科学チートで江戸大改革! 俺は田沼意次のブレーンで現代と江戸を行ったり来たり

中七七三

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3.まずは、田沼意次の失脚回避

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「大元帥明王様」
『なんでぇ? 土岐航ときわたるよぉ』

 相変わらず伝法な口調な閣下だった。
 
「ちょっと確認したいんですけど」
「なんでい?」
「『時渡りのスキル』についてですけど――」
 
 大元帥明王からもらった俺のチート能力「時渡りのスキル」。
 要するにタイムトンネル的なものを作り、俺の家と田沼意次の屋敷をつなぐ。
 でもって、1里(約4キロメートル)ほどを歩いて、現代と江戸を行き来できるというわけだ。

 その際に、持っている物を地べたにつけるとアウトというルールがある。
 それなのだが……

「なんで、靴はいいんですか?」

 俺は訊いた。靴はなぜそのルールの適用を受けないの? 
 なぜ?
 俺はその矛盾を突いたのだった。

『……』

 しばしの沈黙が続く。

『う…… ゴ、ゴムとか合成樹脂的な何か? そう、そんな感じなものはOK! そうしよう』

 大元帥明王は言った。
 靴の底の素材がゴムかどうかは俺は知らん。
 で、俺は更に突っ込む。
 
「えーと、そもそも地べたに付けて使うモノはOKじゃないんですか? 靴とか」
『う~ん…… そうだな―― そうするかぁ」
「じゃあ、リヤカーとか、自転車とか…… このあたりは?」

 俺は懇願に近い質問をした。
 リヤカー+自転車があれば、相当な重量物でも運べる。
 しかも、途中で休めるし。

 田沼意次をおんぶして歩き続ければ、彼を現代に連れて行ける。
 相互理解のために、現代を見てもらうというのは悪くない。

 しかしだ―――

 俺はそこで正座し、じっと懇願するように俺を見ている田沼意次をみやる。
 江戸時代には日本人の平均身長は、最低に縮んだ。
 田沼意次も大きくは無い。160センチ無いと思う。
 しかし、おんぶして4キロ歩くのはきつそうだ。

『う……、まあいいかぁ。リヤカー、自転車まではOKな。バイクは禁止な。自動車はサイズ的無理だしよぉ』

 なんという話の分かる大宇宙の根源法理を司る神なのだろうか。
 俺は感動した。まじで。話が分かるいい神だ。
 どうせ、俺は免許持っていないので、バイクとか車は関係ない。

「アリやーっす!!」
『ま、その調子で頑張ってな。田沼を助けてやれよ』
「分かりました!」
『俺りゃ、鎮護国家が任務だしよぉ。日本がすげぇってなるとマジで嬉しいのよ』
「日本国を変えます。マジで!」

 よっしやッ!
 俺はやるぜ――

 俺の気分はアゲアゲだ。
 タイムトンネルを作るチートのスキル。
 それに「リヤカー」と「自転車」があれば、歴史改変のために運べるモノも変わる。
 歴史改変はかなりやりやすいというか、自由度が高くなる。

『俺も忙しいんでな、今後は呼び出してもでれねぇからな。とにかく、後はオマエラでやれよ。じゃあな――』

 すっと空気の色が変わったというか、気配が消えた。
 宇宙の根源原理を司り、鎮護国家を任務とする大元帥明王はいなくなったようだ。

 俺と田沼意次がその場にふたりきりとなったのだ。

        ◇◇◇◇◇◇

「未来の日本に連れて行くのはいいんですが、その前にやるべきことがあります」
 
 俺の言葉に、田沼意次は「うむ」という感じで頷いた。
 
 江戸時代の武士は、基本的に毎日仕事をしたりしないのだ。
 下級武士でも隔日で仕事は半日とか仕事に追われることは無い。
 まあ、その間、アルバイトに精を出すのが下級武士だったわけだ。
 
 で、田沼意次のような老中の場合、どうか。
 老中は確か5~6人いる。で、月番で仕事をしていたはずなのだ。
 そもそも、藩の領主であるという、立場もある。
 時間的に縛られているわけではない。
 ただ、どうしても重要な事案があれば、合議を行っていた。

 江戸時代は専門ではないが、その程度は知っている。
 実際、田沼意次は今は非番というか「老中」の月番ではない。

「老中首座」も財務を担当するが、老中の議長みたいなもんで、結構簡単に失脚する。
 この田沼意次みたいに。
 まあ、今回はそれを回避し、日本を大きく変えるのが目標なわけだが。

 そう、具体的な目標だ――
 そいつを設定しないことには、なんともならん。
 グランドデザインというかプラン。
 そいつが無いと、だいたいにおいて失敗する。

 戦前の大日本帝國が迷走し、滅びの道をいった原因は様々だ。
 この辺りは、俺は専門なので、語れば止まらん。
 しかし、その一つが「国家目標の喪失」もしくは「設定ミス」にあったと思うのだ。

