乙女ゲームで唯一悲惨な過去を持つモブ令嬢に転生しました

前世の親友（過去）

　これはシエルがまだ綾瀬蒼蘭あやせそらだった頃の話
　綾瀬蒼蘭は、元々親が転勤族で転校が多かった
　年に二回転校すれば少ない方、時には一ヶ月に二回転校なんて事も珍しい事ではなかった
　そんな中、高校三年の夏休みの数日前……という受験前のピリピリな時期に転校した事がある
　蒼蘭は、元々転校が多いせいで人と関わるのを辞めていたし、諦めてもいた
　学校に行っても休み時間に本を読み、冷たい雰囲気を出し、一切関わらないようにしていた
　けれどそんな私の張った壁を初めて壊し、関わって来た物好きが━━だった
　━━は、いい意味でも悪い意味でも素直だった
　その素直さは、もしこの世界に転生してこの学園に入ったら、間違いなく目をつけられる！と、言い切れるほどに真っ直ぐで素直で、思った事はハッキリ言う嘘がつけない子だった
　そんな存在に私は救われた
　私は必要なら嘘をついた
　素直に感情を表現するのが苦手だった
　思った事をハッキリ言う事など出来なかった
　……真っ直ぐに何かに一生懸命になった事がなかった
　そんな日常に差した一筋の光……もう会えることの無い世界一の親友 
　それから蒼蘭は変わった
　大学に入ると積極的に人と関わった
　正義感を持ち、人を導き犯罪者などの危ない相手も動揺することなく避難誘導や、拘束をする
　これまで貯めてきた本の知識や、護身術のために習った体術を武器に
　そんな光景に人は惚れた
　ファンクラブ（男女関係ない）ができたり………本人が知る事は最後まで無かったが、隠し撮りのプロマイドまで出回っていた   
　そうして彼女は、蒼蘭は、救われた

　そんな蒼蘭が思い出に浸っている彼女、━━、いや元日本人の三人目の転生者……天野愛灯あまの あかりは呟いた
「蒼蘭……この世界にいるのかな？」
　その声は、誰にも拾われることなく広い広い部屋に消えてった