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21.旬は秋です、栗きんとん
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「――おはよう。フフッ。オシャレしてきたんだね。その髪型、すごくカワイイ。似合ってる」
おおう。
玄関ドアを開けて一番。会って最初に言われたセリフ。与えられたスマイル。
もうそれだけで尊くて、あたし、キュン死にしそう。
》明後日の土曜日、空いてる?
そんなメールから始まった、今日のデート。デートですよ! で、ぇ、と!
なんでも志乃くん、この季節に合う服が欲しいらしくて。それをなぜか、あたしに選んでほしいとのことで。
なんであたし? という疑問には、「カノジョが選んでくれた服ってのも、カレカノっぽくていいでしょ」って答えが返ってきた。服がダメなら、普段使いのモノでもいいからって。
あたしなんがか選んでいいのか気になるけど、それが女よけとしての効果あるものだとしたら……。やるしかないよね、やっぱり。
――佐保宮先輩とのデート! なら頑張らなきゃ、のどか!
メールが届いたのは、ちょうど学校で授業の終わった頃だったので、そばにいたかなちゃんに思いっきり知られ、なぜかかなちゃんのやる気に火がついてしまった。――なんで?
――あの佐保宮先輩、シノに似てるからってのじゃなくて、のどかを大事にしてるってところが貴重だと思うのよ。
あたしを大事にしてる? それが貴重?
かなちゃんに言わせれば、あたしのお化粧失敗事件での志乃くんの対応が「神!」なんだとか。
――そりゃあ、のどかがメイク得意ってのなら、カレシのために頑張らなきゃだけど、そうじゃないのを無理しなくていいって、そのままでいいって言ってくれるのは貴重だよ。メイクしてない女、努力してない女は女として見られないとか、そんな女を連れて恥ずかしいとか。自分の見栄ばっかり言ってるじゃなくて、下手くそのどかの歩調に合わせてくれてるってのがいいと思うのよ。
なるほど。
下手くそのどかってのは、ちょっと引っかかるけど。
――でも、その佐保宮先輩の優しさに甘えてばかりじゃなくて、アンタも服装ぐらい頑張りなさい。メイクが苦手でも、ファッションぐらいはなんとななるでしょ。一緒に選んであげるし。下手くそは仕方ないとしても、努力ってのを忘れちゃダメなのよ!
そう力説したかなちゃん。
放課後、志乃くんの迎えがないことをいいことに、そのままデート用の服を買いに連れて行かれた。
――これ着て、佐保宮先輩を惚れ直させてきなさい、のどか!
と、かなちゃんに選んでもらった服。
レトロライクな小花柄のワンピースに、ネイビーのカーディガン。
――髪型も頑張るのよ!
ネットで調べて、あたしにもできる(できたと思う)髪型。耳の後ろ両サイドから編み込んで、大人っぽく頑張ってみた。
で。
でだ。
あの、志乃くんのお言葉。
「カワイイ、似合ってる」は、最高のお褒めの言葉だと思いません? かなちゃん。
たとえ、あたしと志乃くんの関係が、かなちゃんが思ってるようなカレシカノジョの関係じゃなかったとしてもさ。
*
志乃くんが連れてきてくれたのは、あたしがかなちゃんと服を選びに来たのと同じ、学校近くにあるショッピングモールだった。
まあ、そうだよね。
あたしたちが暮らしてるのは、学校の近くなわけだし。よほどのことがない限り、用事はそこで済ませることになるよね。
三階までミッチリお店の入ったショッピングモール。その上、四階、五階は立体駐車場という大きさなので、休日ともなればお客も多く、見る店も多くて、普通に歩いてるだけでも充分楽しい。
それに。
(なんか、今日はちょっと印象が違う~)
いつも見慣れてるショッピングモールなのに。推し活のため、行きつけになりつつあるドラッグストアとか、オタクの聖地、いつもの本屋なのに。
どの店も、どの通路も。すれ違うオッサンまでも。なぜかキラキラして見えるんだけど。
(これって、志乃くん効果?)
