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その53:珊瑚海は燃えているか? 9
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攻撃機による魚雷攻撃。
これは、空母の搭載する艦上機による対艦攻撃の中では最強のものであろう。
200キログラムを超える高性能炸薬の弾頭を持つ九一式航空魚雷。総重量は800キログラムを超える。
そして、そのプラットフォームとなる九七式艦上攻撃機。
平均練度では世界最高といえる搭乗員を揃えた、この兵器システムは1942年時点で世界最強の対艦攻撃力を持っていることは間違いないものであった。
しかし、その運用はあまりにも複雑で手間のかかる物であった。
航空魚雷――
これは当時の時点で最高レベルに複雑精緻な兵器だ。ジャイロの調定など整備が欠かせない。
ひと月放置しておくとまともに動かなくなる代物だ。
単純な構造の爆弾とはわけが違う。
さらに、その調定された魚雷は使用直前に最終チェックが行われる。
深度調定、防水対策、安定舵の設定、対衝撃用の防護板の装着、ケロシン、圧搾空気の注入。
これらの作業を行ってから、機体への装着となる。
その装着も五人の整備員が息を合わせ行う物だ。
機体には、魚雷専用の金具の装着が必須となる。爆弾との共有はできない。
装着した魚雷は、一度投下可能かどうかのチェックを行う。
そして、再度装着する。気の遠くなるような苦行だった。
そのような苦労の上で九一式航空魚雷を搭載した、九七式艦攻が完成する。
空母瑞鶴の格納庫では、九機の艦攻が準備を完了していた。
「艦攻上げ! 発進準備」
格納庫のスピーカーが疲れ切った整備員を鞭打つ声を上げた。
凡俵(ぼんだわら)一等整備兵は、泥のようにグダグダとなった体でゆっくりと九七式艦攻を見つめる。
でかい。重い。
こいつを押してエレベータに乗せる作業の開始だ。
魚雷の搭載作業が終了し、彼は油でヌルヌルとなった床にへたり込みたくなっていた。
そんなことをすれば、バッター(海軍の伝統的な体罰。軍人精神注入棒でケツをフルスイングで叩く)10連発は間違いない。
「おら! 上げるぞ! もたもたするな!」
鬼のような整備班長の声が響く。
凡俵一等整備兵は、熱気のこもった閉鎖式格納庫の中、ただ条件反射的に命令に従うのだった。
彼にとっては、敵の爆弾よりも、バッターの方が目の前の脅威であった。
翼がたたまれた九七式艦攻が後部エレベータから飛行甲板に運ばれていく。
この格納庫の中は、まさに今、戦場の真っただ中にいると言ってもよかった。
すでに、零戦、九九式艦爆は飛行甲板に整列している。
いや、零戦はすでに発進を開始していた。艦隊防空戦闘に、大部分の機体を使っており、攻撃隊の援護についている零戦の数は少なかった。
瑞鶴で4機。このとき、第一航空艦隊の攻撃部隊が用意できた零戦は全部で18機であった。
これでも、予備機までつぎ込んだ全力出撃だった。
九九式艦爆64機、九七式艦攻30機。合計112機の攻撃隊だった。
真っ先に飛龍の零戦が発進していた。攻撃準備の出来た艦から逐次発進。
後に空中集合という手順になっていた。
「ギリギリ間に合ったか……」
源田参謀が、胸にたまった空気と一緒にその言葉を吐いた。
それと同時だった――
「敵! 降爆! 来ます! 左舷! 4機!」
「なんだと!」
ドーントレス――
アメリカ海軍の急降下爆撃機。1000ポンド(450キログラム)の高性能GP爆弾を搭載した悪魔のような機体だ。
