神嫁、はじめました。

若松だんご

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17.神嫁見習い、恋見習い。

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 よかった。本当によかった。

 地上に降りた(?)、落ちた(?)な私たちのもとに駆けつけたひいじいちゃんたち。
 ヘロヘロの私たちを取り囲んでもみくちゃにしながら、何度もなんども「よかった」をくり返した。
 町に神様が戻ってきたのが「よかった」なのか、それともどうにか無事に着地できたのが「よかった」なのか。後者であると思いたい。ひいじいちゃん、メッチャ泣いてたし。
 私としても、なんとか無事に戻れて「よかった」が強い。なんたって、命からがらの地上生還だし。
 私を抱き上げ、空を飛んだ責任を感じていたのか。私にちょっとでも良いカッコしようとしたことを反省したのか。最後の最後まで力を振り絞ったアイツは、今、社の中でぶっ倒れている。コンコンと眠り続けてるけど、それ以外に異変はなさそう。まあ、力が回復したら、勝手に起きるでしょ。
 アイツの眠りこけてる部屋の隣、縁側に腰掛けて空を見上げる。
 アイツがここに戻って、町も元通りになってメデタシメデタシなんだけど。――って、ん?

 「ひいおじいちゃん? それにひいおばあちゃんも。どうしたの?」

 ひいじいちゃんだけじゃない。町のジジイ共も、なんか、よいせよいせと運んでくるんだけど? なに?

 「祝いじゃ、祝い」

 「那岐さまに嫁が戻ってきた祝いじゃ」

 「はあああぁっ!?」

 驚く声がひっくり返った。

 「ちょ、ちょっ、ちょっと待ってよ!」

 いつ、誰が戻ったっていうのよっ!

 「いやあ、一時はどうなるかと思ったが。やはり夫婦というのは、引かれ合うもんなんじゃのう」

 「あれだけ探しても見つからなんだ那岐さまを、やすやすと連れ戻してくるんじゃからのう」

 勝手にウンウンと頷き合う町のジジイども。運んできたのは、酒樽? 魚? 山盛り食材?

 「嫌よ嫌よも好きのうち。傍から見て仲の悪い夫婦であっても、ちゃあんと絆で結ばれておるんじゃなあ」

 「子は一世、夫婦は二世。浅からぬ縁で結ばれておるんじゃろうて」

 いや。
 結ばれてない。絶対、結ばれてない。
 勝手にこま結びにされてるなら、私からぶっちょん切ってやる。今、この時限りの縁で終わり。

 「昔から言うじゃろが。夫婦喧嘩は犬も食わぬと。ちょっとぐらいのすれ違いは、『そうかそうか』と聞いて流しておけばよいんじゃ」

 「ちょっと、ひいおばあちゃん!」

 まさか、そんなテキトーな感じで私をあしらってたの?

 「なるほどのぉ」

 「長く夫婦を続けておる者の意見は、タメになるのぉ」

 こら、ジジイども! ひいおばあちゃんのよくわかんない含蓄に納得すんな!

 「日菜子も、そういうつもりで帰ってきたんじゃろ?」

 「へ?」

 「ここに戻ってきたということは、嫁になる覚悟ができた。そういうことではないのかの?」

 「は?」

 野賀崎に戻る=アイツの嫁になる覚悟オッケー……?

