科学チートで江戸大改革! 俺は田沼意次のブレーンで現代と江戸を行ったり来たり

中七七三

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36.高級料亭で、源内さんが訊いてきた

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 一八世紀には世界屈指の大都市となった江戸。人口は一〇〇万人を軽く超えていたという史料もある。
 参勤交代でやってくる武士、地方から就職する奉公人、出稼ぎの人間も多い。
 単身者が多いのも特徴だ。

 吉原から浅草の方に歩いていく。
 実際に街を歩いて見ても、江戸が一〇〇万都市かどうかはよく分からない。
 ただ、やはり人間はべらぼうに多いと思う。

 江戸は単身者。独身男性が多い。そのせいか、飲食店がやたらに多いのだ。
 屋台から、高級料亭まで。中には二一世紀から来た俺でも「ここ高い」だろうと一目で分かる料亭もあるのだ。
 現代でも残っている店もある。

 俺と源内さんと蔦重さんは、その滅茶苦茶高そうな店の前で止まった。
 俺は屋号をみた。なんか、見覚えのある店名だった。

(この店、現代でも残っていたんじゃね?)

 グルメマンガとかで「ガハハハ」とか笑う息子に厳しい食通が通っていた店で見たことあるような気がした。
 建物全体から「グルメオーラ」が湧きだし、空間を歪めていような感じの店だった。
 いわゆる「高級懐石料理」が出てきそうな店だ。

「あんまり高けぇ店も、肩がこるがよぉ、話すんにゃぁこれくらいじゃねぇとまじいか――」

 源内さんは、こめかみ辺りをポリポリとかいてそう言った。

「いいんじゃないですか。内々の話をするのであれば」
 
 平然と蔦重つたじゅうさんは言った。この人、元々金持ちなのだ。
 江戸でも屈指の版元。現代でいえば大出版社の社長みたいなものだ。

「ま、そうだな」

 そう言って源内さんが店に入る。
 平然と蔦重さんも続く。
 俺はおっかなびっくり店に入るのだった。

        ◇◇◇◇◇◇

「なにやってんでぇ? ワタル殿」

 高級料亭で個室である。こんなとこで飯を食ったことなど俺は無い。
 江戸時代であるが、部屋に満ちた高級そうなオーラ-は現代人の俺でも圧倒するパワーがあった。
 で、俺はガラケーを操作して動画モードで、撮影を開始したのである。

「あ、風景を写し取る機巧からくりですよ。源内さんは、パソコンで見てますよね。あれを写し取っているわけですよ」
「へぇ、そんなちっせぇ機巧でそれが出来るのかい? ちと見せてくれねぇかい?」
「ええ、いいですよ」

 俺は一端、録画モードを停止。
 今さっき撮影した部屋の中の動画を源内さんに見せる。

「ま、画面小さいですけど。こんな感じです」
「ほぉぉ、俺が映ってるじゃねぇか。すげぇなぁ! おおお、蔦重、オメェも映ってるぜ。ハハハ、面白れぇ」
 
 子ども様な笑顔を見せ、平賀源内が言った。この天才が天才たる部分。
 こういった機器を見せたときの原理を解析する能力だ。

「ワタル殿ちょっといいかい?」

 当然、そう言いだすと思っていたので、俺はガラケーを差し出す。
 源内さんは「お、こっちにもギヤマンか……。 ちゅーと、ここから風景を写し取っているわけだな」と呟くように言った。

「どうやったら、風景を映しとれるんだい?」

 源内さんは、新しいおもちゃを手にした子どものように目を輝かせ俺に訊いてくる。
 俺は、動画の撮影方法の手順を教える。数回ボタンを押すだけなので、操作は簡単だ。
 
 蔦重さんも後ろから覗きこむが、何をしているのか理解できていないようだった。
 ただ息を飲んでジッと見つめていた。

「――で、このボタンで停止します」
「ほう、やっていいかい?」
「いいですよ」

 源内さんは、俺と蔦重さんにガラケーを向ける。

「あはははは、映ってやがるぜ。蔦重のアホウ面がよぉぉ。おめぇ太りすぎじゃね? あらためて見ると」

「え? 私が? なんです?」

「おお、今見せてやるよぉ」

 源内さんは手慣れた感じで、ガラケーを操作する。

 さっき一回教えただけなのに、なんでずっと使っていたかのように使えるのか?
 とにかく、機械の仕組みとか動作の理屈を見抜く能力がチート。 
 それがあるせいか、手慣れた操作で今録画した動画を再生し蔦重さんに見せる。

「おあぁぁぁああ!! 私がぁぁぁ!! なんで、箱の中にぃぃ!!」

 まともな一八世紀人の反応を見せる蔦重さん。
 これでも、この世界ではトップクラスの文化人。
 一応、二一世紀の商品も扱っている人間であるが、それは見た目に単純なものばかりだった。
 写真すら見たことない人間に、動画を見せればこうなるのは、分かりきっている。

「単なる機巧だよ。おそらく、鏡みたいなもんで風景を写す。で、その写したまんまの絵をそのまんま、固めちまう。で、それを写したモノが動くたびに鏡に連続して固めてるのかな…… で、それを順番にギヤマンに写しだしゃ、動くように見えるんじゃねぇのかい?」

「ハァ…… こんな小さな箱で? なんですかそれ?」
「まあ、例えだ。そんなようなことをやれば、多分出来るだろ」
「うーん……」

 その説明で蔦重さんは腕を組んで上を向いた。なにかブツブツ言っている。
 なんか「凄い売れる…… 絵師がいらなくなる。そのまま現場を映して売る…… ああ…… 動く『春画』ができる……」とか聞こえた。
 蔦重さんは原理よりも、それで「何ができるのか」を考えているようだった。