赤城の高角砲と25ミリ機銃が火を噴く。
赤城は改装により、旧式の12サンチ高角砲を、八九式高角砲に換装している。同砲は1分間に14発の発射レートを持つ一級品といっていい対空砲だった。
25ミリの連装機銃は、九五式機銃射撃装置による統制射撃を行う。
この対空砲火は、効果的でもあり、そして同時に威力不足も露呈する。
その砲火は、ドーントレスに対し傷一つ付けることはできなかった。
ただ、「敵に撃たれている」という状況は、心理的圧力を生み出す。
結果として、この攻撃は敵機に当たることは無かった。しかし、ドーントレスに対し、高い位置での爆弾のリリースを強いることに成功していた。
3発の爆弾が大きく外れ、1発が至近弾となる。1000分の1秒の瞬発信管のついたGP爆弾が着水と同時に炸裂。
スポンソン上の対空機銃員を傷つけた。
「進路そのまま! 発艦を優先」
南雲司令の声が響く。先ほどまでの迷いの顔はそこには無かった。
もはや、腹をくくるしかない。そうなれば、この提督は強かった。
約100機の零戦による上空警戒網を突き抜けた、米軍機が徐々に数を増していく。
もはや、編隊という形をなしている物は少なく、単機で飛行しているものが殆どだった。
これを追いすがる零戦もいたが、多くの零戦はまだ、艦隊上空には戻ってこれないでいた。
対空戦闘と発艦作業が同時に行われるという異常な事態となっていた。
空母は発艦時には、風に向かって進む。発艦のための合成風力を生み出すためだ。
風速15メートルの風力が必要とされる。これ以上では、人間が飛ばされ発艦作業ができず、以下では機体が飛び立てない。
爆弾、魚雷の回避よりも、攻撃隊の発進が優先されていた。
回避行動は行わない。
南雲長官は、対空火力だけで、ここを乗り切る決心をしていた。
「翔鶴被雷!」
「なんだと!」
帝国海軍の誇る最新鋭航空母艦。その1隻である翔鶴が被雷した。高い水柱がゆるゆると持ち上がっていくのが赤城艦橋からも確認できた。
「大丈夫です! 3万トンの艦は魚雷の1本や2本で沈みません」
源田中佐が叫ぶように言った。
「発光信号! ワレ、被雷スルモ、作戦行動ニシショウナシ。翔鶴は健在です」
「やはり、新鋭艦は一味違うか」
南雲長官は源田中佐を見つめて言った。
源田中佐は小さくうなづく。
条約の軛から逃れた翔鶴型の空母は、かなり頑強な水雷防御が施されていた。また、当たり所が悪くなかったのも幸いだったのだろう。
中断していた発艦作業も再開されているようだった。
「勝った―― この戦は勝った」
アメリカ側の航空攻撃は、小規模な物で終わっていた。
ほとんどが、誘導された零戦隊に阻止され、機動部隊まで到達した機体も、有効な攻撃を行うことができなかった。
結果として、翔鶴に魚雷命中1、赤城、飛龍に至近弾1という結果に終わった。
第一攻撃隊108機は無事発艦を完了した。
◇◇◇◇◇◇
「なぜだ? なぜこうなった?」
米空母機動部隊の指揮官であるフレッチャー少将は当り散らすように怒鳴った。
空母ヨークタウンの戦闘指揮所には次々と戦闘情報が流れ込んでくる。
そのどれもが、自軍の窮状を、いや端的に言ってしまえば「負け戦」を伝える物であった。
そして、バラバラとなって、帰還してくる第一次攻撃隊。
そのほとんどがボロボロといっていい惨状を呈している。
空母の間近までやってきて、着艦することなく、そのまま着水していく機体すらあった。
この目の前の出来事が、戦闘の様相がただならぬものであったことを伝えていた。
