7 / 36
二、謎解きは蔵人とともに
(二)
しおりを挟む
「宴の松原にね、散策に出かけたいと思うのだがね」
「はあ……」
だから?
「供もなく出かけるのは危険だと、止められてね」
「はあ……」
それで?
「だからって、我が家の雑色を内裏に連れてくるわけにはゆかぬだろう?」
「はあ……」
つまりは?
「成海、頼むよ」
「……ハア」
「どうした? 今日は一段と気のない返事だな」
「……ハア」
いや、もうどうでもいいです。男色でなければ。
男色か? オレのケツ穴の危機か? って焦った分、疲労がドドーンと全身を襲う。猫背でついてくだけで精一杯。
宴の松原? なんだっていいわ。
「でもどうして、宴の松原なんです? それも夜に」
一応は訊いておく。理由を知ったところでオレに拒否権はないんだけど。
「鬼が出る……というのでね。確かめに行きたいんだよ」
「鬼……ですか」
「他の公達たちとね、鬼が出るなら見てみたい、誰が一番勇ある者か確かめようじゃないかって話になってね。夜に、鬼見がてら、宴の松原に各々出かけようではないかってなったんだ」
うっわ。くだらね。
公達、ようは良いところのボンボンってヒマなのかね。
「怖いでおじゃるの~」とか言って、出かけた証に札でも置いてくるっていうんだろ? 札を置いてきたとして、それを誰が確かめに行くんだよ。どうせ下っ端雑色あたりにでも「確かめてくるでおじゃる」とか言って使いに行かせるんだぜ? 一番勇あるのは、その確かめに行った雑色じゃね? ぐらいは思う。坊っちゃんたちはお供をゾロゾロ連れてくけど、雑色は一人で行くわけだし。
ってことで、一番の勇ある者は、その雑色!! はい、決定!!
「なんだ。乗り気じゃなさそうだな」
「当たり前ですよ」
そんな出来レース。
「怯えたりとかしないのか。つまらんな」
「いやだって、鬼……でしょ? 姿かたちのあるものなら別に。オレ、見たことないですし」
幽霊の正体見たり枯れ尾花ってね。鬼だー!! お化けだー!! ってビビってたら実はそこで揺れてた柳の枝でしたー!! とかもあるわけで。明かりが少ないから、夜の闇でちょっと何かが動いただけで「お化け!!」って思っちゃうわけで。だから、特段怖いとは思わない。
むしろ、さっき自分に襲いかかった巨大な誤解のほうが恐ろしい。オレのケツ穴、貞操の危機かと思ったもん。あー、怖かった。
「というか、そんな恐ろしいものがいるなら、オレじゃなくて、もっと屈強な者を連れて行ったらどうですか?」
オレなんて、大して役に立たないだろうし。あ、明かり持ちぐらいには使えるか? アナタの足元照らします?
腰を曲げまげ、旦那様の足元照らしながら歩いて、狼藉に遭う時、いの一番に提灯共々斬られるヤツだ。……ってオレ、斬られるの? 鬼に?
「護衛なら抜かりなく手配してあるよ。武士団の棟梁から一人、腕の立つ者を借り受けた」
もうすでに貸借契約成立させてたのか。
ただの肝試しに駆り出される武士。武士団棟梁も、頭中将から直々にお願いされたら断れなかったんだろうなあ。ちょっとかわいそう。同情する。
「って、そっちがいるならオレなんて必要ないんじゃないですか?」
護衛という意味では、武士がいれば問題ないし。明かり持ちだって、兼任してやってくれるだろうし。
「いや、それでは困る」
なんで?
「怯えてくれる者がおらねば、面白くないではないか」
「オレは、ビビリ要員ですか」
うわぁ、鬼だぁ。キャー怖い。助けてぇ。あーれー。……これでいいっすかぁ?
そんなどうでもいい役のために時間外労働を強いられるなんて。
それよか、オレ、帰っていいですか? 昨日、夜遅くまで物語書いてたから、今、スッゲー眠いんですけど。
って、ヤベ。
「……ファ~~~~ア」
あくび出た。眠いって考えるだけであくびが出た。
まあ、そういうもんだよな、眠気ってさ。
「鬼と聞いて怖がるでもなく。余裕だな、成海」
いえ。ぜんっぜんそういうのじゃないです。マジで眠いだけです。
「やはりお主を連れて行ったほうがよさそうだ」
いえ。ご遠慮いたします。オレはとっても寝床が恋しいです。寝床がオレを呼んでいる。
* * * *
なんてオレの意見は完全無視され、迎えた夜。
いざ宴の松原!!なオレたちの前に現れたのは、雅顕が手配したという武者一人。
ビラビラと、踏んでください裾引きずり、弓撃つのに邪魔そうな袖、走れねえだろなガポガポ靴ではなく、袖の短い褐衣、走りやすそうな括袴に脛巾。持ってる弓も飾りじゃなくて、マジで撃てるヤツ。
つまり、ナントカの少将とかみたいな飾り野郎ではなく、ガチで戦えるヤツ。腰にある太刀だって、飾りっ気ナシの実用性満点の代物。
「源 忠高と申す」
武者が名乗った。
――――――――――。
――――――――。
――――――。
――――。
えと。それだけ?