 「んなわけないでしょっ!」

 ひいおばあちゃんの言葉に、思わず立ち上がる。

 「私は、アイツがここを守るって約束したくせに、台風の被害を出してたから、それで、それでっ……! ひいおじいちゃんたちのことも心配だったし!」

 そうよ。
 知ってる町。それもひいおじいちゃんたちが暮らしてる町が台風の被害に遭ったって聞けば、黙っていられないじゃない。

 「じゃが、お前は、わしらを案じて家に来るより前に、ここを目指した」

 うう。

 「社で待っていてもよいのに、山に分け入り那岐さまを探し出した」

 ううう。

 「日菜子のなかで、それだけ那岐さまが大事な存在になっておるということじゃ」

 「そんなことない!」

 「ムキにならずともよい」

 カラカラ笑う、ひいおばあちゃん。

 「日菜子が、それだけ那岐さまを好いとること、よおわかっておる」

 ……いや、ぜんっぜんわかってない! 壮大に果てしなくとんでもない勘違いしてくれてる。

 「日菜子よ。結婚というものはの、大好きの頂点で行ってはならぬものなのじゃ」

 よいこらせ。掛け声とともに、ひいおばあちゃんが縁側に腰掛ける。

 「大好きが高じて結婚してしまうとな、後はそこから転げ落ちて嫌いに向かうしかなくなる。それまで知らなかった相手の嫌な面ばかりが目についてしまうんじゃ」

 「ひいおばあちゃん……」

 隣りにある、小さくて細くて丸い背中を見る。

 「それぐらいなら、相手を好いても嫌うてもない頃に結ばれるのが一番じゃ。『この人、こんな意外な一面があったんだ』と驚き、好印象を持てるかもしれんからの。大嫌いの底から始めたら、後は好きに向かって浮上するしかないしの」

 大嫌いの底を、さらに更新したらどうするんだろ。大大大大大っきらいみたいな。ミリも好きになる要素がなかったら?

 「お前を振り回したこと、那岐さまもよぉく反省していらっしゃる。この先は、勝手になんでも決めたりはなさらぬだろうて」

 「そう……かな」

 「そうじゃとも。元は他人であったものが番う。それが夫婦。生まれも育ちも違うのじゃから、何度だってぶつかって、何度だって最良の道を探す。間違えたら、やり直す。那岐さまの暴走は褒められたものではないが、それほどまでに深く日菜子を愛しておられると思えば、悪くないのではないかの?」

 「そう……かな」

 「そうじゃ。那岐さまが日菜子を大事に思うてくださっておることは、この結婚でよおわかったじゃろ。そして日菜子も東京からすっ飛んでくるぐらい、那岐さまを想うておる」

 「ちょ、ちょっと待って!」

 なんで、私がアイツを好きって決まってるわけ?

 「人間、間違うたら、何度でも仕切り直し、リテイクじゃ。のう、那岐さま」

 ひいおばあちゃんが、クルッと後ろを振り向く。つられて、私も振り返るけど。

 「日菜子……。そうか、それほどにを……」

 なぜか背後に、涙腺を緩ませる神様。
 ってか、アンタ、いつからそこに居たのよ! どっから話を聞いてたっ!?

 「いましは、を思って、都を棄ててここまで……。をそれほどまでに想うてくれておったのか……」

 いや、ぜんっぜん聞いてなかったな。勝手な拡大解釈に、そっと目頭を押さえる神様。

 「倉橋のおうなよ。は、日菜子の想いに報いてやりたいと思うのだが、どうだ。今宵、の妻にしてもよいか?」

 膝をつき、私の手を取る神様。

 「それは、日菜子自身に問うてくだされ」

 ひいおばあちゃんが、ニッコリ笑うけど。

 「ふざけないで! 私はアンタの嫁になるつもりはないの!」

 心配してここに戻ってきたことは、百歩譲って認めてもいい。
 けど、百歩、千歩、万歩ぐらい譲ったとしても、嫁になるつもりは毛頭、カケラもない!

 「アンタの安否確認はできたし、町も元通りになったから、私、東京に帰る!」

 「倉橋の媼よ。ぬしの裔娘は、なかなかに意固地じゃの」

 ため息混じりの神様。

 「幼き頃、初めて会った時は、このまま一緒にいる、別れは嫌だと泣いておったのに」

 ナヌ?

 「素直になれない女心。察してやってくださりませ」

 「ふむ。それが日菜子のかわいいところでもあるからな。我慢いたすとするか」

 勝手に話を進めるな! 私の性分を決めつけんな!
 っていうか。

 「私、泣いてない!」

 小さいときのことだから、あんまり覚えてないけど。

 「いやいや、泣いておったぞ、日菜子よ。いましと離れたくない、一緒にいると駄々をこねておった」

 「ウソ!?」

 「まことじゃ。は偽りを申さぬ」

 それは、ウソをついちゃいけない、神様だから?

