ボクの妹は空を飛べない。~父さんが拾ってきたのは“人間”の子どもでした~

若松だんご

文字の大きさ
5 / 42
一、野分。 (のわき。夏の終わりの頃、雨とともに吹く暴風。台風)

(五)

しおりを挟む
 「うわっ!」

 「ワップ!」

 「わわわわっ!」

 やしろに帰った僕たちの上げた声。
 最初のはボク。次に、ボクの羽根にぶつかったノスリ。そして、そのノスリに押し出されたせいで、着陸に失敗して、やしろきざはしから落っこちそうになったカリガネ。――カリガネ、飛べばいいのに。

 「ちょ、何やってんだよ、ハヤブサァ」

 翼の後ろで、ノスリが文句を言いながら、つま先立ちしてのぞきこむ。落っこちそうになったカリガネは、なんとか四つん這いで、きざはしに残った。

 「……お前、どうしてここに」

 ボクが、二人のことを考えずに、きざはしに降り立ったわけじゃない。降りたくても、そこにデデンっと立ってたヤツがいたから、上手く降りられなかったのだ。
 ボクが降りるのを邪魔したヤツ。それは――

 「これが人の子か!」

 「うわあ、初めて見たよ」

 二人が声を上げる。

 そう。きざはしのド真ん中に立っていたのは、あの〝人の子〟だった。キョトンとした顔のまま、ジッときざはしに立っていた。

 「ねえ、人の子って、僕たちとあんまり変わらないね」

 四つん這いのまま、人の子に近づいたカリガネ。そのまま、しげしげと人の子を観察する。

 「ホントだ。違いって、翼のある、なし、だけじゃね?」

 ボクの羽根に手をかけたまま、背伸びして首も伸ばすノスリ。
 二人の視線におびえたのか、人の子がボクの衣のスソをつかむ。

 「こんなかわいい子に追いかけられて、うれしいだろ? ハヤブサ」

 「うれしいわけないだろ、こんなの」

 バサッと翼をふるわせ、ノスリの手を払う。

 「なんでボクが、こんな人の子なんかの世話をしなくちゃいけないんだ」

 「そりゃあ、お前の親父さん、族長が決めたからじゃね?」

 「大事な妹だから、兄であるハヤブサがお世話しろってことなんじゃないの?」

 ノスリとカリガネが、それぞれの意見にウンウンとうなずき合ってから、ボクを見る。

 「森に棄てられてたんだろ、この子」

 「え? 迷子じゃないの?」

 「大ワシにさらわれてきたって聞いたけど」

 「大ワシが? この子を? もっと小さな赤子じゃなく?」

 「だから、重すぎて途中で落っことしたって、じっちゃんが言ってたぞ」

 「そうなんだ。でも僕は、人の里で飢えて、木の実を採りに来て迷子になったって教えてもらったけど」

 本当のところ、どうなの?

 二人が、正解を求めてボクを見る。

 「ボクだって、くわしくは知らない。父さんが勝手に拾ってきたんだから」

 ボクの衣をつかんだまま、ずっと離さない手。見下ろすと、その黒い目が、ビクッとゆれた。

 「父さんが、森でさまよっててかわいそうだから、だから拾ったって。でもさ、『かわいそう』ってだけなら、ちょっとメシでも食わせて、人の里に返してやればいいのに。別にボ、ボクの妹だなんて、言わなくてもいいのに」

 話すうちに、だんだん早く小さくなっていった言葉。〝ボクの妹〟の部分特に小さくなったし、言った自分でも背中がゾワゾワした。
 でもそう。そうなんだよ。
 かわいそうなら、ちょっと助けるだけで、それでいいじゃないか。今みたいに、こうして身ぎれいにして、食べ物もあげて、体も休めたんだから、もう人の里に返してもいいじゃないか。
 それをどうして、父さんは、〝ボクの妹〟だなんて言い出したんだ?

 「妹みたいに、大事にしろって言いたかったんじゃねえか?」

 ノスリが言った。

 「妹ってさ、ほら、かわいくってかわいくって、どうしようもなくかわいい時ってあるじゃん。だから、そういうふうに、大事にしてやれよって意味じゃねえの?」

 「あ、それか、一人っ子のハヤブサに、兄みたいな誰かを守るっていう意識を持つキッカケになればって、考えたんじゃないかな? ほら、ハヤブサは次期族長でしょ? だから、誰かを守りたい、守るんだって感情をこの子から学ぶ……、とかじゃないよね……、うん。ごめん」

 ひらめいた! そんなかんじのカリガネだったけど、ボクがギロッとにらむと、言葉がしりつぼみになっていった。

 「で、でも、こんなかわいい子が妹なら、悪くないんじゃない? ほらこの子、とってもツヤツヤしたキレイな黒髪だし、目だってパッチリしてるし」

 「そそそ、そうだよな。ほらほら、肌だってオイラたち鳥人と違って、抜けるように白いし」

 「だから、なに?」

 再びのにらみつけ。今度はカリガネとノスリの二人。

 「そんなにかわいいって思えるんなら、キミらに世話をまかせるよ。ボクは別に、妹なんかで〝守る〟練習をしなくても、立派な族長になれるんだから」

 つかまれた衣を取り戻し、スタスタと歩き出す。

 「お、おい!」

 背中に、あわてたノスリの声。
 そうだ。そうだよ。
 ボクは、将来、誰よりも立派な鳥人族の長になるんだ。
 人の子をボクにあずけて、「ちょっと出かけてくるわ、じゃ」って、またどっかへ飛んでった父さん。父さんが立派な族長じゃないとは言わないけど、あんなふうに仕事をほっぽってどっかに行くような、面倒なことを押しつけていくような、無責任な族長には、ボクはならない。

