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2.父母の思い
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「王家の裁断は下った。婚約破棄の上、アルトワ公爵家は取り潰しとする」
「そんな……」
「王家に弓引く、男爵夫妻の罪は許しがたい。追って処分は言い渡す」
王子の声音――
もはや、何を言っても無駄であることが分かるものだった。
「異論があるならば、力によって異議を申し立てよ。我が王家はいつでも受けて立つ!」
王子は決然と言い放った。
そして、公爵令嬢セラフィーナは、屋敷に戻ることになった。
屋敷の周囲は、王家の軍隊で完全に包囲されていた。
公爵家の者は下男、下女を含め、一歩も外に出ることはゆるされなかった。
王家の処分が決まるまで、屋敷に幽閉されることになった。
◇◇◇◇◇◇
幽閉から二日目――
「お父様、お母様!! お父様、お母様!! お父様、お母様!!」
セラフィーナは叫ぶ。涙声となり、父と母の名を連呼した。
父と母は重なり合うようにして倒れていた。
毒杯を煽り、自分で命を絶ったのだ。
公爵という高貴な身分――
身の潔白を死んで証明するという気であったのだろう。
もはや骸となった両親にすがり付き嗚咽を繰り返すセラフィーナ。
「お嬢様、なんと申し上げてよいか…… お気を強く」
背後から聞きなれた声。
「お母様! お父様が! こんな、こんなことって……」
「お嬢様……」
家宰《かさい》のネービスだった。
長年、公爵家の中のことを切り盛りしていた老紳士だ。
その声は暖かくはあったが、やはり悲しみの震えを感じさせた。
「ネービス…… こんな…… ひどい。酷すぎます」
ネービスは涙声となった美麗の公爵令嬢を見て、ゆっくりと頷く。
慈愛と憐憫のこもった眼差しであった。その目には涙の跡があった。
が、彼女にはそれに気づく余裕もなかった。
(ああ、私は…… もう、私も…… 私もお父様、お母様のところに……)
セラフィーナはよろよとした足取りでたち上がる。
よろけるセラフィーナを、ネービスが支えた。
「お嬢様、しっかりなさいませ。これを――」
ネービスはセラフィーナに硬く金属の温度のするものを手渡した。
「これは?」
それは棒に身を巻きつけた蛇の意匠のものだ。
白銀の光沢を持っている。手の中で重さを感じる。
何かの飾りのようなものだった。
「公爵夫人より、お渡しするようにと。そして、それを持って地下へと、そう申しておりました」
「お母様が? 地下に」
この屋敷には地下室があった。
しかし、立ち入ることは禁ぜられ、セラフィーナは生まれてから一度も立ち入ったことはない。
「お願いしたします。公爵様の無念を――、ご息女であるセラフィーナ様が……」
「いったい。なんですか? これをもって、地下に行くことが、なにを……」
「公爵家に伝わる秘伝が、そこに、困難にあったときの最後の手段であると、聞き及んでおります」
「そんな……」
セラフィーナにとって初めて聞くことであった。
「私も、すぐに公爵様の後を……」
つーっと老紳士の口から一筋の血が流れ落ちた。
「ネービス、あなたも! 毒をっ!?」
「左様にございます。遅効性ゆえ、苦しみまして二日ほどかけて逝こうかと思っております」
「ネービス! ネービス!」
「さあ、私の務めは果たしました。セラフィーナ様、地下へお早く――」
セラフィーナの手をネービスは握った。
死を決意した者の残り火のような温度が染み込んでくるかのようだった。
「そんな……」
「王家に弓引く、男爵夫妻の罪は許しがたい。追って処分は言い渡す」
王子の声音――
もはや、何を言っても無駄であることが分かるものだった。
「異論があるならば、力によって異議を申し立てよ。我が王家はいつでも受けて立つ!」
王子は決然と言い放った。
そして、公爵令嬢セラフィーナは、屋敷に戻ることになった。
屋敷の周囲は、王家の軍隊で完全に包囲されていた。
公爵家の者は下男、下女を含め、一歩も外に出ることはゆるされなかった。
王家の処分が決まるまで、屋敷に幽閉されることになった。
◇◇◇◇◇◇
幽閉から二日目――
「お父様、お母様!! お父様、お母様!! お父様、お母様!!」
セラフィーナは叫ぶ。涙声となり、父と母の名を連呼した。
父と母は重なり合うようにして倒れていた。
毒杯を煽り、自分で命を絶ったのだ。
公爵という高貴な身分――
身の潔白を死んで証明するという気であったのだろう。
もはや骸となった両親にすがり付き嗚咽を繰り返すセラフィーナ。
「お嬢様、なんと申し上げてよいか…… お気を強く」
背後から聞きなれた声。
「お母様! お父様が! こんな、こんなことって……」
「お嬢様……」
家宰《かさい》のネービスだった。
長年、公爵家の中のことを切り盛りしていた老紳士だ。
その声は暖かくはあったが、やはり悲しみの震えを感じさせた。
「ネービス…… こんな…… ひどい。酷すぎます」
ネービスは涙声となった美麗の公爵令嬢を見て、ゆっくりと頷く。
慈愛と憐憫のこもった眼差しであった。その目には涙の跡があった。
が、彼女にはそれに気づく余裕もなかった。
(ああ、私は…… もう、私も…… 私もお父様、お母様のところに……)
セラフィーナはよろよとした足取りでたち上がる。
よろけるセラフィーナを、ネービスが支えた。
「お嬢様、しっかりなさいませ。これを――」
ネービスはセラフィーナに硬く金属の温度のするものを手渡した。
「これは?」
それは棒に身を巻きつけた蛇の意匠のものだ。
白銀の光沢を持っている。手の中で重さを感じる。
何かの飾りのようなものだった。
「公爵夫人より、お渡しするようにと。そして、それを持って地下へと、そう申しておりました」
「お母様が? 地下に」
この屋敷には地下室があった。
しかし、立ち入ることは禁ぜられ、セラフィーナは生まれてから一度も立ち入ったことはない。
「お願いしたします。公爵様の無念を――、ご息女であるセラフィーナ様が……」
「いったい。なんですか? これをもって、地下に行くことが、なにを……」
「公爵家に伝わる秘伝が、そこに、困難にあったときの最後の手段であると、聞き及んでおります」
「そんな……」
セラフィーナにとって初めて聞くことであった。
「私も、すぐに公爵様の後を……」
つーっと老紳士の口から一筋の血が流れ落ちた。
「ネービス、あなたも! 毒をっ!?」
「左様にございます。遅効性ゆえ、苦しみまして二日ほどかけて逝こうかと思っております」
「ネービス! ネービス!」
「さあ、私の務めは果たしました。セラフィーナ様、地下へお早く――」
セラフィーナの手をネービスは握った。
死を決意した者の残り火のような温度が染み込んでくるかのようだった。
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