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「土岐先生、なんで田沼意次だけ『田沼の改革』じゃなんですかぁ?」
いきなり鋭い質問をブン投げてきたのは、俺の生徒だ。
答えることはできる。できるのだが、中学生相手に教えて「オマエは歴史について語りすぎる」と塾長に言われてしまうかもしれん。
俺は塾の講師であり、塾は生徒のテストの点を上げたり、志望校に合格させたりするためにある。
よって、その範囲を超える話は無駄ではあるのだ。
(まあ、深く知ることで覚えることもあるか――)
俺はそう思って説明をする。
「江戸の三大改革は知っているよな」
「徳川吉宗の『享保の改革』、松平定信の『寛政の改革』、水野忠邦の『天保の改革』」
生徒はスラスラと答える。この生徒は歴史が得意なのだ。
得意なだけに、こっちも突っ込んだことを教えてしまいたくなる。
「その三つに共通する特徴は何だ?」
「え? それは……」
「農業の重視だな。農家の作る米が当時の幕府の財源だ。だから、農業が重視される」
「ふーん」
「で、それが要するに『正しい政治』、乱れた政治を正す『改革』って言う風に考えられたわけだ」
大雑把であるが、そう言った価値観があったのは事実だ。
この江戸の『改革』の前の時代というのが、町人文化の隆盛期に当たる。
それを乱れた社会とし、社会を絞めつけ、武士に文武を強要するのが「改革」っぽいという感じになっているのだろう。
「じゃあ、田沼はなんで?」
「まあ、今はそうではないが、昔は『世の中がワイロで乱れた』悪い政治を行った人とされていたわけだ」
「ふーん」
「株仲間の推奨とか、長崎貿易に俵物を使って黒字化させるとか、商人の力を利用して幕府を立て直そうとしたんだよ」
「で、商人からワイロをもらったんだ?」
「まあ、もらっただろうけど。江戸時代のワイロってのは、今みたいに悪いって感覚が無かったようだな。それに田沼意次が他のひとよりワイロをもらったって言う証拠もないんだ」
最近の教科書では田沼意次の政治はかなり好意的に書かれている。
「昭和」の教科書じゃ悪徳政治家の代名詞のように描かれていたが、それも変わってきた。
ただ「社会にワイロが横行した」という記述は残っている。
学者によっては、反論する人も多い。ただ、そんなことまで、中学生に話すことじゃないのだ。
「要するに、江戸の政治改革の違いをよく覚えておくってことが大事だな」
俺は話をまとめ講義を進めるのであった。
俺、土岐航は塾講師だ。
学生時代に始めたアルバイトから、そのままズルズルとつづけ正社員となった。
ちなみに正社員は俺だけの小さな塾で、他はパート・アルバイトの講師だ。
個別指導と集団指導の両方を行う塾で、今日は個別指導で三人生徒を教えている。
教科はバラバラ。少しは統一させてくれと塾長に行っているが、中々上手くいかないようだ。
最近は近くに大手進学塾が進出してきて、生徒や親に対し強いことが言いにくくなっているというのもある。
(そういえば、辞める生徒が最近増えたよな……)
生徒は担任制をとっており、俺の教えている生徒は辞めていない。
しかし、ポロポロと辞める生徒が増えているのは事実だ。
一応、唯一の正社員として、生徒の成績を上げるべく、テスト対策資料なども「無給」で作って他の講師にも渡している。
ただ、それが使われている形跡があまりなかったりする。
新学期も始まったばかりなのに、よくない感じが塾全体にあった。
俺もその事を時には感じていたのだった。
◇◇◇◇◇◇
塾長に「土岐先生、話があるんだが、ちょっといいかな」と言われたのは、五月のゴールデンウィーク明けだった。
中学生に中間テスト対策の話かと俺は思った。
俺の作った計画を他の講師に無視されている気がしていた。
チクルようで嫌なのだが、組織として報告すべきかなと思っていたところだった。
「塾を閉じることにしようと思う。悪いんだけど――」
「え?」
経営がヤバいかなぁ~ ってのは薄々思っていたが、いきなり塾を閉じてしまうというのは、意外過ぎた。
大手の塾が進出してきたことで、生徒が集まらなくなっている。
おまけに、生徒が辞めて行くのも止まらない。
「君の給料もかなり高いしさぁ―― 学生時代から頑張ってもらっているから……」
塾長はすまなそうに言った。まあ、確かに二〇代後半の同世代の人間よりも俺は給料が多いだろう。
ただ、それなりに成果は上げてたつもりだ。
「後、他の先生にも、色々言っているよね。君の言っていることは分かるんだけど、言い方とか―― 年上の人も多いし」
塾長の言っていることも分からんではない。