 要するに国家運営にあたっては「主導権」をもったミスのない目標の設定が必要ということだ。
 そいつを決めねばならない。

「息子さん、田沼意知様には、この秘密を共有してもらうべきでしょうね」
「うむ―― そうだな」

 田沼意次の後を継ぐべく、出世街道をまっしぐらだった田沼意知。
 彼の暗殺はなんとしても、回避しなければいけない。

 直近の目標は田沼政治の継続。
 失脚の回避だ。

 となれば、失脚の原因を明確にすること。
 回避策を打ち出す必要があるわけだ。
 そのために、21世紀から何を持ちこみ、何を実現していくかだ――

「俺もこの時代について、それほど多くの知識を持っているわけでないんですよ。準備は必要です」
「むぅ、そうであるのか」
「田沼意次の名は、俺の時代―― 230年くらい後でも多くの人に知られていますけどね」

 俺の言葉に少し嬉しそうな顔をする田沼意次。
 まあ、時代に名を残したと言われれば悪い気はしないだろう。

「あ~ 悪徳老中。賄賂老中。金に汚い最悪の政治家として――」
「ぬっぅ!! 何だと!! 貴殿! この田沼を愚弄するかッ!」

 一気に激怒。こめかみに血管を浮き上がらせ。怒鳴る田沼意次。
 ぐっと、立ちあがろうとする。腰に手を回すが、帯刀はしていない。
 してたら、俺だって言わねーよ。
 
 田沼意次は「ぬぬぬぬぬ」って感じで俺を見つめる。

「――ってのが、俺の子どもの頃の評判ですね。俺が大人になるころには『名君』と評されていますよ」

 俺は言葉を続けた。その言葉で、一気に表情が崩れる。
 
「いや…… 名君とか…… それほどでも無かろうよ――」

 照れて、後ろ頭をかく田沼意次。
 意外にこの人はチョロイのかもしれないと俺は思った。

「しかし、結果としては失脚しますよね。改革は失敗する――」
「ぬぅ…… 確かに…‥・」

「商業を盛んにさせて、長崎貿易で金銀の流出を防ぎ財政を立て直す。更には身分にとらわれない人材の登用。評価は高いです。でも運がない――」
「運か…… 確かにな……」

 田沼意次は思案気にしながら答える。

「浅間山の噴火。あれは避けられません。今回も起きますよ」
「ああ―― あれか……」

 苦々しい顔をして膝の上でグッと拳を握る田沼意次。
 
 田沼失脚の原因には、自然災害もある。
 とにかく運が悪いのだ。
 浅間山噴火による、噴煙が日差しを遮り農業生産に打撃を与えた。
 そして、天明だっけ? 飢饉があった。

 このときに、商人を徴用した政策が裏目に出た。
 初期資本主義の欠点が露呈。
 儲けることを第一優先とした商人が、米の価格を吊り上げていく。

 天災+人災だ。まあ、現代でもよくある。

 更には、時代的限界というか、物流が障壁ともなる。
 隣の藩で餓死者が続出しても、物資を融通して助け合うということができない。
 この時代の日本は「藩」という「経済的に独立」した連合国家といってもいい。

 印旛沼の干拓事業もそう。
 豪雨に見舞われ、工事は失敗する。

 実力主義の人材登用についても同じだ。
 確か、有名な平賀源内も彼のブレーンだったはず。

 自身が足軽出身だったせいか、身分に拘らない部分があるのだと思う。
 そしてそれが、旧守派の反発を招くわけだ。
 その中心が、「寛政の改革」を断行する松平定信だ。

「我が失脚したのち、幕府は……」

 田沼意次は俺を真正面から見つめて訊いてきた。
 ずいぶんと真っ直ぐな視線の人だと俺は思った。

「田沼意次さんが失脚した後ですね…… まあ、古い形の政治―― それを踏襲するばかりになります」
「松平定信殿か?」
「そうですね」

「確かに吉宗公の時代であれば、定信殿の主張する政治の有りようは正しかろう。しかし、世の理はもう吉宗公治世とは違うのだ。それが分からぬ者が多すぎる」

 胸の内にある怒りを無理やり抑えこんだように田沼意次は言った。
 この歴史に名を残す政治家は、時代という壁の中にいて後世の歴史学者の結論とほぼ同じ位置に立っていた。
 やはり、並みの政治家ではないのだ。

「とにかく、まずは、今後の対策―― 息子さんを含め話し合いましょう。それから未来を見る―― それが良いと思いますよ」

 まずは、基本的な認識の摺合せ。 
 そして、未来――俺からすれば現代――の事前知識も必要だ。
 いきなり、連れて行ったら、パニックになりかねん。
 俺にしても、この時代の知識は欲しい。

 俺の言葉を受け、田沼意次は思案気にしていた。
 そして口を開く。

「分かった。土岐航殿。まずは、我が息子を含め合議―― 確かにそこからであろうな」

 江戸時代屈指の開明的な政治家はそう言ったのだった。
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