婚約破棄されし公爵令嬢は、魔の者と契り復讐をなす

中七七三

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3.地下に在りし不死者

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 泣き崩れ、心が折れそうになる。
 それでも、セラフィーナは地下に向かった。
 灯明皿の火がゆらゆらと揺れ、闇の中に薄い光の球を作り出していた。

「いったい、なにが…… お父様、お母様、ネービス……」

 下男、下女など身分の低いものはすでに屋敷から逃げ出していた。
 父と母が命をもって、公爵家に使える者の身を保障させていたのだ。

(なぜ、このようなことに)
 
 セラフィーナの胸の奥深くに、悲しみとは別の感情が生まれつつあった。
 その感情を、なんと呼べばいいのか? 
 セラフィーナには今のところ見当もつかなかった。

 階段を降り、奥の方まで進む。
 通路は一本しかなかった。
 そして大きな壁があった。
 行き止まりだ。
 
「どこかに、抜け道が?」

 灯明皿をかざし、石造りの壁を調べる。
 しかし、抜け道などありそうになかった。
 が――

「これは?」

 壁に小さなくぼみを見つけた。
 指でなぞり、灯明皿を近づける。
 炎の赤みの中、壁に刻まれたくぼみが明瞭になった。

「このヘビの……」
 
 くぼみは、今手にしているヘビの意匠の飾りと一致するように思えた。
 
 セラフィーナはそれをゆっくりと壁に押しはめた。

 重い物がこすれる「ギィーーッ」という音。
 そして、ゆっくりと壁が回転した。
 壁の向こうに行ける。壁の向こうにはまだ空間があった。
 セラフィーナは、その闇に包まれた空間に歩を進めた。
 闇に染まった空間が仄かに明るくなる。

「なに? 誰?」

 薄明かりの向こう。
 反対側の壁に、何かがいた。
 鎖に四肢を捕らえられ、壁を背に座っている何か。
 それは、人の形をしているようであり、それであっても人のような雰囲気をもっていなかった。

 闇の奥で、ゆっくりと何かが動いた。
 顔だ。頭―― 
 それをセラフィーナに向けたのだ。

「あなたは…… いったい……」

 口に出た言葉が震えていた。
 父母の遺言の通り、地下に来たものの、このような者と出会うとは思ってもいなかった。

「あ―― オマエか、…… ああ、い、いよ。訊いて、る。願い、を、聞いてや、る」

 言葉を発した。
 途切れ途切れ、千切って捨てるような物言いだったが明らかに人の言葉だった。

「なに、あなたは? いったい」

 セラフィーナは震えながらも鎖に繋がれた「男」に近づいていた。
 声音、そして灯りの中で見える姿は男のものであった。

「故あり、アルトワの者に助力することになっている――」

 この男は何を言っているのか?
 何者なのか? 
 地下に何年幽閉されていたのか?
 
 次から次へと疑問が浮かび上がり、頭の中がいっぱいになっていく。
 セラフィーナはその疑問を整理できずただ黙っているだけだった。
 男はじゃらじゃらと鎖を鳴らし立ち上がった。
「ただ、条件がある。公爵家の血を引くオマエが、おれと契ることだ」

「契る?」

「ああ、契るのだよ。そうすれば、願いは全て叶えてやろう。不死王・アゴールの名において――」

(不死王……)

 炎が揺れる。
 いや、セラフィーナの手が震えていた。

「なかなかに美しい。まずは、おれを解放せよ。契りの約定を」

「なにを……」

「我が唇に、オマエの唇を重ねよ」

 封印されし不死王・アゴールは静かに言った。
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