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本編

75.「もっと尻尾抱かせてよ〜♡」

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活気溢れる清波の街。青空が広がる中、三つの人影が街中を飛び回っていた。
常人が視認出来ぬ程の疾風の如し速さで空を舞う三つの影。キツネの尻尾が一瞬にして道を通り過ぎる光景は奇妙ではあるがそれを認識出来る者は少ない。


「ピー!ピー!止まりなさい!貴女はもう包囲されていまーす!」


キツネ飛び交う清波の街……のとある裏路地。普段は不良がのさばる治安の悪い場所だが、今は喧騒とした空間に変わっていた。


「な、なんなんだよこのガキ共……!くそぉ……!」


不良の女は複数のキツネの半化生に囲まれた状態で悔しそうに叫んだ。
見た目も服装もそっくり……というか全く同じである三匹の白狐。どう考えてもまともな存在ではないが


「大人しく降伏しなさい!さもなくば、僕の尻尾が貴女の身体を包み込み……気持ち良い事をしてしまいますよ!?」

「ひ、ひいぃ!?」


白狐の一匹が妙な事を口走り女不良は怯えたように身を竦める。そんな女に三びきはジリジリと近寄ると、その目は獲物を狙う狩人のように爛々と輝いていた。


「さぁ……どうしますか?貴女の運命は二択!僕達に身を委ねて気持ちよくされるか、それとも抵抗して痛い目にあうか……」

「な、なに言ってやがんだこのガキぃ!」


追い詰められた女は涙目で叫ぶ。そんな女を見て白狐達はニヤリと笑うとジリジリと女に近寄り、そして……


「あっ……な、なん……だ……このフワフワの尻尾は……や、やめ……♡」


全方位からモフモフの尻尾で包み込まれて悶える女。
まるで超高級布団のような柔らかな感触と、この世の物とは思えぬ程の心地よさ。
その攻撃によって女は完全に骨抜きにされ、抵抗しようとしていた四肢はダランと脱力してしまう。


「うぅ……も、もうやめてぇ……お、おかしくなっちゃうぅ……♡」


そんな女にトドメとばかりに白狐達は尻尾を動かしながら女の耳に息を吹きかける。


「ふわぁあああ♡!」


女は絶叫を上げると、そのまま気絶するように眠ってしまった。そんな女を優しく抱き抱えると白狐達は嬉しそうに飛び跳ねる。


「ふっ……また一人、悪の心を浄化してしまった……」


まるで悪の怪人を倒したヒーローのようなポーズを取る一匹の白狐。もう二人の白狐は呆れたようにその肩を竦めていた。


「早く信葉様に届けにいこうよ。まだまだ不良の人達は沢山いるし」

「ていうか三人で同じ場所にいるの効率悪くない?分身してる意味ないような……」

「でも三人じゃないとフワモコ尻尾アタック出来ないよ?この技便利なんだけどなぁ」


そんな会話を交わす三人の白狐。
そう、これは分身した白狐が生み出した新たなる力の一つである『合体技・正義のフワモコ尻尾アタック』である。
 この技はモフモフのキツネの尻尾を全方位から一人に叩き込む事で相手を強制的に眠りに誘う技だ。
これにより不良達は今まで気絶するまでフワフワの尻尾を味わう事となり、白狐達のフワモコ尻尾でモフられ続けた結果完全な悪の心を失ったのである。(という設定)
これでまた一人、正義が守られた……


「まぁいいや!とにかく信葉様の元に急ごうよ!」

「うん、そうだね」

「じゃあこの人は僕が運んどくから後よろしく~」


そんな会話を交わす三匹の白狐。一匹が不良を担いで飛んでいくと、残りの二匹は他の不良を捜すべく捜索を再開させた。


「これで何人捕まえたっけ?」

「えっと……二十人は超えたと思うけどなぁ」


既に何人捕まえたのか分からなくなってきた白狐達。
最早一々確認するのも面倒なので、特徴を確認せずに不良っぽい女性を片っ端から襲って信葉の元に運んでいた。
完全に無差別不良回収マシンと化した白狐ーズであったが、幾ら捕まえても不良は一向に減ってはいないように感じる……
この清波の街は活気もあり、規模も大きな街なのだが港町というのもあり血気盛んな女性が多いようだ。
そして人口も多ければ自然と落ちこぼれの数も増える。少し裏道にいけば不良と落ちこぼれが蔓延る無法地帯。
白狐達はそんな街を駆け回り、不良を見つけてはモフって無力化するという作業を続けていた。


