貴方だけは愛しません

玲凛

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独りにしないで

 初めまして、玲凛です。

 今回の話の後、物語は六年後に飛びます。
 話の展開早ッ!めちゃくちゃ!と思った方、ごめんなさい。

 拙作でありますので、ご容赦下さい。

 後、今回の話はちょっと残酷な表現がありますので、ご注意下さい。
 それと……この物語はハッピーエンドです。
 






 ーーーーーーーーー








 

 惨殺された死体から滴り落ちる、真っ赤な血。

 アリステアは茫然自失といった表情で、それを見ていた。

 この残酷な赤から、目を離す事が出来ない。
 一体……これは何?

 そんな理解不能な状況に、目の前が暗くなった時だった

 「アリステア様!しっかりして下さい!」

 そう叫ばれ、体を強く揺さぶられたのは。
 それによってアリステアは我に返ると、己の体を揺さぶって来たノエルの従者エイデンに目を向けた。

 エイデンは震えているノエルを一瞥した後、冷静な表情を保ったままアリステアを見つめた。

 「アリステア様、この死体といい、血で染まった玄関ホールといい、この屋敷の中で、何か大変な事が起こっていると考えられます。ですから、どうかノエル様と共に馬車の中へと戻っていて下さい。私は近くにある騎士団の駐屯地に行って来ますから。」

 その言葉に、アリステアはハッとした。

 『大変な事が起こっている……』

 そのエイデンの言葉が脳内に反響して、冷や汗が止まらない。
 
 ーー父様!レインシア様!兄様!

 アリステアは恐怖など忘れて、勢いよく開け放たれた玄関から、中へ入ったのだが……

 「うっ……うぇっ」

 漂ってくる凄まじい臭いを感じて、その場で屈んで吐いてしまった。
 吐瀉物が床を汚し、アリステアの目に生理的な涙が滲む。

 余りの気分の悪さに、立っていられないと感じたアリステアだったが、何とか立ち上がると辺りを見回した。
 ……家族の皆が無事かどうか確認しなければ。

 その思いのまま、アリステアはふらふら歩き始めた。
 
 背後からは、焦ったエイデンの声とノエルの泣き声が聞こえてくるが、構う事など出来ない。
 
 そうして、何とか大広間にたどり着いたアリステアだったが……目の前に広がる余りに凄惨な光景に、再び吐いてしまった。

 目の前に広がる光景は、正に地獄絵図。

 派手に血が飛び散った壁と、血塗れになりながら床に倒れ伏す使用人達。

 流石にこの光景には、腰が抜けそうになったアリステアだったが、何とか耐え……光を失った目で、前を見据えた。

 この時、アリステアは既に冷静な判断を失っていた。
 そんな彼が、抱いていた想いは……

 ーー家族に会いたい……ただ、それだけだった。

 そうして、アリステアは意地と根性で歩き続ける。

 「お父様……レインシア様……お兄様……」

 無意識にそう呟きながら、手摺りに掴まり螺旋階段を上り、二階に上がる。
 そうして、やっとの事で着いたのは……兄セレクディアの部屋。

 アリステアは震える手を抑えながら、何とか部屋の扉を開けると兄の名を呼ぼうとしたのだが……次の瞬間固まった。

 アリステアの視線の先には……血を流しながらベッドに倒れ伏す、兄の姿が。
 ……それを見た瞬間、アリステアの中で何かが壊れた。

 「お兄様ぁぁぁぁ!」

 アリステアは絶叫すると、セレクディアの傍に駆け寄った。

 「お兄様!お兄様!しっかりして!」

 そう叫びながら、必死に体を揺さぶるが、セレクディアは目を開けない。
 ……何で?どうして!