目の前の武者。名乗るだけ名乗ったら、グッと一文字に引き結ばれた口。
名乗った!! 以上!!
来た、見た、勝ったもビックリな短さ。
いや、まあ、ここでさ「遅ればせの仁義、失礼さんでござんす。それがし、生まれも育ちも武蔵国。遠く武蔵の帝釈天で産湯を使い、姓は源、名は忠高、人呼んで、滝口の源さんと申します」なんて口上されても困るんだけどさ。(内容は適当)
せめて「此度の護衛は任されよ」とか、それぐらい言ってもいいんじゃね?
質実剛健。簡古素朴。
パッと見、二十代後半、ギリ三十手前に見えるのに、中身はいかつい歴戦の武士そのもの。男は言葉で語らず、(胡簶背負った)背中で語るものを地で行く感じ。
武士らしいっちゃあ武士らしいんだけどな。
「彼は、武士団の棟梁が一目置くほどの技量の持ち主だよ。鬼が出たとしても必ず討ち取ってくれるだろう」
え? 必ず、討たなきゃいけないの?
それはそれで責任重大だなあ。
雅顕の言い方に、大丈夫かなって思ってその武士、忠高を見るけど、顔色一つ変えることなくそこに立っていた。
うーん。
「おまかせあれ」とか「拙者なら、鬼など大したことござらぬよ」とか大口叩かれても嫌だけど、ここまで表情変わらないってのもなあ。顔色一つというか、何も変わらない。何も動じない。
お面でもつけてるんじゃね? って疑いたくなるぐらい微動だにしない。
うん。これは、護衛としては安心かもしれないけど、夜の宴の松原っていう肝試し先には不向きかもな。肝試し、怖がるヤツがいてこそ始めて面白くなるもんだし――って。
これ、もしかしてもしかしなくても、オレがビビらなきゃいけない案件? やだなあ。
「はあ……」
だから?
「供もなく出かけるのは危険だと、止められてね」
「はあ……」
それで?
「だからって、我が家の雑色を内裏に連れてくるわけにはゆかぬだろう?」
「はあ……」
つまりは?
「成海、頼むよ」
「……ハア」
「どうした? 今日は一段と気のない返事だな」
「……ハア」
いや、もうどうでもいいです。男色でなければ。
男色か? オレのケツ穴の危機か? って焦った分、疲労がドドーンと全身を襲う。猫背でついてくだけで精一杯。
宴の松原? なんだっていいわ。
「でもどうして、宴の松原なんです? それも夜に」
一応は訊いておく。理由を知ったところでオレに拒否権はないんだけど。
「鬼が出る……というのでね。確かめに行きたいんだよ」
「鬼……ですか」
「他の公達たちとね、鬼が出るなら見てみたい、誰が一番勇ある者か確かめようじゃないかって話になってね。夜に、鬼見がてら、宴の松原に各々出かけようではないかってなったんだ」
うっわ。くだらね。
公達、ようは良いところのボンボンってヒマなのかね。
「怖いでおじゃるの~」とか言って、出かけた証に札でも置いてくるっていうんだろ? 札を置いてきたとして、それを誰が確かめに行くんだよ。どうせ下っ端雑色あたりにでも「確かめてくるでおじゃる」とか言って使いに行かせるんだぜ? 一番勇あるのは、その確かめに行った雑色じゃね? ぐらいは思う。坊っちゃんたちはお供をゾロゾロ連れてくけど、雑色は一人で行くわけだし。
ってことで、一番の勇ある者は、その雑色!! はい、決定!!
「なんだ。乗り気じゃなさそうだな」
「当たり前ですよ」
そんな出来レース。
「怯えたりとかしないのか。つまらんな」
「いやだって、鬼……でしょ? 姿かたちのあるものなら別に。オレ、見たことないですし」
幽霊の正体見たり枯れ尾花ってね。鬼だー!! お化けだー!! ってビビってたら実はそこで揺れてた柳の枝でしたー!! とかもあるわけで。明かりが少ないから、夜の闇でちょっと何かが動いただけで「お化け!!」って思っちゃうわけで。だから、特段怖いとは思わない。
むしろ、さっき自分に襲いかかった巨大な誤解のほうが恐ろしい。オレのケツ穴、貞操の危機かと思ったもん。あー、怖かった。
「というか、そんな恐ろしいものがいるなら、オレじゃなくて、もっと屈強な者を連れて行ったらどうですか?」
オレなんて、大して役に立たないだろうし。あ、明かり持ちぐらいには使えるか? アナタの足元照らします?