「信葉様本人が来れば不良の人達も大人しく従うと思うし話が早そうなんだけど」

「そうでもないんじゃない?だって……」


二匹の白狐がそんな会話をしている時である。不意に二匹の前に多数の人影が立ちはだかった。


「?」


二匹が同時にその人影を見ると、それは傾いた格好をした少女達の群れ……ガラの悪い不良の集団だった。


「あぁん?テメェらか、アタシ達のシマを荒らしてんのは?」

「よぉー、ガキのくせに調子のっちゃてんじゃないの」


複数人の女不良が白狐達を睨む。
その佇まいから恐らくこの街に蔓延る不良グループの頭的存在なのだろう。
そんな彼女達を見て二匹の白狐は顔を見合わせた後、同時に目を輝かせた。
雁首揃えてわざわざ自分達の前に来てくれるなんて……!これは任務が捗る!


「あ、あの!」

「僕達……その……♡」


二匹の白狐がモジモジしながら不良達に話し掛ける。
不良達は同じ姿をした半化生の子供が顔を赤らめて自分達に話し掛けてきた事に若干不気味さを覚えながらも、ニヤニヤとした笑みを浮かべていた。


「おうおう、私たちゃガキ相手でも容赦しねぇぞ?」

「ここいらで調子こいてる阿呆はアタシ達で締めてやらぁ!」


白狐達はそんな不良達の言葉に更に頬を赤らめると、恥ずかしそうにモジモジしたまま言った。


「信葉様の命令で貴女達を捕まえにきました!♡」


その瞬間、不良達は顔を真っ青にしたと思うと蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
その逃げぶりたるや見事なもので、信葉のノブ……という言葉が発された瞬間、彼女達は全速力で逃げていった。


「あっ、しまった。つい信葉様の名前出しちゃった」


またやってしまった、と二匹の白狐は顔を合わせる。
そう、彼女達不良は信葉の名前を出すと途端に顔面蒼白になり、脱兎の如く逃げ出すのだ。
そりゃあ、信葉は苛烈で残酷で鬼のような人間ではあるが、流石に名前を聞いただけで逃げ出すというのは異常だ。
彼女達が一体どんな体験をしたのか気になるところではあるが……今はそんな事を気にしている場合ではない。


「まぁいいや!捕まえよう!」

「あーあ、信葉様の名前なんか出さなきゃ良かった」


そんな会話をすると二匹の白狐は不良達を追いかけようとする。しかしそんな白狐達の目に一人の少女が映ると、白狐達は足を止めた。


「あれ?一人残ってた」


その少女は壁に背をもたれかけ、静かに白狐達を見つめていた。目立つ格好と金髪からして今の不良達の仲間だとは思うのだが、今までの少女達とは少し雰囲気が違うような気がする……
白狐達は互いに顔を見合わせると、その少女に近付いた。


「お姉さん、逃げなくていいの?」


一匹がそう問い掛けると、少女は手に持つキセルを吹かしながら静かに呟いた。


「いいよ。どうせ姉御からは逃げられないからね」

「?」


白狐達は首を傾げるが、少女の方は特に気にした様子もなくキセルを吹かし続けていた。
いつまでそうしていただろうか。不意に少女は白狐達に近付くとしゃがみ込んで同じ目線になり、問い掛ける。


「アンタさ、姉御のなに?」


なに……。ナニ……?
何を聞かれているのかよく分からないが、もしかして信葉との関係を問われているのだろうか?