いつもはかなちゃんとだったり、一人で来てるから。一緒に来る人が違うと、こうも景色って変わって見えるんだろうか。
「どうしたの?」
立ち止まったあたしに、志乃くんが声をかけてきた。
「えっと、いや、どのお店に入ろっかな~って。アハハ……」
そう。
これだけお店があるとすごく迷う。
志乃くんに似合う服のあるお店。志乃くんならなんでも似合いそうで、店を選ばなくてもいい、逆に、どの店に入ってもオッケーってのが、ちょっと……。どこかいい店に入って、「これなんてどう?」って、サッと選べたらいいんだけど。
(どれがいいのかわかんない~)
が本音。
家族の、お父さんやお兄ちゃんのですら選んだことないから。メンズの基準がわかんない。
「別に、ムリして選ぶ必要はないよ」
あたしの手を握った志乃くん。
「こうして、ブラブラと歩くだけでも充分だから。ね?」
普通に友だち(?)お手々つなぎだったのが、「ね?」で指と指を絡め合う、あの伝説の、憧れの……。
(恋人つなぎじゃあぁぁっ……!)
に変化。
あ、あたしっ、ししし、志乃くんと恋っ、恋人つなっ……(言葉にならない)!
「こうして、手をつないで。歩いてるだけでもカップルらしく見えるだろ?」
え、あ、そっか。
沸騰しそうだった頭が、一気に冷却される。
(これ、女よけ、ニセモノカノジョの業務の一環だったんだ)
休日。学校近くのショッピングモール。大勢の人。
この中に、同じ大学の生徒がいてもおかしくない。あたしと志乃くんの関係を疑ってる人がいてもおかしくない。
そこで、こんなふうにラブラブっぽいところをアピールしたら?
竹芝が言ってたような、「本当につき合ってるの?」疑惑を払拭できるかもしれない。なるほど。
じゃあ、トコトンラブラブに見えるようにしなくっちゃ。ってことで、茹で上がってるより、笑顔笑顔。イチャコララブラブフラッシュスマイルニッコニコ。これでどだ。
「……とりあえず。あっちから行ってみようか」
一瞬立ち止まりかけた志乃くんが、グイッとあたしの手を引く。――――? あたしのスマイル、気に入らない? オカメヒョットコでも、笑えば少しはマシになるって思ったのに。
*
志乃くんが足を向けたのは、なんと「日本全国美味いもの展」。
食品エリアのすぐ後ろで開催されてた物産展。よくわかんない「ナントカ節」みたいな音楽がかかってるところ。
なんでここ?
湧いた疑問はすぐに解消された。
「見て、のどか。栗きんとん売ってる」
各地のお土産ベスト、みたいなのが並んでた一角。そこで、「岐阜のお土産」として並んでた栗きんとんを志乃くんが指差す。
「のどかが手土産でくれたときから、気に入ってるんだよな」
そ、そうなんだ。
あたしが、引っ越しの挨拶で渡した栗きんとん。
普通、栗きんとんって言ったら、お正月のアレでしょ? って思われるのがオチで、箱を開けて「なんじゃこりゃ」ってなるかと思ってたんだけど。
「うれしいです。気に入ってもらえて。あれ、あたしのおじいちゃんの手作りですから」
郷土の銘菓が気に入られただけじゃなく、おじいちゃんのってのがミソ。
「腰を痛めたっていう、あのおじいさん?」
え。あ。う。
「そそそ、ソウデスネ」
忘れてた。おじいちゃん、腰を痛めたってことにしてたんだ。ついたウソがブーメランで帰ってきた気分。それも、ドスッと突き刺さる塩梅で。
「栗きんとんは、新鮮な栗を使うから、食べられる季節が限定されてるんですよ」
話題を強引に変更。
「基本は、秋から冬。ウチは3月末まで販売してますけど、お店によっては、材料無くなり次第終了、年末で販売を終えるってお店もあるんですよ」
あたしが手土産に出来たのは、期間ギリギリ、3月の引っ越しだったから。それに、おじいちゃんが、「大事なのどかのためじゃ!」と、最高の栗を用意してくれたから。
「へえ、そうなんだ。詳しいんだね」
「それは、まあ。和菓子屋の娘ですから」
「そうなの?」
「はい。お店は祖父母と両親、四人で切り盛りしてます。小さなお店なんですけどね」
田舎の町によくある、老舗っぽい和菓子屋。
有名な~とか、受け継がれた伝統の~とかじゃなくて。町の中でちょっとしたお使いモノに~ってことで、御進物を買いに来るお客様に支えられてる店。だから、町内でちょっと法事のお供えに~ってことで買い求められて、お供えブッキングするなんてことはよくあるらしい。それも、季節限定だからって栗きんとんを購入されて、ブッキングしたときには……。法事の場が栗きんとんパーティになってしまう。
「じゃあ、あれと同じのは、ここには売ってないか」
「そうですね。あ、でも、ここにあるのも、きっと美味しいですよ」
食べたことないけど、ポップに書かれた店名は、あたしでも聞いたことのある有名店。有名店=美味しいかどうかは知らないけど、こうして「美味いもの展」に参加してるなら、きっと美味しいはず。それに今は、栗の旬。どこのお店でも、絶対美味しいに違いない。
「う~ん。やめとく」
志乃くんが、ちょっと困ったように頭を掻く。なんで?
