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光と影
時を遡り、死ぬ運命だった少年の命を救った事で、変わり始めた哀れな少年の運命。
そんな少年は、一時は光り輝く道を歩いたが……
ーー強い輝きを放つ光には、鬱々たる蔭が付き纏うもの。
だが、それを知らない少年は……唐突に訪れる悲劇から遁れる術を知らない。
ーー理不尽に奪掠されるしかないのだ。
現在進行形で馬車の振動を感じながら、アリステアはノエルから意識を失った後の話を聞き終えると、安堵のため息を吐いた。
まあ、内容からしても対した話では無く、直ぐに終わったのだが。
でも、取り敢えず……
「不敬罪とか、大丈夫そうで良かった……」
そうぼそっと呟いた後、アリステアは再び安堵の息を吐いた。
あの時は我を忘れて激昂していたから、『不敬罪なんて知るかぁぁぁ!』見たいな感じで王太子を引っ叩いたが……我に返ると、普通に怖い。
それ故にノエルの話を聞きながら、内心かなりビクビクしていたアリステアだったが、ノエルから『不敬罪』なんていう物騒な単語は出てこなかった為……大丈夫だと、勝手に判断した。
そうして目を閉じながら、ぶつぶつ呟いていたアリステアだったが……ふと我に返ると、脳裏にアイゼアの綺麗過ぎる顔が浮かんだ。
それによって突如切なく高鳴った胸に、アリステアは手を当てると、焦がれる様に呟いた。
「アイゼア……」
あの綺麗で愛しい少年に、お別れの挨拶ぐらいはしたかった。
それに……
『アリステア……愛している。』
その言葉によって、私がどれほど救われたのかを伝えたかった。
そして……
ーー出会った瞬間から、貴方に恋をしていた事を告げたかった。
そんな心を掻き毟る切ない想いに、胸元を握りしめた時だった……不意に雨音が、耳に付いた。
そう突然聞こえてきた雨音にアリステアはゆっくりと目を開けると、馬車に付いている窓から外を見た。
……本日二度目の雨だ。
そんな激しく馬車を穿つ雨音を聞きながら、アリステアは呟いた。
「アイゼアはどうしているだろうか……」
ああ、会いたい。
そんな想いを抱きながら、僅かに視線をずらした時だった……己の家、セーリアス侯爵家がぼんやりと見え始めたのは。
それが見えてきた事で、甘やかだったアリステアの気分は急降下した。
無断で屋敷を抜け出したのは、多分とても怒られる。
ああ、でも父は私に興味が無いから……怒るとしたら、レインシアや従者のシェノアだ。
そんな事を考えながら、ぼんやりしていたアリステアだったが、不意に大きく目を見開いた……はっきりと見え始めた侯爵家の屋敷、主に門前を見て。
その門前には常に居る筈の門番が、一人も居なかった。
「えっ……どうして?」
そう混乱しながらも呟き、もう一度門前を凝視した。
やはり……どう見ても、屋敷を抜け出す時には在った筈の二人の門番の姿が無い。
……一体、どういう事?
そう疑問を抱きながら、三度門前を見ようとした時だった
「アリステア、どうしたの?」
目を丸くしたノエルに、そう声を掛けられたのは。
そのノエルの言葉に、アリステアは戸惑いながら呟いた。
「……門番がいない。」
「えっ、そんな筈ないよ。だって、秘密で屋敷を抜け出す時には居た……」
そう言いながら、ノエルも窓からセーリアス侯爵家を見たのだが……直ぐに目を瞠った。
「本当だ……門の前に誰もいない。どうして……」
そんなノエルの驚きを感じながら、アリステアは唐突に不安を感じた。
「……何か、あったのかな?」
思わずそう呟き、ギュッと拳を握る。
ノエルはそんなアリステアに対して、安心させる様に微笑むと、ゆっくり言葉を紡いだ。
「アリステア、大丈夫だよ……偶々、門番がいないだけだよ。」
「そう、だよね……うん。」
その優しいノエルの言葉に、おずおずと頷いたアリステアだったが……胸中に渦巻く消えない不安に、思わず胸元を握りしめた。
御者によって、馬車は門前に停められた。
それにアリステアは一言お礼を言うと、ノエルに向き直り……強引に不安を打ち消すと、微笑んだ。
「ノエル、今日は本当にありがとう……とても、楽しかった。」
秘密で屋敷を抜け出すなんて、ちょっとした冒険の様だった。
それにリーヴェンスに対して、恋慕の情など欠片も湧かない事を確認できたし、何より……
ーー死ぬ筈だった運命のアイゼアを救う事が出来た。
それらの全ては、私に手を差し伸べてくれたノエルのお陰だ。
本当にありがとう。
ーー私の大切な友達……ノエル。
そんな伝えきれない程の感謝を込めて、アリステアはノエルの手をギュッと強く握った。
そして数秒の後に手を離すと、馬車から降りて雨の中を駆け出した。
「あっ……」
背後からノエルの声が消えたが、構わず全力疾走で駆ける。
傘なんて物は持っていないから、雨に濡れながらだ。