「僕は葉脈衆頭領の白狐!信葉様直属の忍者だよ!」

「忍者?あぁ……その尻尾、アンタは半化生か」

「お姉さんも不良さんなんでしょ?なら僕達と一緒に信葉様の元にいこうよ!」


その言葉に少女は僅かに反応すると……小さく微笑んだ。

そして次の瞬間。


「ハァッ!!!!!」


目にも止まらぬ速さで隠し持っていた刀を振るった。


「「え?」」


二匹の白狐は同時に間の抜けた声を上げる。少女が放った斬撃は白狐に達に迫り、そして……


「ふにゃあ!!!」


白狐の尻尾の毛が逆立ち、背後に飛び退く。紙一重で刀を避けた白狐達であったが、警戒心を顕にし構えを取る。


「なっ……なにするの!?いきなり!」


二匹の白狐は少女を睨みつけるように見るが、少女は楽しそうに笑っていた。


「あっはっは!アンタ面白いねぇ!アタシの不意打ちを避けるなんてやるじゃん!」


二匹の白狐は困惑する。目の前の少女はどう見ても不良で、自分達が捕らえなければならない存在だ。
それと同時に少女から発される気迫は只者ではないという事を否応なく理解させた。


「ふふっ……姉御の忍者なら当然か。まぁ精々私を楽しませてみな」


そう言うと少女は刀を構えた。白狐達も慌てて構えを取るが……少女の殺気は尋常ではなく、先程とは違う緊張感が辺りを覆っていた。


「私は笹!姉御の一番弟子だ!さぁ来な、忍者!私を倒したら姉御のところに行ってやるよ!」

「「―――!」」


少女……笹の名乗りと共に、白狐達は臨戦態勢に入る。そして二匹は同時に地を蹴ったのであった。



―――――――――



「あへぇ……♡もうらめぇ……♡」


数分後。
大の字に倒れてピクピクと痙攣している笹が、地面に倒れ伏していた。その顔はだらしなく蕩け、口からはヨダレが垂れていた。
そんな笹を白狐達は呆れた表情で見下ろしていた。


「えぇ……もう終わり……?」

「弱すぎない?」


少しの攻防の末、二匹の白狐は笹を完全に無力化した。
もうなんというか、殆ど赤子の手を捻るように倒せてしまった。分裂した事によって弱体化しているというのにこれは予想出来なかった。
 

「あへぇ……しゅごい……♡こんな気持ち良い事があったなんてぇ~……♡」


どうやら白狐の合体技・正義のフワモコ尻尾アタックは笹に強烈な快感を与える事に成功したようである。
尻尾アタックも二匹なので不完全な威力であったのだが、それでも彼女相手には十分だったようだ。
最初見た時はクールな雰囲気を醸し出す強敵感抜群の少女だったのに、どうやら雰囲気だけだったようだ。


「もっと尻尾抱かせてよ~♡」


不良の矜持も何処へやら、猫撫で声で懇願してくる笹。白狐達も流石にどうすればいいか分からず困惑していた。


「これは捕獲完了って事でいいのかなぁ」

「いいんじゃない?もう抵抗できなさそうだし……」


小声で話す二匹の白狐達。そんな白狐の内一匹の尻尾を笹が後ろからギュッと握り締めた。


「うひゃあ!?♡」

「この尻尾しゅきぃ♡もっとフワモコさせてぇ♡」

「ちょっ、ちょっと!?笹さん!?んにゃっ♡も、もうやめ……あっああああ~!!♡」


尻尾に頬擦りしてはモフる笹と、為す術なく喘ぐ白狐。
その様子を見ていたもう一方の白狐はそういえば自分の尻尾が性感帯だった事を思い出していた。
感覚が敏感な白いキツネの尻尾は、白狐の武器であると同時に弱点だったのだ。
なんという事だ……これではフワモコ尻尾アタックを気軽に使えないではないか。

