科学チートで江戸大改革! 俺は田沼意次のブレーンで現代と江戸を行ったり来たり

中七七三

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49.現代における大きな問題点

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 神田川から用水路を造って水車小屋の建設が進んでいる。
 以前から田沼意次に提案していた「江戸城電化計画」が実行に移されたのだ。
 工事現場、江戸の言葉で言うなら「普請」の現場か――
 俺と源内さん、そして護衛の市山結花はその場にやってきた。
 もう、工事は結構進んでいるようだった。
 しかしだ…… 

「どうしたんでぇ。ワタル殿」
「いえ、別に……」
「そうかい、ま、普請は順調なようじゃねぇか」
「そうですね」
「後は、未来から莫迦でけぇ、エレキテル(発電機)を持ってくりゃいいだけだ」

「土岐先生、水車からエレキテル(電気)を作るのですか?」

 俺と源内さんの後ろで周囲を警戒していた市山結花が口を開いた。
 江戸時代では、発電機も電気も揃って「エレキテル」なのでややこしい。

「まあ、そうだけど……」
「ほぅ」、と感心したように市山結花は息を漏らす。なんか、いい匂いのしそうな息。

 刃物のように磨かれた黒曜石のような瞳を、現場に向けた。俺は彼女の横顔を見つめる。
 流麗で鋭さも感じさせる鼻梁は、江戸時代の女性としては異例中の異例だろう。
 二十一世紀に来ても振り向く男が続出するレベルの美女。でもって無茶苦茶強い。
 俺が雇っている身辺護衛の女剣士だ。

 江戸城内の政治情勢は田沼派が圧倒的な力を持っている。
 しかし、あまりの権力の強さに反発する勢力がないわけではない。
 政敵は存在する。
 で、田沼の政敵が俺を狙う可能性は低いかもしれないが絶対はない。
 そんなことで、雇った凄腕の女剣士が市山結花だ。
 田沼意次の隠し子の噂もあるのだが……
 そのあたりはあまり考えたくない。

「ああ、早く未来のエレキテルみてみてぇなぁ~」

 源内さんが、身の内に濃縮された好奇心を漏らすような声で言った。
 この天才は下手すると見るだけではなく分解、解析してしまいそうな勢いだ。
 
「このまま行けば、一月くらいでエレキテル(発電機)が付けられるんじゃねぇかい」
「そうですか?」
「そりゃ、田沼様肝いりで普請してるんだからなぁ。人足の数も多いぜ」

 確かに水車の工事現場では多くの人が働いている。
 幕府肝いりの普請《じぎょう》ということで、警護の侍もかなりいる。
 ちらちらとこちらを見ている侍もいるが、その視線の先は俺ではなく、結花の方だった。
 無茶苦茶目を惹くから、ひっそりと護衛するのは無理な話だ。

 とりあえず、江戸城電化計画は十八世紀の時代では進捗良好だった。
 それが良いのか悪いのか――
 工事が進むのは悪くはないのだが……

「ワタル殿さっきからノリが悪いじゃねぇか。なんか問題でもあるんかい?」
「こっちの時代(江戸時代)にはなんの問題もないですけどね」
「するってぇと……」
「そう、ちょっと未来(現代)の方に」
「ふ~ん」

 源内さんはこのやり取りだけで何か察したように口を噤んだ。

 江戸城にエレキテルを流し、灯りをつけるという「江戸城電化計画」は大きな反対がなく進んでいるようだ。
 いや、反対するしない以前に理屈がよく分かっていないのかもしれない。
 ただ、高価な油、蝋燭の消費を抑え、経費が削減できる利点が強調されたもかもしれない。
 特に大奥にとてっては、生活が便利になるのは大歓迎だろう。
 江戸時代、大奥の政治的発言権は結構大きいはずだ。
 そして、この計画を主導しているのは、この時代最強の権力者、田沼意次だ。

「頭の固てぇ、幕府の役人も銭がかからないとなりゃ、エレキテルの良さを認めるだろうぜ」

 江戸時代最高のエレキテルの専門家である平賀源内が俺の思いを肯定するような言葉を口にした。
 確かにエレキテルには大きな利点もあるし、江戸城に現代の科学技術の成果物が導入される意味はすごく大きい。

 江戸は水路が張り巡らされた都市なので、水車の設置場所に困ることは無かった。
 現代で問題になる土地買収とか環境への配慮とか、そんなものは江戸時代には無い。
 で、やるとなったら工事はどんどん進んでいく。

 しかしだ――
 問題はある。現代の方に。

 そもそも小型の水力発電機を買うための現代の資金が危ういのだ。
 買えないことはないが、結構高い。
 そして、それなりに複雑な機械なので、業者を頼らず江戸時代で設置できるかという問題もある。

 機械にはメンテナンスが必要だ。どんな機械でも。
 で、そのために時渡りのトンネルを使い業者を江戸時代に連れてくるわけにはいかない。
 回転して電気を作るだけの仕組みなので大丈夫と思ったが、現実の見通しが甘かった。
 いくらチート天才・源内さんがいても一〇〇%出来る保障はない。