しかし、なんというか、間違い教えたり、生徒の前で「ちょっと待って」と言ったり、最悪「今分からない」と言い出したりする講師が多すぎるのだ。
講義の準備もしないで、適当にやっている人が多すぎる。
だから、講義が終わった後に「やんわり」と指摘していたのだ。
それだって、俺は言いたくはない。ただ、それを言うのが仕事だろうと思っている。
「君、アレだろぉー 〇大出ているだろぉ」
「そうですけど」
「それだけに、言い方に気を付けないと、相手もねぇ……」
「はぁ……」
そんなもんは、俺のせいじゃない。
知るかという話だ。
「先生の中には『〇大出て、こんなとこにいるなんて、変な人じゃないですか?』とかいう人もいるんだよ。まあ、俺は怒ったけどね。そんな奴は――」
俺の顔色が変わったせいなのか、俺を庇ってるんだよ的な台詞を吐く塾長。
しかし、なんの慰めにもならんのだ。
塾は潰れるのである。そして、俺は失業者になることが確定したのだった。
◇◇◇◇◇◇
「あら、そうなの―― それは残念ね……」
細く白い優雅な指でストローを摘まみ、アイスコーヒーをかき混ぜながら彼女は言った。
この場合「彼女」とは三人称的な意味と、俺と付き合っている「彼女」と両方の意味がある。
「残念なんてもんじゃないけどね」
俺はそう言うと、煽るようにアイスコーヒーを一気飲みした。
口の中に入ってきた氷をガリガリと砕く。
「〇大出身で、二〇代で失業してしまうなんて―― ダメだわ」
「ダメと言われてもさぁ。峰子」
俺が付き合っている加藤峰子は、俺より二つ上。
メガネの似合う胸の大きな女だ。
ちょっとクールな感じのするお姉さまだった。
「ダメなのは、私の方よ。私の見る目がダメだったわ――」
「はい?」
「このご時世、再就職は厳しいと思うわ。でも、頑張ってね」
そう言って彼女はアイスコーヒーの代金を置いて席を立った。
彼女が自腹を切ったのを俺は初めて見た。
『大人の女はお金がかかる物なのよ――』というのが彼女持論だ。
デートの費用は全て俺が持っていた。
コーヒー一杯ですらだ。
だから、これは異常事態なのだ。
「おい、ちょっとなにそれ? なんで?」
「お別れよ―― 残念だけど」
彼女はそう言うと長い黒髪をふわり揺らし、俺に背を向けた。
俺、呆然――
(なにそれ。見た目だけじゃなく、中身もクールつーか‥…)
俺は、職を失い。
そして、彼女も失ったのだった。
◇◇◇◇◇◇
「アホウかぁぁぁ!!」
俺は自分の部屋のベッドに身を投げ出すと絶叫。
なんで、こうなるのだ?
少なくとも俺は努力してきたのだ。
手抜きは嫌いなのだ。確かに楽をしたいという思いが無いわけじゃない。
金も持ちになりたいし、女にもモテたい。
しかし、それは苦労の先に有るもんだろと思っている。
『塾もさぁ。ここだけじゃなくて、他にも教室作って、君に室長で役員にもなってもらわなきゃならないからさぁ』
とか、塾長に言われ、彼を信じ賭けたのだ。
まあ、給料もかなり高かった。当時は生徒がいっぱいいて、講義のコマを回すの大変だったのだ。
塾長は、元々中堅レベルの出版企画会社の社長で、多角経営の一環として塾を始めたらしい。
で、出版不況で本業がアカンようになり、塾が儲かるので、塾に一本にしたのだ。
『俺もこの塾に人生賭けているからさ』が口癖だった。クソが……
「がぁぁぁぁ!! イライラする――」
俺は気分を落ちつけるため、パソコンの電源を入れた。
まずは、メールをチェックした。
求人スカウトメールは来ていたが、どうにも俺に出来そうな仕事がない。
塾講師もチラホラあるが、正社員というのは無かった。
「くそ、原稿でも書くか……」
あんまりモチベが上がらない中、俺は専門だった近代史関係の論文をポチポチと書いていく。
明治維新から始まり、アジアで唯一の近代化をなしとげた大日本帝国。
それが、一九四五年に対米戦争の敗戦で崩壊する。
その過程、なぜそのような道のりをたどっていったのか。
そんな論文を書いているのだった。
俺は小説を書くのが趣味で、中学から大学まで書き続けていたのだが、どうにもやはり才能がないと分かった。
小説での人生一発逆転は無理だ。
で、文筆でやっていくなら、こういった研究の方で行くしかないかと思ったわけだ。
論文にも公募があり、優秀であれば出版もされる。
大学に戻ろうかとも考えたことがある。
しかし、出身大学には後輩のとんでもない女が残っている。
ヤバい女だ。関わり合いになりたくない。
で、それは止めた。
「そういえば、田沼時代か――」
ふと、いつの日だったか、生徒に質問されたことを思い出した。
明治維新によって成立した大日本帝国。
それは、ペリーによる開国が無かった場合、あり得たのか?