そうして暫し駆けた後、玄関前に辿り着いたアリステアだったが……着ている服は、既にベタベタになってしまっていた。
そんなアリステアは己の肌に張り付いた服を、僅かに摘みながらため息を吐いた。
「濡れちゃった……」
「本当、濡れちゃったね。」
…………んっ?今隣から、ノエルの声が聞こ……
暫しの硬直の後、アリステアは勢いよく隣を振り返り……仰天した。
そこには、己と同じ様な状態のノエルと、その従者エイデンが立っていた。
アリステアは今のこの状況が全く理解出来ず、思わず口をあんぐり開けた。
先程、別れた筈なのに……どうして……
そんなアリステアの疑問を悟ったのか、ノエルは悪戯っ子の様に愉しげに笑った。
「屋敷を秘密で抜け出した件について、セーリアス侯爵からアリステアが叱られないか心配で思わず来ちゃった!大丈夫だよ……アリステアが怒られるなら、僕も共に怒られるから!」
その言葉に、アリステア思わず目を丸くした。
何が大丈夫なのかは、よく分からないが……そう言ったノエルが、眩しく見えて仕方が無かった。
陽光の様で、直視出来ない。
それと同時に抱く、強い羨望。
……私もノエルの様になりたかった。
こんな風に純粋無垢で優しかったら、きっと……
ーー処刑なんて、されなかったのに。
その余りにも無意味過ぎる考えに、アリステアは己を嘲った。
ーーああ、考えれば考える程……惨めだ。
そんな事を考えながら、虚空を見つめていたアリステアだったが
「……アリステア?どうしたの?」
そう聞こえたノエルの声にハッと我に返った。
そうして、不思議そうに此方を見るノエルに対して、アリステアは曖昧に微笑むと、劣等感を紛らわせる為に勢いよく玄関の扉を開けたのだが……
それと同時に響いた、どちゃっという音に体が動かなくなった。
そんな不快極まりない音にアリステアは思考を停止しながら、ゆっくりと足下に目を向け……限界まで見開いた。
「ひっ……」
「これは、一体……」
そんな恐怖に満ちたノエルの悲鳴と、エイデンの驚愕した声が聞こえてくるが……それは何処か遠い。
そんなアリステアの視線の先にあったものは……
ーー下半身が無い、血に塗れた男性の惨殺死体だった。
そんな少年は、一時は光り輝く道を歩いたが……
ーー強い輝きを放つ光には、鬱々たる蔭が付き纏うもの。
だが、それを知らない少年は……唐突に訪れる悲劇から遁れる術を知らない。
ーー理不尽に奪掠されるしかないのだ。
現在進行形で馬車の振動を感じながら、アリステアはノエルから意識を失った後の話を聞き終えると、安堵のため息を吐いた。
まあ、内容からしても対した話では無く、直ぐに終わったのだが。
でも、取り敢えず……
「不敬罪とか、大丈夫そうで良かった……」
そうぼそっと呟いた後、アリステアは再び安堵の息を吐いた。
あの時は我を忘れて激昂していたから、『不敬罪なんて知るかぁぁぁ!』見たいな感じで王太子を引っ叩いたが……我に返ると、普通に怖い。
それ故にノエルの話を聞きながら、内心かなりビクビクしていたアリステアだったが、ノエルから『不敬罪』なんていう物騒な単語は出てこなかった為……大丈夫だと、勝手に判断した。
そうして目を閉じながら、ぶつぶつ呟いていたアリステアだったが……ふと我に返ると、脳裏にアイゼアの綺麗過ぎる顔が浮かんだ。
それによって突如切なく高鳴った胸に、アリステアは手を当てると、焦がれる様に呟いた。
「アイゼア……」
あの綺麗で愛しい少年に、お別れの挨拶ぐらいはしたかった。
それに……
『アリステア……愛している。』
その言葉によって、私がどれほど救われたのかを伝えたかった。
そして……
ーー出会った瞬間から、貴方に恋をしていた事を告げたかった。
そんな心を掻き毟る切ない想いに、胸元を握りしめた時だった……不意に雨音が、耳に付いた。
そう突然聞こえてきた雨音にアリステアはゆっくりと目を開けると、馬車に付いている窓から外を見た。
……本日二度目の雨だ。
そんな激しく馬車を穿つ雨音を聞きながら、アリステアは呟いた。
「アイゼアはどうしているだろうか……」
ああ、会いたい。
そんな想いを抱きながら、僅かに視線をずらした時だった……己の家、セーリアス侯爵家がぼんやりと見え始めたのは。
それが見えてきた事で、甘やかだったアリステアの気分は急降下した。
無断で屋敷を抜け出したのは、多分とても怒られる。
ああ、でも父は私に興味が無いから……怒るとしたら、レインシアや従者のシェノアだ。
そんな事を考えながら、ぼんやりしていたアリステアだったが、不意に大きく目を見開いた……はっきりと見え始めた侯爵家の屋敷、主に門前を見て。
その門前には常に居る筈の門番が、一人も居なかった。
「えっ……どうして?」
そう混乱しながらも呟き、もう一度門前を凝視した。
やはり……どう見ても、屋敷を抜け出す時には在った筈の二人の門番の姿が無い。
……一体、どういう事?