「一体、何が起きているのだ! 攻撃隊はどうなったんだ!」
「敵空母に魚雷命中1、爆弾4発命中。2隻の撃破は確実かと――」
幕僚の1人が恐る恐る口を開いた。彼自身、その言葉に説得力が無いことを薄々感じていた。
「我々の精鋭、200機の戦爆連合で、その結果かね?」
「サー。攻撃隊からの報告であります」
「この惨状で、それを鵜飲みにしろと、君は言うのかね?」
フレッチャーは外の光景を指さした。
今まさに、ボロボロになりながら、着艦したF4Fが逆立ち状態となっていた。
燃料が尽きかけていたので、火災が発生していないのは幸いだった。
その機体は、手早く海に投棄された。
「奴らは待ち構えていたようです。おそらくは、発見されたのを覚り、防空戦闘に専念したかと――」
「そんなことはどうでもいいのだ!」
顔を真っ赤にして、フレッチャーは怒鳴る。発言した幕僚に対し、拳を振り上げるのではないかという勢いで言葉を飛ばした。
「敵が待ち構えていた? 当然だろう? 当たり前だ。潜水艦に攻撃されたということは、位置を露呈したということだ。そうなれば、防空戦闘に専念するのは至極真っ当な回答だ。問題は――」
フレッチャーは、すっと息を吸い込み、一瞬目をつぶる。
「200機もの攻撃隊を送り込み、ほとんど敵にダメージを与えなかったという事実だ」
「しかし、それは――」
「攻撃を行えた機体は何機あるのかね?」
「詳細な分析ではありませんが、概ね20機前後と思われます」
「突破率10%かね……」
そう言うと、フレッチャーは黙った。
怒りが治まったわけでない。怒っても何も解決しないことに気付いたのだ。
今回の航空攻撃では、過去の戦訓から空中集合を重視。無線による戦力の統合、集中を行った。
練度不足から、編隊が崩れ、バラバラと逐次投入になりかねない部分を改善していた。
集中運用された200機の艦上機による対艦攻撃は、過去最大規模のものだ。
どのような海軍も、いまだに成しえていない規模ものだ。
真珠湾ですら、1回の攻撃で使われた機体は200機を下回っていると分析されている。
4隻の空母。
ヨークタウン、レキシントン、サラトガ、ワスプからは200機を超える戦爆連合が発進。
先手を取ることが、空母戦の必勝パターンだということは過去の戦訓が証明していた。
敵空母は潜水艦に発見され、すでに2隻が戦線を離脱。
1隻は撃沈を確認している。
残りの空母は4隻だ。数は同じである。ただ、日本海軍の蒼龍クラスは軽空母(アメリカは誤認していた)であり、航空機の機数では圧倒しているはずだった。
もはや、勝利はその手中にあると確信していた。
(やつら、戦闘機の集中搭載をしてきたのか……)
それは、米海軍でも検討されたことだった。空母の脆弱性を考え、また戦闘機の質的劣勢をカバーするため、戦闘機の搭載割合を増やすという案だった。
ただ、結果的にこのプランは見送られた。対艦攻撃力の減少は看過できない問題だったからだ。
アメリカ海軍の置かれた立場。
それは、なによりも、戦果を欲していた。
日本海軍の大型艦艇を仕留めることこそが、最大の目的となっていた。
(しかし、いつまでも守り切れるものではないはずだ)
我々の攻撃から艦隊を守るため、後先考えぬ全力の迎撃を行ったとしたらどうだ?
戦闘機はいつまでも艦隊上空にはいられない。
戦闘行動は一気に燃料を消費する。そして、弾薬もだ。
それらを補給して、再び上空警戒に出るまでの時間は?
そして、パイロットらの疲労はどうなのだ?