ふと、そんなことを思った。
幕府は組織的にヘロヘロにはなっていた。
しかし、ペリーを初めとする、欧米勢力の介入が無かったら、日本はどうだったのか?
「いや、それ以前に…… 早期の開国がなされていたらどうだったんだ?」
「鎖国」という概念は学者の間でも揺れている。
教科書でも、消えたり出たりという感じだ。
ただ、江戸幕府による管理貿易体制であるという点では間違いない。
その拡大の方向で、欧米への門戸を自然に開き、付き合うことは可能だったのか?
鎖国は日本を植民地化から守ったといわれる。
しかし、幕府の力がまだ強い時期の方が、直民地化の危険性は少ないのではないかと俺は思った。
欧米諸国の植民地化のやり口は、国内の内部対立を利用してというのが多い。
アジア諸国に、国民国家という意識が薄かったというのが弱点になった。
「田沼の時代に開国か……」
江戸時代、もし開国のチャンスがあったなら、田沼の時代だけだっただろう。
そんなことを思った。
田沼意次だけじゃない。
あの時代、多士済々の人材がいたはずだ。
平賀源内なんかが、代表的だろうし、蘭学の研究も大きく進んでいく時代だ。
欧米の国にポテンシャルで負けるレベルでは無かったのではないか?
そして――
もし、日本がその時代に開国に成功していたら――
この、日本はどんな国家となったのだろうか?
俺はふとそんなことを思った。
いきなり鋭い質問をブン投げてきたのは、俺の生徒だ。
答えることはできる。できるのだが、中学生相手に教えて「オマエは歴史について語りすぎる」と塾長に言われてしまうかもしれん。
俺は塾の講師であり、塾は生徒のテストの点を上げたり、志望校に合格させたりするためにある。
よって、その範囲を超える話は無駄ではあるのだ。
(まあ、深く知ることで覚えることもあるか――)
俺はそう思って説明をする。
「江戸の三大改革は知っているよな」
「徳川吉宗の『享保の改革』、松平定信の『寛政の改革』、水野忠邦の『天保の改革』」
生徒はスラスラと答える。この生徒は歴史が得意なのだ。
得意なだけに、こっちも突っ込んだことを教えてしまいたくなる。
「その三つに共通する特徴は何だ?」
「え? それは……」
「農業の重視だな。農家の作る米が当時の幕府の財源だ。だから、農業が重視される」
「ふーん」
「で、それが要するに『正しい政治』、乱れた政治を正す『改革』って言う風に考えられたわけだ」
大雑把であるが、そう言った価値観があったのは事実だ。
この江戸の『改革』の前の時代というのが、町人文化の隆盛期に当たる。
それを乱れた社会とし、社会を絞めつけ、武士に文武を強要するのが「改革」っぽいという感じになっているのだろう。
「じゃあ、田沼はなんで?」
「まあ、今はそうではないが、昔は『世の中がワイロで乱れた』悪い政治を行った人とされていたわけだ」
「ふーん」
「株仲間の推奨とか、長崎貿易に俵物を使って黒字化させるとか、商人の力を利用して幕府を立て直そうとしたんだよ」
「で、商人からワイロをもらったんだ?」
「まあ、もらっただろうけど。江戸時代のワイロってのは、今みたいに悪いって感覚が無かったようだな。それに田沼意次が他のひとよりワイロをもらったって言う証拠もないんだ」
最近の教科書では田沼意次の政治はかなり好意的に書かれている。
「昭和」の教科書じゃ悪徳政治家の代名詞のように描かれていたが、それも変わってきた。
ただ「社会にワイロが横行した」という記述は残っている。
学者によっては、反論する人も多い。ただ、そんなことまで、中学生に話すことじゃないのだ。
「要するに、江戸の政治改革の違いをよく覚えておくってことが大事だな」
俺は話をまとめ講義を進めるのであった。
俺、土岐航は塾講師だ。
学生時代に始めたアルバイトから、そのままズルズルとつづけ正社員となった。
ちなみに正社員は俺だけの小さな塾で、他はパート・アルバイトの講師だ。
個別指導と集団指導の両方を行う塾で、今日は個別指導で三人生徒を教えている。
教科はバラバラ。少しは統一させてくれと塾長に行っているが、中々上手くいかないようだ。
最近は近くに大手進学塾が進出してきて、生徒や親に対し強いことが言いにくくなっているというのもある。