「俺、あの栗きんとんが食べたいんだよね。のどかが持ってきてくれた、〝銘菓のどか〟」
ブホッ。
「えっと。あれは、その……」
おじいちゃん! そしてお父さん!
なんで、あの栗きんとんに「のどか」なんて名付けたのよ!
「そこまで喜んでもらえて。きっとおじいちゃんも喜んでくれると思います」
あたしが生まれて。孫フィーバー起こしたおじいちゃんが、栗きんとんの商品名を、孫娘の名前、「のどか」に変更した。一応お父さんとお母さんは止めたらしいんだけど、店主であるおじいちゃんの暴走は止まらなかった。
地元にいた時も恥ずかしかったけど、こうして改めて志乃くんに言われると。
(おじいちゃんめぇぇ~~!)
気に入ってもらえたことと、恥ずかしさは別物。
帰ったら、絶対必ず栗きんとんの名前、変えてもらおう。そうしよう。
胸に誓う。
おおう。
玄関ドアを開けて一番。会って最初に言われたセリフ。与えられたスマイル。
もうそれだけで尊くて、あたし、キュン死にしそう。
》明後日の土曜日、空いてる?
そんなメールから始まった、今日のデート。デートですよ! で、ぇ、と!
なんでも志乃くん、この季節に合う服が欲しいらしくて。それをなぜか、あたしに選んでほしいとのことで。
なんであたし? という疑問には、「カノジョが選んでくれた服ってのも、カレカノっぽくていいでしょ」って答えが返ってきた。服がダメなら、普段使いのモノでもいいからって。
あたしなんがか選んでいいのか気になるけど、それが女よけとしての効果あるものだとしたら……。やるしかないよね、やっぱり。
――佐保宮先輩とのデート! なら頑張らなきゃ、のどか!
メールが届いたのは、ちょうど学校で授業の終わった頃だったので、そばにいたかなちゃんに思いっきり知られ、なぜかかなちゃんのやる気に火がついてしまった。――なんで?
――あの佐保宮先輩、シノに似てるからってのじゃなくて、のどかを大事にしてるってところが貴重だと思うのよ。
あたしを大事にしてる? それが貴重?
かなちゃんに言わせれば、あたしのお化粧失敗事件での志乃くんの対応が「神!」なんだとか。
――そりゃあ、のどかがメイク得意ってのなら、カレシのために頑張らなきゃだけど、そうじゃないのを無理しなくていいって、そのままでいいって言ってくれるのは貴重だよ。メイクしてない女、努力してない女は女として見られないとか、そんな女を連れて恥ずかしいとか。自分の見栄ばっかり言ってるじゃなくて、下手くそのどかの歩調に合わせてくれてるってのがいいと思うのよ。
なるほど。
下手くそのどかってのは、ちょっと引っかかるけど。
――でも、その佐保宮先輩の優しさに甘えてばかりじゃなくて、アンタも服装ぐらい頑張りなさい。メイクが苦手でも、ファッションぐらいはなんとななるでしょ。一緒に選んであげるし。下手くそは仕方ないとしても、努力ってのを忘れちゃダメなのよ!
