猫ネコ☆ドロップ!

若松だんご

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4.言いたいの 言えないの

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 「授業、終わったよ~」

 うん。

 「ほら、のどか、ゴハン食べに行くよ~」

 うん。わかった。

 「聞いてる~? 行くよ~」

 聞いてるって――アダッ!

 ポコンと頭に落ちた教科書の角。髪の毛防御があってもそれなりに痛い。

 「かなちゃん……」

 「『かなちゃん……』じゃないわよ。ホラ、サッサと行かないと、学食、席無くなっちゃうよ? あっちの学食、メチャ混むんだからさ」

 「あ、うん。そうだね」

 ヨッコラショと、席を立つ。
 かなちゃんの言う学食は、こっちの文学部や国際学部が使う学食じゃなくて、工学部や生物学部の学生が使う学食。男子の割合が多いせいか、学食利用率が高くて、いつも満員、席の争奪戦。
 というか、いつの間に授業終わってたの?
 知らない間に終わった日本文学史Ⅰの授業。教壇にいたはずの先生の姿はなく、教室に残ってたのは、あたしとかなちゃんぐらい。

 「どうした。またなんかヘンな妄想にでも取り憑かれてたの?」

 「へっ、ヘンなっ!?」

 いくらなんでも、それは失礼じゃないかね?
 並んで歩く友達、かなちゃんの言い方に、少しムッとする。

 「アンタ、いっつもそういうことばっか話してるじゃん。干してた洗濯物が志乃さまのベランダに飛んでっちゃって~とか、志乃さまが『醤油貸してください』って部屋に来るとか」

 うわお。

 「そ、そんなこと、言ったっけ?」

 「言ってた。そのために、とっときの高級しょう油を買っといたって言ってた」

 うおお。
 そういえば、そんなこと言ったわ。
 なんなら、オシャレにオリーブオイルも取り揃えておいた。なんだって貸して差し上げましてよ状態スタンバイ

 「で、なに? そんなのホケッとポエ~ってしてるってことは、起きたわけ? 『しょう油貸してください』が」

 どうなの?
 ずいっと、かなちゃんがこちらに身を寄せてくる。

 「ない! それはない! それだけはない!」

 「じゃあ、『ちょっと作りすぎたのでおすそ分けです』でもあったの?」

 「ないないないないない!」

 あたし、そんな妄想までしてたっけ?

 「じゃあ、どうしたっての? いつもなら『シノさまが~』、『志乃さまに~』ってうるさいのにさ。今日はずっと黙ったままじゃん」

 ゔ。
 というか。

 「あたし、そんなに言ってる?」

 「言ってる言ってる。『今日のシノさま』。ゲームかリアルか知らないけど。妄想の暴走具合、すごいよ?」

 そう……なんだろうか。ちょっとショック。

 「なんか悩んでるのなら、話、聴くよ?」

 立ち止まって、あたしの顔をのぞきこんだかなちゃん。

 「う、ううん。大丈夫、大丈夫だから! 心配してくれてありがとう!」

 その優しさに、抱えた教科書をギュッと抱きしめる。

 「まあ、なんでもいいけど。早く行かないと、麗しのシノさまが見れなくなるよ?」

 「あ、待ってよ!」

 軽く走り出したかなちゃんを追いかけるように、あたしも走り出す。
 かなちゃん、本当は弁当持参だから必要ないのに、あたしが「遠くから志乃さまを眺める」ために、つき合ってくれてる。それも遠い理系用の学食まで。
 ズバズバ言ってくるし、からかってもくるけど、とっても大事なあたしの友達。
 だから。だから、ホントは相談したい。

 あのね、実はあたし猫になっちゃってさあって相談したい。昨日、志乃さまに助けられて、一緒に寝ちゃったんだけど~って相談したい。
 王様の耳はロバの耳。
 あたしの口は、そこに穴があったら、大声で叫びたい。相談っていうより、思ってることを思いっきり吐き出したい。吐き出す内容は、もう喉より前、口のなかでモゴモゴ溢れてる。でも。

 (言えるわけないじゃん!)

