殺した貴方に、二度恋をする

玲凛

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物語の始まり

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 轟々と燃え盛る炎と共に、ゆっくりと崩れ行く城の中ーー。

 衝撃によって崩壊していく大理石の壁に、夥しい程の血が染み込んだベルベットの絨毯。
 青年は、泥梨の様なその光景を無表情で一瞥するとーー目の前の《親友》へと、鮮血の滴る剣を向けた。

 「ッ……許さ、ないッ!!私から、大切なもの、を……全て、奪った、お前、だけは……殺、す!!絶対、に……殺して、やるッ!!」

 そう言って、鬼も斯くやといった形相で此方を睨みつける傷だらけの《親友》。
 その憎悪に満ちた顔に、青年は昏く空虚な目を向けるとーー全てを諦めた様に小さく笑った。
 
 ーー大好きな人だった。
 幼い頃に出会い、親友となって、共に過ごし十年。

 心から、大切に思っていた。
 どうしようもないくらい、親友として愛していた。
 いつまでも、一緒にいたいと思っていた。

 (けれど、それも……終わり。)

 今からーー何もかもを捨てる。
 命より、大切に想った親友も、壊れてしまったこの心も……何もかも。
 全て。

 青年は、目から一粒の涙を零すと、因果を憎悪を……己の復讐を、全てを終わらせる為に、《親友》へ剣を振り下ろした。

 ーーごめん……そう小さく呟きながら。
 
 








 §§§§
 


 






 いつから、起こったのか知らない。
 理由も、知らない。

 けれど、気づいた時からーー人族と魔族は互いに憎しみあっていたから、それは起こるべくして起こった争いだったのだろう。

 互いに憎しみ、蔑む合う人族と魔族は、飽きもせず何度も戦端を開いた。
 犠牲者を払いながら、哀れな孤児を出しながら……何度も何度も戦った。

 争いの最中でーー人族側は魔族によって、数多あった筈の国は幾つか滅ぼされ、その国の生き残った王族や住民は奴隷とされた。
 また、魔族側は人族によって、およそ半分の土地は焼け野原とされ、そこに住む老若男女は皆殺された。

 ーー彼らは互いを理解し合おうとしなかった。
 ーー共存しようとしなかった。
 ーー誰も、その争いを止めようとしなかった。

 故に、その争いは幾千年と続いてーー今から百年前、漸く終わりを告げた。

 ……それは、人族の勝利だった。
 人知を超えた力を持ったとある人族の少女が、一夜にして魔王城を滅ぼし、その後全ての魔族を滅してーーこの争いを、終わらせたのだ。

 それは、正に晴天の霹靂で、人族は皆狂喜乱舞したーーこれからは未来永劫、平和に生きられる、と。

 そうして彼らは、人知を超えた力を持ったその人族を崇め、讃えながら、血濡れた争いの記憶を忘れてーーこの百年、安寧の日々を送り続けた。
 ……ただ、幸せに、幸せに生き続けた。
 
 とある二人を除いてーー。



 

 

 





 


 鳥が、甲高い囀りを響かせる。
 その朝を告げるモーニングコールに、青年……シオンは、薄目を開けると、グーっと空腹を訴えた腹を押さえた。

 「お腹……空い、た……」

 ここ五年、何も食べず、ずっと寝ていたせいか、お腹が空いている。

 シオンは眠け眼を擦りながら、ゆっくりと立ち上がると、部屋に散らばる大量のゴミを避けながら、机の上に置いてあったパンを手に取った。
 そうして、シオンはパンを一口齧ると、いつもと同じ冷めた目で、部屋の中を一瞥した。