「いくら源内さんが天才でもなぁ……」
「ん? オレが天才なのは良いとして、『でもなぁ』ってななんでぇ?」

 思いが口の中でつぶやく言葉となって出てしまった。で、源内さんは聞き逃さない。

「これ、失敗したら不味いですよね」
「不味いなんてもんじゃねぇだろうなぁ。下手すりゃ田沼様失脚だぜ。へへへ」

 さも、面白そうに源内さんは恐ろしいことを言う。

「ワタル殿は、これかもしれねぇなぁ~」

 源内さんは、そう言って、芝居っ気たっぷりに腹を切るまねをした。
 冗談じゃねぇ。

「ま、大丈夫《でぇじょぶ》だろ。エレキテルってな回転してりゃなんとかなるんだからよ」

 指をくるくる回しながら源内さんが言う。確かに仕組みはその通りだ。
 ぶっ壊れたエレキテルをコピー製造しただけに、その本質は理解している。当然だ。

「そうですけどね。物が大きいですから。ちょっと心配なんですよ」
「はぁ? んなら、小せえ《ちい》のにすりゃいいだろ。未来ならあんだろ?」
「小さいのですか…… ありますけど、値段はそんなに変わらないというか水車で使うものはみんな複雑なんですよね~」

 資金不足のことは伏せ俺は源内さんに言った。

「じゃあ水車用じゃなくて良いんじゃねぇか。それじゃだめかい?」
「はぁ?」
「だからよう、オレが作ったこせぇたようなエレキテルだってあるんじゃねぇか。手でくるくる回すやつよ」
「あっ! そうかっ!」

 そうだ。確かにそうだ。水車は江戸時代の物でいい。
 その水車で生まれた回転力を使って発電すればいいんだ。
 それなら、なにも水力発電機に拘る必要ななかった。
 俺は「なに感心してんの? オレが天才なの当たり前だろ」って顔に書いてある源内さんを見つめた。
 いや、源内さんが天才というか、オレが方の方が迂闊うかつだったかもしれんが。

「人力発電機」だ。

 それに水車を連結すればいい。
 自転車を漕ぐようなタイプの人力発電機は非常用電源として売られている。
 ハリイ・ハリスンのSF小説「人間がいっぱい」で主人公の相部屋だった爺さんが、いつも漕いでいたようなのが今は売っているのだ。
 安いので複数用意できるし、安いので壊れたら交換すればいい。メンテナンスも江戸時代だけで可能だ。

「そうですね! 源内さん」
「なにがどうして、『そうですね』なのかは、よく分からねーが。オレが天才であることは確かだな」

 全く否定する気はない。俺はただ、カクカクとうなづくだけだ。

        ◇◇◇◇◇◇

「人力発電機をなんで思いつかなかったのかなぁ~」

 俺は自分の阿呆さ加減を言葉にして口の中でこねる。
 言い訳するなら、俺が自転車漕ぎを潜在意識で拒否していたのだろう。
 要するに、江戸時代には安いく「人力発電機」(災害用に使うペダルを漕いで発電するもの)を持ってくるのだ。
 水車の動力で何台かの人力発電機を連結し動かせば、江戸城を部分的に電化するくらいはできるだろう。
 もし壊れても、代えの発電機を用意しておくことができる。メンテナンスの心配も無い。
 計画はしょぼくなった感じは否めないが、確実だし費用も格段に安くなるだろう。

 それにだ――

「人力発電機なら単体でも売れるんじゃないか?」

 水車建設に働く人の多さを思い浮かべる。
 江戸時代では、物は高いが人件費は安いのだ。
 人の労力が一番安価なエネルギーとも言える。

「しかし、現代の資金の問題はどうにかしないとなぁ~」


 江戸での事業は上手くいっている。二十一世紀の物品の販売は好調で、かなりの数万両以上の手持ち資金がある。
 この工事も、その資金を投入しているのだけど余裕だ。
 印旛沼干拓工事でさえ二〇万両の工事費の予定だった。

 江戸時代では金はある。
 でも、それを現代で換金する方法がない。一気に日本円にできない。
 確かに、江戸から持ち込んだ、この時代にしか無い物品販売は収益を上げている。
 立ち上げたばかりのネット販売とすれば大成功の部類に入るだろう。
 しかし、江戸時代の社会を変えるほどのインパクトのある物を持ち込むには、現代の資金問題を何とかしないとだめだ。

「今後はどうするか……」

 俺は江戸時代の屋敷で、掻巻(かいまき)に包まってつぶやく。
 江戸時代では最高の品質のもので暖かい。

「無線機とか、いろいろ欲しい物はあるし、天然痘対策なんてどうするかって話もあるしなぁ……」

 今後、蝦夷地調査、開拓なんてことになれば、現代から持ち込みたい物品は山のようにある。
 寒さに強い稲の苗も持ち込みたい。現代の農機具も重量が許せば、持ち込みたい物だ。
 とにかく、明日は、江戸で仕入れた物を現代に運ぶ。で、現代で仕入れなど諸々やらねばならない。。
 この事業も、江戸時代のキャッシュフローは良くするが、現代の方がいまひとつだ。

「小判を日本円に出来ればいいんだよな~」

 ちびちびと小判を販売することは出来る。
 が、大量の小判を売ることは難しい。
 そもそも、どこでそんなものを入手したのか疑われたら困る。
 江戸時代の利益を現代にもってこれない。

「美術品を担保にして融資を受けるか……」

 以前、そんなことを考えていたが、忙しいのと、それをやっているノンバンクが元恋人――
 加藤峰子の勤める会社なので、今も何も動いていない。
 このまま、資金繰りに苦しめば、いずれその方法も検討せざる得ないか、と俺は思う。

 俺はこの問題を考えていたら、眠くなってきた。で、いつの間にか寝ていた。
 明日は現代に戻らねばならぬのだ。
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