あふぁぁぁ♥ らめぇぇ 覚えちゃうの、精子の味を覚えて、おちんちんに堕ちちゃうのぉぉ♥」とか、いって白濁液まみれにされ、強制種付けプレスを食らって、受精し、孕んで、この島で精液便所の出産マシーンと化すかぁ~)
 
 と、常闇の底よりもさらに暗い圧倒的な絶望の中で、シクシクと泣きそうになる。
 悪役令嬢の象徴である縦ロール金髪ドリルはなにも役に立たない。

「アリシアと言ったな。女」

「はいそうです」

 わたしははっきり言って美貌の持ち主だ。
 少なくとも王子が夢中になるくらいの魅力があるわけで、このような野卑で野蛮な男たちには無縁というか、エベレストの頂上に咲くひまわりのような存在であろう。

「あ―― 公爵令嬢らしいなぁ。そんな高貴な女を抱けるなんて…… ひひひひ」

 高嶺の花で手が出ませんなんてことなく、もうやる気満々であり、男の股間のオットセイは「やるぜ大将!」と言う感じで、ズボンの前を膨らませているものだから、気分はとてつもなく嫌になる。
 ただ、島名主の独占物であれば輪姦陵辱は無しであって「島名主の女」としてそれ相応の立場を確保できるのではないかとは思う。
 狂犬に噛まれ続けると思って我慢すればいけるやもしれんが――と、過酷な現状に適応せんがための考えも浮かんでくるのである。
 
 しかしだ――

「親分! ずるいですぜ、女を独り占めは!」

「そうですぜ。貴重な女です。皆で楽しみましょう」

「みんなの共有、公衆便所にしましょうよぉぉぉ。ひひひひ」


 カチャカチャとベルトを外し、おもむろに己の物をズボンから出して扱き出す野郎もいるのだからたまらない。
 はぁはぁ、言っている。

 端的にいって死刑の方がよかったんじゃないかな――とか思う。
 それくらいの地獄な感じ。

「うーん……」

 島名主は腕を組んで考え出した。
 どうも、島名主の圧倒的な独裁体制というわけではなく、ある程度、有力な流刑人による合議制の面もあるようだ。
 
(まあ、どちらにしても地獄だけど)
 
 と、改善の余地がありそうにない境遇に思いをめぐらせる。
 まだ島名主の愛人の方が、精神が破壊されないで済むかもしれないな――と、薄らぼんやり考えるくらい。

「よし、決めた!」

 島名主が言った。

        ◇◇◇◇◇◇

 というわけで、わたしはかび臭い、洞窟を利用した牢に入れられた。
 濃い塩味の、魚肉と雑草のような草の入った食事は出てきた。
 お腹が空いていたので全部食べたけど、前世も含めてこんなまずいものを食ったのは初めてだった。

「あーどうなるのかなぁ」

 と、ひとりで言って見た。
 女体化した体は、数日お風呂に入っていないのになんかいい匂いがした。
 自分のおっぱいをもんで見たけど、どうと言うこともないので止めた。

 結局、わたしをどうするかは決めることができず、決定するまで誰も手を出さないということだけが決まったのだ。
 で、わたしはその間、牢屋に入って監禁プレイを堪能させられることになった。

 臭くて薄い毛布のようなぼろきれを被ってわたしは寝る。
 寝る以外にやることがない。

「ん?」

 なにか外の気配が変わった気がした。
 薄闇の中、夜光しかない外の光景をわたしはじっとみた。

(見張りがいない……)

 見張りの男がいつの間にかいなくなっている。
 わたしは、ふとい木でできた格子に近づいた。

「大丈夫?」
 
 不意に声をかけられた。

「え? なんですか?」

「助けに来たの」

 薄い夜光の中でも分かった。
 そもそも声で分かった。
 それは、女の人だった―― 

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