 大股でドスドス踏み鳴らす後ろに、トテテッと続く足音。
 トテテテテテテッと続くのならまだしも、トテテッ、トテテテテッと何度も途切れる。
 
 「勝手についてくるなよ! お世話なら、あの二人にやってもらえ!」

 ふり向きざま、その足音の主に怒りをぶつける。二人を置いて、ボクを追いかけてきてた人の子の目がビクンと震えた。

 「ボクは忙しいんだ! お前なんかにかまってるヒマはないんだ!」

 言って、目の前で、バンッと戸を乱暴に閉め、自分の室にこもる。
 そうだ。そうだよ。
 ボクは鳥人族を守る、立派な族長になるために、いっぱい学ばなきゃいけないんだ。あんな人の子なんかに、かまってるヒマはないんだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

独占欲強めの最強な不良さん、溺愛は盲目なほど。

猫菜こん
児童書・童話
 小さな頃から、巻き込まれで絡まれ体質の私。  中学生になって、もう巻き込まれないようにひっそり暮らそう!  そう意気込んでいたのに……。 「可愛すぎる。もっと抱きしめさせてくれ。」  私、最強の不良さんに見初められちゃったみたいです。  巻き込まれ体質の不憫な中学生  ふわふわしているけど、しっかりした芯の持ち主  咲城和凜(さきしろかりん)  ×  圧倒的な力とセンスを持つ、負け知らずの最強不良  和凜以外に容赦がない  天狼絆那(てんろうきずな)  些細な事だったのに、どうしてか私にくっつくイケメンさん。  彼曰く、私に一目惚れしたらしく……? 「おい、俺の和凜に何しやがる。」 「お前が無事なら、もうそれでいい……っ。」 「この世に存在している言葉だけじゃ表せないくらい、愛している。」  王道で溺愛、甘すぎる恋物語。  最強不良さんの溺愛は、独占的で盲目的。

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

レイルーク公爵令息は誰の手を取るのか

宮崎世絆
児童書・童話
うたた寝していただけなのに異世界転生してしまった。 公爵家の長男レイルーク・アームストロングとして。 あまりにも美しい容姿に高い魔力。テンプレな好条件に「僕って何かの主人公なのかな?」と困惑するレイルーク。 溺愛してくる両親や義姉に見守られ、心身ともに成長していくレイルーク。 アームストロング公爵の他に三つの公爵家があり、それぞれ才色兼備なご令嬢三人も素直で温厚篤実なレイルークに心奪われ、三人共々婚約を申し出る始末。 十五歳になり、高い魔力を持つ者のみが通える魔術学園に入学する事になったレイルーク。 しかし、その学園はかなり特殊な学園だった。 全員見た目を変えて通わなければならず、性格まで変わって入学する生徒もいるというのだ。 「みんな全然見た目が違うし、性格まで変えてるからもう誰が誰だか分からないな。……でも、学園生活にそんなの関係ないよね? せっかく転生してここまで頑張って来たんだし。正体がバレないように気をつけつつ、学園生活を思いっきり楽しむぞ!!」 果たしてレイルークは正体がバレる事なく無事卒業出来るのだろうか?  そしてレイルークは誰かと恋に落ちることが、果たしてあるのか? レイルークは誰の手(恋)をとるのか。 これはレイルークの半生を描いた成長物語。兼、恋愛物語である(多分) ⚠︎ この物語は『レティシア公爵令嬢は誰の手を取るのか』の主人公の性別を逆転した作品です。 物語進行は同じなのに、主人公が違うとどれ程内容が変わるのか? を検証したくて執筆しました。 『アラサーと高校生』の年齢差や性別による『性格のギャップ』を楽しんで頂けたらと思っております。 ただし、この作品は中高生向けに執筆しており、高学年向け児童書扱いです。なのでレティシアと違いまともな主人公です。 一部の登場人物も性別が逆転していますので、全く同じに物語が進行するか正直分かりません。 もしかしたら学園編からは全く違う内容になる……のか、ならない?(そもそも学園編まで書ける?!)のか……。 かなり見切り発車ですが、宜しくお願いします。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

楓乃めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

エマージェンシー!狂った異次元学校から脱出せよ!~エマとショウマの物語~

とらんぽりんまる
児童書・童話
第3回きずな児童書大賞で奨励賞を頂きました。 ありがとうございました! 気付いたら、何もない教室にいた――。 少女エマと、少年ショウマ。 二人は幼馴染で、どうして自分達が此処にいるのか、わからない。 二人は学校の五階にいる事がわかり、校舎を出ようとするが階段がない。 そして二人の前に現れたのは恐ろしい怪異達!! 二人はこの学校から逃げることはできるのか? 二人がどうなるか最後まで見届けて!!

処理中です...