(まだ、勝機はあるのではないか)
フレッチャーはその結論に行きつく。
すでに、第二次攻撃隊は発艦していた。
その規模は第一次攻撃隊を下回る物だが、4隻の空母を仕留めるには十分な鉄と炸薬を搭載している攻撃隊だ。
敵のCAPも、迎撃戦闘により相当にダメージを受けているはずだ。
墜せなくとも、被弾損傷した機体は、戦力外となる。
第一次攻撃隊ほどの抵抗は受けないだろう。
まだいける。
「帰還した機体を収容整備した後、第三次攻撃隊の編成を行う。奴らを全て、海底に叩きこむんだ!」
フレッチャーはまだあきらめてなどいなかった。戦いはこれからだと信じていた。
これは、空母の搭載する艦上機による対艦攻撃の中では最強のものであろう。
200キログラムを超える高性能炸薬の弾頭を持つ九一式航空魚雷。総重量は800キログラムを超える。
そして、そのプラットフォームとなる九七式艦上攻撃機。
平均練度では世界最高といえる搭乗員を揃えた、この兵器システムは1942年時点で世界最強の対艦攻撃力を持っていることは間違いないものであった。
しかし、その運用はあまりにも複雑で手間のかかる物であった。
航空魚雷――
これは当時の時点で最高レベルに複雑精緻な兵器だ。ジャイロの調定など整備が欠かせない。
ひと月放置しておくとまともに動かなくなる代物だ。
単純な構造の爆弾とはわけが違う。
さらに、その調定された魚雷は使用直前に最終チェックが行われる。
深度調定、防水対策、安定舵の設定、対衝撃用の防護板の装着、ケロシン、圧搾空気の注入。
これらの作業を行ってから、機体への装着となる。
その装着も五人の整備員が息を合わせ行う物だ。
機体には、魚雷専用の金具の装着が必須となる。爆弾との共有はできない。
装着した魚雷は、一度投下可能かどうかのチェックを行う。
そして、再度装着する。気の遠くなるような苦行だった。
そのような苦労の上で九一式航空魚雷を搭載した、九七式艦攻が完成する。
空母瑞鶴の格納庫では、九機の艦攻が準備を完了していた。
「艦攻上げ! 発進準備」
格納庫のスピーカーが疲れ切った整備員を鞭打つ声を上げた。
凡俵(ぼんだわら)一等整備兵は、泥のようにグダグダとなった体でゆっくりと九七式艦攻を見つめる。
でかい。重い。
こいつを押してエレベータに乗せる作業の開始だ。
魚雷の搭載作業が終了し、彼は油でヌルヌルとなった床にへたり込みたくなっていた。
そんなことをすれば、バッター(海軍の伝統的な体罰。軍人精神注入棒でケツをフルスイングで叩く)10連発は間違いない。
「おら! 上げるぞ! もたもたするな!」
鬼のような整備班長の声が響く。
凡俵一等整備兵は、熱気のこもった閉鎖式格納庫の中、ただ条件反射的に命令に従うのだった。
彼にとっては、敵の爆弾よりも、バッターの方が目の前の脅威であった。
翼がたたまれた九七式艦攻が後部エレベータから飛行甲板に運ばれていく。
この格納庫の中は、まさに今、戦場の真っただ中にいると言ってもよかった。
すでに、零戦、九九式艦爆は飛行甲板に整列している。
いや、零戦はすでに発進を開始していた。艦隊防空戦闘に、大部分の機体を使っており、攻撃隊の援護についている零戦の数は少なかった。
瑞鶴で4機。このとき、第一航空艦隊の攻撃部隊が用意できた零戦は全部で18機であった。
これでも、予備機までつぎ込んだ全力出撃だった。
九九式艦爆64機、九七式艦攻30機。合計112機の攻撃隊だった。
真っ先に飛龍の零戦が発進していた。攻撃準備の出来た艦から逐次発進。
後に空中集合という手順になっていた。
「ギリギリ間に合ったか……」
源田参謀が、胸にたまった空気と一緒にその言葉を吐いた。
それと同時だった――
「敵! 降爆! 来ます! 左舷! 4機!」
「なんだと!」
ドーントレス――
アメリカ海軍の急降下爆撃機。1000ポンド(450キログラム)の高性能GP爆弾を搭載した悪魔のような機体だ。