 涙でぐちゃぐちゃになった視界で、アリステアはとにかく叫んだ。

 「お兄様ぁぁ!」

 だがどれ程叫び、その冷たい体を揺さぶろうとも……セレクディアが身動きする事は無かった。

 そうして、どれ程同じ事を繰り返していただろう。

 不意にアリステアはセレクディアの体を揺さぶる事を止めると……血に染まった己の両手で顔を覆った。
 涙が溢れて止まらない。
 
 ……死んで、しまった。
 私の兄が。
 
 決して良い兄では無かったし、彼は私を嫌っていた。
 だけど、例え、どれ程嫌われていようとも……

 ーー私にとって、大切な家族には変わりなかった。

 それをこんな残酷な形で失うだなんて。

 そう思った時だった……ある考えが、脳裏を過ぎったのは。
 もしかして……

 「私が未来を変えようと、足掻いたから……皆の運命を歪めてしまった?」

 その残酷な考えが、頭から離れない。
 
 そうだとしたら、全部、全部……私のせいでは無いか。
 本来なら使用人も兄も、こんな凄惨な末路を辿る筈では無かった。
 それなのに……

 私が己の未来を変えようとしたせいで。
 ……幸せを望んだせいで。

 ーーこんな悲劇が生まれてしまった。

 「あっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 悲しみによって張り裂けた胸の痛み感じながら、アリステアは絶叫した。
 幾ら叫んでも、この痛みが癒えることは無い。

 そうして……どれ程、叫んでいた事だろう。

 アリステアは、唐突に己の父ゼノンとレインシアの事を思い出した。

 ああ……

 「探しに、いか、ないと。」

 ……生きているかも、知れないから。

 そんな絶望的な希望に、アリステアは体を動かした。

 「お、とう……さま……れいん、しあ……さま」

 そう呟きながら、まるで幽鬼のようにアリステアはセレクディアの部屋を出ると、三階へと上がり、ゼノンの自室へ向かう。

 廊下を歩く足取りが鉛の様に重く、意識が朦朧とする。
 だが、残りの力を全て振り絞って、アリステアは何とか歩き続け、ゼノンの自室まで辿り着いた。

 そうして弱々しい力で、その部屋の扉を開け……茫然とした。
 
 アリステアの目に映った光景は……

 ーー何かを抱きしめた状態で生き絶えた、ゼノンの姿。

 そんな目の前の光景を、アリステアは信じられなかった。

 あの残酷な父が……死んでいる?
 背中を滅多刺しにされて……死んでいるの?

 「おとう、さま?お、とう……さ……」

 そう壊れた様に呟きながら、アリステアはふらふらとゼノンに近寄り……目を見開いた。

 ゼノンが抱きしめていたものは、レインシアだった。
 庇う様に、強く抱きしめている。

 だが……

 ーー恐らく、レインシアも死んでいる。

 彼女の腹部から、夥しい程の血が流れていたから。

 アリステアはそんな血に塗れた二人の体を揺さぶった。

 「おとう、さま……れいん、しあさま……お、おきて……」

 子として、私が愛されたいと切望した……ゼノン。
 私の事を、まるで我が子の様に深く愛してくれた……レインシア。

 今度こそは、父に愛され……レインシアを母と呼びながら、生きようと思っていたのに。

 何もかも全部、失くした。
 ……私が皆を殺した。

 ああ、でも……独りは嫌だ……嫌だよ。
 お願い……

 ーー私を置いて逝かないで。

 そう思った時だった……血がついたアリステアの頬を風が掠めたのは。
 それに対して、アリステアは正気の無い顔でゆっくりと其方に視線を向けると……微笑んだ。

 視線の先にあるのは、開け放たれた窓。

 ああ、待っていて。

  ーー今、私もそっちへ行くよ。

 その思いのまま、ふらふらと窓に近づく。
 ……そして、そこから身を乗り出した時だった。

 「アリステア!やめて!」

 そう背後から、切羽詰まった声が聞こえたのは。

 その聞き覚えのある声に、アリステアはゆっくりと振り返った。
 そこにいたのは、涙を流しながら此方を見つめるノエル。
 
 ノエルは泣きながら、此方に近づくとアリステアに手を伸ばした。

 「アリステア、こっちに来て……お願い、僕の手を取って。」

 その言葉に、アリステアは儚く微笑んだ。

 ありがとう……私の初めての友達。
 そして、バイバイ。

 そう心の中で呟いた後、アリステアは目を閉じて窓から身を投げた。

 「た、駄目!ッ……アリステアぁぁぁぁぁぁぁぁ」

 ……大切な友人の凄まじい絶叫が、遠くで聞こえる。
 アリステアは落下する感覚に身を任せながら、静かに涙を零した。

 後悔なんてものは、尽きない。
 でも、その中で一つだけ……

 『アリステア、愛している。』

 その言葉だけが、鮮明に記憶に残る。

 ああ、ごめんね、アイゼア。
 貴方の傍に居られなくて、

 そしてね……
 
 ーー私も貴方を愛しているよ。

 そう思った瞬間、体にとてつもない衝撃を感じてアリステアは意識を失った。






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