(そういえば、辞める生徒が最近増えたよな……)
生徒は担任制をとっており、俺の教えている生徒は辞めていない。
しかし、ポロポロと辞める生徒が増えているのは事実だ。
一応、唯一の正社員として、生徒の成績を上げるべく、テスト対策資料なども「無給」で作って他の講師にも渡している。
ただ、それが使われている形跡があまりなかったりする。
新学期も始まったばかりなのに、よくない感じが塾全体にあった。
俺もその事を時には感じていたのだった。
◇◇◇◇◇◇
塾長に「土岐先生、話があるんだが、ちょっといいかな」と言われたのは、五月のゴールデンウィーク明けだった。
中学生に中間テスト対策の話かと俺は思った。
俺の作った計画を他の講師に無視されている気がしていた。
チクルようで嫌なのだが、組織として報告すべきかなと思っていたところだった。
「塾を閉じることにしようと思う。悪いんだけど――」
「え?」
経営がヤバいかなぁ~ ってのは薄々思っていたが、いきなり塾を閉じてしまうというのは、意外過ぎた。
大手の塾が進出してきたことで、生徒が集まらなくなっている。
おまけに、生徒が辞めて行くのも止まらない。
「君の給料もかなり高いしさぁ―― 学生時代から頑張ってもらっているから……」
塾長はすまなそうに言った。まあ、確かに二〇代後半の同世代の人間よりも俺は給料が多いだろう。
ただ、それなりに成果は上げてたつもりだ。
「後、他の先生にも、色々言っているよね。君の言っていることは分かるんだけど、言い方とか―― 年上の人も多いし」
塾長の言っていることも分からんではない。
しかし、なんというか、間違い教えたり、生徒の前で「ちょっと待って」と言ったり、最悪「今分からない」と言い出したりする講師が多すぎるのだ。
講義の準備もしないで、適当にやっている人が多すぎる。
だから、講義が終わった後に「やんわり」と指摘していたのだ。
それだって、俺は言いたくはない。ただ、それを言うのが仕事だろうと思っている。
「君、アレだろぉー 〇大出ているだろぉ」
「そうですけど」
「それだけに、言い方に気を付けないと、相手もねぇ……」
「はぁ……」
そんなもんは、俺のせいじゃない。
知るかという話だ。
「先生の中には『〇大出て、こんなとこにいるなんて、変な人じゃないですか?』とかいう人もいるんだよ。まあ、俺は怒ったけどね。そんな奴は――」
俺の顔色が変わったせいなのか、俺を庇ってるんだよ的な台詞を吐く塾長。
しかし、なんの慰めにもならんのだ。
塾は潰れるのである。そして、俺は失業者になることが確定したのだった。
◇◇◇◇◇◇
「あら、そうなの―― それは残念ね……」
細く白い優雅な指でストローを摘まみ、アイスコーヒーをかき混ぜながら彼女は言った。
この場合「彼女」とは三人称的な意味と、俺と付き合っている「彼女」と両方の意味がある。
「残念なんてもんじゃないけどね」
俺はそう言うと、煽るようにアイスコーヒーを一気飲みした。
口の中に入ってきた氷をガリガリと砕く。
「〇大出身で、二〇代で失業してしまうなんて―― ダメだわ」
「ダメと言われてもさぁ。峰子」
俺が付き合っている加藤峰子は、俺より二つ上。
メガネの似合う胸の大きな女だ。
ちょっとクールな感じのするお姉さまだった。
「ダメなのは、私の方よ。私の見る目がダメだったわ――」
「はい?」
「このご時世、再就職は厳しいと思うわ。でも、頑張ってね」
そう言って彼女はアイスコーヒーの代金を置いて席を立った。
彼女が自腹を切ったのを俺は初めて見た。
『大人の女はお金がかかる物なのよ――』というのが彼女持論だ。
デートの費用は全て俺が持っていた。
コーヒー一杯ですらだ。
だから、これは異常事態なのだ。
「おい、ちょっとなにそれ? なんで?」
「お別れよ―― 残念だけど」
彼女はそう言うと長い黒髪をふわり揺らし、俺に背を向けた。
俺、呆然――
(なにそれ。見た目だけじゃなく、中身もクールつーか‥…)
俺は、職を失い。
そして、彼女も失ったのだった。
◇◇◇◇◇◇
「アホウかぁぁぁ!!」
俺は自分の部屋のベッドに身を投げ出すと絶叫。
なんで、こうなるのだ?