 ドロップ舐めたら猫になったんだよねって、誰に言えるってのよ! 誰にも言えないわよ! ドン引きされるか、「はいはい、いい夢見まちたでちゅね~」で終わるわよ!
 自分でも信じられない、とんでもないことが起きたって思ってるんだから。
 志乃さまの部屋に入ったとか、一緒に寝ちゃったとか、そういうことじゃなくて。
 ドロップ舐めたら猫になるってナニ?
 どういう仕組よ。どういう仕様よ。
 つーか、あのドロップはどこから来たわけ? いつから、あたしのポケットに入ってたの?
 ドロップをもらった、ポケットに入れた経緯が全然わかんない。
 あたしに飴ちゃんをくれるような友達って、かなちゃんしかいないけど。

 (でも、もらった記憶ない)

 もちろん、自分で購入した覚えもない。
 
 (ってことは、やっぱり「いい夢見まちたでちゅね~」なのかな)

 ちょっとロングロングすぎて、生々しい夢。
 人型では経験できそうにないことを、これでもかとモリモリに盛りつけた夢。
 でも。

 (志乃さまのメモ、入ってたし)

 あれは夢じゃない。
 登校前に何度も確認した、志乃さまのくださったメモ。

 〝猫、預かってます。 佐保宮志乃〟

 郵便受けの中から見つけた時は、思わず「ウォン家宝!」って叫んじゃったけど。
 とにかく。
 とにかく、手書きサイン入りヒャッホイ♪ じゃない。お宝ムッフー♡ でもない。
 このメモは、志乃さまが猫になったあたしを預かってくれた動かぬ証拠。あたしが猫で、彼に拾われた証。
 今は、大事に部屋に(家宝認定で)置いてきたけど、あれがある限り、猫化は夢じゃなかったんだ。
 猫化も。志乃さまに拾われたことも。志乃さまに~~見られたことも!

 「おっ、噂をすれば」

 急に立ち止まったかなちゃん。追いかけてたあたしは、止まりきれずにボフッと彼女に激突。鼻、痛い。

 「相変わらずキラキラしてるね~、麗しの志乃さまは」

 学食に向かう人混み。高校と違って、いろんな私服の人で溢れてガチャガチャしてるのに、その中から簡単に見つけ出せてしまう。
 カッコいいから? 背が高いから? それとも持ってるオーラが違うから?
 絶対モブに紛れてしまわない、志乃さまのお姿。
 それに比べてあたしは、こうやってかなちゃんの背中に隠れて埋もれちゃうし――っ!

 「のどか? どうした?」

 「ああ、あのっ、かなちゃん! 今日は、庭で食べよう! うん、そうしよう!」

 グイグイとかなちゃんの服を引っ張る。今日の志乃さまウォッチングは中止!

 「庭で? 雨降ってるのに?」

 「じゃ、じゃあ、あっちの学食! あっちの日替わり定食が食べたくなった!」

 「はあ? 私、こっちのBランチが食べた、ちょっ、押さない! 行く! 行くから!」

 かなちゃんが顔をしかめる。
 ゴメン、かなちゃん。ワガママ言った。
 一瞬? バッチリ? 志乃さまと視線が合っちゃったのよ! なんかあたしを見て「あ!」みたいなの。多分、猫を預かったこととか、急にその猫がいなくなったこととか。そういうことを話そうとしてくださってるんだろうけど。

 (今のあたしに、それを受け止めるだけの心構えがないの!)

 志乃さまと目が合うだけでもハードルメチャ高なのに、猫のことを(というか自分のことを)つらつら話すのは無理!
 あの猫はあたしの飼い猫なんです~、ご迷惑をおかけしました~。
 それだけのことだけど、それだけのことがどれだけ大変か。

 「やっぱ、今日ののどか、ヘン」

 今来た道を戻ることに従ってくれたかなちゃんが、口を尖らせブーたれる。
 うん。ヘンでいいわよ、ヘンで。
 今のあたし、テンパって頭んなかグールグルだから。
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