赤城の高角砲と25ミリ機銃が火を噴く。
赤城は改装により、旧式の12サンチ高角砲を、八九式高角砲に換装している。同砲は1分間に14発の発射レートを持つ一級品といっていい対空砲だった。
25ミリの連装機銃は、九五式機銃射撃装置による統制射撃を行う。
この対空砲火は、効果的でもあり、そして同時に威力不足も露呈する。
その砲火は、ドーントレスに対し傷一つ付けることはできなかった。
ただ、「敵に撃たれている」という状況は、心理的圧力を生み出す。
結果として、この攻撃は敵機に当たることは無かった。しかし、ドーントレスに対し、高い位置での爆弾のリリースを強いることに成功していた。
3発の爆弾が大きく外れ、1発が至近弾となる。1000分の1秒の瞬発信管のついたGP爆弾が着水と同時に炸裂。
スポンソン上の対空機銃員を傷つけた。
「進路そのまま! 発艦を優先」
南雲司令の声が響く。先ほどまでの迷いの顔はそこには無かった。
もはや、腹をくくるしかない。そうなれば、この提督は強かった。
約100機の零戦による上空警戒網を突き抜けた、米軍機が徐々に数を増していく。
もはや、編隊という形をなしている物は少なく、単機で飛行しているものが殆どだった。
これを追いすがる零戦もいたが、多くの零戦はまだ、艦隊上空には戻ってこれないでいた。
対空戦闘と発艦作業が同時に行われるという異常な事態となっていた。
空母は発艦時には、風に向かって進む。発艦のための合成風力を生み出すためだ。
風速15メートルの風力が必要とされる。これ以上では、人間が飛ばされ発艦作業ができず、以下では機体が飛び立てない。
爆弾、魚雷の回避よりも、攻撃隊の発進が優先されていた。
回避行動は行わない。
南雲長官は、対空火力だけで、ここを乗り切る決心をしていた。
「翔鶴被雷!」
「なんだと!」
帝国海軍の誇る最新鋭航空母艦。その1隻である翔鶴が被雷した。高い水柱がゆるゆると持ち上がっていくのが赤城艦橋からも確認できた。
「大丈夫です! 3万トンの艦は魚雷の1本や2本で沈みません」
源田中佐が叫ぶように言った。
「発光信号! ワレ、被雷スルモ、作戦行動ニシショウナシ。翔鶴は健在です」
「やはり、新鋭艦は一味違うか」
南雲長官は源田中佐を見つめて言った。
源田中佐は小さくうなづく。
条約の軛から逃れた翔鶴型の空母は、かなり頑強な水雷防御が施されていた。また、当たり所が悪くなかったのも幸いだったのだろう。
中断していた発艦作業も再開されているようだった。
「勝った―― この戦は勝った」
アメリカ側の航空攻撃は、小規模な物で終わっていた。
ほとんどが、誘導された零戦隊に阻止され、機動部隊まで到達した機体も、有効な攻撃を行うことができなかった。
結果として、翔鶴に魚雷命中1、赤城、飛龍に至近弾1という結果に終わった。
第一攻撃隊108機は無事発艦を完了した。
◇◇◇◇◇◇
「なぜだ? なぜこうなった?」
米空母機動部隊の指揮官であるフレッチャー少将は当り散らすように怒鳴った。
空母ヨークタウンの戦闘指揮所には次々と戦闘情報が流れ込んでくる。
そのどれもが、自軍の窮状を、いや端的に言ってしまえば「負け戦」を伝える物であった。
そして、バラバラとなって、帰還してくる第一次攻撃隊。
そのほとんどがボロボロといっていい惨状を呈している。
空母の間近までやってきて、着艦することなく、そのまま着水していく機体すらあった。
この目の前の出来事が、戦闘の様相がただならぬものであったことを伝えていた。
「一体、何が起きているのだ! 攻撃隊はどうなったんだ!」
「敵空母に魚雷命中1、爆弾4発命中。2隻の撃破は確実かと――」
幕僚の1人が恐る恐る口を開いた。彼自身、その言葉に説得力が無いことを薄々感じていた。
「我々の精鋭、200機の戦爆連合で、その結果かね?」
「サー。攻撃隊からの報告であります」