腰を曲げまげ、旦那様の足元照らしながら歩いて、狼藉に遭う時、いの一番に提灯共々斬られるヤツだ。……ってオレ、斬られるの? 鬼に?
「護衛なら抜かりなく手配してあるよ。武士団の棟梁から一人、腕の立つ者を借り受けた」
もうすでに貸借契約成立させてたのか。
ただの肝試しに駆り出される武士。武士団棟梁も、頭中将から直々にお願いされたら断れなかったんだろうなあ。ちょっとかわいそう。同情する。
「って、そっちがいるならオレなんて必要ないんじゃないですか?」
護衛という意味では、武士がいれば問題ないし。明かり持ちだって、兼任してやってくれるだろうし。
「いや、それでは困る」
なんで?
「怯えてくれる者がおらねば、面白くないではないか」
「オレは、ビビリ要員ですか」
うわぁ、鬼だぁ。キャー怖い。助けてぇ。あーれー。……これでいいっすかぁ?
そんなどうでもいい役のために時間外労働を強いられるなんて。
それよか、オレ、帰っていいですか? 昨日、夜遅くまで物語書いてたから、今、スッゲー眠いんですけど。
って、ヤベ。
「……ファ~~~~ア」
あくび出た。眠いって考えるだけであくびが出た。
まあ、そういうもんだよな、眠気ってさ。
「鬼と聞いて怖がるでもなく。余裕だな、成海」
いえ。ぜんっぜんそういうのじゃないです。マジで眠いだけです。
「やはりお主を連れて行ったほうがよさそうだ」
いえ。ご遠慮いたします。オレはとっても寝床が恋しいです。寝床がオレを呼んでいる。
* * * *
なんてオレの意見は完全無視され、迎えた夜。
いざ宴の松原!!なオレたちの前に現れたのは、雅顕が手配したという武者一人。
ビラビラと、踏んでください裾引きずり、弓撃つのに邪魔そうな袖、走れねえだろなガポガポ靴ではなく、袖の短い褐衣、走りやすそうな括袴に脛巾。持ってる弓も飾りじゃなくて、マジで撃てるヤツ。
つまり、ナントカの少将とかみたいな飾り野郎ではなく、ガチで戦えるヤツ。腰にある太刀だって、飾りっ気ナシの実用性満点の代物。
「源 忠高と申す」
武者が名乗った。
――――――――――。
――――――――。
――――――。
――――。
えと。それだけ?
目の前の武者。名乗るだけ名乗ったら、グッと一文字に引き結ばれた口。
名乗った!! 以上!!
来た、見た、勝ったもビックリな短さ。
いや、まあ、ここでさ「遅ればせの仁義、失礼さんでござんす。それがし、生まれも育ちも武蔵国。遠く武蔵の帝釈天で産湯を使い、姓は源、名は忠高、人呼んで、滝口の源さんと申します」なんて口上されても困るんだけどさ。(内容は適当)
せめて「此度の護衛は任されよ」とか、それぐらい言ってもいいんじゃね?
質実剛健。簡古素朴。
パッと見、二十代後半、ギリ三十手前に見えるのに、中身はいかつい歴戦の武士そのもの。男は言葉で語らず、(胡簶背負った)背中で語るものを地で行く感じ。
武士らしいっちゃあ武士らしいんだけどな。
「彼は、武士団の棟梁が一目置くほどの技量の持ち主だよ。鬼が出たとしても必ず討ち取ってくれるだろう」
え? 必ず、討たなきゃいけないの?
それはそれで責任重大だなあ。
雅顕の言い方に、大丈夫かなって思ってその武士、忠高を見るけど、顔色一つ変えることなくそこに立っていた。
うーん。
「おまかせあれ」とか「拙者なら、鬼など大したことござらぬよ」とか大口叩かれても嫌だけど、ここまで表情変わらないってのもなあ。顔色一つというか、何も変わらない。何も動じない。
お面でもつけてるんじゃね? って疑いたくなるぐらい微動だにしない。
うん。これは、護衛としては安心かもしれないけど、夜の宴の松原っていう肝試し先には不向きかもな。肝試し、怖がるヤツがいてこそ始めて面白くなるもんだし――って。
これ、もしかしてもしかしなくても、オレがビビらなきゃいけない案件? やだなあ。
0
あなたにおすすめの小説
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
転生後はゆっくりと
衣更月
ファンタジー
貧しい集落で生まれたリリは、生まれた瞬間から前世の記憶があった。
日本人特有の”配慮”に徹した赤ん坊を演じていたことで、両親から距離を置かれた挙句、村人からも「不気味な子」として敬遠されることに…。
そして、5才の誕生日に遠くの町に捨てられた。
でも、リリは悲観しない。
前世の知識チートは出来ないけど、大人メンタルで堅実に。
目指すは憧れのスローライフが出来るほど、ほどほどの守銭奴としてリリは異世界人として順応していく。
全25話(予定)
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
冷遇王妃はときめかない
あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。
だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる