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第15話 交渉
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真っ赤なボブヘアーに黒いタートルネックとホットパンツ。腰と足のホルスターには二丁のリボルバー。
一見野良の冒険者にも見えるようなその女が、女医ゼリンダその人である。
「えー、ほんとに生きてるじゃんニハ君。マジで?なんで顔出さなかったのお前」
「相変わらずダルそうな話し方だな」
手招きされ近寄れば唐突に頬を鷲掴みにされる。
この人の滅茶苦茶も変わらないなと思った。
「ははは、質問の答えになってないなあ」
「いや、已むに已まれぬ事情があったとしか」
「ふうん。知らないのニハ君?世は試みないとものの入り口にも立てないんだよ?私に連絡取ろうともしなかったよね?」
「ごめんって」
ニハ君というのは、ルアンが組織にいた時にゼリンダから呼ばれていたあだ名である。整理番号の28番からとってニハ、というわけだ。
わちゃわちゃと押し問答していると、バーテンダーがニコニコと声をかけてくる。
「お二人はお知り合いなんですか?」
「そう。最近会えてなくてさー。知り合いにも会えたことだしマスター、今日はもう返るよ」
「かしこまりました」
ゼリンダが会計を済ませるのをぼんやりと待つ。
ずっと服の端を掴まれたままで、ゼリンダに引き摺られるようにして店外へと出た。
互いに無言のまま路地を歩く。
早朝に一度訪ねた、見覚えのあるビルまで辿り着き地下へと降りる。
中へと入れば薄汚れた見た目に似合わず、薬品の匂いがした。
ゼリンダが茶色い革の回転椅子に座る。
ルアンには壁側にある処置用のベッドに座るよう勧めた。
「で?死んだって聞いたんだけど」
「誰から?」
「ダレン。あんたのボス」
「どんなふうに?」
「任務に出たきり戻ってこない、あいつはもう死んだって。私の方から何か聞いたわけじゃないのにアイツからそう言われたよ」
ルアンは、ふむ、と考える。
結局組織に狙われたのか別のところからなのかはわからないままだ。
まあ隠したところですぐに居場所もバレるしなと、全て正直に話すことにした。
「前に、半年くらい前に手当してもらったちょっと後に任務があってさ。恙無―く仕事を終えた後に、黒ずくめのやつらに襲われたんだよね。で、もうぼっこぼこのぼっこぼこだよ俺。そんで今にも死ぬかなって時に貴族の坊ちゃんに助けてもらった」
「そりゃラッキーだったね」
「…まあ、な。それで、今度はその坊ちゃんが毒盛られた」
「ふうん。なるほど、それでその反応なわけね。あ、待ってー。わかっちゃった。絶対嫌だよ、私。その坊ちゃんの治療するの。関わったら殺されそうじゃん」
まだ何も頼んでいないのに。
目の前でひらひらと手を振られてイラっとする。
覗き込むように、ゼリンダを見つめる。古いベッドがギシリと音を立てた。
「危ない橋わたってるのは今も変わらないだろ?頼むよ」
「嫌だね。貴族の争いでしょ?闇社会のごちゃごちゃよりよっぽど厄介だもん」
「今こうやって俺を招き入れてるのは厄介事じゃないのか?もう乗りかかった船だろ?」
「私は組織の雇われじゃないから。私は手を貸してあげてるだけで身内じゃない。誰と付き合いを持とうと自由なの。だから船になんて乗りかかってない。むしろ見えてもいない」
ちっと舌打ちが漏れる。
ゼリンダは頭が良くて口もよく回るから、いつもこうやって丸め込まれそうになるのだった。
「大体、その坊ちゃんにはお抱えの医者くらいいないの?どうして私が行く必要があるのよ」
「・・・いろいろ事情があるんだよ。悪いけど、詳しい状況を話すのはあんたが引き受けてくれると分かってからだ」
こんな頼み方では引き受けてもらうのは難しいだろうとルアンにも分かっている。
だが、どこで誰がつながっているかわからない以上、下手なことは言えなかった。
ゼリンダは腕を組み、ため息をついた。
「そもそもね、私は疑問でいっぱいなの。あんた、どうしてその坊ちゃんのためにここまでするの?放っておけばいいじゃない。ここで悠長に私と喋ってる時点で瀕死ってわけでもないだよね?」
じっと目が合う。
「いや、なんか助けてやりたいなと思っちゃってさ。同類のよしみ的な?」
ははは、と笑いながらルアンがそう言えば、ゼリンダはあきれたような顔をした。
「同類って、あんたと貴族のガキにどんな共通点があるっていうのさ」
「いやあ、あの人もなんだかんだ気の毒な身の上なんだよ」
「同情で動くと碌なことにならないのよ」
「いいんだよ。どうせ今だって碌な人生じゃない」
ゼリンダは黙って眉を下げる。
「なあ、頼むよ。俺だけじゃどうしてもあの人を治してやれないんだ。俺はゼリンダ以上に毒物の治療に詳しい医者は知らない。できる限り人目につかないようにするから、頼む」
「ああ、もう!わかったよ。絶対に私が貴族に目を付けられないようにしてよね」
ルアンは驚いて、とっさには言葉が出てこなかった。
「え、いいのか?」