 「親元に帰してやろうと言うのに泣きじゃくって嫌がるからの。故に、いましと約束をしたのだ。次にいましがこの地を訪れたなら、二度と離れることなきよう、妹背いもせとなると誓った」

 「ウソ! 絶対、ウソ!」

 「まことじゃと申しておろうに」

 ため息つく神様。
 
 ――約束だ。

 その横顔に、頭の中、ほじくり返された記憶。

 ――次に会うた時に、いましいもにする。
 ――イモってなに?
 ――の妻だ。
 ――ツマって、およめさんってこと?
 ――そうだ。嫌か?
 ――いやじゃない! うれしい!

 ……小さい時ってさ、将来の夢で「お嫁さん」って答えることあるじゃない? お姫様みたいな、真っ白なヒラヒラドレスに憧れるっていうのか、なんていうのか。アイドルとかお花屋さん、ケーキ屋さんと同列で憧れる対象、「お嫁さん」。
 そのお嫁さんにしてくれる、いっしょに遊んで楽しかった相手と離れずにすむってので「うん!」って言ったような、言った記憶が……。

 「うわあああっ! 私なんてことをっ!」

 思わず両手で頭を抱えてしゃがみ込む。なんにもわかってない子供時代の約束とはいえ、なんてことをっ!

 「すべて思い出したか、日菜子」

 神様がニッコリ笑う。
 ええ。思い出しましたわよ。思い出したくない、永遠に封印しておきたかったけど、ボボンと掘り起こされてしまいましたわよ。

 「ならば、話が早い。日菜子よ、かつての約定、果たさせてもらうぞ」

 「は、果たすって、何を」

 冷や汗たらり。背中を流れ落ちる。

 「いましで、妹背となることを。いましの“お嫁さん”にしてやろう」

 「いやいやいやいや。ちょちょ、ちょっと待って! ストップ! ストーップ!! ちっちゃい頃の約束なんて、無効よ! 無効! クーリングオフさせてもらうわ!」

 「それはできぬ。神と受け交わした約定は、取り消すことができぬ」

 グイッと身を寄せてきた神様。それをなんとか押し留めて、周りを見るけど。

 (誰も助けてくんないわけっ!?)

 こんなに困り果ててるのに。ひいおばあちゃんもいつの間にか、私らから距離をとって立ってるし、ジジイどもはニヤニヤして見てるだけ。

 「日菜子は、白い姫御のようなドレスがよいと申しておったの」

 へ?

 「白いドレスにきれいなお花のブーケだったか」

 は?

 「町の者に仕度させるゆえ、心置きなくのお嫁さんになるがよいぞ」

 ふ?

 驚く私。その間に、素早く神様の顔が近づいてきて。

 ――チュッ。

 信じられない音が、私の唇の上で鳴った。……鳴った。鳴っちゃったのよ。

 「楽しみじゃな」

 不意打ちいたずら成功。
 神様が声を上げて笑う。
 ジジイどもが、歯のない口で、口笛をヒューヒュー吹く。

 「……ふっざけんじゃないわよぉぉぉっ!」

 バチコーンッと派手な音が響き渡る。

 「なかなか痛いぞ」

 「っるっさい!」

 顔に手形を残した神様。
 厄介事はゴメンだと、私から逃げていったあの男。この神様なら、あの男と違って、大事にしてくれそうだけど。ずっとそばにいてくれそうだけど。だけど。だけど。だけど。
 
 「私はまだ、アンタと結婚するなんて言ってない!」

 まずは、お友達から。それから告白、手繋ぎ、デート。キスなんて早すぎる。結婚なんかはもっと先! 一足飛びにやろうとすんな!
 振り回されて、流されるままに結婚なんてしたくない!
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