「この惨状で、それを鵜飲みにしろと、君は言うのかね?」
フレッチャーは外の光景を指さした。
今まさに、ボロボロになりながら、着艦したF4Fが逆立ち状態となっていた。
燃料が尽きかけていたので、火災が発生していないのは幸いだった。
その機体は、手早く海に投棄された。
「奴らは待ち構えていたようです。おそらくは、発見されたのを覚り、防空戦闘に専念したかと――」
「そんなことはどうでもいいのだ!」
顔を真っ赤にして、フレッチャーは怒鳴る。発言した幕僚に対し、拳を振り上げるのではないかという勢いで言葉を飛ばした。
「敵が待ち構えていた? 当然だろう? 当たり前だ。潜水艦に攻撃されたということは、位置を露呈したということだ。そうなれば、防空戦闘に専念するのは至極真っ当な回答だ。問題は――」
フレッチャーは、すっと息を吸い込み、一瞬目をつぶる。
「200機もの攻撃隊を送り込み、ほとんど敵にダメージを与えなかったという事実だ」
「しかし、それは――」
「攻撃を行えた機体は何機あるのかね?」
「詳細な分析ではありませんが、概ね20機前後と思われます」
「突破率10%かね……」
そう言うと、フレッチャーは黙った。
怒りが治まったわけでない。怒っても何も解決しないことに気付いたのだ。
今回の航空攻撃では、過去の戦訓から空中集合を重視。無線による戦力の統合、集中を行った。
練度不足から、編隊が崩れ、バラバラと逐次投入になりかねない部分を改善していた。
集中運用された200機の艦上機による対艦攻撃は、過去最大規模のものだ。
どのような海軍も、いまだに成しえていない規模ものだ。
真珠湾ですら、1回の攻撃で使われた機体は200機を下回っていると分析されている。
4隻の空母。
ヨークタウン、レキシントン、サラトガ、ワスプからは200機を超える戦爆連合が発進。
先手を取ることが、空母戦の必勝パターンだということは過去の戦訓が証明していた。
敵空母は潜水艦に発見され、すでに2隻が戦線を離脱。
1隻は撃沈を確認している。
残りの空母は4隻だ。数は同じである。ただ、日本海軍の蒼龍クラスは軽空母(アメリカは誤認していた)であり、航空機の機数では圧倒しているはずだった。
もはや、勝利はその手中にあると確信していた。
(やつら、戦闘機の集中搭載をしてきたのか……)
それは、米海軍でも検討されたことだった。空母の脆弱性を考え、また戦闘機の質的劣勢をカバーするため、戦闘機の搭載割合を増やすという案だった。
ただ、結果的にこのプランは見送られた。対艦攻撃力の減少は看過できない問題だったからだ。
アメリカ海軍の置かれた立場。
それは、なによりも、戦果を欲していた。
日本海軍の大型艦艇を仕留めることこそが、最大の目的となっていた。
(しかし、いつまでも守り切れるものではないはずだ)
我々の攻撃から艦隊を守るため、後先考えぬ全力の迎撃を行ったとしたらどうだ?
戦闘機はいつまでも艦隊上空にはいられない。
戦闘行動は一気に燃料を消費する。そして、弾薬もだ。
それらを補給して、再び上空警戒に出るまでの時間は?
そして、パイロットらの疲労はどうなのだ?
(まだ、勝機はあるのではないか)
フレッチャーはその結論に行きつく。
すでに、第二次攻撃隊は発艦していた。
その規模は第一次攻撃隊を下回る物だが、4隻の空母を仕留めるには十分な鉄と炸薬を搭載している攻撃隊だ。
敵のCAPも、迎撃戦闘により相当にダメージを受けているはずだ。
墜せなくとも、被弾損傷した機体は、戦力外となる。
第一次攻撃隊ほどの抵抗は受けないだろう。
まだいける。
「帰還した機体を収容整備した後、第三次攻撃隊の編成を行う。奴らを全て、海底に叩きこむんだ!」
フレッチャーはまだあきらめてなどいなかった。戦いはこれからだと信じていた。
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