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その29:新たなる街へ
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ラグワム――
アバロウニは口の中で小さくその名を呟いた。
隊長?
「こ、ここにいますか……」
「あ? 隊長かい」
「そう」
同名ということがあるかもしれない。
しかし、もしかしたら…… アバロウニは幼馴染の屈託のない笑顔を思い出す。
「ここにはいねぇよ」
「いないの?」
「隊長っても、大隊長だからな。ここにいるのは、小隊長だ」
「小隊長って?」
「俺だよ」
デガルと名乗った男はちょっと胸を張って言った。
しかし、小隊とか大隊というのは、耳なれない言葉だった。
傭兵団は傭兵団であり、そのような「隊」というものは無かった。
「とにかく、死体を片付けたらここから離れて野営する。そこまでは付いてくるかい?」
夜間ひとりで異動するのは流石に躊躇われる。
アバロウニは、奴隷商人の隊列を襲った一団と一緒に行動することになった。
選択肢が他になかったのかもしれないが、それは少なくとも自分の意思であった。
◇◇◇◇◇◇
アバロウニは毛布に包まっている状態で目を覚ました。
朝の光が目に差し込んでくる。
(いつの間にか寝ていたんだ……)
デガルたち――奴隷商人を襲った一団――が完全に自分の味方だと信じることはできなかった。
油断はできない。
だから、夜でも寝るつもりはなかった。
それなのに、いつの間にか寝てしまったようだった。
何か夢を見ていたような気がした――
今までの出来事が全て夢であったらと、ふと思う。
が、自分の身体は、完全な女性体になっている。
胸は膨らみ、体のラインは完全に女のものだった。それも、飛びぬけて美しいといっていいレベルの。
「おう、起きたかい」
デガルだった。
明るい日の下でも、屈託のない笑顔を浮かべていた。
無精ひげが目立つが、精悍な印象は夜見たときとそう変らなかった。
「朝飯は、あそこで配ってる」
親指で鍋を囲む、男たちのいる場所を示した。
「あんなに……」
「え?」
「あんなに、男の人がいたんだ」
「まあ、小隊は五〇人くらいいるからな」
そして、デガルは、小隊の上に中隊があり、その上に大隊があることを説明した。
小隊四つで、中隊。中隊四つで大隊になるらしい。
「ま、とりあえずメシを喰って、先のことは考えてくれ」
「うん。ありがとう」
アバロウニは、鍋の方に行った。
男たちが色めきだち、アバロウニを見つめる。
が、手を出す者や、冷やかす者はいなかった。
それは女体化したアバロウニにとって始めての経験であったかもしれない。
スープの入った器をアバロウニは受け取った。
そして、食べた。本当に美味しい食事だった。しばらくこんな食事をしたことはなかった。
食事が終わり、隊列は移動を開始する。
「自由にしていいんだぜ。何処へ行ってもいい」とデガルには言われた。
しかし、そういわれてもアバロウニには行く場所はない。
元の傭兵団に戻り娼婦を続ける気など微塵もなかった。
アバロウニは結局、彼ら(デガルたち)に付いてゆくことになった。
隊列は彼らの街へと進んで行った。
アバロウニにとっては新たなる街だ。
ブカブカの大きな靴を紐で縛りつけ、彼らとともに歩いていくのだった。
アバロウニは口の中で小さくその名を呟いた。
隊長?
「こ、ここにいますか……」
「あ? 隊長かい」
「そう」
同名ということがあるかもしれない。
しかし、もしかしたら…… アバロウニは幼馴染の屈託のない笑顔を思い出す。
「ここにはいねぇよ」
「いないの?」
「隊長っても、大隊長だからな。ここにいるのは、小隊長だ」
「小隊長って?」
「俺だよ」
デガルと名乗った男はちょっと胸を張って言った。
しかし、小隊とか大隊というのは、耳なれない言葉だった。
傭兵団は傭兵団であり、そのような「隊」というものは無かった。
「とにかく、死体を片付けたらここから離れて野営する。そこまでは付いてくるかい?」
夜間ひとりで異動するのは流石に躊躇われる。
アバロウニは、奴隷商人の隊列を襲った一団と一緒に行動することになった。
選択肢が他になかったのかもしれないが、それは少なくとも自分の意思であった。
◇◇◇◇◇◇
アバロウニは毛布に包まっている状態で目を覚ました。
朝の光が目に差し込んでくる。
(いつの間にか寝ていたんだ……)
デガルたち――奴隷商人を襲った一団――が完全に自分の味方だと信じることはできなかった。
油断はできない。
だから、夜でも寝るつもりはなかった。
それなのに、いつの間にか寝てしまったようだった。
何か夢を見ていたような気がした――
今までの出来事が全て夢であったらと、ふと思う。
が、自分の身体は、完全な女性体になっている。
胸は膨らみ、体のラインは完全に女のものだった。それも、飛びぬけて美しいといっていいレベルの。
「おう、起きたかい」
デガルだった。
明るい日の下でも、屈託のない笑顔を浮かべていた。
無精ひげが目立つが、精悍な印象は夜見たときとそう変らなかった。
「朝飯は、あそこで配ってる」
親指で鍋を囲む、男たちのいる場所を示した。
「あんなに……」
「え?」
「あんなに、男の人がいたんだ」
「まあ、小隊は五〇人くらいいるからな」
そして、デガルは、小隊の上に中隊があり、その上に大隊があることを説明した。
小隊四つで、中隊。中隊四つで大隊になるらしい。
「ま、とりあえずメシを喰って、先のことは考えてくれ」
「うん。ありがとう」
アバロウニは、鍋の方に行った。
男たちが色めきだち、アバロウニを見つめる。
が、手を出す者や、冷やかす者はいなかった。
それは女体化したアバロウニにとって始めての経験であったかもしれない。
スープの入った器をアバロウニは受け取った。
そして、食べた。本当に美味しい食事だった。しばらくこんな食事をしたことはなかった。
食事が終わり、隊列は移動を開始する。
「自由にしていいんだぜ。何処へ行ってもいい」とデガルには言われた。
しかし、そういわれてもアバロウニには行く場所はない。
元の傭兵団に戻り娼婦を続ける気など微塵もなかった。
アバロウニは結局、彼ら(デガルたち)に付いてゆくことになった。
隊列は彼らの街へと進んで行った。
アバロウニにとっては新たなる街だ。
ブカブカの大きな靴を紐で縛りつけ、彼らとともに歩いていくのだった。
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