そう力説したかなちゃん。
放課後、志乃くんの迎えがないことをいいことに、そのままデート用の服を買いに連れて行かれた。
――これ着て、佐保宮先輩を惚れ直させてきなさい、のどか!
と、かなちゃんに選んでもらった服。
レトロライクな小花柄のワンピースに、ネイビーのカーディガン。
――髪型も頑張るのよ!
ネットで調べて、あたしにもできる(できたと思う)髪型。耳の後ろ両サイドから編み込んで、大人っぽく頑張ってみた。
で。
でだ。
あの、志乃くんのお言葉。
「カワイイ、似合ってる」は、最高のお褒めの言葉だと思いません? かなちゃん。
たとえ、あたしと志乃くんの関係が、かなちゃんが思ってるようなカレシカノジョの関係じゃなかったとしてもさ。
*
志乃くんが連れてきてくれたのは、あたしがかなちゃんと服を選びに来たのと同じ、学校近くにあるショッピングモールだった。
まあ、そうだよね。
あたしたちが暮らしてるのは、学校の近くなわけだし。よほどのことがない限り、用事はそこで済ませることになるよね。
三階までミッチリお店の入ったショッピングモール。その上、四階、五階は立体駐車場という大きさなので、休日ともなればお客も多く、見る店も多くて、普通に歩いてるだけでも充分楽しい。
それに。
(なんか、今日はちょっと印象が違う~)
いつも見慣れてるショッピングモールなのに。推し活のため、行きつけになりつつあるドラッグストアとか、オタクの聖地、いつもの本屋なのに。
どの店も、どの通路も。すれ違うオッサンまでも。なぜかキラキラして見えるんだけど。
(これって、志乃くん効果?)
いつもはかなちゃんとだったり、一人で来てるから。一緒に来る人が違うと、こうも景色って変わって見えるんだろうか。
「どうしたの?」
立ち止まったあたしに、志乃くんが声をかけてきた。
「えっと、いや、どのお店に入ろっかな~って。アハハ……」
そう。
これだけお店があるとすごく迷う。
志乃くんに似合う服のあるお店。志乃くんならなんでも似合いそうで、店を選ばなくてもいい、逆に、どの店に入ってもオッケーってのが、ちょっと……。どこかいい店に入って、「これなんてどう?」って、サッと選べたらいいんだけど。
(どれがいいのかわかんない~)
が本音。
家族の、お父さんやお兄ちゃんのですら選んだことないから。メンズの基準がわかんない。
「別に、ムリして選ぶ必要はないよ」
あたしの手を握った志乃くん。
「こうして、ブラブラと歩くだけでも充分だから。ね?」
普通に友だち(?)お手々つなぎだったのが、「ね?」で指と指を絡め合う、あの伝説の、憧れの……。
(恋人つなぎじゃあぁぁっ……!)
に変化。
あ、あたしっ、ししし、志乃くんと恋っ、恋人つなっ……(言葉にならない)!
「こうして、手をつないで。歩いてるだけでもカップルらしく見えるだろ?」
え、あ、そっか。
沸騰しそうだった頭が、一気に冷却される。
(これ、女よけ、ニセモノカノジョの業務の一環だったんだ)
休日。学校近くのショッピングモール。大勢の人。
この中に、同じ大学の生徒がいてもおかしくない。あたしと志乃くんの関係を疑ってる人がいてもおかしくない。
そこで、こんなふうにラブラブっぽいところをアピールしたら?
竹芝が言ってたような、「本当につき合ってるの?」疑惑を払拭できるかもしれない。なるほど。
じゃあ、トコトンラブラブに見えるようにしなくっちゃ。ってことで、茹で上がってるより、笑顔笑顔。イチャコララブラブフラッシュスマイルニッコニコ。これでどだ。
「……とりあえず。あっちから行ってみようか」
一瞬立ち止まりかけた志乃くんが、グイッとあたしの手を引く。――――? あたしのスマイル、気に入らない? オカメヒョットコでも、笑えば少しはマシになるって思ったのに。
*
志乃くんが足を向けたのは、なんと「日本全国美味いもの展」。
食品エリアのすぐ後ろで開催されてた物産展。よくわかんない「ナントカ節」みたいな音楽がかかってるところ。
なんでここ?
