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42.甘く囁く宣戦布告
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ボクは百鬼先生の前に立っていた。
ふたりきりで。
まったくロマンチックではなく、これから百鬼先生と戦うことになる。
地下闘技場――
なんでも有りの戦いだ。
結果としてボクが殺されるか、一生治らない傷を負うかもしれない。
それでも、ボクは先生と戦われなければいけない。
先生をボクの恋人とするために――
百鬼先生は美しい。
いや「美しい」という言葉すら陳腐化するほどの圧倒的存在だった。
吸い込まれそうな双眸がじっとボクを見つめている。
黒水晶を思わせる瞳。
瞳を縁取る長い睫毛は、妖しさと憂いを感じさせる。
ただ、静かにボクを見つめる。
これからボクと仕合うという感じじゃない。
燐光を帯びたかのような長い髪を高く結わいている。
長い手足、長身、抜群で完璧なフォルムのプロポーション。
「百鬼薙子……」
呼び捨てにしてみた。先生の名前。
口の中で転がす。その響に甘い味がした。
不思議な雰囲気をもった先生だった。
その印象は最初から変らない。
ただジッとボクを見つめている。
水面に映る月のように、静かにボクを見つめている。
ボクの胸内には先生に対する数限りない思いが浮かぶ。
好きだと思う。
綺麗だと思う。
先生を恋人にしたい――
そのために先生を倒す――
でも、そんな思いは浮かんだ瞬間、目の前の存在の前に消し飛んでしまうような気がした。
先生は桜色の唇を僅かに動かした。
「御楯君、アナタから来ないのかしら?」
ボクを見つめる瞳にはなんの変化もない。
静かにただ、ボクをそのまま見ている。
その瞳に心が奪われそうになる。
「私の方からいってもいいの」
唇に微笑みといっていいものを含ませながら先生は言った。
その言葉は優しげであり、一切の敵意、殺意を感じさせないものだった。
むしろ、痺れるような大人の女の香りがした。
(本当に、僕はこれから先生と――戦うのだろうか――)
一瞬思う。
毛先ほどの一瞬。
その瞬間だった。
始まった。戦い、仕合――
ボクは先生を一瞬見失う。
それほどまでに先生は速かった。
一瞬――
刹那――
瞬間移動のようにして先生はボクの間合いを突き破り、タックルをしかけてきた。
ボクの身体に先生の身体が触れた。
その瞬間が、スローモーションのようにボクの網膜に映る。
でも、身体が動かない。
ゆっくりと、ポニーテールの長い髪が舞うのが見えた。
映画かCMのワンシーンのように……
ボクは簡単にひっくり返される。
仰向けに。
なんにも抵抗ができなかった。
ただ、頭が痺れるような先生の甘い匂いが鼻腔に流れ込んでくる。
先生は馬乗りになるとボクに上半身を密着させてきた。
ボクの頭をぐいっと抱えこんでくる。
凄い力だった。今まで戦ってきた相手とはレベルが違う。
身動きが全くできない。
細身の身体のどこにそんなパワーがあるのか、全くわからない。
柔らかく傷ひとつない滑るような肌をもった先生の腕が絡みつく。
まるで、大蛇が巻きついてきているかのようだった。
先生はすっと頭をボクに近づけた。
(えッ?)
どんな攻撃が来るのか、ボクは身を硬くした。
先生の腕を掴み振り払おうとする。戦いの中でなければ絶対にしないことだ。
でも、びくとも動かない。
先生はボクの耳元に唇を近づけた。
呟く。
甘く、蕩けるような声音のまま。
「色々やっちゃうから、覚悟してね」
それは、脳が痺れるような宣戦布告だった。
ふたりきりで。
まったくロマンチックではなく、これから百鬼先生と戦うことになる。
地下闘技場――
なんでも有りの戦いだ。
結果としてボクが殺されるか、一生治らない傷を負うかもしれない。
それでも、ボクは先生と戦われなければいけない。
先生をボクの恋人とするために――
百鬼先生は美しい。
いや「美しい」という言葉すら陳腐化するほどの圧倒的存在だった。
吸い込まれそうな双眸がじっとボクを見つめている。
黒水晶を思わせる瞳。
瞳を縁取る長い睫毛は、妖しさと憂いを感じさせる。
ただ、静かにボクを見つめる。
これからボクと仕合うという感じじゃない。
燐光を帯びたかのような長い髪を高く結わいている。
長い手足、長身、抜群で完璧なフォルムのプロポーション。
「百鬼薙子……」
呼び捨てにしてみた。先生の名前。
口の中で転がす。その響に甘い味がした。
不思議な雰囲気をもった先生だった。
その印象は最初から変らない。
ただジッとボクを見つめている。
水面に映る月のように、静かにボクを見つめている。
ボクの胸内には先生に対する数限りない思いが浮かぶ。
好きだと思う。
綺麗だと思う。
先生を恋人にしたい――
そのために先生を倒す――
でも、そんな思いは浮かんだ瞬間、目の前の存在の前に消し飛んでしまうような気がした。
先生は桜色の唇を僅かに動かした。
「御楯君、アナタから来ないのかしら?」
ボクを見つめる瞳にはなんの変化もない。
静かにただ、ボクをそのまま見ている。
その瞳に心が奪われそうになる。
「私の方からいってもいいの」
唇に微笑みといっていいものを含ませながら先生は言った。
その言葉は優しげであり、一切の敵意、殺意を感じさせないものだった。
むしろ、痺れるような大人の女の香りがした。
(本当に、僕はこれから先生と――戦うのだろうか――)
一瞬思う。
毛先ほどの一瞬。
その瞬間だった。
始まった。戦い、仕合――
ボクは先生を一瞬見失う。
それほどまでに先生は速かった。
一瞬――
刹那――
瞬間移動のようにして先生はボクの間合いを突き破り、タックルをしかけてきた。
ボクの身体に先生の身体が触れた。
その瞬間が、スローモーションのようにボクの網膜に映る。
でも、身体が動かない。
ゆっくりと、ポニーテールの長い髪が舞うのが見えた。
映画かCMのワンシーンのように……
ボクは簡単にひっくり返される。
仰向けに。
なんにも抵抗ができなかった。
ただ、頭が痺れるような先生の甘い匂いが鼻腔に流れ込んでくる。
先生は馬乗りになるとボクに上半身を密着させてきた。
ボクの頭をぐいっと抱えこんでくる。
凄い力だった。今まで戦ってきた相手とはレベルが違う。
身動きが全くできない。
細身の身体のどこにそんなパワーがあるのか、全くわからない。
柔らかく傷ひとつない滑るような肌をもった先生の腕が絡みつく。
まるで、大蛇が巻きついてきているかのようだった。
先生はすっと頭をボクに近づけた。
(えッ?)
どんな攻撃が来るのか、ボクは身を硬くした。
先生の腕を掴み振り払おうとする。戦いの中でなければ絶対にしないことだ。
でも、びくとも動かない。
先生はボクの耳元に唇を近づけた。
呟く。
甘く、蕩けるような声音のまま。
「色々やっちゃうから、覚悟してね」
それは、脳が痺れるような宣戦布告だった。
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