「いいってば。早く詳細説明してよ。今も体調悪いんでしょその坊ちゃん」
「本っ当にありがとう」
ルアンはほっと息をなでおろした。これでローデリックとの約束も守れる。
じゃあさっそくと、アルトゥールの現状の説明を始めた。
一見野良の冒険者にも見えるようなその女が、女医ゼリンダその人である。
「えー、ほんとに生きてるじゃんニハ君。マジで?なんで顔出さなかったのお前」
「相変わらずダルそうな話し方だな」
手招きされ近寄れば唐突に頬を鷲掴みにされる。
この人の滅茶苦茶も変わらないなと思った。
「ははは、質問の答えになってないなあ」
「いや、已むに已まれぬ事情があったとしか」
「ふうん。知らないのニハ君?世は試みないとものの入り口にも立てないんだよ?私に連絡取ろうともしなかったよね?」
「ごめんって」
ニハ君というのは、ルアンが組織にいた時にゼリンダから呼ばれていたあだ名である。整理番号の28番からとってニハ、というわけだ。
わちゃわちゃと押し問答していると、バーテンダーがニコニコと声をかけてくる。
「お二人はお知り合いなんですか?」
「そう。最近会えてなくてさー。知り合いにも会えたことだしマスター、今日はもう返るよ」
「かしこまりました」
ゼリンダが会計を済ませるのをぼんやりと待つ。
ずっと服の端を掴まれたままで、ゼリンダに引き摺られるようにして店外へと出た。
互いに無言のまま路地を歩く。
早朝に一度訪ねた、見覚えのあるビルまで辿り着き地下へと降りる。
中へと入れば薄汚れた見た目に似合わず、薬品の匂いがした。
ゼリンダが茶色い革の回転椅子に座る。
ルアンには壁側にある処置用のベッドに座るよう勧めた。
「で?死んだって聞いたんだけど」
「誰から?」
「ダレン。あんたのボス」
「どんなふうに?」
「任務に出たきり戻ってこない、あいつはもう死んだって。私の方から何か聞いたわけじゃないのにアイツからそう言われたよ」
ルアンは、ふむ、と考える。
結局組織に狙われたのか別のところからなのかはわからないままだ。
まあ隠したところですぐに居場所もバレるしなと、全て正直に話すことにした。
「前に、半年くらい前に手当してもらったちょっと後に任務があってさ。恙無―く仕事を終えた後に、黒ずくめのやつらに襲われたんだよね。で、もうぼっこぼこのぼっこぼこだよ俺。そんで今にも死ぬかなって時に貴族の坊ちゃんに助けてもらった」
「そりゃラッキーだったね」
「…まあ、な。それで、今度はその坊ちゃんが毒盛られた」
「ふうん。なるほど、それでその反応なわけね。あ、待ってー。わかっちゃった。絶対嫌だよ、私。その坊ちゃんの治療するの。関わったら殺されそうじゃん」
まだ何も頼んでいないのに。
目の前でひらひらと手を振られてイラっとする。
覗き込むように、ゼリンダを見つめる。古いベッドがギシリと音を立てた。
「危ない橋わたってるのは今も変わらないだろ?頼むよ」
「嫌だね。貴族の争いでしょ?闇社会のごちゃごちゃよりよっぽど厄介だもん」
「今こうやって俺を招き入れてるのは厄介事じゃないのか?もう乗りかかった船だろ?」
「私は組織の雇われじゃないから。私は手を貸してあげてるだけで身内じゃない。誰と付き合いを持とうと自由なの。だから船になんて乗りかかってない。むしろ見えてもいない」
ちっと舌打ちが漏れる。
ゼリンダは頭が良くて口もよく回るから、いつもこうやって丸め込まれそうになるのだった。
「大体、その坊ちゃんにはお抱えの医者くらいいないの?どうして私が行く必要があるのよ」
「・・・いろいろ事情があるんだよ。悪いけど、詳しい状況を話すのはあんたが引き受けてくれると分かってからだ」
こんな頼み方では引き受けてもらうのは難しいだろうとルアンにも分かっている。
だが、どこで誰がつながっているかわからない以上、下手なことは言えなかった。
ゼリンダは腕を組み、ため息をついた。
「そもそもね、私は疑問でいっぱいなの。あんた、どうしてその坊ちゃんのためにここまでするの?放っておけばいいじゃない。ここで悠長に私と喋ってる時点で瀕死ってわけでもないだよね?」
じっと目が合う。
「いや、なんか助けてやりたいなと思っちゃってさ。同類のよしみ的な?」
ははは、と笑いながらルアンがそう言えば、ゼリンダはあきれたような顔をした。
「同類って、あんたと貴族のガキにどんな共通点があるっていうのさ」
「いやあ、あの人もなんだかんだ気の毒な身の上なんだよ」
「同情で動くと碌なことにならないのよ」
「いいんだよ。どうせ今だって碌な人生じゃない」
ゼリンダは黙って眉を下げる。
「なあ、頼むよ。俺だけじゃどうしてもあの人を治してやれないんだ。俺はゼリンダ以上に毒物の治療に詳しい医者は知らない。できる限り人目につかないようにするから、頼む」
「ああ、もう!わかったよ。絶対に私が貴族に目を付けられないようにしてよね」
ルアンは驚いて、とっさには言葉が出てこなかった。
「え、いいのか?」
「いいってば。早く詳細説明してよ。今も体調悪いんでしょその坊ちゃん」
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