そう疑問を抱きながら、三度門前を見ようとした時だった
「アリステア、どうしたの?」
目を丸くしたノエルに、そう声を掛けられたのは。
そのノエルの言葉に、アリステアは戸惑いながら呟いた。
「……門番がいない。」
「えっ、そんな筈ないよ。だって、秘密で屋敷を抜け出す時には居た……」
そう言いながら、ノエルも窓からセーリアス侯爵家を見たのだが……直ぐに目を瞠った。
「本当だ……門の前に誰もいない。どうして……」
そんなノエルの驚きを感じながら、アリステアは唐突に不安を感じた。
「……何か、あったのかな?」
思わずそう呟き、ギュッと拳を握る。
ノエルはそんなアリステアに対して、安心させる様に微笑むと、ゆっくり言葉を紡いだ。
「アリステア、大丈夫だよ……偶々、門番がいないだけだよ。」
「そう、だよね……うん。」
その優しいノエルの言葉に、おずおずと頷いたアリステアだったが……胸中に渦巻く消えない不安に、思わず胸元を握りしめた。
御者によって、馬車は門前に停められた。
それにアリステアは一言お礼を言うと、ノエルに向き直り……強引に不安を打ち消すと、微笑んだ。
「ノエル、今日は本当にありがとう……とても、楽しかった。」
秘密で屋敷を抜け出すなんて、ちょっとした冒険の様だった。
それにリーヴェンスに対して、恋慕の情など欠片も湧かない事を確認できたし、何より……
ーー死ぬ筈だった運命のアイゼアを救う事が出来た。
それらの全ては、私に手を差し伸べてくれたノエルのお陰だ。
本当にありがとう。
ーー私の大切な友達……ノエル。
そんな伝えきれない程の感謝を込めて、アリステアはノエルの手をギュッと強く握った。
そして数秒の後に手を離すと、馬車から降りて雨の中を駆け出した。
「あっ……」
背後からノエルの声が消えたが、構わず全力疾走で駆ける。
傘なんて物は持っていないから、雨に濡れながらだ。
そうして暫し駆けた後、玄関前に辿り着いたアリステアだったが……着ている服は、既にベタベタになってしまっていた。
そんなアリステアは己の肌に張り付いた服を、僅かに摘みながらため息を吐いた。
「濡れちゃった……」
「本当、濡れちゃったね。」
…………んっ?今隣から、ノエルの声が聞こ……
暫しの硬直の後、アリステアは勢いよく隣を振り返り……仰天した。
そこには、己と同じ様な状態のノエルと、その従者エイデンが立っていた。
アリステアは今のこの状況が全く理解出来ず、思わず口をあんぐり開けた。
先程、別れた筈なのに……どうして……
そんなアリステアの疑問を悟ったのか、ノエルは悪戯っ子の様に愉しげに笑った。
「屋敷を秘密で抜け出した件について、セーリアス侯爵からアリステアが叱られないか心配で思わず来ちゃった!大丈夫だよ……アリステアが怒られるなら、僕も共に怒られるから!」
その言葉に、アリステア思わず目を丸くした。
何が大丈夫なのかは、よく分からないが……そう言ったノエルが、眩しく見えて仕方が無かった。
陽光の様で、直視出来ない。
それと同時に抱く、強い羨望。
……私もノエルの様になりたかった。
こんな風に純粋無垢で優しかったら、きっと……
ーー処刑なんて、されなかったのに。
その余りにも無意味過ぎる考えに、アリステアは己を嘲った。
ーーああ、考えれば考える程……惨めだ。
そんな事を考えながら、虚空を見つめていたアリステアだったが
「……アリステア?どうしたの?」
そう聞こえたノエルの声にハッと我に返った。
そうして、不思議そうに此方を見るノエルに対して、アリステアは曖昧に微笑むと、劣等感を紛らわせる為に勢いよく玄関の扉を開けたのだが……
それと同時に響いた、どちゃっという音に体が動かなくなった。
そんな不快極まりない音にアリステアは思考を停止しながら、ゆっくりと足下に目を向け……限界まで見開いた。
「ひっ……」
「これは、一体……」
そんな恐怖に満ちたノエルの悲鳴と、エイデンの驚愕した声が聞こえてくるが……それは何処か遠い。
そんなアリステアの視線の先にあったものは……
ーー下半身が無い、血に塗れた男性の惨殺死体だった。
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