 呟きから、映像を売り出すことを思い描いているような気がした。
 なんか、こうアダルティックな「動く春画」とか考えてるようだ。
 それもろ、エロ動画だし。
 江戸時代にエロ動画とかは、さすがに行きすぎだ。

 しかし、恐るべきはこの天才だ。
 平賀源内――

 俺は、頭の中には何枚もの鏡がずらっと並んだ光景を思い浮かべていた。源内さんの説明だ。
 そして、その発想に驚いた。というより「驚愕」とか「戦慄」というような言葉の方が俺の今の近いかもしれん。
 当たってはいないが…… 
 全然当たっていはいないんだが、なんかこう動画の作成する流れというかメカニズムの本質を掴んでいるような気がしたからだ
 
「ワタル殿――」
「なんです、源内さん」
「オレ、これ欲しいんだけどぉ!」
「あ、私も! 私も欲しいです! 何千両でも出しますからぁぁ!!」

 源内さんはいつも通りのおねだり。
 蔦重さんは目の色を変えて食いついてきた。

        ◇◇◇◇◇◇

 写真もない時代に、いきなり動画を持ちこむのは早すぎる。 
 まずやるなら、写真機を持ってくるべきか?
 とにかく、ガラケーの件は「考えさせてください」ということで保留とした。

 で、料理が出てきた。
 卵焼きとか、卵を使った料理、そして、白身魚の料理だ。
 決して不味くはないのだろうが、こういった高級料理を解析する味覚が俺にはないので何とも言えない。
 とりあえず、撮影はしておく。

「調味料とか…… それも商売になるかな」

 醤油、味噌、出汁、胡椒こしょうは…… 確かあったか。
 俺は二一世紀から持ち込めそうな調味料を思い描く。
 化学調味の類とか、カレー粉とか、マヨネーズとか……

「む、なにか? 面白い商売のネタでもありましたか? 土岐様」
 
 蔦重さんが「商売」というワードを聞き逃さない。
 さすが、金儲けのプロ。江戸の屈指のプロデューサだ。

「いや、蔦重さん、ああ、料理の本は結構売れますかね?」
「ああ、売れますよ。それほど種類は多くないですけどね」
「新しい、今までにない料理を思いつきまして……」
「ほう……」

 俺は一応訊いたのだが、確か江戸時代にその種のレシピ本がヒットしたのは知っている。
 有名なのは「豆腐百珍」か。ただ、この時代(安永八年(1779年))にすでに出ていたかどうかまでは覚えていない。

「ま、料理の話は、また今度でいいじゃねぇか――」

 源内さんが卵焼きみたいなものを摘まみながら言った。
 そういえば、この時代は卵も高級なのだった。

(生卵は無理でも「乾燥卵」なら運び込めるな。大量に…… これ、長い航海をするオランダ相手にも売れるんじゃね?)

「よぉ、ワタル殿。なに見つめてるんだい? オメェさんのもあるじゃねぇか」
 
 源内さんの声に、我に返る俺。あれも、これも、やっていたら大変だ。
 ただ、「乾燥卵」はちょっと持ち込む商品のラインナップに考えようと思った。
 で、俺は江戸時代の卵焼きを口に運ぶ。確かに旨かったが、卵焼きは卵焼きだ。

「鉱山の方だがな、まだ結構、金はかかりそうだな……」

「え? 順調じゃなかったんですか。金銀出たんですよね」

「ああ、ただ、ガチっと鉱脈にぶち当あたるには、もう少しだな。まだ、これからだ」

「そうですか」

 となると、さっき見せてもらった金鉱石は試掘レベルででてきたものかもしれない。
 それでも、出ることは間違いないのだから大丈夫だろう。

「今んとこは、予算内で出来そうであるがよ…… 本当は、もうちっと安くできると思ってたんだがなぁ……」

 源内さんは、煙管を取り出し100円ライターで火をつけ咥えた。

金子きんすの用立てなら、問題はありませんが」

 蔦重さんは、平然と言った。そりゃ、ガラケーに何千両とか言いだすのだから、金には困っていない。

「おう、そんときゃ、頼むぜ」
 
 源内さんは煙管の灰をトンと落とすと言葉を続けた。

「人足の工賃がばかにならねぇんだよな。こればっかりはケチれねぇしよぉ」

 源内さんの話では、鉱山で働く人間は結構賃金が高いということ。
「友子制度」という鉱山夫の組合が存在しており、結構強気な値段を言ってきているのだ。
 確かに田沼政権下では、好景気であり、好景気はインフレを伴う。
 賃金が思いのほか高くなっていたようだ。

 バックに田沼意次がいるとはいえ、川越藩の了解を得て、個人で掘っているわけだ。
 よって、罪人などを人足に投入することはできない。

「ま、一気に掘るには人を集めなきゃならなかったから、仕方ねぇがな」

 で、一気に掘り進めるために人を集めなければならなかったので、更に賃金は高くなっている。
 ただ、その分、地下水の排出などは、高低差を利用してなんとか出来そうとのことだ。

「水替人足は節約できたんで、トントンくれぇかなぁ」

 鉱山で働く人足も色々な種類がいる。
 水替人足とは、地下水の汲みだしを行う人足のことだ。

「まあ、宿とか飯盛り女の手配とかな…… 人足だけじゃ済まないが、ま、それはいいんだ。なあ、ワタル殿」

「なんですか?」

「蒸気を使った機巧ってのは、こさえるのは大変てぇへんかい?」

 源内さんは唐突に訊いてきたのだった。
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