 洗われていない衣服と共に、床に放置されたゴミ、食べかけ飲みかけのまま放置され、見事腐った食べ物……そして、掃除をさぼった事による溜まった埃たちーー。

 目に入った光景は、酷く荒れたもの。
 だが、部屋が汚い事など、シオンにとってはどうでも良い事であり、彼は何でもないように視線を戻した。

 そして、ベッドに戻ろうと一歩足を動かしたーーその時だった、突然、キキーッと古めかしい音を立てて、家の扉が開かれたのは。

 「兄さん……」

 背後から、聞き慣れた少女の声が聞こえる。
 シオンは、徐に背後を振り返ると、相変わらずの輝きの無い目で少女を見つめた。

 さらさらの麗しい銀髪に緑の瞳。
 妖精も斯くやという程に美しい、その類稀なる容姿は、どんな者をも虜にする。

 そんな凄絶なる美少女ーーリアは、シオンの妹のような存在だった。

 「兄さん、久しぶりだね……」

 そう言って、此方に近づいてくるリアは、最初こそは嬉しそうに笑っていたがーー直ぐに、荒れ果てた部屋の状態に気付くと、表情を暗くした。

 「兄さん……私が来なかった十年の間もまた、酷い生活を送っていたのね……」

 そう言って、表情を歪めるリアから、シオンは視線を逸らした。

 寝て、食べて……また寝る、そんな堕落した日々を送るシオンは、生きる事自体がどうでも良かった。
 ……死んだように生きてる、そんな感じだった。

 ーー百年前のとある出来事から、シオンは生きる屍となったのだ。

 「リア……僕になんか、会いに来なくていい……さっさと帰れ。」

 そうぶっきらぼうに言って、再びベッドに向かおうとするシオン。
 だが、リオに腕を掴まれて、シオンは動く事が出来なくなってしまった。

 「リア、離せ……」

 シオンは不快げにそう呟くが、リアは、決して手を離す事はなくーーそのまま、何かの決意を固めたかのように、意を決して、口を開いた。

 「兄さん……そのまま寝るのでは無くて……百年ぶりに、この家の外に出よう?そして……私と何処かへ出かけよう?」

 『家の外に出る』ーーリアから、そんな事を言われたのは初めてで、シオンは一瞬目を丸くしたが、直ぐに嫌そうに顔を顰めた。

 ーーシオンは百年、この家から出た事は無かった。
 飲み水や食糧は、とある方法で手に入るから問題ないしーー大体、シオンは五年に一度、パンを一口食べるくらいで生きられるのだ。
 ……いや、何も食べなくても、飲まなくても生きていられるかも知れない。

 それにーー何かを食べる時以外は、ただ寝ているだけ。
 だから、家の外に出る必要なんて何処にもない。
 ……何処にもないのだ。

 「僕は、外出なんてしないーー」

 そう小さく呟き、シオンはリアの腕を振り払ったのだがーー何故かリアは、頑なに引き下がらなかった。
 
 「シオン兄……お願い、今日だけでいいから……外へ出よう?」

 そう何度も繰り返し言いながら、リアは必死にシオンの腕に縋る。
 ……今日のリアは異常なくらい、必死だった。
 
 そんな普段とは様子の違うリアに、最初は苛立っていたシオンだったがーー余りのしつこさに、負けた。
 シオンは、小さくため息を吐くと、リアを見つめた。

 「分かったよ、仕方がないから……少しだけ、外出する。」
 「ほ、本当!!ありがとう、兄さん!!」

 満面の笑みを浮かべながら、そう声を弾ませるリアに、シオンは内心ため息を吐きながら、耳に着いている真紅の飾りへと触れたーー。

 ーー。

 ーー。

 ーー。

 ーー。

 目に届く太陽が、酷く眩しいーー。
 シオンは僅かに目を眇めると、フードを深く被り直した。

 ーー百年ぶりに、家の外へと出た。
 伸びきった邪魔くさいボサボサの髪を一つに結んで、よれよれの服を着替えて、分厚いローブを被ってーー久しぶりに外の空気を吸った。

 「シオン兄さん……百年ぶりの外はどう?」

 そう言って、此方を見つめるリアにシオンは無表情のまま呟いたーー。

 ーー最悪だ、と。


 
 

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