……しかしよく考えたら今までも尻尾を武器にしてたので今更であった。


「ま、いいか。じゃあこの人を信葉様の元に運ぼう」

「ふにゃ!♡ふにゃあ!♡」

「もっとぉ♡もっとモフらせてぇ♡」

「もう!二人共遊んでないで行くよ!」


完全にトリップしている笹に纏わり付かれる一匹の白狐。そんな二人の様子を呆れながら見ていたもう一匹の白狐は、ふとキツネ耳に意識を向け……そして目を見開いた。


「ん?」


ピクンと耳を震わせながら首を傾げる白狐。
今白狐達がいる静かな裏路地に誰かが走ってくる足音が響いてきたからだ。


「……なんか走ってくる?」


二白狐は足音の方に顔を向けると、そこには……


「ひ、ひぃ~!!やめるっス!!アタシを食べても美味しくないっスよ~!?」


一人の不良が必死に逃げていた。さっき逃げた不良達の一人だろうか。しかし何故こちらに逃げてくるのか?


「ねぇ、なんか様子が変だよ」

「……ふにゃぁん?♡え……?」


鬼気迫る様子で此方に向かってくる一人の少女。そんな不良に白狐達は首を傾げるが……
少女は笹の姿を視界にいれると、途端に嬉しそうな顔をし、そして叫んだ。


「あ、笹!た、助けてくれっス!化け物に追われてて……って、ぎゃあああっ!化け物がこっちにもぉ!?」


笹は進行方向にいる二匹の白狐を見るや否やそう悲鳴にも似た声を上げる。
化け物?一体どういう事かと白狐達は顔を見合わせるが、ここでようやく理解した。


「えっと、化け物って僕達の事?」

「多分そうでしょ?もう一匹の僕が彼女をここまで追い込んできたんだね」


白狐達はポンと手を叩くと、逃げてくる不良をジッと見据える。確かに自分達は化け物みたいに強いが……化け物は流石に酷いと思うのであった。


「くそっ、笹までやられたっスか……!こうなれば武士の端くれ……一矢報いるっス!」


地面に横たわる笹を見て最早これまでと悟ったのか、不良は懐から短刀を取り出すと、それを構える。
そして白狐達に向かって駆け出した。


「覚悟っス!!」


そんな叫び声と共に、不良が短刀を振り上げる。しかしそれを黙って見ているほど白狐達は甘くなかった。


「狐狸流忍術・尻尾双回転!」


その言葉と共に、二匹の白狐の尻尾が激しく回り始める。
回る度にその勢いは激しさを増していき……そして短刀ごと不良少女を弾き飛ばしてしまった。


「うぎゃあ!?」


弾き飛ばされた少女は尻もちをついてしまう。案の定あまり強くないようだ。
そんな不良に白狐達が近付き、押さえ付けた。


「捕獲完了だね」

「大人しくしててね~」

「は、離すっス!アタシはこんな所でくたばる訳にはいかないんスよ~!!」


ジタバタと暴れる少女だが、不良とはいえ所詮はただの少女……白狐達の力に敵う筈もなく、少女は完全に押さえ付けられてしまう。


「は、離せぇ!奴が……奴が来るんスよ……!」

「奴?」


白狐達は首を傾げる。不良の少女はそんな白狐達に必死の形相で叫んだ。


「ア、アタシが……あんな物使わなければ……!」


後悔するようにそう言う少女を白狐達は訝しげな目で見つめていた。

その時である。

二匹の白狐の尻尾の毛が逆立ち、何かを感じたようにピクンと震えた。


「!?」


首を傾げる白狐達だが、そこでようやく理解した。何者かがこちらに向かってゆっくり歩いてきている事に。


「……誰だろう?この足音は」

「なんか嫌な感じがする……」

「に、逃げるっす!殺されるっすよ!」


警戒する二匹の白狐と少女。そして足音が近くなるにつれて……その存在が顕になった。
不良の少女達とは比べ物にならない程の圧を放つそれは白いキツネ耳と尻尾を持つ小さな人影……
そして唸り声のような、発情した獣のような呻き声をあげる怪物……!女という女を襲うであろうケダモノの気配……


「「来るっ!!!」」


そう、それは……


「フッー♡♡フッー♡♡」


それは恍惚の表情を浮かべ、息を荒くし目が虚ろになっている自分自身……三匹目の白狐であった……
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