湧いた疑問はすぐに解消された。
「見て、のどか。栗きんとん売ってる」
各地のお土産ベスト、みたいなのが並んでた一角。そこで、「岐阜のお土産」として並んでた栗きんとんを志乃くんが指差す。
「のどかが手土産でくれたときから、気に入ってるんだよな」
そ、そうなんだ。
あたしが、引っ越しの挨拶で渡した栗きんとん。
普通、栗きんとんって言ったら、お正月のアレでしょ? って思われるのがオチで、箱を開けて「なんじゃこりゃ」ってなるかと思ってたんだけど。
「うれしいです。気に入ってもらえて。あれ、あたしのおじいちゃんの手作りですから」
郷土の銘菓が気に入られただけじゃなく、おじいちゃんのってのがミソ。
「腰を痛めたっていう、あのおじいさん?」
え。あ。う。
「そそそ、ソウデスネ」
忘れてた。おじいちゃん、腰を痛めたってことにしてたんだ。ついたウソがブーメランで帰ってきた気分。それも、ドスッと突き刺さる塩梅で。
「栗きんとんは、新鮮な栗を使うから、食べられる季節が限定されてるんですよ」
話題を強引に変更。
「基本は、秋から冬。ウチは3月末まで販売してますけど、お店によっては、材料無くなり次第終了、年末で販売を終えるってお店もあるんですよ」
あたしが手土産に出来たのは、期間ギリギリ、3月の引っ越しだったから。それに、おじいちゃんが、「大事なのどかのためじゃ!」と、最高の栗を用意してくれたから。
「へえ、そうなんだ。詳しいんだね」
「それは、まあ。和菓子屋の娘ですから」
「そうなの?」
「はい。お店は祖父母と両親、四人で切り盛りしてます。小さなお店なんですけどね」
田舎の町によくある、老舗っぽい和菓子屋。
有名な~とか、受け継がれた伝統の~とかじゃなくて。町の中でちょっとしたお使いモノに~ってことで、御進物を買いに来るお客様に支えられてる店。だから、町内でちょっと法事のお供えに~ってことで買い求められて、お供えブッキングするなんてことはよくあるらしい。それも、季節限定だからって栗きんとんを購入されて、ブッキングしたときには……。法事の場が栗きんとんパーティになってしまう。
「じゃあ、あれと同じのは、ここには売ってないか」
「そうですね。あ、でも、ここにあるのも、きっと美味しいですよ」
食べたことないけど、ポップに書かれた店名は、あたしでも聞いたことのある有名店。有名店=美味しいかどうかは知らないけど、こうして「美味いもの展」に参加してるなら、きっと美味しいはず。それに今は、栗の旬。どこのお店でも、絶対美味しいに違いない。
「う~ん。やめとく」
志乃くんが、ちょっと困ったように頭を掻く。なんで?
「俺、あの栗きんとんが食べたいんだよね。のどかが持ってきてくれた、〝銘菓のどか〟」
ブホッ。
「えっと。あれは、その……」
おじいちゃん! そしてお父さん!
なんで、あの栗きんとんに「のどか」なんて名付けたのよ!
「そこまで喜んでもらえて。きっとおじいちゃんも喜んでくれると思います」
あたしが生まれて。孫フィーバー起こしたおじいちゃんが、栗きんとんの商品名を、孫娘の名前、「のどか」に変更した。一応お父さんとお母さんは止めたらしいんだけど、店主であるおじいちゃんの暴走は止まらなかった。
地元にいた時も恥ずかしかったけど、こうして改めて志乃くんに言われると。
(おじいちゃんめぇぇ~~!)
気に入ってもらえたことと、恥ずかしさは別物。
帰ったら、絶対必ず栗きんとんの名前、変えてもらおう。そうしよう。
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