少なくとも俺は努力してきたのだ。
手抜きは嫌いなのだ。確かに楽をしたいという思いが無いわけじゃない。
金も持ちになりたいし、女にもモテたい。
しかし、それは苦労の先に有るもんだろと思っている。
『塾もさぁ。ここだけじゃなくて、他にも教室作って、君に室長で役員にもなってもらわなきゃならないからさぁ』
とか、塾長に言われ、彼を信じ賭けたのだ。
まあ、給料もかなり高かった。当時は生徒がいっぱいいて、講義のコマを回すの大変だったのだ。
塾長は、元々中堅レベルの出版企画会社の社長で、多角経営の一環として塾を始めたらしい。
で、出版不況で本業がアカンようになり、塾が儲かるので、塾に一本にしたのだ。
『俺もこの塾に人生賭けているからさ』が口癖だった。クソが……
「がぁぁぁぁ!! イライラする――」
俺は気分を落ちつけるため、パソコンの電源を入れた。
まずは、メールをチェックした。
求人スカウトメールは来ていたが、どうにも俺に出来そうな仕事がない。
塾講師もチラホラあるが、正社員というのは無かった。
「くそ、原稿でも書くか……」
あんまりモチベが上がらない中、俺は専門だった近代史関係の論文をポチポチと書いていく。
明治維新から始まり、アジアで唯一の近代化をなしとげた大日本帝国。
それが、一九四五年に対米戦争の敗戦で崩壊する。
その過程、なぜそのような道のりをたどっていったのか。
そんな論文を書いているのだった。
俺は小説を書くのが趣味で、中学から大学まで書き続けていたのだが、どうにもやはり才能がないと分かった。
小説での人生一発逆転は無理だ。
で、文筆でやっていくなら、こういった研究の方で行くしかないかと思ったわけだ。
論文にも公募があり、優秀であれば出版もされる。
大学に戻ろうかとも考えたことがある。
しかし、出身大学には後輩のとんでもない女が残っている。
ヤバい女だ。関わり合いになりたくない。
で、それは止めた。
「そういえば、田沼時代か――」
ふと、いつの日だったか、生徒に質問されたことを思い出した。
明治維新によって成立した大日本帝国。
それは、ペリーによる開国が無かった場合、あり得たのか?
ふと、そんなことを思った。
幕府は組織的にヘロヘロにはなっていた。
しかし、ペリーを初めとする、欧米勢力の介入が無かったら、日本はどうだったのか?
「いや、それ以前に…… 早期の開国がなされていたらどうだったんだ?」
「鎖国」という概念は学者の間でも揺れている。
教科書でも、消えたり出たりという感じだ。
ただ、江戸幕府による管理貿易体制であるという点では間違いない。
その拡大の方向で、欧米への門戸を自然に開き、付き合うことは可能だったのか?
鎖国は日本を植民地化から守ったといわれる。
しかし、幕府の力がまだ強い時期の方が、直民地化の危険性は少ないのではないかと俺は思った。
欧米諸国の植民地化のやり口は、国内の内部対立を利用してというのが多い。
アジア諸国に、国民国家という意識が薄かったというのが弱点になった。
「田沼の時代に開国か……」
江戸時代、もし開国のチャンスがあったなら、田沼の時代だけだっただろう。
そんなことを思った。
田沼意次だけじゃない。
あの時代、多士済々の人材がいたはずだ。
平賀源内なんかが、代表的だろうし、蘭学の研究も大きく進んでいく時代だ。
欧米の国にポテンシャルで負けるレベルでは無かったのではないか?
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